国公労連は5月29日の午前、官民競争入札等監理委員会事務局への要請行動にとりくみました。
この行動は、監理委員会が6月の民間意見募集の後、7月にも基本方針の改定を予定していることから、私たちの意見反映を求め実施したものです。
要請では、本年4月より本格実施されている市場化テストが、モデル事業の評価結果を反映することもなく、対象事業・規模を拡大していることや、入札不調となり国が直接実施する際に人件費が予算措置されていない問題等を指摘しました。また、受託事業者に対し雇用労働者の賃金確保対策を求めました。
賃金は最賃で問題なし、諸課題の対応は主管省の責任(事務局)
官民競争入札等監理委員会事務局への申し入れには、国公労連は河村書記次長を責任者に単組代表を含め9名が参加し、事務局は、松下参事官補佐・樋口参事官補佐ら5名が対応しました。
国公労連は冒頭、「申し入れ書」(別添)を提出し、その趣旨を述べ、安易な民間開放(市場化テスト)を行わないよう要請しました。続いて、単組代表が業務の実態を示しながら、問題点を指摘しました。
要請に対する事務局説明の概要は次のとおりです。
《業務の質の確保》
国民の安全安心のため質の確保が大事であるとの認識の下、対象事業ごとに検討し、具体策を実施要領で規定している。さらに主管省が監督し、質の確保に万全を期す。
《関係者の意見反映》
対象事業の選定プロセスにおいて各省協議を行っている。監理委員会委員には労働組合代表者も含まれ、労働者の意見も反映されている。
《労働者の賃金確保》
労働基準法や最低賃金法などの法令に反しない限り、受託事業者と労働者の関係だ。
《評価結果の反映》
官が優位との結果であって、ただちに対象業務から除外するのではなく、評価委員会にて総合的に判断する。
《入札不調の場合の国の人件費措置、契約担当部署の体制整備》
あくまで所管省が責任をもって行うもの。
これらの説明に対し国公労連は、次のように反論しました。
・ 昨年も、消費者代表は含まれていないとの事務局説明がある。労働者代表の意見も十分反映されておらず、各省協議も委員会の一方的民間開放主張である。
・ 最低賃金水準では、手取り年収100万円程度にしかならず、事業の質を確保する点でも問題である。
さらに国公労連は、社会保険庁の年金保険料徴収業務において、受託事業者の実績が上がらない中で、成績を上げるよう社会保険庁が事業者を支援している実態は、官民競争の趣旨に反するものと指摘しました。これに対し事務局は、官民が連携することは必要との説明に終始しました。
また、国が入札に参加すべきとの議論に関し、情報遮断の確保に必要な体制が整っておらず、体制整備をはかるべきとの国公労連の主張に対しては、情報遮断は難しいものではないと述べ、昨年末の説明より後退した内容となりました。
入札不調時に国が直接運営するにあたり、予算上委託費しか計上されていない問題については、「複数年契約の場合、債務負担行為を行うので問題ない」と、筋違いの説明を行いました。
申し入れ全体を通じ事務局は、現在生じている諸問題について真摯に対応するのではなく、さらなる民間開放、市場化テストの推進に固執する対応でした。
最後に、河村書記次長が、現場実態とかけ離れる回答であったことから改めて協議の場を設けることを約束させ、要請を終えました。
以上
【別添:官民競争入札等監理委員会事務局への要請書】
2007年5月29日
官民競争入札等監理委員会
委員長 落合誠一 殿
日本国家公務員労働組合連合会
中央執行委員長 福田昭生
「公共サービス改革基本方針」改定に関する申し入れ書
国や自治体の実施する各種公共サービスについては、政府の総人件費削減の目的とともに、民間企業等から「市場化テスト」導入など民間開放を求める要望が寄せられ、さまざまな業務に民間委託が導入されてきました。2006年5月には、「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律(公共サービス改革法)」が成立し、本年4月から、一部業務で同法にもとづく民間委託が実施されています。
しかし一方、民間委託の導入が、必ずしも国民生活の向上をもたらすのではなく、その「負の側面」も明らかになっています。
まず第1に、低価格競争による底割れとも言うべき低賃金労働者の拡大です。既に自治体では、個人請負の導入により、実質的に最低賃金をはるかに下回る劣悪な労働条件を強いられる労働者の存在が、マスコミで明らかにされています。「業務の質と価格」の両面を評価する公共サービス改革法にもとづく入札においても、入札時では「業務の質」をはかる材料は企画書しかなく、書面がある程度整っていれば価格競争にならざるを得ません。公務労働は人件費の占める割合が高く、価格競争は人件費削減に直結するものです。こんにち、ワーキング・プア(働く貧困層)の急増が社会問題となっており、公務職場でこうした貧困層をさらに拡大させないためにも、適切な賃金確保の方策が緊急に求められます。
第2に、国民の安心・安全を脅かす公務の質的低下が現実となっている点です。埼玉県ふじみ野市では、その運営が民間委託されていた市営大井プールにおいて、2006年7月31日、児童が排水口に吸い込まれる死亡事故が発生しています。全国で進められる公立保育所の民間委託においても、父母から不安と反対の声が寄せられています。
第3には、民間委託が、業務の質を高めるものでも、経済的な効率性をもたらすものでもないケースが立証されている点です。この間行われた市場化テストの「モデル事業」の結果を見ると、例えば求人開拓事業では、民間委託よりも比較対象地域で国が直接実施した方が、業務の質と価格の両面で優位性のあることが明らかになっています。
第4には、予算上の不備が露呈している点です。2007年度の求人開拓事業の民間競争入札において、対象5地域中3地域で応札業者の不在や入札価格等で民間委託が成立しませんでした。しかしながら、予算には民間業者に対する委託費しか措置されておらず、国が実施する場合に必要な予算確保が懸念される事態となっています。
第5に、民間委託の導入と相まって、競争入札が拡大されるもと、行政機関の契約担当者の業務量は膨大なものとなっています。入札担当者の長時間・過密労働をもたらしている現実は早急に解消されるべきです。
こうしたことから、私たちは民間委託の対象業務の拡大には反対です。
一方この間、官民競争入札等監理委員会の議論において、民間競争入札ではなく、「官も入札に参加すべき」とする意見が繰り返し出されています。しかし、コスト面で、官民競争入札はその実施にきわめて高いハードルがあります。公共サービス改革法では、「官民競争入札の実施に関する事務を担当する職員と官民競争入札に参加する事務を担当する職員との間での官民競争入札の公正性を阻害するおそれがある情報の交換を遮断するための措置に関する事項」の規定を置いています。この考え方自体は、公正な入札実施のため当然の措置ですが、厳しい定員削減の中で、民間委託に関する入札業務においては、行政の会計担当者と業務担当者が、随時連携をはかりながら作業を行っています。国に入札参加を求めるなら、少なくとも定員上の措置を講じるなど、必要な条件整備をはかるべきです。
以上のような問題意識に立ち、2007年度の公共サービス改革基本方針改定作業にあたり、下記事項の実現を申し入れるものです。
記
1.行政の事務・事業は、国民の安全・安心に直結するものであることから、市場化テスト対象業務の拡大は行わないこと。また、対象業務選定にあたっては、利用者や、当該業務に従事する職員で構成する労働組合の意見を十分尊重すること。
2.公務の民間委託を行うにあたっては、次の事項の実現を前提とすること。
(1)民間委託される業務において、受託事業者のもとで働く労働者が自立して生活できるよう、賃金保障の措置を講じること。当面、予算決算及び会計令第85条に定める「各省各庁の長が作成する基準」の中に、雇用契約や請負契約など契約形態の種別にかかわらず、労働者の賃金確保に関する内容を盛り込むよう各省各庁に要請すること。
(2)民間委託の結果を適切に評価・公表し、行政の優位性が明らかになった事務・事業は、対象業務から除外すること。
(3)民間競争入札で落札者が決定しなかった場合の、国が支払う人件費など、いかなる入札結果になろうとも業務運営に必要な予算が確保されるための措置を講じること。
(4)入札対象業務が増加するもと、入札要項の作成や企画書の点検など会計担当者の業務負担が膨大なものとなり、労働条件が著しく悪化していることから、負担軽減のため、予算・定員の確保を関係機関に働きかけること。
(5)官民競争入札を実施するなら、第三者機関が情報遮断措置を具体的に示し、それに必要な、定員や予算を確保するなど、国が入札に参加する環境を整備すること。
以上
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