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11月16日、国公労連は、学研労協・全大教・科学者会議とともに、シンポジウム「科学・技術の危機とポスドク問題〜高学歴ワーキングプアの解消をめざして」を東大・小柴ホールで開催しました。このシンポジウムは、上記4団体で構成する実行委員会が主催し、私大教連、NPO法人サイエンス・コミュニケーション、全国大学院生協議会の協賛で取り組まれました。
会場のロビーにまであふれる240人が参加し、テレビ局4社をはじめマスコミ数社からの取材も行われるなど、ポスドク問題を社会的に大きくアピールするシンポジウムとなりました。
実行委員の原田学研労協前事務局長の司会で始まり、冒頭、主催者あいさつに立った実行委員長の池長学研労協議長が、「博士号の取得後、正規の研究職に就けないポスドクに、高学歴ワーキングプアと呼ばれる劣悪な雇用・研究労働条件が広がっている。研究の次世代を担うポスドクの問題解決に向けて、社会的にアピールする機会としよう」と述べました。
ノーベル物理学賞受賞者の小柴氏が記念講演
つづいて、2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊東京大学特別栄誉教授が記念講演を行いました。
小柴教授は、ニュートリノの研究を紹介しながら、宇宙、自然の謎を解明し続けていく基礎研究の重要性を語り、「基礎科学に短期で実利を求めるのは無理であり、産業界でなく国が支援することが必要」、「基礎科学について考えない国家は文明国家とはいえない」、「国立大学を独立行政法人化するときに私が心配していたことが現実に起きている。大学研究者の研究費が年に27万円しかないというような実態があり、この状態を放っておいたら、大学が次々とつぶれることになる」、「基礎研究を国が本気になって応援することを願いたい」と語り、今後の基礎科学を担う若手研究者にエールを送りました。
シンポジウムは、コーディネーターを実行委員の上野科学者会議事務局次長がつとめ、実行委員の齋藤全大教大学高等教育研究会員が基調報告。その後、以下の4つの報告がありました。
NPO法人サイエンス・コミュニケーションの榎木代表は、「総合科学技術会議で、ポスドクを博士号取得後5年に限定し切り捨てようという動きがあるなど、劣悪な状況はポスドクの自己責任といわんばかりの扱いだ。ポスドク当事者が声をあげ、ネットワークをつくって、社会を変えよう」と訴えました。
日本科学者会議・若手研究者問題委員会の大石名古屋大助教は、任期職渡り歩き中の当事者として、「数年ごとに職を失うポスドクは、常に次の職場を探す必要があり、落ち着いて研究ができない。若手博士が研究に専念できないのは学問の進展にとって痛手だし、社会全体としても損失だ」と自らの経験を踏まえて報告しました。
実行委員の立石全大教中央執行委員は、「法人化のもとで、運営費交付金と人件費が削減され、月額給与20万円以下の教員が増加している。その上、競争と淘汰にさらされる若手研究者は、当面の成果と論文を生み出す機械として扱われている」と不安定雇用制度が学術研究体制の崩壊への道であることに警鐘を鳴らしました。
国立環境研究所労働組合の永島前書記長は、「買い手市場に置かれるポスドクは、常に弱い立場にあり、上司によるパワハラや時間外労働の当然視、研究室の閉鎖性なども加わり、ポスドクが孤立し問題が表面化せず、メンタル疾患の問題など深刻化しやすい。職場で組合が取り組んだポスドクアンケートには、『うつ病の一歩手前のような精神状態でいい研究はできない』など悲痛な声が寄せられている」と、職場のポスドクの生の声をまじえて報告しました。
フロアからは、全通信研究機構支部のポスドクの組合員が、「ポスドクは、プロジェクトで成果を出すことが求められるが、しかしその成果が認められて次のステップへ進めるわけではない。実際の次のポストとはレベルが違うからだ。人材育成よりミッションをこなすためのポスドクになっており、この点を見直すべきだ。そして、労働組合はもっとポスドクの要求実現のために取り組みを進め、職場のポスドクへの働きかけを強めるべきだ」と発言しました。また、ポスドク経験者からは、「ポスドクは1年ごとの契約で、何か主張すればすぐ首を切られるため、表立って発言できない。ポスドク・若手研究者が将来の研究を担っていくのだから、そこにイマジネーションを働かせて、正規の研究者らがポスドク問題を我が身のことと考えて行動を起こしてもらいたい」との発言がありました。
国公労連の大高研究機関対策委員(全通信中央執行委員)が、「(1)大学教員と、国立試験研究機関・独立行政法人研究機関の研究者と必要な支援部門職員の大幅な増員をはかり、処遇は安定したパーマネント職として採用する。(2)博士課程修了者の就職支援策を充実強化し、民間企業、教師、公務員などの受け入れを増やす。(3)不安定なポスドクの処遇については均等待遇の原則に基づいて、抜本的に改善する。(4)ポスドク1万人計画については政策転換をはかり、新たな若手育成策を講ずる」ことを求めるアピールを読みあげ全体で確認しました。
最後に、実行委員会事務局長の上野国公労連中央執行委員が、「ポスドクの雇用と研究・労働条件を改善することは、当事者だけの課題ではなく、それぞれの大学・研究機関の将来、そして日本の科学・技術の未来がかかっている大きな課題である。関係する諸団体・個人が連携して、ポスドク問題・高学歴ワーキングプアをなくし、科学・技術を発展させよう」と閉会あいさつを行い、シンポジウムを終えました。
【※シンポジウムの模様は、当日夜と翌朝のNHKテレビニュースで数回にわたり報道されました。また、シンポジウムを取材した複数のテレビ局で、ポスドク問題をとりあげる番組づくりが進められています。】
以上
▼参考資料
★11.16科学技術政策シンポジウム・アピール
ポスドク問題・高学歴ワーキングプアなくし、科学・技術を発展させよう
★科学技術政策シンポジウム基調報告
★ポスドク・若手研究者アンケートに寄せられた声
11.16科学技術政策シンポジウム・アピール
ポスドク問題・高学歴ワーキングプアなくし、科学・技術を発展させよう
「月収20万、ボーナス無し、国保・年金は自分持ち。家族を養っており、経済的には限界に近い」(38歳)、「夫婦でポスドク。低賃金で、生活が苦しく、子どもを育てる経済的余裕さえない。早急な現実的な未来を求めている」(34歳)、「時給1200円程度、研究員というよりは雑用係。同じ部署には無給の研究員や、私と同様の身分の博士課程修了者が何人もいる」(34歳)−−これは、今回のシンポジウムにあわせて実施した「ポスドク・若手研究者アンケート」に寄せられた当事者の声の一部である。
いま青年労働者の劣悪な雇用と、貧困の広がりが社会問題となっているが、科学・技術の分野においても、「高学歴ワーキングプア」が大きな問題になっている。そして、「効率最優先」の国公立大学・国立試験研究機関の法人化、基盤的経費である運営費交付金と人員の連年にわたる削減により、ポスドク問題は深刻さを増している。
博士課程修了者の多くは就職先が見つからず、就職できてもほとんどが任期付きや非常勤などの不安定な短期雇用である。こうしたポスドクは、将来の見えない、人間らしいまともな生活もできない状態に置かれている。研究面でも短期的評価にさらされ、長期的な展望を持った研究や、本当に自分がやりたい独創的な研究を行うことが極めて困難となっている。
今回のシンポジウムでは、ノーベル物理学賞受賞者の小柴昌俊東京大学特別栄誉教授が、若手研究者育成と基礎科学研究の重要性について、講演してくださった。また、益川敏英京都産業大学教授からは、「社会的に科学と技術の発展が欠かせない時代に、人材の面からも研究資金の面からも脆弱さが進行しています」、「このシンポジウムが大きな成果を収め、次の一歩への礎に成ります事を願ってエールを送ります」とのメッセージを寄せていただいた。
益川教授をはじめ、今年ノーベル物理学賞・化学賞を受賞した4人の研究者が、知的好奇心による純粋な基礎研究が新たな科学・技術の大きな発展に結びつき、個人の知的好奇心を尊重する自由な研究環境の中で目的を達成できた、とそろって述懐している。このように、研究には、「学問の自由」、すなわち「研究選択の自由」、「研究発表の自由」、「身分・雇用保障」、「良好な研究環境」が不可欠である。
いま、研究成果を短期で産業化していく研究体制の強まりが、長期的展望に立った基礎研究の継続・発展を危うくしている。大学・研究機関の体制は急激に弱まりつつあり、この状況が続けば、近い将来のわが国に極めて大きな損失をもたらすことが懸念される。とりわけ、次代の研究・教育を担うべき若手研究者の育成が困難を極め、その典型がポスドク問題に現れている。研究・教育機関の基盤的経費の削減により、正規の研究員・教員ポストが削減され、ポスドクの就職の道がますます狭くなっている。一方、研究・教育機関で、一時的・短期的にはポスドクの雇用が可能な競争的資金は増加し、目先の短期的なプロジェクト研究などのためだけに、ポスドクを使い捨てにする状態が固定化してきている。
日本の大学教員一人当たりの学生数は、イギリスの1.4倍、ドイツの1.7倍であり、大学教員の増員が必要である。また、日本の高等教育の公費負担(GDP比)はOECD加盟28カ国中で最下位であり、28カ国平均1.1%の半分以下の0.5%にすぎない。GDP世界第2位の経済大国である日本で、各国並みに高等教育を充実させることは今すぐできることであり、私たちは、次の施策を求める。
(1)大学教員と、国立試験研究機関・独立行政法人研究機関の研究者と必要な支援部門職員の大幅な増員をはかり、処遇は安定したパーマネント職として採用する。
(2)博士課程修了者の就職支援策を充実強化し、民間企業、教師、公務員などの受け入れを増やす。
(3)不安定なポスドクの処遇については均等待遇の原則に基づいて、抜本的に改善する。
(4)ポスドク1万人計画については政策転換をはかり、新たな若手育成策を講ずる。
本日のシンポジウムには、ポスドク当事者をはじめ、当事者団体、研究者をめざす大学院生、科学者団体、大学・研究機関の労働組合などが参加した。ポスドク・若手研究者の雇用と研究・労働条件を改善することは、当事者だけの課題ではなく、それぞれの大学・研究機関の将来、そして日本の科学・技術の未来がかかっている大きな課題である。関係する諸団体・個人が連携して、ポスドク問題・高学歴ワーキングプアをなくし、科学・技術を発展させよう。
2008年11月16日
科学技術政策シンポジウム「科学・技術の危機とポスドク問題〜高学歴ワーキングプアの解消をめざして」
科学・技術の危機とポスドク問題〜高学歴ワーキングプアの解消をめざして
2008年11月16日 科学技術政策シンポジウム基調報告
1995年の科学技術基本法、それの実施計画としての1996年から3期にわたる科学技術基本計画に基づく科学技術政策の展開により、わが国の学術と教育は大きく変容した。2001年には新省庁体制に移行したが、財界代表とその代弁者である「有識者」が主導する経済財政諮問会議の意向を反映して、総合科学技術会議・文部科学省のもとで学術政策は実利的な方向へと様変わりした。
国公立大学・国立試験研究機関は法人化され、民間研究所では国に先んじて成果主義賃金制度や裁量労働制が導入され、それぞれの研究・教育条件を著しく低下させている。
学問の自由の不可欠の要素である教員と研究者の身分・雇用保障は、任期付採用、非常勤・派遣・パート・アルバイトなどの不安定雇用の増加によりきわめて劣悪なものとなりつつある。とりわけ、若手研究者は「競争的環境」の下で使い捨ての状態に置かれており、非人間的な研究生活を強いられている。これを放置することは、わが国の科学・技術の継承と総合的発展を危うくするものといわねばならない。
1.科学・技術の危機の様相【参考資料(1)(2)】
(1)科学技術政策
わが国の科学技術政策に一貫して流れるのは、科学が生み出す知的体系そのものの価値を無視し、科学は(技術を通じて、経済発展に)役に立つものであるという発想であり、「科学技術」を「学術研究成果の応用」のうち、経済社会の発展基盤として機能しうる面に絞って捉える、特異な「科学技術観」がある。
「学術研究・教育は特定の政策目的とは結びつかないが、科学技術は特定の政策目的と結びつくとの趣旨だ。(中略)また、関連して現在は産学協同が盛んになってはいるものの、学術研究は国からやれといわれても動かないという体質があり、そういう自由度が必要な分野であるが、他方、国が行わなければならない開発研究はトップダウンで行う必要がある」(99年、行革会議議事録)と述べられるように、大学・国立試験研究機関などを新産業創出のための研究開発にフル動員し、いわゆる「科学技術創造立国」のため、再び国家総動員体制の確立を意図しているという懸念さえ抱かざるをえないものである。
現在の科学技術政策は、技術Technology を推進する「基本計画」がなく、研究者が「なにをするべきか?」が明確ではない。科学研究か技術開発かが明確ではない状況で、大学・研究機関の中途半端な「研究」に投資がなされ、国家予算の非効率的消費をもたらしている。そして、「どこかにいいネタはないか」という発想で、それに食らいつく大学と大学人をスポイルしている。また、知的好奇心に基づく自由な発想による知的創造活動としての科学Science研究を、国家的戦略目標に従属させて、その自主・自立的な発展を阻害している。
「軍民両用技術」、「宇宙の軍事研究」をも視野に入れた、科学・技術とその研究成果についての情報の「管理」「流失防止」などを定める動きも加速されている。
(2)応用開発型研究の政策的優遇と基礎研究の冷遇
基礎科学(政府文書などでは人文・社会科学を含めたより広い範囲を「学術研究」と呼んでいる)の重要性が唱えられても、〈基礎科学〉が〈応用科学〉の基礎として役に立つから重要であるという考えがあるといっても過言ではない。
大学等の公的研究(教育)機関、民間企業などで行われている研究については、基礎研究(新しい知識を得るために行われる理論的または実験的研究Basic Research)と応用研究(特定の目標を定めて実用化の可能性を確かめる研究Applied Research)とに分類している(総務省統計局:科学技術調査)。さらには「出口を見据えた基礎研究」(04年6月、経済産業省の産業構造審議会産業技術分科会基本問題小委員会「中間取りまとめ・今後の科学技術政策〜技術革新と需要創出の好循環の実現に向けて〜」)と応用研究のみならず、基礎研究をも産業競争力の強化のために再編成しようとしている。また、独立行政法人化された試験研究機関における応用開発研究にしても、短期的成果を急ぐあまり目標の設置が目まぐるしく変わり、その目標達成さえ危うくしている。
一般的には基礎研究の充実をうたいながら、具体的施策としては応用開発研究に過度に傾斜しているといわざるを得ない。基礎研究を支える国立大学・研究機関では法人化により、基盤的経費が削減され、基礎研究を支える文部科学省科学研究費補助金(科研費)の予算配分も厳しい状況が続いており、私立大学の経常費補助金も削減されている。さらに、研究を支えるハード・ソフトのインフラストラクチャー整備についてもその支援体制が急激に脆弱化している。こうした負のスパイラルにより、今や大学・研究機関等の体力は急激に弱まりつつあり、もしこのような状況が続けば近い将来、わが国にとって極めて大きな損失となることが懸念される。個別企業の利益を超えた技術推進の基本計画を作成するとともに、「基礎Basic科学」とは異なる「純粋Pure科学」を自由な発想をもとに研究することを保障するシステムの構築が望まれる。
今年、ノーベル物理学賞・化学賞を受賞した4人の研究者がそろって、知的好奇心による純粋な基礎研究が新たな科学・技術の大きな発展に結びつき、個人の知的好奇心を尊重する自由な研究環境の中で目的を達成できた、と述懐しているように、研究には「学問の自由」、すなわち「研究選択の自由」、「研究発表の自由」、「身分・雇用保障」、「良好な研究環境」が不可欠だ、ということを改めて示している。
(3)次代を担うべき若い世代の育成への懸念
科学・技術の発見・発明、困難な課題の新しい解決策の提示、あるいは、革新的な社会システム概念の提案などは、多くの場合、若い頭脳が生み出してきた。したがって、今後の社会を築くためには、高度に専門的な能力を持つ若い人材を積極的に育成しなければならない。
しかしながら、若手研究者をめぐる問題はきわめて深刻で、理工系博士課程への進学者の減少、ポスドク研究者の就職難、大学院教育の不十分な体制など課題が山積し、危機的ともいえる状況がある。
大学教員等への任期制の導入、大学(院)生活費の高騰など科学技術(+教育)システムの改悪の中で、大学院生は、高い学費と金貸し的な奨学金制度の下で、アルバイトを強いられ、勉学や研究に当てる時間が圧迫され、勉学を諦める者も増えている。研究の継続を望む大学院生の多くは就職先が見つからず、就職できてもほとんどが任期付きや非常勤などの不安定雇用であり、継続的な研究が困難なだけでなく、結婚もできないような非人間的な状態に置かれている。博士号取得者は研究を継続するため、教育職、研究職ポストの増加を強く望んでいるが、現状のポスドク制度は枠が少ないため、ポスドクになるのも困難であり、その上ポスドクを重ねても、安定的な職に就ける確率が極めて低い。ポスドクは短期的かつ反復的な評価にさらされるため、長期的な展望をもった研究や独創的な研究を行うことが極めて困難となっている。地方大学では、助手・助教定員の削減により若手教員がほとんどいない上に、助教の新規採用者は任期付きポストとなることが多くなり、「競争的環境」の下で長期的、独創的な研究の遂行が困難になっている。このように、大多数の若手研究者は使い捨ての状態に置かれており、今後の社会を築くためには、高度に専門的な能力を持つ若い人材を積極的に育成し、安定した研究条件の下で研究を保障することが求められる。大学院は、幅広い知的基盤を獲得させる体系的な教育機能と、先端的・専門的学術研究機能の両者を備えた高等教育の場である。この若い世代の育成、とりわけ未来の科学・技術を牽引する役割を果たすべき博士号取得者の育成は重要である。これは、大学の責任と義務であるが、それを実現する制度的・財政的施策が劣悪である。
さらに、ポスドク、若手研究者の問題にかかわって、懸念されることがある。
その一つは、日本で、子どもたちの「理科離れ」が進んでいることである。文部科学省の国際比較調査(2003年)によれば、「学校で理科をもっと勉強したい」とか「理科を使うことが含まれる仕事につきたい」という意欲は、日本の中学生では17%しかなく、国際平均値57%の3分の1にも満たない状況だ。このまま、ポスドクのキャリアパスが示されないと、ますます理科離れが進み、理系に進学する人がますます減ることになるであろう。
懸念のもう一つは、ポスドク問題により研究者倫理が低下することである。成果を問われる競争的資金のもとで、それも短期雇用であるポスドクは、指導教官・研究者の求めるデータを出さねばならないという圧力を感じざるを得ない。韓国でも、日本でも、アメリカでも、データねつ造は指導教官・研究者が求めるデータを出してポスドクらが気に入られるというケースが多い。そして、競争的資金がそれを後押しする構図となっている。今の競争的資金のあり方は、極端に言えば、ウソでもいいから成果を出せと言っているようにさえ見えるものである。
2.若手研究者問題の発生過程<付>大学院の変遷
(1)大学院重点化政策(1991年)
若手研究者問題の発端は大学院重点化政策である。これは1991年、大学審議会が答申「大学院の整備充実について」において、「大学院は、基礎研究を中心として学術研究を推進するとともに、研究者の養成及び高度の専門能力を有する人材の養成という役割を担うものである」として、専門職業人養成のために大学院の規模拡大策を打ち出したものである。
国立大学の大学院生は1990年の5万人から2007年の15万人へと3倍化し、博士課程修了者は1990年の6,000人から2007年の16,000人へと急増したにもかかわらず、国立大学の教員は1990年の53,000人から2007年の6万人へと7,000人増加したのみであった。
文部省の進めた、大学内の権限を大学院へ移行していく大学院部局化にともない25%(院生経費を含めれば30%)の予算増加が方針として提示され、大学は主に予算増のみにつられて大学院重点化を競って進めた。
しかし、施設の整備なども不十分であり、大学院教育の充実と院生の能力に見合う就職の確保が図られないもとで、院生の急増に見合う教員の増加がなく(日本の大学の教員一人当たりの学生数は、イギリスの1.4倍、ドイツの1.7倍)、研究・教育条件の劣悪化は加速され、院生の研究・教育環境にも、若手研究者の就職にも問題を発生させている。
なお、“研究大学”でない大学の場合は、大学院重点化と時を同じくして出された「大学設置基準大綱化」ともあいまって、擬似「大講座制」をとり、大学院を基にした部局化を図ろうとしている。しかし、逆転増大した大学院重点大学からの学生引き抜きにさらされ、自大学の院生数・教育の質の確保もままならず、研究・教育の遂行にさまざまな困難をもたらしている。
(2)ポスドク1万人(支援)計画(1996年)
その後、「第1期科学技術基本計画1996-2000(96年7月閣議決定)」でポスドク1万人計画が打ち出された。同基本計画は、新たな研究開発システムを構築するための制度改革等の推進を掲げており、「若手研究者層の養成、拡充等を図る『ポストドクター等1万人支援計画』を平成12年度までに達成するなどの施策により、支援の充実を図る」とした。
この計画は、大学院重点化政策の欠陥の是正として、若手の研究者を真に活用する見通しなしに博士課程修了者を増加させた問題に対応するための制度とも言える。
この計画は、将来的に安定した研究・教育職への就職の展望がある時には有効であるかもしれないが、就職に展望が持てない場合には問題が解決しないばかりか、問題を大きくする制度であると言える。
ポスドク1万人計画によって各種の競争的資金でポスドクを雇用できるようになったが、短期のプロジェクト研究に限られ、問題を固定化して、その解決を先延ばしたに過ぎなかった。
大学院重点化政策の開始から、教員・研究者の任期制、国立大学の法人化前までの期間が、若手研究者問題における矛盾の蓄積期間であると考えられ、ポスドクを支援すればするほど、問題が大きくなるという矛盾をますます大きくした。
なお、ポスドク1万人計画は、科学技術の一番の基礎を築く若手人材を養成することを狙ったものであり、養成数自体は99年に既に達成されている。
(3)国立研究機関の独立行政法人化(2001年)と国立大学の法人化(2004年)以後
国立試験研究機関の多くが、「行政改革」路線のもと行政減量化の一環として2001年から独立行政法人化が図られた。法人の運営をまかなう国からの渡しきりの資金である運営費交付金は毎年1%削減され、その後は一般管理費が3%、業務管理費が1%削減されている。また人件費については行革推進法により「5年間で5%削減」が決められている。
国立大学の法人化は2004年になされたが、研究機関独立行政法人と同様に、運営費交付金を削減されている。そして、運営費交付金の配分を、研究実績によって査定しようとする動きも出ている。
研究成果の短期的産業化に研究・教育体制を総動員するかのような「構造改革」は、若手研究者問題における矛盾を激化させ、ポスドク問題の質的変化をもたらした。研究・教育機関における基盤的経費の削減により正規の教員・研究員の削減も行われ、助教などの若手研究者のポストが激減し、ポスドクの研究・教育職への就職の道がますます狭くなる。
産業界から提唱された博士大量化計画であったが、当初期待された企業への就職は極めて少ない。
一方で、研究・教育機関において、ポスドクを雇用できる競争的資金は増加する傾向にある。このままの状況が続くと、ますますポスドクが増加して矛盾を大きくすることになる。
若手研究者を使い捨てにする状態の固定化、高学歴ワーキングプアの常態化は、科学技術政策の失政の責任を、若者を犠牲にして切り抜けようとしてきた結果である。
3.ポスドクの現状【参考資料(3)(4)(5)】
(1)ポスドクの人数、就職状況、労働条件
2007年10月時点で、ポスドクは16,394人(前年度比5.8%増)、経済的支援を受ける博士課程在籍者は38,563人(前年度比6.7%増)である(文科省・科学技術政策研究所「大学・公的研究機関等におけるポストドクター等の雇用状況」)。また、就職については、06年度、15,966人の博士課程修了者のうち就職者9,147人(57%)であるが、人文・社会科学分野ではそれぞれ2,601人、897人(35%)、理工系(医療を含む)では、13,365人、8,250人(62%)である。
ポスドクの機関種別の雇用状況については、大学が66%を雇用、独立行政法人が31%を雇用している。
処遇については、文科省・科学技術政策研究所「ポストドクター等の研究活動及び生活実態に関する分析」(2008年10月7日公表)によると、ポスドクの任期は平均2.7年、平均月給は、税込みで約306,000円である。研究分野別のポスドクの平均月給(税込み)は、人文社会系約213,000円、理学系約329,000円、工学系約330,000円。雇用条件について「不満」と回答したポスドクは、全体で41.8%。月給20万円未満では、65.7%が雇用条件について「不満」と回答している。
(2)国立試験研究機関における状況
2001年に独立行政法人化した旧国立試験研究機関は、それぞれの主務省のミッション(中期目標)を達成するために中期計画を策定し、その実現に向けて理事長のトップマネジメントにより「自律的」に運営されることとされている。その事業を進める、渡しきりの「運営費交付金」は「効率化」の名目で毎年一律に削減されているが、なかでも国の「定員削減」と同等の「人件費予算削減」によって、パーマネントの研究者は減少を続けている。その一方で、外部資金の獲得が強く求められ、「選択と集中」、「重点化」のかけ声とともに、期限の限られたプロジェクト予算によって雇用されるポスドク、任期付き研究員が増加してこれらの研究を担っている。
独立行政法人研究機関は、概ね5年ごとの「中期目標期間終了時の見直し」や、昨年末の「整理合理化計画」、それに対応した組織内見直し等の相次ぐ「見直し」により組織の将来ビジョンすら揺らいでいる。
今年6月に開催した国立試験研究機関労働組合全国交流集会では、ポスドク問題の分科会が開かれ、以下のような意見が出された。
【ある独立行政法人の研究所労組からの発言】
私の研究所では研究者の7割以上がポスドクで、5年で雇用を切られるため、研究所の次期中期計画を検討するにもどんな人がポスドクとしてくるかも分からず、戦力も決まらないまま計画を立てなければならない状況だ。ポスドク問題を解決していかないと、きちんとした研究所の計画さえ立てられない。ポスドク問題は当事者だけの問題ではなく、研究所の将来の問題として改善していく必要がある。
【ポスドク当事者と分科会参加者の発言】
ポスドク当事者からは、「数年後に雇用を切られ、先がない職場に魅力を感じることができず、研究意欲もわいてこない」との率直な発言があった。また、分科会参加者からは、「研究者としてのライフサイクルを考えると、研究に打ち込めないポスドク世代(30歳代)の不安定な状態は、日本の科学・技術はもちろん日本社会全体にとっても大きな損失だ。若手のパーマネントポスト増をはかるべきだ」との発言がされた。
(3)大学における状況
首都圏大学非常勤講師組合や関西圏大学非常勤講師組合などが調査した「大学非常勤講師の実態と声2007」によると、専業非常勤講師は全国で26,000人と推定されている。平均年収は300万円程度でそのうち4割が年収250万円以下である。また90%以上が社会保険に未加入である。研究を続け、研究者を志向している者が多いが、研究者として扱われていないのが実態である。現在の生活にも、将来の年金問題にも不安が大きい。若手研究者の就職難はこのような層を増加させている。全国の大学講義のコマ数の4割を、こうした劣悪な状態におかれている非常勤講師が担っている。日本の大学講義の4割を、「高学歴ワーキングプア」が担っているのである。
大学院の高い授業料が院生の生活を圧迫している。奨学金制度も改悪され、院生生活を続けること自体が困難になってきている。
“研究大学”でない大学の場合、大学・大学院重点のあり方を総合的に把握し、それぞれの大学・大学院の研究・教育の質の確保のための制度的・財政的保障がなされねばならない。
4.ポスドク問題の解消をめざし、科学・技術の危機を克服するために
(1)ポスドク問題の解決のために
日本の大学の教員一人当たりの学生数は、イギリスの1.4倍、ドイツの1.7倍。大学教員の増員をはかるべきである。また、日本の高等教育の公費負担(GDP比)はOECD加盟28カ国中で最下位。OECD加盟28カ国平均1.1%の半分以下の0.5%にすぎない。GDP世界第2位の経済大国である日本で、欧州並みに高等教育を充実させることは今すぐできることである。日本の公費負担を欧州並みにすれば大学教員の大幅増員をはかることは可能である。
具体的には、次のような施策を講じるべきである。
1) 大学教員と、国立試験研究機関・独立行政法人研究機関の研究者と必要な支援部門職員の大幅な増員をはかり、処遇は安定したパーマネント職として採用する。
2) 博士課程修了者の就職支援策を充実強化し、民間企業、教師、公務員などの受け入れを増やす。
3) 不安定なポスドクの処遇については均等待遇の原則に基づいて、抜本的に改善する。
4) ポスドク1万人計画については政策転換をはかり、新たな若手育成策を講ずる。
(2)科学・技術の危機を克服するために
1) 基礎研究を、中長期的視点に立った政策に基づき積極的に推進する。
飛躍的な知を生み続ける重厚で多様な知識蓄積が科学・技術の発展に必須であるという認識の上に、自由な発想に基づく知的創造活動としての基礎研究の特性を熟慮し、中長期的視点に立った政策に基づく、その積極的な推進策を講じる。
2) 現在の科学技術政策を改める。
統制、動員、重点投資、競争・選別、身分・雇用の不安定化を特徴とし、大企業の利益優先、産業競争力強化を目的とする現在の科学技術政策を改め、人類の福祉、平和、人間性回復、基本的人権の保障、真理を探求し真実を公表する権利の尊重、創造力の発揮、学ぶことの平等な権利に根ざした自治と自由、最低研究費保障、協力・共同、身分・雇用保障の優位性を確立し、学術の総合的発展を制度的・財政的に保障する体制を作り上げる。
3) 科学技術基本法・基本計画を改める。
利益優先、産業競争力強化を目的とする「科学技術創造立国」政策とそのための戦略的重点化、短期的成果の評価を基にした資源配分方式を見直し、科学と技術それぞれの総合的発展をめざすこと。基本計画の閣議決定方式を改め、国会での審議を経て基本計画を決めること。また、応用開発研究においても、めまぐるしく変わる目標設定を改め、研究者の積極性を引き出すようなシステムを構築する。
4) 学術と教育の自由と自主性を尊重する。
学術と教育に対する公的資金投入を拡大し、基盤的経費の充実と競争的資金の見直しを図る。学術・教育の予算はGDP比で欧米並みの水準を確保すること。流行の研究対象への擦り寄りによる研究者の退廃を防止し、集中的投資による国家予算の無駄遣いを改めること。短期的評価を基にした資金の配分方式を改め、独創的研究を支える基盤的経費の充実を図り、「基礎的科学」を自由な発想をもとに研究することを保障する。
5) 教員と研究者の身分・雇用を保障する。
教員と研究者の身分保障は学問の自由の不可欠の要素である。任期付任用、非常勤、派遣、パート、アルバイトなどの不安定雇用を禁止し、正規雇用を基本原則とすること。
* * *
この閉塞的な状況を打破するためには、応用開発型研究への政策的優遇策をあらため、基礎科学研究の充実をめざす各種施策の充実をはじめ、科学・技術の総合的・全面的発展を図らなければならない。それを支えるべき研究者、とりわけ次世代を担うべき若手研究者の待遇・研究条件を抜本的に改善することから始めなければならない。
ポスドクに象徴される高学歴ワーキングプアの解消には、当事者のみならず、関係者も含めた政策的展望を明らかにした連帯が不可欠で、各大学・研究所等での組織ぐるみの、関係する諸団体の連携した取り組みを中核に、国民的賛意を得る壮大な運動が展開されなければならない。
<付> 第2次大戦後の大学院の変遷
A.1 講座制・学科目制と修士講座制
1956年、文部省は「大学設置基準」を省令として定め、教員組織の形態として、旧制の大学・学部に(教育・研究のための)講座制と新制の大学に(教育のための)学科目制をおいたが、研究・研究者養成機能は講座制にだけに期待されていた。
1960年代、高度成長期に理工系の人材が必要だといって講座制大学の理工系大学・大学院を拡充し、理・工・農の学部を中心に学科目制の大学・学部の上に職業人養成を重視する修士課程だけの大学院研究科を設置した(修士講座制)。この増大した修士が、60年代からの重化学工業を中心とした高度成長に重要な役割を果たした。
70年代には、基礎的な学問分野を中心に人材が過剰になり、オーバードクター問題が発生したが、80年代の好景気の中で、他分野への移行も含めてうやむやになったとされる。
A.2 大学院重点化
1991年、大学審議会答申「大学院の整備充実について」は、大学院専門職業人要請のための大学院の規模拡大策を打ち出し、「大学院は、基礎研究を中心として学術研究を推進するするとともに、研究者の要請及び高度の専門能力を有する人材の要請という役割を担うものである」として、1)学術研究の推進と国際的貢献、2)優れた研究者の養成、3)高度な専門的知識、能力を持つ職業人の要請と再教育、4)国際化の進展への対応の4つを、大学院の期待される役割としている。
続いて出された「大学院の量的整備について」では、留意点として「高度な専門的知識・能力を有する人材の養成への配慮」をあげており、今後さらに「大きな人材需要が予想され」る工学系大学院の規模拡大とともに「人文科学、社会科学関係」の人材養成の必要性に始めて言及し、「需要動向を見極めつつ、単に修士課程の拡充のみでなく博士課程を含めて整備充実を図っていく必要がある」としているが、それを制度的にどう作っていくかは明確でない。
こうして、大学院重点化・大学院生大増産計画になっていく。
大学院重点化の前、(学部を有する)大学が“主”で、大学院は“客”であり、多くの権限は大学にあったのが、重点化後は主客転倒が起こる。すなわち、多くの権限が大学院にシフトし、教員も○○大学大学院教授と大学院所属を謳う。
最初に飛びついた東大法学部では、学部の全教員を大学院教員へと配置換えして、大講座制を敷くとともに、大学院の教員が学部教育を兼任するという形式を整え、「予算25%増」を獲得する。(大学院を基にした部局化)
東大の他学部や旧7帝大も右に倣えし、それを維持する前提の「定員数を確保」するのに狂奔する。98年には東大の入学者3400名、大学院入学者3700名と、院と学部入学者の逆転が”研究大学”(旧7帝大、東工大、一橋大、筑波大、神戸大、広島大+私立の早・慶大)のほとんどで起こり、学部を持たない大学院大学も10数校存在する。法科大学院、MOTなどの専門職大学院などを設置するなどの大学院重点の戦略的大学運営がなされる。
一方、“研究大学”でない大学の場合は、事態はより深刻である。大学院重点化と時を同じくして出された「大学設置基準大綱化」ともあいまって、擬似「大講座制」をとり、大学院を基にした部局化を図ろうとしている。が、一方、逆転増大した大学院重点大学からの学生引き抜きにさらされ、自大学の院整数・教育の質の確保もままならず、現下の厳しい就職状況もあって、大学院進学を勧めるのをためらう教員も多い。
1991年、上のよう提言をした大学審議会は「大学教育の改善について」答申を出し、戦後の新制大学の最も重要な特徴とされてきた、一般教育課程の廃止と学部段階の教育課程編成の完全な柔化を求めた(「大学設置基準の大綱化」)。
1996年には 報告「大学院の教育研究の質的向上に関する審議のまとめ」のなかで「学部教育との関係」の項で、「学術研究の進展や社会の高度化・複雑化を背景に、高度な専門教育を行う機関としての大学院の位置付けがますます強まる傾向にある。もとより大学院を改革するに当たっては、学部を含めて大学全体を改革する視点を持つべきであり、学部と大学院の役割を明確化した上で、学部教育の改革との関連から大学院の教育内容・方法を見直す必要がある。その際、大学院の分野や目的によっては、学部段階では専門の基礎を重視し、それとの関連で修士課程のカリキュラムや指導方法の工夫をする必要があろう。また、大学院の開設授業科目の内容の程度に応じての段階を明示すること、基礎学力に応じコース分けをすることなども求められよう。一方、大学院と学部の共通科目を設けるなどにより、優秀な学部学生に大学院の授業を受ける機会を広げていくことが望ましい」とした。
これらは、相俟って、戦後の新制度の大学・大学院発足以来の問題が、理工系の2種(研究者養成、高度専門職業人育成)の大学院のあり方、人文・社会科学系の修士課程大学院の振興との関わりで、再度クローズアップされ、その後の科学技術関係人材育成システムの議論へと引き継がれていく。
A.3 ポスドク1万人(支援)計画
新たな研究開発システムの構築のため制度改革等を推進を掲げた【第1期科学技術基本計画1996-2000(96年7月2日閣議決定)】では、「若手研究者層の養成、拡充等を図る「ポストドクター等1万人支援計画」を平成12年度までに達成するなどの施策により、支援の充実を図る。」とされ、その目玉であったポスドク1万人計画は、科学技術の一番の基礎を築く若手人材を養成することを狙ったものであり、養成数自体は99年に既に達成されている。
しかし、産業界が大量の人材を受け入れるとみられた理工系についていえば、従来、ポスドクの養成者は自らの後継者(大学教員)の養成を意図しており、企業研究者に求められる人材像をあまり意識してこなかった。また、学科・専攻の再編成が不徹底で、結局は現有教員の専攻分野に従って大学院を重点化したため、分野による研究者需要の差を反映していなかったこと、企業側は食わず嫌い(ドクター取得者は自らの専門以外に興味を持たず、使いにくい)の傾向が強く、ポスドクの採用に積極的でなかった。しかも、どのような人材を求めているのかを養成側(大学)に明示して来なかったことなど、大量のポスドクをどのように科学技術開発に生かしていくかといった出口戦略、言い換えれば、研究人材のキャリアパス戦略が明確でなかったことなどが原因で、大量の就職難を引き起こした。
人文・社会科学関係では、大学等の研究職のほかに、人間科学、国際関係、地域研究、実務法学、社会情報システム、経営システム科学などの分野で需要の増大が期待されたほどでなく、とくに博士については受け入れる側の体制も整っていなかったことにより、当事者の悲惨な状況を作り出すとともに、教育現場における混乱を引き起こしている。
大量に養成されたポスドクの多くは将来が不透明なままである。この状態で臨時雇用的な支援施策を実施しても、より不幸な研究者が増えるだけである。
98年の大学審「21世紀の大学像」のいう「高度専門職業人の養成と大学院修士課程」に基づいて開設された専門大学院にしても、経営管理・技術経営、会計、公共政策、公衆衛生などわずか10専攻で(制度発足3年後の03年現在)と少なく、しかも修士課程主体であり、法科大学院をめぐる混乱ともあいまって有効な解決策を提示しているとはいいがたい。
科学技術の戦略的重点化・科学時術システム改革を謳う【第2期科学技術基本計画2001-2005(01年3月30日閣議決定)】では、ポスドクについて、「今後は、研究指導者が明確な責任を負うことができるよう研究費でポストドクターを確保する機会の拡充や、・・・優秀な博士課程学生への支援充実等を図り、ポストドクトラル制度等の質的充実を図る・・・」と制度の強化が述べられるが、当事者や教育現場の困難な現状に対する解決策は示されていない。
社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術・人材育成と競争的環境の重視〜モノから人へ機関における個人の重視〜を基本理念とする【第3期科学技術基本計画2006-2010(06年3月28日閣議決定)】では、「なお、ホストドクター等1万人支援計画が達成され、ポストドクターは今や我や国の研究活動の活発な展開に大きく寄与している…」程度の極めて現状肯定的・無責任な評価にとどまり、その深刻な事態への抜本的対策を提示しないままである。
A.4 成長力強化のための大学・大学院改革
21世紀に入り、少子高齢化・国際化・情報化の3化け時代に、科学技術の発展、産業構造の変化に対応する「構造改革」を推進する原動力たる人材の確保が不可欠であるとして、科学技術関係の人材育成はとくに重視されている。
04年7月、総合科学技術会議は「科学技術関係人材の育成と活用について」を発表し、改革の基本的方向として「人材育成の基軸として、世界的に高水準の高等教育と、多様性や創造性を伸ばしてゆける初等中等教育を目指した教育改革へ注力」し、「揺るぎない基礎と進路意識を培う学部教育、高い専門性と広い視野を得られる大学院教育を目指した改革の推進」をかかげる。
これに対応して、05年、中央教育審議会は「わが国の高等教育の将来像(答申)」に続いて、9月「新時代の大学院教育− 国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて−(答申)」を出し「21世紀は「知識盤社会」(knowledge-based society)の時代。人々の知的活動・創造力が最大の資源、優れた人材の養成と科学技術の振興は不可欠、高等教育の危機は社会の危機」という基本認識の上に、「今後の知識基盤社会において、大学院が担うべき人材養成機能を次の4つ(1.創造性豊かな優れた研究・開発能力を持つ研究者等の養成、2.高度な専門的知識・能力を持つ高度専門職業人の養成、3.確かな教育能力と研究能力を兼ね備えた大学教員の養成、4.知識基盤社会を多様に支える高度で知的な素養のある人材の養成)に整理し、人材養成機能ごとに必要とされる教育を実施することが必要である。」として「博士、修士、専門職学位課程の目的・役割の焦点化」をして、「各大学院の人材養成目的の明確化と教育体制の整備」するのが重要として、各種の展開方式を述べるが、「今後の大学院教育の量的規模の方向性については、社会人、留学生の入学者を含め、高度専門職業人養成に対する期待など進学需要の増加傾向に合わせ、全体として、着実な増加傾向になると予想される。この傾向は、今後の知識基盤社会の到来を展望すると、一般的には望ましいものと考えられる。また、社会・経済・文化の発展や科学技術の進展等、時代の動向や要請に的確にこたえるとともに、人文・社会科学、自然科学の各分野のバランスのとれた発展を目指すことが重要である」というにとどまり、深刻な就職難をもたらしている現状への対応もなければ、具体的な数的見通しもなく、「各大学における大学院と学部の量的な構成については、大学の機能別分化が進んでいく状況の中で、各大学の責任において検討・判断すべき事柄であると考える。
産業界等においても、それぞれの業種などに応じて、自らの大学院教育に対するニーズを明確かつ具体的に示すことや、年齢等にかかわらず、課題探求能力等の実力を適正に評価して人材の登用を行うなど、今後の知識基盤社会における国際的な競争に耐えられる職務体制・人材の配置などの構造改革に向けた努力が求められる」と責任を現場に転嫁している。
教育基本法が改悪された後の07年2月、経済財政諮問会議は「成長力強化のための大学・大学院改革について」審議し、「成長力を強化するには、大学・大学院の改革が極めて重要である。世界中の大学がダイナミックに連携・再編に取り組むなかで、日本の大学は世界の潮流から大きく遅れている。“大講座制”“受験競争”“学閥”等に象徴される大学の戦後レジームを今こそ根絶させ、国際競争力の高い知の拠点づくりを行わねばならない」として、「1.イノベーションの拠点として〜研究予算の選択と集中を〜、2.オープンな教育システムの拠点として〜「大学・大学院グローバル化プラン(仮称)」の策定〜」を強調し、「3.大学の努力と成果に応じた国立大学運営費交付金の配分ルール」の見直しを要求する。
これを受ける形で、経済産業省・文部科学省は、高等教育界・産業界の代表からなる産学人材育成パートナーシップを設立し、今年8月「中間取りまとめ」をだし、教育実施おいても、産官学連携をさらに強化する。9月、中央教育審議会へ「中長期的な大学教育の在り方について」諮問されたが、大学院のあり方を含めた論議がなされ、今後の高等教育の行く方を左右するものになるであろう。
【参考文献】
(1)天野郁夫:大学改革の社会学(玉川大学出版部 2006)、国立大学・法人化の行方(東信堂 2008)、
(2)相澤益男:大学進化論(日経BP出版センター 2008)
(3)城山英明:科学技術ガバナンス(東信堂 2007)
(4)学術研究フォーラム:大学はなぜ必要か(NTT出版 2008)
(5)松田岩夫:めざせ!イノベート・ニッポン(科学新聞社 2006)
(6)水月昭道:高学歴ワーキングプア(光文社新書 2007)
(7)全国大学高専教職員組合:国立大学の改革と展望(日本評論社 2001)
(8)井村裕夫:21世紀を支える科学と教育(日本経済新聞社 2005)
(9)尾身幸次:科学技術立国論(読売新聞社 1996)、科学技術で日本を創る(東洋経済新報社 2003)
ポスドク・若手研究者アンケートに寄せられた声
2008年11月16日 科学技術政策シンポジウム
▼研究労働条件や就職難の実態について
◆月収20万、ボーナス等無し、国保、年金は自分持ちです。家族がおり養っております。経済的には限界に近いです。論文の総被引用件数は800を越えています。h-indexは18を越えています。低い方だとは思いません。日本は何を研究者に求めているのですか? 研究業績のある研究者は不要ですか?(38歳)
◆週25時間・時給1200円程度。研究員というよりは雑用係です。同じ部署には無給の研究員や、私と同様の身分の博士課程修了者が何人もいます。(34歳)
◆任期つきポスドク研究員です。任期はあと2年、それ以降の更新の可能性はありません。パーマネント職の公募は大学・研究所からたまにありますが、その職の数はポスドクの数に比べて圧倒的に少ないです。ポスドクからパーマネント職に昇進できる人はごくわずかです。(34歳)
◆現在の雇用形態は雇い止め前提の雇用であり、将来の見通しが立たず困っております。より雇用条件の良い研究系の公募への応募を中心に就職活動を常時行っておりますが、ポストの数は少なく競争は熾烈であり殆どの場合書類審査で落とされてしまいます。年齢的にも助教への実質的な就職リミットが迫っており、将来的な展望は基本的に絶望的と言えます。(33歳)
◆私の置かれているポスドクの年間の休日は土日祝日を除いても、夏季・冬季・春季の休暇は厳密には取る事ができません。ポスドクは短期間の契約状況のため、その短い期間中に次の職の履歴書作成、そして研究論文の作成があり、前者においては無駄な時間が掛かりすぎます。これでは研究に没頭できません。私は既婚者であります。妻も博士課程を出ており、研究職を求めていますが中々大変です。私の低賃金では、生活が苦しいです。妻は奨学金の返済猶予の願いを毎年書き、遅れれば、脅迫文章のようなものが送られてきます。さらに、私達は子どもをつくる経済的余裕さえありません。これらの問題は小子化問題とも深く関わりがあるように思います。子どもが増えなければ科学者も生まれない訳ですし、国を支えられません。もう先延ばしはできません。早急な現実的な未来を求めています。(34歳)
◆研究労働条件:医科大学寄附講座(大学所属派遣会社社員、3年任期)常勤(月〜金)9:00〜17:00、給与(固定)33万+交通費4万、社会保険有り。しかしながら、この10月突然の寄附講座閉鎖。就職難の実態:年齢制限は書かれていないが、証拠が残らない電話でその旨を伝えられる。「考えているのは35歳以下だと」。(38歳)
◆週3日9:00〜17:30の時間勤務で、ある一つの課題において、研究所の職員の指導を受けて実験の計画、解析、報告書の作成などを行っています。しかし、実際行っている研究課題は多岐にわたり、また学会発表の資料や報告書作りのほとんどを任せられている状態です。また、研究以外の雑務も多く、あるときはポスドク、あるときはアルバイトといわれるような状態です。時間外や出勤日以外の出勤は当たり前で、逆にそれを要求されることもあります。(32歳)
◆米国の大学で任期付正規職員として働いています。心理学(行動神経科学)を専門としており、日本では医学部か農学部でしか行えないことをしているため、日本には職がないという状況です。日本の心理学分野では臨床心理士という民間資格がないと職が見つからず、またポスドクの数も少ないため、ほとんどがそれぞれの学科出身者で終わります。日本には現在の専門を生かす場がないため、国外で生きていくつもりです。(34歳)
◆労働条件は任期無しの研究員と同一である。任期(5年)の中間時(3年時)にそれまでの成果や将来性などを評価され、任期満了後の任期無し研究員への昇任が審査される。任期付き職員の間は昇給は無く、扶養手当・住居手当は支給されない。その分基本給が高めに設定してあるとのことであるが、任期無し研究員には昇給や昇任があり、場合によっては任期無し研究員の方が給与が高くなることもあり得る。(36歳)
◆私の分野では大学の助教または講師クラスのポストの募集が全く無いため、公募に応募すらできない。せっかく科研費に採択されたが、プロジェクトから雇用されているポスドクはそのプロジェクトに専念する義務があるらしく、雇用条件の悪い契約研究員へ職種変更を余儀なくされた。少ないながらも成果を上げたにもかかわらず、給料が下がるというのはいかがなものだろうか? 住宅手当が支払われないため、家計のやりくりがかなりキツイ。(29歳)
◆人事権を持つラボヘッドに雇用される立場であるため、得意分野での研究を諦めてラボヘッドの専門分野での研究活動に追われる毎日。ラボヘッドの意に沿わなければ学会発表も論文投稿もできないため、業績がたまらず次のポスト探しもままならない。にもかかわらず任期切れと同時に即クビになることから、同じ職場のポスドクは皆不安を隠せない。(31歳)
◆3回目のポスドク。大した成果も挙がらない古手の研究者の存在のために優秀な若手の採用をが阻害されている。(36歳)
◆時給1780円、週30時間雇用。残業、休日出勤は基本的にない。固定給ではないため、大型連休などが入ると手取りが激減する。「教員」という肩書きになっているものの、大学事務からは、単なる腰掛けのアルバイト扱いを受けることも多々。外部資金から研究費を獲得するも、労働条件通知書に「研究」という文言が入っていないために、研究費を使用できるかどうか、特に海外での調査を行うためにはその都度理由書の提出が求められている。理由が認められない場合は、有給休暇あるいは休職して研究を行うこととなる。(32歳、特任教員)
◆教員間での授業・雑用の負担がひどく不公平になっている。業績もないのに自校出身者というだけで教授になり、授業は年間2コマ(学部1コマ、大学院1コマ)しか受け持たない教授もいれば、前期・後期それぞれ週5コマ受け持たされている准教授・講師もいる。同じ学科内でも極端な「格差」が存在する。(35歳、助教)
◆海外にいます。日本での就職先を考えていますが、実際に動くと2つの問題に突き当たります。(1)基礎分野なので、まったく該当する公募がない。(2)海外在住なので、面接に帰るにも1回あたり20万近くもの出費になる。これは特に給料の安いポスドクにとっては辛い問題です。ここまで来ると、どんな手段でもいいから何とかしてやるという気持ちにもなってしまいます。(30歳)
◆海外。年収は日本円換算で150万程度。(最近の円高で急減少中。当初は250万くらい)奨学金の返済が年に36万くらい。就職はポスドクで50倍、パーマネントだと専門分野が限られているものではそれ以下だが、同年代トップ級の業績が必要。大まかな分野指定しかない場合はパーマネント・テニュアトラックでは200倍くらいになるが、そういう募集は年に10件程度。一応業績を上げた人が採用されている点ではフェアになっているが、絶対的な基準として職を得るハードルが物凄く高い。(33歳)
◆幸運なことに、3年間の任期付き研究員ですが、その後は任期無しへの審査があり、認められればテニュアになれます。しかしながら、その審査の基準が明確ではなく、自分の将来にはまだまだ不安があります。(33歳)
▼労働組合や研究者の団体への要望・意見
◆国民に向かって、若手研究者の窮状を発信してください。そして問いかけてください「このままで良いと思いますか?」と。結果「このままでよい」と言われたら、国からでていきます。(誘いはあるのででていきます)(38歳)
◆給与に関する闘争も大切だが、現状はとにかくパーマネントポスト、或いはテニュアトラックの対象となるポストの拡大を図るべく関係各機関への働きかけを強化すべきと思う。(36歳)
◆労働組合にポスドクなどの契約職員でも加入できるようにして欲しいと思います。(29歳)
◆労働組合には興味があります。その理由は、私の回りの同世代や後輩の若手研究者のうちの何人かがこの先の10年で自殺していくことが実感として予想されるからです。私は私自身も含め我々の中からの自殺者を少しでも減らしたいと考えており、その可能性の一つとして労働組合の働きに期待しております。しかしながら、現在の労働組合の要望が「中堅から年輩の正規雇用者の賃上げ」を主な課題として取り上げていたりするのを見ると、その世代間での余りの危機感の質の落差に失望することも事実です。私が欲しいのは「賃上げ」などではなく「若手研究者の自殺数の緩和のための対策」です。(33歳)
◆研究者は団結することが苦手ですが(!?)、やはりポスドクや任期付き研究員をまとめて、その意見を国に直接ぶつけることができるような団体を作るべきだと思います。(33歳)
◆パーマネントの研究職のポストを増やせるように、国に対して働きかけを強めてほしい。現状では、優秀な学生は研究職を目指さず、修士卒で一般企業へ就職する傾向が高い。また、労働組合は、就職済みの研究者の既得権を守ることで若手の採用を阻害してはいけない。成果の挙がらない研究者には退場し若手にポストを譲ることを認めなければいけない。(36歳)
◆ラボヘッド(およびラボヘッドで構成される教授会などの内向き組織)が人事権を持つ制度を改め、事務部門の人事部などが研究者の雇用をマネジメントする制度にするよう運動するべき。コネ採用による不公平や自由のない研究環境にあえぐ若手研究者は多い。(31歳)
◆ポスドク1万人計画の成果をアピールして下さい。ここ10年ほどで、日本のサイエンスのレベルは飛躍的に上がったと実感していますが、その大部分を支えたのはポスドクだと思います。「ポスドクを助けて下さい」と言うだけでは、社会の理解は得るのは困難です。(30代前半)
◆俸給表ベースで時給を換算した場合、時間単価は定額となる。正規雇用者のボーナスや諸手当を含む年収総額を基準として、時給を計算するように要求してほしい。私の事例をベースに計算すると俸給表の同じ位階にある正規雇用の助教(フルタイム:週40時間)と比較した場合、約半分の時給になっています。(32歳、特任教員)
◆シンポジウムなどで、ポスドクの現状を取り挙げ、現代の大きな問題としてこのような機会を設けているのは大事だと思っていますが一方で、それが現実に実施されなければ意味がありません。実際問題として、安定した職、給与や補助金のことなど早急な対応を求めています。見通しのない将来の展望だけを追い進み、未来の予言のような議論では何も問題は解決されません。ただポスドクは年をとるだけです。そして廃れていきます。私の尊敬する先輩たちの多くも物理学の研究から去ってしまいました。とても残念です。研究と家庭を支える基盤が、自分の意思とは別にどうしようもなく崩れかけているように感じます。私自身、このまま物理を続けて行ってもいいのかと不安がたまります。(34歳)
◆研究者が働きやすい環境作りを切に願う。(38歳)
◆他の政治的な主張が混じると参加しにくい。すでに職を得ている人たちとは利害が相反する印象が強い。分野ごとに事情は相当異なると考えています。(33歳)
▼国や研究機関、大学への要望・意見
◆ポスドクという定義が学位取得後5年以内の研究従事者に定まりつつあるらしいが、学位取得後終身雇用制度の枠外で働いている限り「永遠のポスドク」であることにかわりはない。ポスドクの定義を狭めたからといって、現在の33-43歳あたりの「ポストポスドク」世代の問題は何も解決できないのではないでしょうか?(36歳)
◆政府が進めている博士取得後5年を過ぎたらポスドクとは認めないという規制は、ポスドク1万人計画で増やしたポスドクを見殺しにするというものです。若手支援といいますが、今の大学院生は支援されていますが、このポスドク一期世代を打ち滅ぼして、何が得られるのでしょうか?(34歳)
◆志願者数が増え続ける中、ポスト(特に終身あるいは任期の長い)が減り続けているのが問題の根本です。現在職を持っておられる方々の給料を減らし、その分ポスト数を増やしてください。任期制はそれが伴って始めて生きてきます。給料が減った分は科研費などからある程度補充できるようにすれば、研究をきちんとされている方の賃金は保証されます。そして研究支援者(事務や秘書)の数を増やして、学内政治の負担を減らしてください。文科省の施策はほとんどが学科や大学に対するものであるため、締め付けになります。PI個人に託される分を増やしてください。留学支援や政府主導の研究分野など、科研費として一括してPI個人に施策すれば、流動化が促され、締め付けも減ります。(34歳)
◆ポスドクを採用する研究機関や大学、企業に、数年間採用されたポスドクの給料の一部を補助する奨励制度を作るのはいかがですか。(34歳)
◆若手研究者のパーマネントポスト採用枠を大幅に増やして欲しいと思います。そのための予算を国は責任を持って確保すべきだと思います。道路を造る前にやるべきことは山ほどあるのではないでしょうか?(29歳)
◆「研究所の職員の指導を受けて」とのことから、直属の上司のいうことにNOとはいえない状況です。中途半端な身分でも上司と一対一での管理ではなく、もっと周りからも見通せる就業・研究管理体制はないでしょうか?(32歳)
◆大学院博士後期課程の定員をゼロに限りなく近付け、余剰な人材がアカデミアに新規に流入するのを防ぐべき。(31歳)
◆優秀な教員を獲得する仕組みを作るべきです。アメリカでは研究費から自分の給料の一部を払いますが、これを導入してはいかがでしょうか。研究費がとれない教員は終身雇用権があっても、事実上大学に残ることはできません。優秀なポスドクが職を得ることにもつながります。(30代前半)
◆研究職の人件費は一律カットの対象外とすべきである。優秀な学生ほど修士卒で一般企業へ就職している。これは国の将来にとってよいことでは決してない。また、若手にだけ競争原理を適用するのは不公平であり、成果の挙がらない研究者には退場し若手にポストを譲るシステムを整備する必要がある。(36歳)
◆大学として国際的に十分な教育環境を整えるためには、どうしても大学教員の数を増やし、人件費および設備投資を充分にかけていく必要があると思います。日本にあるほとんどの大学はその条件をまったく満たしていない、と思います。文科省が推し進めている海外の大学との提携によるダブル・ディグリー計画が机上の空論に終わりそうな最大の要因は、日本の大学の教育環境の劣化にあり、近い将来日本の大学が与える学位の国際的信用度の低下につながりかねない、と思います。(32歳、特任教員)
◆物理業界の男女雇用制度に疑問を持っています。同じレベルの男女が研究機関・大学に応募しても、私の研究内容を見ないまま女性を選ぶのは男女平等ではないと思います。一人の人間として、これまでの業績や学歴、人間性などを確り見て頂きたいものです。また、現在はポスドクも公務員宿舎に住めるようですが、現実問題はどのくらい可能なのでしょうか。ポスドクは低賃金です。それなのに、年間数十万円も家賃に飛びます。住宅援助などの改善面を考えて欲しいです。大学は研究機関に比べ低賃金は周知の通り、研究のための文献などの購入に自腹を切ります。専門書は高額です。家庭にも影響がでてきます。(34歳)
◆勤めている研究所で多くの成果を出しましたが、いつ契約を中止されるかわかりません。そうなれば、何のために一所懸命頑張って研究しているのか、わからなくなる。(34歳)
◆大学は将来の日本を支える人材を輩出するところ。そこに投資する事は必要不可欠であり、昨今の運営費交付金削減の流れには反発を感じる。しかし、大学人として学内を見渡すと無駄な運営費交付金も存在する。無目的でマンネリ化した研究をだらだらやる例や、新しいアイディアで、従来の研究を展開すると怒る教授が居たりする。国家財政が破綻しつつある現在、研究教育予算の拡充を訴えることよりも、与えられた予算を無駄に使っていたり、有効に使わなかったりしてはいないだろうか?(35歳、助教)
◆研究費不正(去年新聞沙汰)や研究結果使いまわし、論文捏造(まだ公開されてない)大学の准教授、講師などに年間数千万の研究費が配分されている。論文も書かず20〜30年も大学に勤務し、今では寝てばかり。そういう人間にポジションについてるのが疑問。一生懸命頑張ってデータを揃えていても、上司の一言で(突然の)「任期切れ」は人をバカにしているのか?(38歳)
◆公平な公募、透明性の高い公募を実現してほしい。(30歳)
◆研究業績をまず評価ください。教育に力を入れていると言訳をしている業績のない研究者には大学から退去をお願いします。また、非常勤講師の率を各大学は公表してください。非常勤講師という職に甘えている大学がいまの状況を産み出している一因です。(38歳)
◆職のミスマッチは、本人のプライドや身に付けてきたものが他では役に立たないということで、基本的には自己責任だと思ってるが、分野によって事情は異なる。少子化など致し方ない問題もあり、口が少ないのは仕方ないが、「使い捨て」が目に余る。任期制の運用の仕方も、若手にただ押し付けているだけに見える。(33歳)
◆若手を使い捨てにすることはやめて欲しい! しかし、能力主義、業績主義の功罪はあるにしろ、そのお陰で世界トップレベルの研究を展開できるだけの若手研究者が増えてきたことも事実だと思います。問題は、そういった5%のトップ研究者にはなれない、95%の普通の研究者の処遇、さらにその中の20〜30%(もっと多い?)の「研究できない」博士に研究を諦めさせるのもやむを得ない道だと思います。(33歳)
(※年齢の後に明記ない方は、置かれている身分をポスドクと回答しています)
以上
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