12月5日、国公労連は、学研労協・全大教・科学者会議・全院協とともに、「ポスドク・フォーラム〜若手研究者問題の解決をめざして」と題した集会を45人の参加で開催しました。このフォーラムは、上記5団体で構成する実行委員会が主催し、私大教連の協賛で取り組まれました。
集会副実行委員長・井上学研労協副議長の司会で始まり、冒頭、主催者あいさつに立った実行委員長の池長学研労協議長が、「昨年11月に開催したポスドク・シンポジウムは、高学歴の研究者にも非正規雇用・不安定雇用が広がっていることをタイムリーに訴え、科学・技術を支える人材の育成について、雇用の安定が不可欠であることをアピールする機会となった。そして、来年5月16日に開催するシンポジウムは、ノーベル賞受賞者の益川敏英さんに参加いただいて、私たちの望む若手研究者問題解決への政策を広く国民に訴え、政府の科学技術政策に反映させる取り組みとなるよう準備中だ。本日のフォーラムは、それに向けての政策提言などを深める場としたい。先の来年度予算編成に関わる『事業仕分け』で、科学技術予算、なかでも若手研究者の育成に関わる部分への削減が判定された。この国の科学技術の発展のために、人がどのように働き、研究活動をどのように進められる組織があるべきか。そこで働き、研究するものの立場での政策提言に向けて議論を深めよう」と呼びかけました。
◆フランスの「研究を救え運動」の教訓に学び、国民共同ひろげよう
つづいて、「若手研究者(ポスドク等)問題の解決に向けて(素案)」を、実行委員の齋藤全大教高等教育担当が提案しました。加えて、NPO法人サイエンス・コミュニケーション理事の榎木英介さんが、「ポスドク当事者団体の考える問題解決への方策」について講演。榎木さんは、「事業仕分けで科学技術予算、若手研究者支援予算が削減判定となり、若手研究者の失業が顕在化している。これによって、この問題は雇用問題であり、『ポスドク問題は自己責任』などというレベルの問題でないとの認識は広がったと言える。ただ、事業仕分けに対する抗議声明が研究関連機関などから数多く出されているが、自分の分野の予算確保の“だし”に“若手研究者の悲惨さを全面に押し出す”ことへの疑問も一方で生まれていることは軽視できない。加えて、政治・社会と研究者との分断、基礎科学と応用科学との分断、社会・人文科学と自然科学との分断、そして世代間の分断など様々な矛盾が深まっている。フランスでは、2002年に連年の研究予算10%削減や公共セクター研究所の550の常勤ポストを任期制に転換する政府方針が出された。これに対して、2003〜2004年に『研究を救え運動』が展開され、フランス国民の82%の支持を得て、予算確保や研究所の常勤ポスト550増、大学の常勤ポスト1,000増などを勝ち取った。フランスにおける『研究を救え運動』の教訓は、雇用不安定化が研究者という特殊な集団に限った問題ではないことや、研究者の既得権益を守ることではなく、“知性を大切にする社会のため”に、“未来の研究者たちが不安定雇用におびえないですむこと”が必要であると広くアピールし国民世論を巻き込んだことにある。日本においても知性を大切にする社会のために、幅広く連携した運動展開が求められている」と語りました。
◆大学の非常勤講師は典型的な「高学歴ワーキングプア」
各団体からの報告では、首都圏大学非常勤講師組合委員長の松村比奈子さんが、「私たちが調査した2007年の大学非常勤講師アンケートは、回答者1,011人、平均年齢は45.3歳で平均年収は306万円、うち250万円未満が44%、その上、授業・研究関連の支出平均は27万円でほとんどが自己負担である。職場の社会保険未加入は96%で、雇い止め経験者は50%にのぼる。首都圏の私立大学では授業の6割近くを非常勤講師が担当。大学の非常勤講師は典型的な高学歴ワーキングプア状態に置かれている」と述べ、全国大学院生協議会議長の秋山道宏さんは、「私たちは大学院生の実態アンケートを毎年実施している。2009年度のアンケートは、32の国公私立大学から616人の大学院生に回答いただいた。収入の不足が研究に影響を与えていると答えた人の割合は過去最高の64%にのぼった。具体的には、学費を払えない、書籍も購入できない、学会・研究会に参加できない、アルバイトで研究時間がないなど、収入不足が研究の基盤そのものをおびやかしている。そして、『将来の就職に不安を感じる』との回答は71.9%で、『大学院修士までに奨学金返済額は600万円超。本当は博士課程で研究したいが、博士号を取ったとしても就職口が保障されないなか、さらに300万円の奨学金返済額が積み重なることを考えると、返済できるのか、自分の生活が崩壊する気がする』との悲痛な声がアンケートに寄せられている」と報告しました。また、田辺製薬のポスドク(契約研究員)の苗登明(みょうとうめい)さんの過労死裁判を「支援する会」副会長の小森田精子さんが署名など裁判支援への協力を訴えました。
◆問題解決への素案めぐり率直な討議
討論では、「若手研究者(ポスドク等)問題の解決に向けて(素案)」について、ポスドク当事者数名を含む多数から率直な意見が活発に出されました(写真)。また、来年度予算をめぐって若手研究者支援の予算削減が狙われていることに対して、集会では緊急アピール(別添)を採択しました。
最後に、閉会あいさつを兼ねた集会のまとめで、実行委員会事務局長の上野国公労連中執は、「政策提言素案への意見や、私たちへの取り組みに対する要望を受け止め、来年5月16日のシンポジウムに向け、政策提言の充実と運動の前進をめざしたい」と締めくくりました。
《別添》
「事業仕分け」による若手研究者支援の予算削減を撤回し、拡充を求める緊急アピール
貧困の拡大が社会問題化するなか、学術・科学技術分野においても、学部卒業・大学院修了生の就職率が低下し、博士課程修了後、正規の研究職に就けないポスドクなど若手研究者に、「高学歴ワーキングプア」と呼ばれる劣悪な雇用・研究労働条件が広がっている。加えて、効率最優先の国公立大学・国立試験研究機関の法人化や、基盤的経費である運営費交付金と人員の連年にわたる削減が、若手研究者の雇用不安に拍車をかけている。直近の日本物理学会の実態調査でも1998年度から2008年度までの11年間で、ポスドクの人数が倍増し、不安定な雇用条件のままで高年齢化が進むなど、ポスドク問題は年々深刻さを増している。
ところが、政府の行政刷新会議は「事業仕分け」で、こともあろうに若手研究者支援の予算(若手研究者養成システム、科学研究費補助金、特別研究員事業など)を大幅に削減すると判定した。
たとえ現状維持であっても若手研究者の雇用不安は深刻であるのに、これ以上、支援を削減してしまったら、「派遣切り」と同様の「ポスドク切り」「若手研究者切り」が行われ、多数の失業者が生み出されかねない。「科学技術立国」の未来を担うべき若手研究者が大量にリストラされれば、日本社会にとって計り知れない大きな損失となる。
若手研究者の雇用・研究労働条件を改善することは、当事者だけの課題ではなく、それぞれの大学や研究機関の将来、そして日本の科学・技術の未来がかかっている大きな課題である。
いま政府がやるべきことは、現在の不十分な若手研究者支援を抜本的に拡充して、「高学歴ワーキングプア」を無くし、日本社会の基盤である科学・技術の発展をはかることである。
私たちは2010年度予算編成にあたって、政府が若手研究者支援予算の削減を取りやめ、拡充する方向に転換することを求めるものである。
2009年12月5日
ポスドク・フォーラム
〜若手研究者問題の解決をめざして
集会実行委員会
以上
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