国公労連は3月25日、今野東民主党副幹事長(内閣府・国家戦略、行政刷新担当)に対して、独立行政法人の「抜本的な見直し」「事業仕分け」にかかわって要請を行いました。国公労連側は、川村副委員長を責任者に6つの独法労組の代表を含む11人が参加しました。
冒頭、川村副委員長は、今野民主党副幹事長に要請書を手交し、国民の安心・安全をささえる業務を担っている独立行政法人(以下独法)の見直しにあたって、効率化一辺倒の「事業仕分け」などでなく、国の責任で拡充を図ることを求めました。続いて、各独法労組の代表が要旨次のように要請しました。
《全経済・産業技術総合研究所労組 二瓶委員長》
産業技術総合研究所(以下産総研)は、国民生活と産業活動の基盤となる基礎研究を進めるとともに、中長期的な新規産業の創出に貢献しています。基礎研究は大学と、製品化研究は民間企業と、それぞれ研究能力を相互に補完しあっています。また、国民的課題となっている地球温暖化・環境問題、防災・安全問題などは科学者・研究者の社会的提言が重要となりますが、産総研は公的研究機関としての役割を発揮しています。こうした役割の維持・発展には、運営費交付金や人員の増、自律性の担保などが求められます。
《全経済・製品評価技術基盤機構労組 笹木副委員長》
製品評価技術基盤機構は、製品事故の調査や化学物質のリスク評価・管理にかかわる業務を主に行っています。製品事故情報の調査・原因究明では、広く国民に事故情報の提供を行い、重大な製品事故については、新聞・テレビなどのマスメディアにも大きく取り上げられています。事故原因の究明では、発火や製品劣化などの試験を行い、発火事故の再現ビデオなどがテレビ報道されるなど国民生活の安心・安全に不可欠なものとなっています。高齢者や女性が安心して家庭製品を使えるよう、全国の事故情報の中から、事故の傾向、事故品の構造などを調査し、速やかに情報提供できるよう努力しています。家庭製品の情報は、国の機関が公平性・客観性を持って取り扱う必要があり、企業からの製造情報の提供もその前提で行われています。消費者団体や産業界と連携して、事故防止のための啓発を行っており、今後も継続して行うことが国民の安心・安全につながるものと考えています。
《全通信・研究機構支部 河野副支部長》
情報通信研究機構は、電波伝搬を基礎に衛星通信やレーザー通信など、無線通信技術の開発を始め、電波天文の研究を基礎に大陸間の距離を測るVLBI、電離層観測や太陽フレアの観測にもとづく宇宙天気予報など、長期間にわたる研究や実証実験が、実用化につながっています。とくにBS・CS放送など今では当たり前の衛星放送も、長期間の研究の成果が実を結んだものです。宇宙天気予報や情報セキュリティ技術の研究開発、電磁波の人体に与える影響の研究は、国民の安心・安全を担保するものであり、長年、この分野で研究を行ってきた当機構にそのノウハウは蓄積されています。また、日本の標準時を維持するための研究、日常業務は、当機構以外その運用を担える組織はありません。国立試験研究機関としての土台の上に立ち、短期的な成果を追い求めるのではなく、一つの研究をじっくり研究してきたからこそ、情報通信の様々なシーンで当機構の研究成果が実を結んでいます。短期間で研究成果が出るものを国がやる必要はありません。ユビキタスネットワークの実現の課題など、国の機関だからこそやらなければならない研究がたくさんあります。そのことをぜひご理解願います。
《総理府労連・統計センター労組 山田書記長》
統計センターは、総務省統計局が行う統計調査の製表を行っています。具体的には国勢調査や失業率、消費者物価指数など、国の施策や国民の暮らしにとって、基幹的な役割を持つものです。また、統計は政策立案の基盤であると同時に、国や地方公共団体の施策の結果を客観的に評価するための情報基盤であり、国民の共有財産です。統計は遅滞なく一貫して継続調査され、正確に国民に提供されることが重要です。イギリスではサッチャー政権時代に統計調査を国から切り離してしまったことで正確な統計が提供されなくなり、再び国の直接の業務に戻しました。国際的に見ても、統計を国が責任を持っていないところはありません。また、2008年には、統計センターの非公務員化法案が衆院総務委員会で審議されましたが、民主党をはじめ各党の委員より統計調査の重要性が指摘され、衆院解散もあり廃案になっています。こうした経緯もふまえ、統計センターは国の機関としてあるべきとの判断をお願いします。
《全運輸・自動車検査労組 合羽井書記長》
自動車検査は、いわゆる「車検」を実施するということで、民間車検場でも実施しているという認識を多くの方がもたれていますが、民間車検場で実施している車検は、正式には継続検査という現在の車両の状態を確認するだけの検査です。自動車検査独法では継続検査も実施していますが、新規検査という新たに車の長さ幅高さ重量を確定させる検査や、車両を改造して車体そのものが変更になる場合の検査を行っており、これらの検査は安全確保のため民間車検場では担えない検査です。自動車検査の検査データは自動車重量税や環境省の排ガス対策に活用され、最近では駐車禁止違反データとも連携するなど、多くの自動車行政の土台となっており、信頼性の維持が極めて重要です。しかし、現在、民間車検場における不正車検や検査後の不正改造が後を絶たず、自動車検査の民営化では、多くの自動車行政の土台となる「信頼性」の維持が難しいと言えます。自動車検査はやはり国が責任をもって実施しなければならない業務であり、基本的に国に戻すべきと考えますが、最低、現行の独立行政法人で実施すべきです。
《全医労 岸田書記長》
国立病院は、急性期から慢性期まで地域の医療機関と連携を図りながら、全国的に地域の一般医療に重要な役割を果たしています。そればかりか、重症心身障害者、筋ジストロフィー、結核、精神、救急医療、災害医療など民間医療機関が担うことが困難な不採算の政策医療を積極的に担っています。さらに日本の病院の質的な向上を図るため、全国ネットワークを活用して臨床データの収集や解析を進めながら臨床研究活動にも大きな貢献をしています。地域医療の崩壊が大きな社会問題となっている状況下で、国立病院が国民医療に果たすべき責任と役割はますます大きくなっています。ぜひ、国民医療の充実に向けて病院運営に必要な運営費交付金の予算措置を求めます。また、国立病院をさらに充実・強化していくためには、医師・看護師をはじめとする医療従事者の増員は不可欠です。国立病院を総人件費5%削減の対象から除外し、国民の医療の拡充をはかるべきです。
以上の要請を受けて、今野民主党副幹事長は、「みなさんの仕事が国にとっても大変重要であることがよく分かりました。事業仕分けについては、中身の問題だと思うのです。なにがなんでも独法の事業を切り捨ててしまおうということではなくて、事業の中身を見ながらこれから仕分けを行うわけです。たとえば、天下りの問題などで独法の役員だけが巨額の給与をもらっているなどという実態を見極めた上での仕分けになります。それぞれの仕分け人も中身を踏まえた上で行います。うっかりすると大変重要な仕事を仕分けで切り落としてしまうなどという可能性もあるので、そこは十分に気をつけなければいけないと思いますし、みなさんからいただいた要望は、枝野行政刷新担当大臣に届けるようにします」と応えました。
最後に、川村副委員長は、国公労連としても天下りなど役員の問題については改善すべきと従来から主張していることと、政府の行政刷新会議と国公労連との協議も十分に行えるよう橋渡しをすることを求めて要請を終えました。
《別添》
2010年3月25日
民主党代表 鳩山由紀夫 殿
日本国家公務員労働組合連合会
中央執行委員長 宮垣 忠
独立行政法人の「事業仕分け」をおこなわず、
国の責任で事務・事業の存続・拡充することを求める要請書
貴職の日頃からの国民生活の安心、安全の向上にむけたご尽力に敬意を表します。
独立行政法人制度の発足以来、運営費交付金や総人件費の削減などの厳しい業務運営のもとで、各法人は中期目標・中期計画にそって、「国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要」(独立行政法人通則法第2条)な行政サービスを提供してきました。
様々なムダや「天下り」人事を排除することについては、私たちも追求してきたところです。ところが、政府は独立行政法人の廃止、民営化、移管などについての「抜本的な見直し」を閣議決定し、その手法として「事業仕分け」を行おうとしています。しかし、昨年の「事業仕分け」は、科学技術予算への切り込みが象徴的ですが、費用対効果と財源捻出が最優先されたことに対する批判が各界各層から出されました。こうした手法による見直しが、独立行政法人が国に代わって提供してきた行政サービスの後退を招くものと危惧しています。
国立病院が提供している不採算医療、研究機関が行っている基礎的・基盤的研究、自動車検査が行っている民間車検の規範となる全国一律基準の検査、統計センターが実施している国勢の基本に関する統計調査など、独立行政法人が担っている公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務・事業については、国の責任で存続・拡充される必要こそあれ、廃止や縮小、民営化などするべきではないと考えます。
つきましては、独立行政法人に対する「事業仕分け」は行う必要がないと考え、下記の事項についてご尽力いただくようお願いいたします。
記
1、独立行政法人の真に必要とする事務・事業については、国の責任で存続・拡充を図ること。
2、独立行政法人の見直しにあたっては、役割・業務になじまない効率化一辺倒の「事業仕分け」は行わないこと。
3、見直しにあたっては、国公労連はじめ当該労働組合との協議を十分におこない、理解と合意を得ること。
以上
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