国公労連は5月16日、学研労協や全大教等とともに、シンポジウム「高学歴ワーキングプアの解消をめざして〜学術の危機と若手研究者・ポスドク問題」を明治大学リバティホールにおいて250人の参加で開催しました。シンポを主催した実行委員会を構成する団体は、国公労連をはじめ、学研労協、全大教、日本科学者会議、全国大学院生協議会、首都圏大学非常勤講師組合で、協賛団体は私大教連と特殊法人労連です。
実行委員の川中学研労協事務局長の司会で始まり、冒頭、主催者あいさつに立った実行委員長の池長学研労協議長は、「研究の現場にも、国際競争力強化や効率化の名で、自己責任や流動化、選択と集中の波が押し寄せ、『高学歴ワーキングプア・ポスドク問題』が深刻化している。私たち実行委員会として2008年11月に第1回のシンポを開催し、この問題を世に問うた。そして、問題解決に向けた提言づくりのため、昨年12月にはプレシンポとしてポスドクフォーラムなどを開催しながら、提言に対する多くのご意見をいただき、今回提案する提言案を取りまとめた。きょう同じ時間に明治公園で『全国青年大集会2010』が開催されている。ともに未来を切り開く若者に正規雇用を求める点では共通している。『若手研究者に雇用と未来を!』――この制度改革に向けて、きょうのシンポを成功させよう」と述べました。
ノーベル物理学賞受賞者・益川敏英京産大教授が講演
「若手研究者問題に労組が取り組むのは新鮮」
「若手研究者は仲間同士の信頼深め運動の輪を広げよう」
つづいて、ノーベル物理学賞受賞者の益川敏英京都産業大学教授が、「若手が成長できる研究環境とは」と題した記念講演を行いました。
益川教授は、「若手研究者問題は、国に解決を求めることが基本で、社会の決意の問題でもある」と指摘。加えて、「PL法のように製造責任が大学にあり、若手研究者の就職には大学がきちんと責任を持つべきだ」と述べました。また、自身が博士課程にあった当時を振り返り、奨学金を仲間で均等に分け合ったことなどを紹介。白熱した議論をたたかわせながら、仲間同士の深い信頼の輪を広げた経験から、「政府の対応を待つなど手をこまねいていないで、仲間同士の信頼を深め運動の輪を広げることが大切だ。若手研究者自身が動くことで、それがまた仲間を励まし運動を広げていくことになり、問題解決への道をつくる」と若手研究者へエールをおくりました。そして、「私の時代は若手研究者問題に労働組合は取り組んでいなかったので、きょうの取り組みはとても新鮮に感じる。労働組合として若手研究者の悩みをよく聞き、悩みを共有して問題解決にあたって欲しい」と語りました。
「若手研究者問題の解決に向けて」と題したシンポジウムは、コーディネーターを実行委員の上野科学者会議事務局次長と齋藤全大教・大学高等教育研究会員がつとめ、次の3つの報告がされました。
最初に、実行委員会を代表して、足立学研労協副議長が「若手研究者(ポスドク等)問題の解決に向けた提言案」について報告。「緊急に必要な対策」として、「(1)大学・公的研究機関におけるテニュアトラック比率の増大、(2)企業などへの雇用の促進、(3)奨学金返済条件の緩和」を提案するとともに、「長期的な視野に立った対策」として、「(1)高等教育の公費負担についてOECD平均(GDP比1.0%)以上の水準を確保、(2)大学・公的研究機関の有期雇用・非常勤雇用を制限し、教員と研究者は正規雇用を基本原則とする、(3)就業分野の選択肢を広げる、(4)中等教育・高等教育の無償化と給付型奨学金の実現」を提案しました。
つづいて報告に立ったサイエンス・サポート・アソシエーションの榎木英介代表は、「高学歴ワーキングプアの惨状が広がり、博士課程を避ける学生が増加。研究者離れ→研究力低下→国の荒廃→失望感の広がりという最悪の悪循環が進んでいる。若手研究者・ポスドク問題は、『かわいそう』というような問題ではなく、社会全体が人材を活用できていないという問題だ」と指摘しました。
最後に報告した首都圏大学非常勤講師組合の松村比奈子委員長は、「非常勤講師は全国に約2万6千人。首都圏の私立大学では授業の6割近くを非常勤講師が担当。平均年収は306万円で、そのうち年収250万円以下が44%、職場の社会保険未加入は96%、雇い止め経験ありは50%にのぼり、まさに高学歴ワーキングプアで、使い捨ての非人間的な待遇だ」と告発しました。
全体討論では、当事者の若手研究者など17名から発言がありました。「大学院生の7割が就職問題で将来不安をかかえている」(全国大学院生協議会)、「博士号を取得してから、4年間で4つの職を渡り歩いてきた。雇用と生活が不安定であることはもちろん、研究が長期的展望でじっくりできない」(任期付若手研究者)、「高校・大学・大学院と奨学金を借りて、返済額が2千万円にのぼった大学の非常勤講師の方は、毎月の奨学金返済額が7万円で、アパートの家賃より高い。大学では専任並みに働いているのに年収は200万円で、奨学金返済と家賃を払ったら何も残らないと訴えている。奨学金のローン化をやめさせ、いまこそすべての教育段階の無償化をすすめたい」(特殊法人労連・学生支援機構労組)などのフロア発言が出されました。
まとめ・閉会あいさつで実行委員会事務局長・上野国公労連中央執行委員が、「きょう出された意見に基づき提言案を練り上げ、今後政府などへの申し入れを実施し、若手研究者問題の解決をめざしたい」と述べ、シンポを終了しました。シンポにはマスコミ5社が訪れ、当日の夜、NHKテレビの全国と首都圏のニュースで報道されました。
以上
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