人事院は昨年末、予定されていた定年延長問題での「意見の申出」を延期するとともに「高齢期雇用問題に関する検討状況」なる文書をまとめ、関係者の意見を求めていました。国公労連は本日、それに対する正式の意見書を提出し、人事院の「意見の申出」に向けた作業への反映を求めました。交渉には国公労連側は秋山書記次長以下調査部が参加、人事院側は職員福祉局の根本審議官が対応しました。
意見書のポイントは、1)定年延長に向けた準備作業の必要からできるだけ速やかに意見の申し出を行うこと、2)給与などは定年延長にふさわしい水準とし、民間の高齢期雇用のモデルケースとなる制度設計を行うこと、3)65歳まで働き続けられるための環境整備問題を重視すること――などからなります。課題ごとの具体的な意見については、以下の意見書を参照してください。
(別添)
「高齢期雇用問題に関する検討状況の整理」に対する意見について
人事院は、昨年夏の勧告で高齢期雇用問題に関する意見の申出を年内に行うこととしていましたが、2010年12月22日、年内の意見申し出を見送ることを明らかにしました。
国公労連は、2013年度より年金支給が61歳に繰り下げられるため、「雇用と年金の接続」を図る観点から定年を段階的に延長することを求めてきました。定年延長を行うに際し、関係法令の整備をはじめとする諸準備が必要なことから、残された時間は少なく、早期に制度整備に向けた作業を進めなければなりません。
私たちは、制度の円滑な移行のため早期に「意見の申出」を行うことを求めるとともに、下記のとおり「高齢期雇用問題に関する検討状況の整理」に対する意見を提出します。これに対する貴院の誠意ある対応を求めます。
記
1.高齢期雇用問題を考えるに当たって
国家公務員制度改革基本法では、雇用と年金の接続の重要性に留意して、定年を段階的に65歳に引き上げることについて検討することとされている。また、人事院は、10年勧告の中で「来るべき本格的な高齢社会において公務能率を確保しながら職員の能力を十分活用していくためには、年金支給開始年齢の引上げに合わせて、平成25年度から、定年年齢を段階的に65歳まで延長することが適当であると考える。」と触れている。
民間では、まだ定年延長が一般的でない中で、公務が先行する形で定年延長を行うものであることから、定年延長制度の検討にあたっては、民間のモデルケースともなりうる公平で納得性の高い仕組みとすることが必要である。
そのためには、単なる雇用機会の確保ではない定年延長を検討する以上、現在の定年年齢である60歳とそれ以降を区別するような制度とせず、すべての職員が区別なく65歳まで健康で働き続けられる仕組みとすべきである。その上で個人の意向や事情に配慮し、多様な働き方が選択可能な制度とすべきである。
職場では、長年にわたる定員削減や増大する行政需要への対応のため、長時間過密労働が蔓延し、メンタルヘルス疾患などで長期に休職する職員が増えるなど、職場環境・労働条件が悪化している。また、交代制職場などでは、定年(60歳)まで健康で働き続けられない現状もある。長時間過密労働の解消、所定勤務時間の短縮、各種休暇制度の充実と運用改善、夜勤・変則勤務の免除など、職員が生涯にわたって健康で意欲をもって働き続けられる職場環境整備に努めることが急務である。
2.これまでの人事管理の見直しの必要性について
(1)公平・公正な人事運用を行うことが求められる。
人事院は、基本的な考え方として「能力・実績主義を徹底し、年次順送り的な人事運用や短期間での頻繁な異動を見直すことが必要」としている。
短期間での頻繁な異動は問題が多く、見直すことは当然だが、能力・実績主義の徹底に関しては、公正な育成機会の付与や人事評価制度が職員の納得が得られるよう適正に運用されていることが不可欠と考える。
人事評価制度について国公労連は、@評価結果は全面開示とすること、A短期の評価結果を給与等の決定に直接反映しないこと、B苦情処理システムに労働組合の関与を保障すること、を求めているが、公正で納得性の高い人事運用を行うためにも、以上の点を改善するよう求める。
(2)専門性を高めるための研修等を充実させることが求められる。
人事院は、基本的な考え方として「それぞれの行政運営に適した組織体制の見直しを進めることや研修機会の拡充等を通じて専門性の涵養を図ることが必要」としている。
行政運営に適した組織体制を構築することは、行政サービス向上の点から当然とはいえ、現実の職場は定員削減や増大する行政需要への対応のため、日々の業務に忙殺される状況が続いている。そういった状況の中で研修機会が付与されたとしても、必ずしも参加できる保障があるとはいえない。
行政運営に適した組織体制の構築のためには、まず要員の確保が必要であり、その上で研修機会の拡充及び研修を受けられる条件の整備も併せて行うべきである。
3.多様な働き方について
(1)短時間勤務制
人事院は、基本的な考え方として「各府省における組織体制や業務運営手法を見直し、高齢期の短時間勤務の機会を確保していくことが必要」としている。
国公労連は、短時間勤務制の導入については、健康上の理由や職員の希望する人生設計上の理由に基づいた働き方とするためその必要性が高いと考える。
導入に当たっては、兼業禁止規定の緩和が必要と考える。また、一度短時間勤務を選択した後に、職員の希望によってフルタイム勤務に再転換できるようにすべきである。
(2)高齢期の働き方に関する意向を聴取するしくみ
人事院は、基本的な考え方として「50歳台に60歳以降の働き方について職員の意向を聴取するだけでなく、30歳台、40歳台において、高齢期の働き方についての情報提供を行うとともに、職員のキャリアプランに関する意向を聴取することも必要」としている。
国公労連は、高齢期に限定することなく、意向を聴取することが必要と述べてきたものであり、職員が希望と見通しのもてる将来設計についての話し合いが有効に機能するよう求める。
4.雇用と年金の連携方策について
国公労連は、天下りや早期退職慣行を廃止し、雇用と年金の接続を行うため、定年延長を行うよう求めてきた。年金支給開始年齢が段階的に引き上げられることから、定年年齢についても、段階的に引き上げるべきである。
5.給与制度の見直しについて
人事院は、基本的な考え方として「60歳以降の給与水準について相当程度引き下げることが適当とし、その方法や具体的な水準について役職定年制の導入の議論等をふまえて検討する」としている。また、「現役世代(60歳前)の給与のあり方の見直しも行っていく必要がある」とも述べている。
人事院は、「総給与費の増加を抑制することを前提」としているが、高齢期の給与水準は、従事する職務の内容、職責、及び蓄積された知識・能力・経験にふさわしいものとすべきであると同時に、高齢期にふさわしいゆとりある生活が維持できる水準とすることが必要であることからこうした前提には重大な問題がある。
具体的には、50歳代後半の給与を見直す理由として、民間給与と比較し公務員の高齢層の賃金水準が高いことをあげている。しかし、民間の50歳代後半の賃金の落ち込みは、以前は55歳定年が一般的で、そのあたりで役職定年制や雇用形態見直しが行われていることが主たる要因となっているためである。その事情を全く無視して官民比較のみで給与を引き下げることには全く道理がない。50歳代後半で仕事や責任が変わらない公務の実情を踏まえれば、60歳前の給与は、基本的に現在の水準を維持すべきである。
また、60歳以降の給与水準についても、雇用と年金の連携方策について、単なる雇用機会の提供ではなく「定年延長が妥当」とする以上、60歳という年齢で線を引き給与に差を設けるという考え方には問題がある。民間の高齢期雇用は、定年延長ではなく再雇用などの継続雇用制度を取ることが多く、その賃金は現役時代に比べてかなり低くなっている。一方、公務員の高齢期雇用施策は定年延長であり、官民の雇用形態や働き方には大きな差がある以上、民間の現在の水準に合わせることは不合理である。
加えて、職務・職責が同じであるにもかかわらず、一定の年齢に達したことを理由として賃金を引き下げることは「職務給原則」や「能力・実績主義」にも反する年齢差別の制度といわざるを得ず反対である。
6.役職定年制について
人事院は、基本的な考え方として「役職定年後の働き方を見出すとりくみをしてもらいながら役職定年制の導入に向けて検討を進めていくことが必要」としている。
役職定年制は、年齢要素のみによって、職員の合意に基づかず且つ一方的に降任(不利益変更)させる制度であり、メリットシステムによる任用原則に反する年齢差別であり基本的に反対である。
仮に役職定年制を導入するとしても、公務内での雇用が確保されなければ、公務外での雇用が中心とならざるを得ず、新たな天下りなどという批判を受けかねない。天下りは無くすべきものであり、公務部内での雇用確保を行うことが当然と考える。
また、広範囲な役職定年制の導入は、それが適用される職員の処遇や現役世代の人事管理への影響などを考慮すると問題が多く、制度の対象となる役職は本府省局長以上に限定すべきである。
7.その他の課題について
(1)加齢により就労が厳しくなる職務について
加齢により就労が厳しくなる職務について、特例的な定年年齢を定めることは年齢差別であり基本的に反対である。65歳まで働き続けられる勤務環境の整備や人材活用方策の実現を求める。
(2)退職手当について
退職給付の水準は、退職後の生活設計にもかかわる重要な労働条件である。そのため、在職中の者の将来設計に大きな影響をきたさないよう、現行の給付水準を維持するよう求める。
なお、@60歳超で職員が自発的に退職する場合においても現行の退職手当制度での60歳定年退職の場合と同様の退職手当の支給水準とすること、A定年前(自己都合・勧奨)早期退職者に対する退職給付の加算措置の充実を行うことが必要である。
(3)定員上の経過的な取扱いについて
定員管理上の措置として、定年延長に伴う新規採用抑制は行わず、65歳までの定年延長完成までの間は、特別な定員管理を行うことが必要である。また、短時間勤務制については、通常の定員管理の枠外とすることが必要である。
以上
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