2002年人事院勧告にあたって(声明)


〜史上初の「賃下げ勧告」に抗議する〜

 

1.人事院は、本日、国会と内閣に対して、一般職国家公務員の給与改定に関する勧告等を行った。中でも、給与勧告に関わっては、月例給与について「2.03%・7,770円」の官民逆較差が生じたとして、本俸(基本給)に切り込む史上初の「賃下げ勧告」となっただけでなく、一時金についても「0.05月削減」による4年連続の引き下げという異常な事態となった。ところで、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」では、4月の所定内給与が1.3%減であることからみても、今回のマイナス較差はあまりに大きく、「民調」の調査方法見直しが影響していると考えざるを得ない。
 国公労連は、2002年春闘が財界・大企業の厳しい賃金抑制攻撃によって「賃下げ」機能に変質させられ、“春闘解体元年”といわれる重大な局面を迎えたもとで、「マイナス勧告」に断固反対し、民間と公務の「賃下げの悪循環」に対する歯止めとして「1,000円の有額要求」を掲げ、職場・地域からのたたかいでその実現を強く迫ってきた。こうした要求とたたかいに照らせば、また人勧の影響を受ける750万労働者や来春闘への悪影響を考えれば、今回の「マイナス勧告」を断じて受け入れることはできない。

2.今回の「賃下げ勧告」をめぐっては、実施時期の問題が重大な争点となり、国公労連が「不利益不遡及の原則」を徹底追及する中で、法的にも「実施は施行日から」とせざるを得なかったものの、4月分の官民給与比較による情勢適応の原則を口実に、4月以降の賃下げ分を「12月期の期末手当で調整(精算)」するとしたことは、民間にも例がない「不利益遡及」の脱法行為そのものであり、断じて認めることはできない。
 また、今回の「一時金削減」に加えて、3月期の期末手当を6月期・12月期に配分したうえ、民間一時金の一律支給分と考課査定分の比率に合わせるとの口実で、国公労連の強い反対を無視して「勤勉手当の割合増」を強行したことは言語道断である。
 なお、マイナス較差の配分をめぐっては、俸給表改定における初任給周辺に一定配慮した級別引き下げ率の設定や、俸給・諸手当比率の概ね維持が図られたほか、扶養手当(配偶者)や住居手当(持ち家)の見直し検討や、俸給の調整額に関する経過措置の廃止と新たな措置、への対応強化が求められている。

3.「地域における公務員給与の在り方」をめぐっては、人事院が昨年の給与報告で問題意識を表明し、その後「民調」で標本事業所の層化・抽出方法を見直したのに続き、政府サイドも問題意識を持っているとして、今回の報告で「抜本的な見直しの早急な検討」に言及したことは、「同一労働・同一賃金」の原則にもとづく全国統一の賃金制度の観点からみて極めて重大である。また、公務員制度改革に関わって、特別昇給や勤勉手当を活用して「能力・業績主義」強化をあおるなど、政府の「改革」方向に追随する姿勢を示したのは不当である。
 このほか、国公労連が強く要求してきた長時間・過密労働への民間並みの規制強化、男女共同参画にむけた公務職場での実効性の確保、非常勤職員の労働条件改善にむけた代償機能の発揮などについて、人事管理報告の中で問題意識を表明するにとどまったことは、課題の切実性と重大性に照らして極めて遺憾である。

4.こうした今次勧告・報告の内容上の問題点とともに、人事院による勧告作業の進め方にも重大な問題があった。今年の勧告をめぐっては、5月末段階で経済財政担当大臣が「勧告制度は右肩上がりの時代の遺物」とする発言を行い、政府が6月25日のいわゆる「骨太の方針第2弾」で公務員給与の地域配分見直しを含む総人件費抑制を閣議決定し、さらに6月段階で厚生労働大臣が「賃下げ勧告」を前提に年金給付額の引き下げ検討を表明するなど、極めて異常な状況で推移してきた。
 にもかかわらず、人事院は、こうした政府の圧力に何ら反論しなかっただけでなく、7月19日に異例の「民調」結果を一部公表して「賃下げ勧告必至」の世論誘導を行うなど、極めて政治的な対応をとってきた。

5.国公労連は、今夏勧告にむけて、各省当局への一斉要求提出と上申闘争、民主的公務員制度確立「国会請願署名」とセットで賃金改善等「要求署名」に全力をあげるとともに、「賃下げ勧告」の危険性が高まる中で、3次(6/14、7/3、7/31)の中央行動と人事院前座り込み行動(8/6~8)や、これに呼応したブロック規模での人事院地方事務局包囲・座り込み行動など、最終局面まで粘り強くたたかいを展開してきた。
 そして、これらのたたかいを背景に人事院交渉を強めてきたが、人事院は何もかも「民間準拠」に固執し、実施時期をめぐる対応でも明らかなように、労働基本権制約の「代償措置」として職員の利益擁護を図るべき立場に立たなかった。
 しかも、史上初の「賃下げ勧告」が人事院勧告制度の本質と矛盾を改めて露呈しただけでなく、国営企業の新賃金紛争をめぐる中労委の調停「不調」とも関わって、現業・非現業を問わず、公務員労働者の労働条件決定システムの不十分さがこの国全体の賃金抑圧の仕組みであることを再確認させるものであった。

6.いま、有事立法制定による戦争する国づくりと公務員制度改悪による政権党いいなりの公務員づくり、「民間でできるものは官は行わない」とする公務解体の「規制改革」、労働者・国民の「雇用・くらし・いのち」破壊などが遮二無二進められている下で、公務員賃金の社会的規範性や労働基本権確立の課題が極めて重要となっている。
 国公労連は、今後の対政府・国会闘争にむけて、「『賃下げ勧告』の完全実施反対、給与法の改定反対」などの要求を掲げ、この「賃下げ勧告」を年金改悪など国民生活破壊の突破口にさせないためにも、今秋にも重要局面を迎える公務員制度改悪反対闘争をはじめ、公務・民間の「賃下げ・リストラの悪循環」を断ち切る共同闘争や小泉「構造改革」反対の国民的共同闘争とも結合させ、組織の総力をあげて断固たたかいぬく。
 国公労連は、要求実現のために全力で奮闘されてきた全国の仲間に心から敬意を表するとともに、引き続くたたかいへの総決起を心から呼びかける。

 2002年8月8日

日本国家公務員労働組合連合会中央闘争委員会

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