2003年人事院勧告にあたって(声明)
― 史上最悪の「賃下げ勧告」に強く抗議する ―
本日、人事院は、国会と内閣に対して、月例給の平均4,054円(1.07%)引き下げ、一時金の0.25月削減による16.3万円(2.6%)もの年収マイナスなどを内容とする史上最悪の「賃下げ勧告」を行った。さらに、月例給の引き下げを実質的に4月に遡らせる「不利益遡及」の脱法行為をまたしても勧告した。
国公労連は、人事院勧告の社会的影響の大きさはもとより、連年の賃金引き下げや税金、社会保障費などの負担増で生活苦を強く訴える組合員の要求に照らして、本年勧告を受け入れることは断じてできない。
同時に、財界が「春闘の終焉」を一方的に宣言して、賃金引き下げ攻撃を強めているもとで、機械的な民間準拠論に固執して「賃下げのサイクル」を加速させる勧告を行った人事院に強く抗議する。
今次勧告の内容には、見過ごすことのできない重大な問題点がある。
一つには、1.07%というマイナス較差の大きさである。厚生労働省の毎月勤労統計調査4月分によれば、所定内給与は対前年比で0.4%の減であり、郵政公社等の賃金紛争に関わる仲裁裁定は、前年積み残しのマイナス1.9%を含めて2.58%のマイナス改定となっている。これらと比較しても勧告のマイナス幅は大きく、官民賃金比較方法への疑念を抱かざるを得ない。
二つには、不利益遡及にほかならない「年間給与の調整措置」について、昨年の個別精算方式から定率調整方式に切り替えたとはいえ、本年も賃下げを4月に遡及させたことである。しかも、昨年と同様、12月の一時金で「調整」するとしており、期末手当0.25月削減に上乗せした「生活破壊の措置」となっていることも重大である。
三つには、政治圧力への迎合ともいえる内容が含まれていることである。国会質問に端を発した調整手当・異動保障の期間短縮と逓減措置や、内閣官房長官の「指示」を受けて検討した「地域に勤務する公務員の給与のあり方に関する研究会」の「基本報告」を無批判に受け入れたことに端的に示されている。
ILO結社の自由委員会「勧告」がくり返し指摘しているように、労働基本権制約の「代償措置」は、政治からの「完全な中立と公正」が生命線である。手当の「見直し」や本俸・手当の配分比率を含む賃金制度の「見直し」などは、原資内の配分問題であり、公務員労働者の意見より政治の圧力に重きを置くことは、労働基本権に対する重大な侵害行為である。
四つには、諸手当をはじめ給与制度の全面的な「見直し」に言及していることである。住居手当と扶養手当(配偶者手当)の削減や、通勤手当の6ヶ月定期相当額の一括支給への変更のほか、報告でも寒冷地手当、特殊勤務手当の「見直し」などにふれていることは、先の研究会報告にもとづく検討と軌を一にしたものである。
五つには、超過勤務縮減策や非常勤職員制度など、国公労連が求める人間らしく働くルールの確立要求には背を向け、短時間勤務や裁量労働制の導入なども視野においた「多様な働き方研究会」の設置に言及したことである。「多様な働き方」の美名の下で、競争と差別・選別強化の人事管理をめざす動きの一環と受け止めざるを得ず、過度な民間追従による制度改変への傾斜は、公務の安定的な運営を阻害しかねない危険な方向である。
国公労連は、6月16日、人事院に要求書を提出して以来、延べ12回に及ぶ本院交渉を配置し、ブロック国公規模での各地方事務局交渉、職場からの上申による各省当局の使用者責任追及や、3次の中央行動、3波の全国統一行動、署名や職場決議などの文書戦を背景に、要求実現を迫ってきた。
これらの諸行動の中で、最低賃金の引き下げ反対、改善を求める全労連規模のたたかいと連携して、公務・民間一体のたたかいが中央・地方で大きく前進するという貴重な到達点を築いた。
また、当初全廃がねらわれた「持ち家手当」を一部見直しに押しとどめ、通勤手当「見直し」に伴う改善を確約させ、初任給周辺の引き下げ幅を抑制させるなど、運動が一定反映している部分もある。しかし、前述のとおり今次勧告は到底受けいれられるものではない。
以上のことから、国公労連は、勧告に基づく給与法「改正」に反対して、引き続きたたかいを強める。
賃金引き下げという不利益変更を行った民間事業所は1割にも達していないことを人事院調査が明らかにしているにもかかわらず、デフレ不況をさらに深刻にする「賃下げのサイクル」を国が主導することは許されない。過労死に怯えながら働く公務員労働者に、賃下げで鞭打つ使用者の存在を受け入れることはできない。
国公労連は、政府に対し、公務員労働者の生活と労働実態や、今次勧告が労働基本権制約の「代償措置」として極めて不十分であることを強く主張し、勧告の取り扱いをめぐって労使交渉を尽くすよう強く求める。また、「不利益遡及」の不法・不当性を追及するためにも、係争中の国公権利裁判闘争に全力をあげる。
そして、勧告期のたたかいの到達点もふまえ、人勧の影響を受ける750万労働者の賃金確定闘争や各県段階での地域最低賃金改定のたたかいと連携した運動を全国で展開する。
全国の仲間のこれまでの奮闘に心から敬意を表するとともに、引き続くたたかいへの結集と職場・地域からの総決起を訴える。
2003年8月8日
日本国家公務員労働組合連合会中央闘争委員会
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