第2177・2183号案件
ILO結社の自由委員会報告(2002年11月理事会)にかかわる追加情報
2003年3月18日
全国労働組合総連合
285会期ILO理事会で採択された第2177号、第2183号案件の結社の自由委員会「中間報告・勧告」にかかわって、全労連は以下の点について追加情報を提供する。全労連は、ILOが、日本における公務員制度改革について、引き続き強い関心を寄せ、日本政府が結社の自由原則にそった改革をおこなうように働きかけを強めることを要望する。
1.「中間報告・勧告」に対する日本政府の対応
日本政府は、2002年11月21日、「ILO結社の自由委員会の中間報告について(総務省見解)」とする文書を発表している。文書で明らかしている唯一のものであるこの「見解」のなかで、日本政府は、「中間報告・勧告」を「政府に対し、公務員制度改革の理念及び内容について、関係者と十分、率直かつ有意義な協議が速やかに行われるよう要請したもの」としつつ、「我が国の実情を十分判断したとは言えず」、「従来のILOの見解と異なる部分もある」として、「承服しがたい」との見解を示している。
また、進めている公務員制度改革にかかわっても、「具体的内容を決めることは、純粋に国内問題」とし、「政府方針の再考」を求められることは「不適切」としている。
このように、日本政府は、勧告の受け入れを拒否する姿勢を露骨に示し、公務員制度改革については「『大綱』の具体化に向けた作業を進める」ことを強調している。
なお、政府は、国会論戦でも、小泉首相をはじめとする関係閣僚が、前記「見解」と同趣旨の答弁をくり返しおこなっている。
2.政府・行革推進事務局の検討状況について
(1)全労連は、ILOの「中間報告・勧告」をうけとめ、その趣旨に添った法整備を求めるため、公務員制度改革作業を進めている政府・行革推進事務局に対し、交渉・協議の申し入れをおこなっているが、今日に至るまで実現していない。
全労連傘下で、直接的な当事者である日本国家公務員労働組合連合会(国公労連)は、12月19日に推進事務局との交渉をおこない、同趣旨の申し入れをおこなった。これに対し、推進事務局の堀江事務局長は、前述の政府見解をくり返しつつも、「国公労連との交渉・協議は重要」、「実質的、具体的論議ができるよう努力」などとの回答をおこなった。しかし、その後2ヶ月余り経過しているが、その回答は何ら履行されず、具体的な交渉・協議がおこなわれないまま、今日に至っている。
(2)日本国内では、1月20日から第156回通常国会が開催され、政府は、この国会会期中に公務員制度改革関連法案を提出することを明言している。日程上の問題もあって、政府は、公務員制度改革関連法案の作成作業を加速させているものの、労働組合との交渉はもとより、現行制度下で「労働基本権制約の代償措置」とされる人事院との協議もおこなわれている状況にない。
政府が11月21日の「見解」で明らかにした「率直かつ有意義な協議」は、またもや政府自身によって反故にされかねない状況にある。
(3)「中間報告・勧告」が採択される以前の2002年10月16日、政府・行革推進事務局は、関係労働組合などに、「新たな人事制度の設計の考え方(議論のたたき台)」を示してきた。その内容は、「労働基本権制約の現状維持」とする「公務員制度改革大綱」の枠内で、人事制度の設計・運営に内閣・各府省が責任を負う仕組みを制度化するという目的を達成するため、人事院と内閣・各府省との規則等の制定権限等の見直しに関する考え方を示したものであった。その「議論のたたき台」によれば、「賃金、労働時間などの勤務条件」と勤務条件以外の事項(任用・分限・服務など)を一方的に分類し、勤務条件以外の事項としたものについては内閣が基準等の設定権限を有すること、人事院は内閣が決定した基準に対する意見申し出等の権限を有することとされている。なお、勤務条件とされたものについては、引き続き、人事院が基準等の設定を行うとしている。内閣の基準設定における労働組合の関与は全く考慮されておらず、人事院の権限を内閣に移しかえることのみを目的とする内容になっている。
なお、国公労連など関係労働組合は、この「議論のたたき台」が具体化されれば、結社の自由が現行よりさらに後退するとの認識から、「議論のたたき台」の提案そのものを撤回するよう求めている。しかし、前述した公務員制度改革関連法案の作成作業は、その「議論のたたき台」にそって進められており、ILOの「中間報告、勧告」がおこなわれた以降も、その状況は変わっていない。
3.公務員制度に関わる特徴的な事項について
(1)2002年8月9日、人事院は、非現業国家公務員の月例賃金を平均2.03%引き下げる勧告をおこなった。同時に、年収で官民賃金を均衡させることを口実に、2.03%の賃金引き下げ効果を2002年4月に遡らせる「調整」措置も勧告した。実質的な不利益遡及を勧告するにあたって、人事院が労働組合にそのような考え方を示したのは7月25日であり、かつ労働組合が反対する中での実施であった。
政府は、この勧告を受け、9月27日に「勧告の完全実施」を決定した。とりわけ争点となったのは、賃金引き下げという労働条件の不利益変更を給与法成立以前に遡らせるという「不利益遡及」の問題であったが、政府は十分な説明もおこなわないまま実施を決定した。なお、政府決定にもとづいて提出された給与法改正案は、11月15日に国会で成立している。
この一連の経過について全労連は、勤務条件法定主義を前提とした人事院勧告制度のもとでは、労働条件変更にかかわる労働組合の参加と意見反映が担保されていないこと、労働条件の不利益変更にあたっても、それを甘受することしか公務員労働者に「保障」されていないことが明らかになったものと受けとめている。
(2)地方公務員にかかわっても、62の人事委員会の内、自治体当局が独自の賃金引き下げを先行しておこなっていた1ないし2を除き、国に準じた勧告がおこなわれた。賃金引き下げは、最高で2.72%となっているだけでなく、その賃金引き下げの効果を2002年4月に遡らせる「調整」措置をともなうものであった。
また、人事委員会制度を持たない3000余りの自治体でも、圧倒的多数で同様の措置が強行されている。
さらに、強調したいのは、これらの「勧告」にもとづく賃金引き下げにくわえて、使用者である自治体当局が「勧告」に上乗せして賃金を引き下げる措置が強行される事態が広がり、そうした事例は全体の25%以上に達し、対象者となる地方公務員は40%近くに達している。
このように2002年は、人事委員会勧告による賃金引下げとともに、財政事情などを理由とした自治体独自の賃金引下げがさらに顕著になり、日本政府が主張するような「ごくまれに生ずる例外的な事例」とはいえない状況となっている。
4.独立行政法人における結社の自由侵害について
(1)独立行政法人における結社の自由侵害について、「中間報告・勧告」では、連合及び政府に情報の提供が求められている。全労連として、当初の提訴には含めていないが、同様の課題があることから、状況を報告する。
2001年4月にあらたに設けられた独立行政法人は、公務員型である特定独立行政法人と非公務員型である一般独立行政法人の2類型がある。いずれの類型の職員も、2001年3月時点では非現業国家公務員であり、独立行政法人に移行しない職員と同一の職員団体に加入していた。
独立行政法人の発足により、特定独立行政法人の職員には「国営企業及び特定独立行政法人の労働関係に関する法律」(国労法)及び労働組合法が、一般独立行政法人の職員には労働組合法が適用されることとなった。
(2)この結果、(1)現行の職員団体登録制度では、役員を除き、非現業国家公務員以外が加入する場合には登録要件を満たさなくなり、登録による効果を享受できないこと、(2)非登録団体である混合職員団体として法人格取得は可能であるが、従前の職員団体は解散せざるを得ず、財産上の問題が生じること、(3)国労法及び労働組合法にもとづく労働組合として再結成することも否定されていないが、その場合でも登録による効果は享受できないこと、などから、やむを得ず、組織の再編が余儀なくされた。
その例は、国公労連行政職部会をはじめ、全運輸省労働組合など7組合におよび、2004年4月に独立行政法人化が予定されている全日本国立医療労働組合も同様の困難に直面している。
独立行政法人化にともなって、労働組合の分割・再編が必要となり、結果として、労働組合の闘争力を阻害する恐れを生じている。その要因は、職員団体登録制度にあり、その廃止が必要と考える。
なお、政府は、国会に、地方独立行政法人法案(仮称)の提出を予定しており、自治体労働組合でも同様の問題が生起する可能性が高まっている。
以 上