国公FAX速報 2006年1月19日《No.1698》

〈市場化テスト推進室と交渉〉
「市場化テスト法案」に係る現状確認・問題を指摘し、
改めて「市場化テスト」導入反対を主張


 国公労連は1月18日、昨年12月24日に閣議決定された「行政改革の重要方針」も踏まえ、「公共サービス効率化法(市場化テスト法)案」について、通常国会での法案提出をめざした作業が進められている状況から、市場化テスト推進室に対して意見書を提出し、交渉を行いました。改めて「市場化テスト法」導入に反対の立場を示した上で、現時点で明らかとされている内容とその経過などから問題点を指摘し、現状の確認と重ねての議論を求めました。交渉は、市場化テスト推進室から栗原参事官ほか1名が対応し、国公労連は小田川書記長ほか4名で行いました。

 「市場化テスト法」に関する作業状況について、栗原参事官が以下の点を説明。
12月21日の(規制改革・民間開放の推進に関する)第2次答申を受けて、法案準備を進めている。法案は、2月上旬に各省協議後提出する予定。
目的は、小さくて効率的な政府をめざすもの。背景は、世界的流れであり、公共サービスとしては必要だが誰がやるべきかは、官民を分けられない(例えばNGOという民が援助するなど)ものについて、効率化の観点から「市場化テスト」を実施するしくみを整備する、官の役割は終わったという前提ではない。
公務員を減らすのが目的ではない。効率的で優れたサービスができれば官が引き続き実施することになる。(官と民に)公平な計りをもって一番優れた主体を選ぶもの。
手続きは、民間提案から始まるが、民がその事業を担えるかの判断が必要で、提案の事業は検討対象となるが、すべて市場化テストという考えはない。内閣府でとりまとめ、所管官庁に相談し第三者の意見を聞き閣議決定する。具体的に、達成する目的を明らかにし、コストと質の両面の入札条件を設けることから、応札者は誰でもいいとはならない。
民が主体となった場合の職員については、一般的制度としての配転と採用抑制で対応できると考えているが、それを超えた場合についての対応は検討中。仮に職員が民に移った場合でも、制度変更で配置転換と変わらないようにしないといけない。政府としては(村上)大臣答弁でも雇用守ることは明らかにしている。

 以上の説明を受けてのやりとりの概要は以下とおり。(国公、推進室)
 安定的に行政サービスを維持するためにどうするのか。国でやらなければならない核の部分がある。業務の切り売りでは官の人材が枯渇するという問題もある。諸外国も試行錯誤でやっており成功例と失敗例を合わせた議論が必要だが、失敗例の議論がないことを懸念している。規制改革による官から民への流れしか議論がない。規制緩和で出るであろう問題の議論がない。耐震構造偽装が事例だが、公共性維持のための歯止めはどこにあるのか。独法や特殊法人による枠が広がっており、そこでの労働条件・雇用を維持するしくみはあるのか、対象業務としておきながら周辺整備をしないでは、無責任と考える。
 表に出るのは成功例ばかりかもしれないが、中では失敗例もみている。入札に当たってはコストだけではなく質もみる。その事業で何が求められているのかを踏まえ競争させる。
 民が主体となっても業務委託なので国の事業であることには変わらないため、国民との間ではあくまで国に責任がある。独法になった場合、まだ具体的にどの規模どの事業など今後決めることになっている。統計センターについて全部が対象は現実的でない。博物館などは、チケット販売や施設管理は間違いなく民間でもできるという論議であったが、表に出たときには全部という極端なものになっていた。運営がどうあれば一番効率的かであって、展示物を売り払うことというような民営化を考えているものではない。不透明な部分は、雇用の問題含め所管庁からの意見を踏まえ今後決めていく。
 法のレベルにどれだけ盛り込むのかが、基本法では問題。パブリックビジネス50兆円といった議論が排除されていないことに不安がある。三者機関の公平性も現状では問題だ。
 イギリスでは省任せになっている。日本は制度についてきちっと書いてやる。公務員が頑張っているところが国民に見えていない。官がやっても効率化になることを証明する制度でもあると思っている。いろいろな意見聞いていきたい。

 最後に、「市場化テストの仕組みは、官は後ろに下がって民がやりやすいようにするものではないか」と指摘し、あらためて協議の場を持つよう求めて交渉を終わりました。


以上

2006年1月18日
行革担当大臣
中馬弘毅 殿
日本国家公務員労働組合連合会
中央執行委員長 堀口士郎

「市場化テスト法案」にかかわる意見

 05年末の「行政改革の重要方針」決定もふまえ、「公共サービス効率化法(市場化テスト法)案」の06年通常国会提出をめざした検討が、内閣府において進められていると承知します。その法案要綱などは、現段階で明らかにされていませんが、この間明らかにされている「公共サービス効率化法(市場化テスト法)案の骨子等」(05年9月27日、規制改革・民間開放推進会議)や「規制改革・民間開放の推進に関する第2次答申」(05年12月21日、同会議)などをふまえ、法案検討が最終版を迎えていると考えられる現段階での国公労連としての意見を下記のとおり表明します。
 国公労連は、05年4月20日付けで規制改革・民間開放推進会議に提出した要求書で明らかにしているとおり、安定的・継続的な公共サービス提供の障害となり、経済的効率化優先で公務の公共性を破壊し、民間営利企業のもうけの場をつくり出す目的での「市場化テスト」導入には反対です。公務が担うべき公益性と私企業の営利性との調整は極めて難しく、コスト削減を優先させて民間事業体に建築検査を委ねたために発生した「耐震構造偽装事件」でも明らかになっているように、「いきすぎた民間開放」は国民生活に多大な損害をあたえ、安心・安全などの国民共同の利益を損なう結果を招くことになります。
前述した「(市場化テストの)骨子案」等からは、効率化と公共性、公益性との調整の論議経過は全くうかがえず、むしろ、公務員削減の手段とすることも含め、「歳出削減に資する制度設計」が進められていると受けとめざるを得ない状況です。
 公共サービスの受益者である国民の意見は、内閣府がおこなった世論調査(「規制改革・民間開放に関する特別世論調査」・05年11月)でも、行政サービスの「民営化」や「民間委託」を求めるものが多数を占めているわけではありません。むしろ、多様化する行政ニーズへの的確な対応や、専門家としての公務員のスキル・アップをもとめる国民も少なくないことを明らかにしています。国公労連は、このような、国民の「声」に耳を傾けた「本当の行政改革」を主張し続けているところです。
 以上を基本に、「法案骨子案」などをふまえた「法案への意見」を申し入れ、貴職の特段の対応を求めます。


(1)  市場化テスト法の目的について、「公共サービスの不断の革新、効率化・質の維持向上」に限定し、公共サービス提供の重要な課題であるナショナル・ミニマム確保の観点とかかわる「公共サービスの民主的、安定的な提供」という目的が欠落している。 
 市場化テストの仕組みからして、現実の行政需要などをふまえない「開放要望」や、営利目的の「開放要望」などを完全に排除することができない。また、十分な実施体制をもたない民間事業体の受託や、受託事業者の撤退により公共サービスが安定的に提供できなくなる可能性も排除できないことから、法の目的において整理しておく必要がある。

(2)  市場化テストの対象事業を「公共サービスの全て」とすることでは、「国民の権利・義務に直接かかわる公権力の行使」や「公平、中立、継続・安定的に提供されるべき公共サービス」、「行政の中立性、公正性、民主性の確保に必要な行政事務」など、国民生活に不可欠な行政サービス等も営利目的の民間事業体に実施を委ねることを排除していない。
 政府が行政責任を果たすためには、この間の論議経過もふまえ、政府が直接雇用する公務員によって実施されるべき公共サービスの範囲、基準についても検討し明確にする必要がある。

(3)  市場化テストの「基本方針」や「実施計画」の決定にあたって、行政サービス実施の責任を負う主務大臣の意見反映が明確にされていない。
 行政運営にかかわる主務大臣の説明責任や、行政分担管理など憲法上の観点からも、公共サービスの改廃も盛りこむ「基本方針」決定等にかかわる主務大臣の役割・責任を法令上であきらかにする必要がある。

(4)  税金や行政情報を使って事務事業をおこなう落札事業者について、情報公開法・行政機関個人情報保護法の適用など、利用者・国民に対する「義務」を行政サービス提供者として負うことが明確にされていない。
 市場化テストの対象となる事務は、その結果の如何にかかわらず国民の附託をうけて実施される行政事務であることから、その実施にあたっての事業者の「義務」については、利用者国民との関係で整理し、共通のルールとして明確にしておく必要がある。

(5)  「1円入札」などの常識を逸脱する廉価な入札を排除するとともに、「安上がりの労働力」活用によるコスト切り下げ競争などを排除する「労働者保護の規定」などが明らかでない。
 多くの行政サービスが「人」によって担われている現実からして、事務・事業の実施にかかわる「効率化競争」が、賃金や雇用の「破壊」を伴う危険性は小さくない。市場化テストを実施している先進国においても、公正な入札を確保し、労働者の労働条件保護の目的から「同種の職業における同一の労働とくらべて不利にならない労働条件」での応札を求めている例もある。また、日本でも、地方自治体での「公契約条例」の先行的なとり組み事例も生まれている。現時点での雇用政策ともかかわる問題としての検討が必要である。

(6)  落札者による事務事業の実施によって国民に損害が生じた場合の事業者の責任を明確にする仕組みが示されていない。
 耐震構造偽装事件でも明確になったように、損害賠償責任の所在が不明確なまま、公共サービスの民間開放が進められた結果のリスクは、サービス利用者である国民に帰属することになる。
国家賠償法の規定や、国民生活の安定にかかわる政府の広範な責任は免れないとしても、当該業務の実施によって利益を得た事業者の責任が不明確なままでは問題である。「実施方針」や、「委託契約」での責任分担の明確化を義務づけるなど、必要な措置を講ずる必要がある。

(7)  「規制の特例措置」について、一民間事業者や一地方自治体からの要望をもとに、「横断的な措置」を講ずることは影響が大きいにもかかわらず、関係者や国民からの意見聴取の仕組みが明確にされていない。

(8)  「市場化テスト」に関連して、国家公務員法、地方公務員法にかかわる制度や運用の現状維持が明確にされていない。
 「市場化テスト」にかかわる総合的な論議が不十分な段階で、国家公務員法などの改正や運用変更をおこなうことになれば、職員の不安をあおり、あるいは「公務リストラのための市場化テスト」を加速する結果になりかねず、規制措置が必要である。

(9)  市場化テストの対象に、独立行政法人や特殊法人、公益法人等を含めていることとかかわって、職員の雇用、労働条件を確保するための規定整備が何ら示されていない。
 法によって設立された法人については、労働者の利益保護を目的とする諸制度の適用が複雑であり、現状では必ずしも整備されていないことから、あらたな制度検討が必要である。なお、制度整備が整わないまま、独立行政法人等を市場化テストの対象としないことを明確にすることも必要である。

以上

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