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市場化テスト法の目的について、「公共サービスの不断の革新、効率化・質の維持向上」に限定し、公共サービス提供の重要な課題であるナショナル・ミニマム確保の観点とかかわる「公共サービスの民主的、安定的な提供」という目的が欠落している。 |
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市場化テストの仕組みからして、現実の行政需要などをふまえない「開放要望」や、営利目的の「開放要望」などを完全に排除することができない。また、十分な実施体制をもたない民間事業体の受託や、受託事業者の撤退により公共サービスが安定的に提供できなくなる可能性も排除できないことから、法の目的において整理しておく必要がある。
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(2) |
市場化テストの対象事業を「公共サービスの全て」とすることでは、「国民の権利・義務に直接かかわる公権力の行使」や「公平、中立、継続・安定的に提供されるべき公共サービス」、「行政の中立性、公正性、民主性の確保に必要な行政事務」など、国民生活に不可欠な行政サービス等も営利目的の民間事業体に実施を委ねることを排除していない。 |
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政府が行政責任を果たすためには、この間の論議経過もふまえ、政府が直接雇用する公務員によって実施されるべき公共サービスの範囲、基準についても検討し明確にする必要がある。
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(3) |
市場化テストの「基本方針」や「実施計画」の決定にあたって、行政サービス実施の責任を負う主務大臣の意見反映が明確にされていない。 |
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行政運営にかかわる主務大臣の説明責任や、行政分担管理など憲法上の観点からも、公共サービスの改廃も盛りこむ「基本方針」決定等にかかわる主務大臣の役割・責任を法令上であきらかにする必要がある。
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(4) |
税金や行政情報を使って事務事業をおこなう落札事業者について、情報公開法・行政機関個人情報保護法の適用など、利用者・国民に対する「義務」を行政サービス提供者として負うことが明確にされていない。 |
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市場化テストの対象となる事務は、その結果の如何にかかわらず国民の附託をうけて実施される行政事務であることから、その実施にあたっての事業者の「義務」については、利用者国民との関係で整理し、共通のルールとして明確にしておく必要がある。
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(5) |
「1円入札」などの常識を逸脱する廉価な入札を排除するとともに、「安上がりの労働力」活用によるコスト切り下げ競争などを排除する「労働者保護の規定」などが明らかでない。 |
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多くの行政サービスが「人」によって担われている現実からして、事務・事業の実施にかかわる「効率化競争」が、賃金や雇用の「破壊」を伴う危険性は小さくない。市場化テストを実施している先進国においても、公正な入札を確保し、労働者の労働条件保護の目的から「同種の職業における同一の労働とくらべて不利にならない労働条件」での応札を求めている例もある。また、日本でも、地方自治体での「公契約条例」の先行的なとり組み事例も生まれている。現時点での雇用政策ともかかわる問題としての検討が必要である。
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(6) |
落札者による事務事業の実施によって国民に損害が生じた場合の事業者の責任を明確にする仕組みが示されていない。 |
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耐震構造偽装事件でも明確になったように、損害賠償責任の所在が不明確なまま、公共サービスの民間開放が進められた結果のリスクは、サービス利用者である国民に帰属することになる。
国家賠償法の規定や、国民生活の安定にかかわる政府の広範な責任は免れないとしても、当該業務の実施によって利益を得た事業者の責任が不明確なままでは問題である。「実施方針」や、「委託契約」での責任分担の明確化を義務づけるなど、必要な措置を講ずる必要がある。
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(7) |
「規制の特例措置」について、一民間事業者や一地方自治体からの要望をもとに、「横断的な措置」を講ずることは影響が大きいにもかかわらず、関係者や国民からの意見聴取の仕組みが明確にされていない。
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(8) |
「市場化テスト」に関連して、国家公務員法、地方公務員法にかかわる制度や運用の現状維持が明確にされていない。 |
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「市場化テスト」にかかわる総合的な論議が不十分な段階で、国家公務員法などの改正や運用変更をおこなうことになれば、職員の不安をあおり、あるいは「公務リストラのための市場化テスト」を加速する結果になりかねず、規制措置が必要である。
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(9) |
市場化テストの対象に、独立行政法人や特殊法人、公益法人等を含めていることとかかわって、職員の雇用、労働条件を確保するための規定整備が何ら示されていない。 |
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法によって設立された法人については、労働者の利益保護を目的とする諸制度の適用が複雑であり、現状では必ずしも整備されていないことから、あらたな制度検討が必要である。なお、制度整備が整わないまま、独立行政法人等を市場化テストの対象としないことを明確にすることも必要である。 |