国公労新聞 第1028号

一人ひとりの生活改善要求を

みんなの力で実現しよう


 「初の賃下げ勧告」、「完全失業率は4.9%」、「大企業で相次ぐリストラ計画」、「東京都が全職員の賃金カットを提案」など、賃金、雇用をめぐって衝撃的とも言える事態が相次いでいます。「年功賃金から能力実績反映の賃金制度に」など、労働者の生活実態を無視した賃金攻撃も苛烈になっています。「賃金闘争に展望はあるのか」、「どうたたかえば攻撃を押し返せるのか」など、全労連でもあらたな論議がはじまっています。  2000年春闘にむけ、「労働者にとって賃金闘争とは」、「公務員賃金とは」を考えてみませんか。あなたと家族の生活実態をふりかえってみませんか。

●かつてなく強まる賃金改悪の攻撃  
 今、賃金闘争は、大きな曲がり角に直面しています。98年1年間を通じて、民間企業に働く給与所得者(約4500万人)の「賃金総額」が、97年より0・1%減少したことが国税庁の調査で明らかになっています。1947年に統計を取り始めて以来、はじめてのことです。
 一人当たりの平均賃金は、年収で0・5%減少し、特にボーナス(一時金)は2・8%のマイナスになっています。
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 99年に入って、事態は一層深刻化し、超低額回答にとどまらず、定期昇給の停止、一時金削減・切り下げなど、かつてない賃金改悪 の攻撃が強められました。その状況は、人事院がおこなった民間給与実態調査結果にも反映しています。
 99年勧告での、0・28%、1054円のベアや、一時金の0・3月切り下げによる年収ベースでの賃金水準引き下げは、そのような民間企業の状況に「準拠」した結果です。

●総人件費抑制のための年功賃金「見直し」
 賃金抑制は、月例賃金、年収の引き下げにとどまりません。
 総額人件費の抑制をねらって、年功賃金体系、終身雇用の「見直し」、退職金、企業年金の「見直し」、高齢者の出向、配転、「首切 り」など、あらゆる手法での人件費抑制策が駆使されています。
 特に、「能力・業績重視の賃金体系」への「見直し」は、労働者の競争をあおる人事管理とも一体で、急激に進められています。
 人事院も、勧告の性格を「給与水準の是正だけではなく、制度改正・配分是正の重要な機会」と位置づけ、「職務を基本に能力実績に応じた給与体系に転換」することを強調しました。
 中高年を対象にしているように見える年功賃金体系の「見直し」も、独立して生活する水準にはほど遠い初任給の改善が放置されている実態を考えれば、総人件費抑制の「テコ」であることは明らかです。


攻撃はねかえす2000年春闘の発展を

●すさまじい大企業の労働者犠牲
 経済のグローバル化、「大競争時代」を口実に、いっさいの犠牲を労働者に転嫁して生き残ろうとする財界・大企業は、春闘の変質・解体攻撃を一段と進めています。
 99年春闘では、春闘が労使交渉の場から、賃下げ・リストラへの協力の場へ変質・解体させられ、「逆春闘」といわれる事態が生まれています。
 そして、日経連がベアゼロを従来以上に強調したばかりでなく、長期不況のもとで「高コスト」是正策として、「一人分の賃金で二人の労働者を雇用」とするワークシェアリング論を打ち出しました。
 不況の深刻化、長期化を「好機」として、財界・大企業が年功・終身雇用を基本とした日本型経営システムの欧米化への転換をめざして、リストラ「合理化」・賃下げ攻撃を強め、結果として、「賃上げゼロ」「定期昇給ストップ」や「一時金削減」などが続出しました。
 また、能力・成績主義賃金が拡大し、「平均賃上げ」が必ずしも個々の労働者の賃上げに結びつかなくなっている状況も生まれています。  

●政府による大リストラへの道
 長引く経済不況のもとで、7月の完全失業率は過去最悪だった6月と同じ4・9%、有効求人倍率も史上最悪の0・46倍となっています。  また、失業期間も長期化し、雇用保険の給付も途絶え、預貯金を切り崩す生活を強いられている者も出ています。
 労働者をめぐる雇用情勢は一向に改善のきざしが見えず、労働者の精神的・肉体的苦痛もピークに達し、精神安定剤や睡眠薬を飲み続けたり、自ら命を絶つ者も多数にのぼっています。
 こうした雇用情勢の背景には、労働者への一方的な犠牲であくなき利潤追求をする大企業の首切り・リストラ攻撃があります。
 そして、これに追い打ちをかけるように、政府は金融再生法や産業再生法の制定、労働関係法令の改悪により、これら企業のリストラに国のお墨付きを与え、国家的大リストラへの道を開こうとしています。また、雇用の柔軟化により不安定雇用労働者が増大する状況ともなっています。  

●さらに強まる公務労働者への攻撃
 こうした民間労働者にたいする攻撃は、人事院の機械的な「民間準拠」によって、国公労働者の賃金・体系の「見直し」改悪などとしてあらわれています。
 また、自治体では、財政危機を口実にした一律賃下げや定昇ストップ、凍結、値切りなど、直接的に公務員労働者の賃金を抑制、切り下げる動きがでています。  つい最近では、石原新都知事が財政再建期間中の臨時的な財源対策として職員の給料の4%程度の削減、3月期の期末手当の全面カットを打ち出しています。  

●賃金闘争発展させ生活改善かちとろう
 このような情勢のもとで、賃金、労働条件を社会的・横断的に決定する春闘の強化がますます重要となっています。
 労働者の生活防衛と改善こそが不況打開、日本経済の民主的転換にとって不可欠の条件であり、「大幅賃上げで不況打開」「大企業の内部留保の社会的還元」という社会的大義を明らかにした国民春闘の構築が重要な課題となっています。
 2000年春闘のたたかいでは、@賃金水準の引き上げや年功賃金体系、終身雇用などの日本型社会システム破壊攻撃に対抗する産業別に結集したたたかいとあわせて、A「賃金の底上げや最低保障」「労働者の生活を無視した雇用・賃金破壊は許さない」などの基本要求でのナショナルセンターに結集したたたかいの両立が重要な課題となっています。
 2000年春闘にむけて、国公労働者の「賃上げ要求」と公務職場周辺に働く非常勤職員や委託職員、外郭団体などの広範な労働者の生活改善の要求を結集し、ともにたたかう基盤を作る運動として、これまで以上に「要求アンケート」活動を広げることが必要となっています。


公平で民主的な公務員賃金を

●公務員賃金をめぐる状況
 公務員賃金闘争をめぐっては、調整手当改悪阻止、能力・実績給与への対策、早期立ち上がりなど賃金体系見直しへの対応、複線型など弾力的昇進管理への対応方針、退職手当切り下げの阻止――など数多くの課題があります。
 いずれも重要問題で、従来以上の意思統一が必要なものばかりです。こうした動きを理解するためには、財界や政府・人事院の最近の政策をどうみるかという観点が不可欠です。
 まず、民間賃金の動きとしては、@能力・業績給の普及、高齢者賃金の厳しい抑制、A「雇用」や「労働時間」の弾力化、と総額人件費の徹底した削減、B退職金・企業年金制度の見直しなどがめだちます。
 これらは、いずれも民間における「リストラ合理化」の強まりを背景として打ち出され、雇用形態の弾力化とそれに応じた能力・業績給の徹底で、労働者の個人ごとの管理が強まる方向にあります。なお、Bは超低金利化の資産運用の悪化や「新会計基準」への対応という側面もあります。  こうした民間の動きや、財政状況の悪化と「行革」圧力による公務員賃金見直しの動きが、最近めだちます。主なものとしては、以下のものが上げられます。
 ○政府・人事院の現実の賃金政策。とりわけ年功要素の縮小と、高齢者賃金の厳しい抑制、能力・業績主義への傾斜
 ○政府・公務員制度調査会の動き(「退職手当制度懇談会」での退職手当制度見直しの本格的な開始)
 ○人事院の「能力・実績評価研究会」(99年9月発足)の動き。総務庁も「人事評価研究会」を近々設置予定
 ○財政事情悪化に伴う自治体当局の一方的な賃金カットなどの暴挙
 ○独立行政法人化と業績給等の本格検討開始
 このように、最近の賃金攻撃の中心は、官民ともに「年功給から能力・業績(成果)給への転換」と、総額人件費の抑制という点にあるということができます。  

●業績給への傾斜の意味
 現在攻撃が集中している感のある「年功賃金」は、年齢と勤続による右肩上がりの賃金として特徴づけられます。これはもともと、独立生活も不可能な初任給の極端な低さによって全体の賃金水準を抑制する機能をもっていました。
 しかし、労働者が団結強化と生活確保のしくみとして、年齢と勤続を重視させ生計費確保を中心にした賃金として定着させてきた側面も否定できません。これが現在の労働組合の団結と闘争力の出発点になっていることを忘れてはなりません。
 年齢や勤続、生計費による賃金という観点は、能力主義や個別管理がかなりすすんでいる「連合」の組合員でも認めざるをえないほど、賃金決定の共通の基準として社会の中に深く浸透したものとみることができます。
 表2は、労働者が自分の賃金を何と比較して、自分の位置を確認しているかということについての「連合総研」の調査です。これをみても、「企業内のみならず、企業外で同じ属性(年齢・学歴)をもつ人が気になることを意味している」ことがわかります。こうした結果もふまえながら、これまでの賃金闘争の成果や、今後の課題などについて話し合うことが大切です。
 その上で、単純な年功賃金擁護でなく、初任給の抜本引き上げや最低賃金の底上げ、熟練や資格と賃金との関係を明確にさせるたたかいなども不可欠です。  

●業績給とはなにか
 「業績給(成果給)導入が時代の流れ」などといわんばかりの風潮があることについても、注意が必要です。業績給と公務員賃金を代表とする「職務給」とのちがいなども、しっかりつかんでおかないと、うっかり攻撃を許してしまうことになります。
 もともと業績給は「職務給」原則と相反し、部分的な導入でも、一般組合員層には無縁な制度と言うべきでしょう。
 能力・業績の評価についても、その結果を短絡的に賃金や処遇と結びつければ、職場に混乱が起こることは必至です。
 また、新たな評価制度導入それ自体の是非について労使で徹底的に話し合うこと、評価それ自体を否定できないとした場合にも、目標設定や結果についての本人同意、評定過程や結果について意見を述べる機会の保障、結果に不同意な場合の異議申し立ての制度化とその場合の再評価の義務化、など評価プロセスの透明化などが不可欠の条件でしょう。

●公務員賃金のあり方について考えてみよう
 さまざまな課題への取り組みを考えるにあたって、公務員にふさわしい公平な賃金制度を確立させる観点が必要です。今後の公務員賃金のあり方について、職場で率直に話し合うことが重要です。

■人事院が強調する「民間準拠」とは■ 

 最近、政府・人事院がさかんに強調する、民間企業の賃金体系改革の動きをふまえる「民間準拠」という主張について、どのように考えるべきか。  〈討議のポイント〉  (1)営利を追求する民間と異なる公務員や公務員制度の特性をどのように考えるのか。  (2)「民間準拠」は賃金水準を決定するさいの考え方であり、制度や賃金体系の場合は公務内部の事情が考慮されるべきではないか。最近の政府・人事院の態度は民間の人事政策の変化を当然のこととする一方、模範的な使用者としての国の積極的役割などを軽視していないだろうか。

■納得性ある評価は可能か■ 

 能力・業績給の検討と関連して「評価」についての検討も開始されていることについては、どのように考えるべきか。  〈討議のポイント〉  (1)一般公務員労働者にとって、団結強化や生活確保の観点から、どのような賃金体系がふさわしいのだろうか。同一年齢層の賃金格差を拡大することについては、どう考えるのか。  (2)現行の制度もうまくいっていない中で、公平で客観的な評価基準を確立することは可能だろうか。個人ごとの成績査定で賃金が左右されることになったらどうなるのか。団結や賃金闘争など形骸化してしまうのではないか。  (3)公務に期待される「能力」や「業績・成果」とは、そもそも何か。評価が管理側の恣意や政策的な業績「目標」で左右されるようなことはないか。「年功」と能力・貢献との関係はどう考えるべきか。

■賃金カーブの修正について■ 
 人事院が続けている早期立ち上がりカーブへの修正については、どう考えるべきか
 〈討議のポイント〉
 (1)長期勤続を前提に、公務にふさわしい人材を部内養成する、長期の観点に立った人事管理は本当に意義が薄れたのか。
 (2)教育費や住宅ローンなど支出がかさむ中高年労働者の賃金は本当に高いのか。障害賃金の世代間バランスがくずれ、不公平感や士気の低下が生じかねないのではないか。
 (3)中堅層重視というが、初任給近辺は平均並にしか改善されないことをどうみるのか。  (4)現に行っている仕事と処遇を厳密に一致させるべきか、長期勤続を前提に生涯賃金での公平性やバランスを重視するのか。どちらが公務の実態からふさわしいと考えるのか。

官民力あわせ国民春闘に結集を

 2000年春闘にむけて、要求前進の展望を切り開く取り組みはどのように考えたら良いのでしょうか。国公労連の年次方針をもとに、そのポイントとなる取り組みの考え方を述べておきます。

●大企業の社会的責任を追及しよう
 大企業のリストラ「人べらし」や、儲けのための規制緩和を政府が後押ししている、それが今の特徴です。 女子保護規定の廃止、裁量労働制など労働時間の「弾力化」、民間職業紹介事業・労働者派遣事業の「自由化」など、相次ぐ労働法制の規制緩和が、その内容です。
 そして、行政改革で、今まで以上に「大企業のための行政」への改革を進めようとしています。  それだけに、労働者・国民いじめの悪政推進に反対し、大企業の社会的責任を追及するたたかい=国民春闘への結集は重要です。

●労働時間の短縮で雇用は拡大できる
 深刻な雇用状況をさらに悪化させる「産業再生法」が先の通常国会で成立しています。
 国・地方あわせて600兆円をこえる借金を抱えるなか、公務でも、定員削減や独立行政法人化、民間委託の攻撃が強まっています。
 全労連は、98年7月に「緊急雇用対策」要求を明らかにし、政府に実現を迫っていますが、その一つが労働時間短縮による雇用の拡大です。
 2000年1月から、週法定労働時間が35時間(20人以上企業、現行39時間)になるフランスでは、先行して実施した企業(対象従業員250万人)で、約12万人の雇用が創出されているのです。
 人減らし「合理化」や賃下げ反対のたたかい、政府に雇用確保を迫る取り組みと一体で、労働時間の短縮を迫ることは雇用拡大にもつながる官民共通の取り組みです。

●不安定雇用の労働者と連帯
 同じ仕事をしているのに「パートだから、賃金職員だから」といって賃金などの労働条件が違う、本当にこのままで良いのでしょうか。  企業や政府は、できるだけ「安上がり」の労働者に仕事をさせるため、正規労働者を「過剰労働者」だといってリストラの対象にしています。
 国公の職場でも、「職場の半数は委託労働者」といった実態や、20万人をこえる非常勤(賃金)職員の存在があります。
 国公労連は、この時期、「非常勤職員アンケート」や「パート労働者アンケート」を同時に実施することとしました。身近な不安定雇用の労働者への働きかけが大切だと考えるからです。
 理不尽な「合理化」や社会全体の賃下げの流れを変える第一歩の取り組みとして、職場での論議をお願いします。

●ひとりでも多くの仲間に働きかけて
 賃金闘争が「曲がり角」に来ているときに、連合傘下の公務員連絡会は「人事院勧告制度を堅持させる取り組みを強める」(99年勧告取り扱い決定時の声明)としています。ベア・ゼロどころか賃下げの危険性さえある時に、勧告にだけ依存していて良いのでしょうか。
 生活と労働の実態をふまえた公務員労働者一人一人の「要求」を大切にし、その実現を政府・人事院に迫っていくことは、厳しい情勢であるだけに重要です。
 一人でも多くの国公労働者の要求を反映するために、「わたしの要求アンケート」への協力を多くの仲間にも呼びかけましょう。


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