特 集 公務員制度「改革」学習資料
許すな!公務員制度の大改悪
国民のいのちとくらしを守るため行政民主化のたたかいで反撃を
政府は、昨年12月1日に、あらたな行政改革大綱(行革大綱)を決定し、その中心課題に公務員制度改革を位置づけました(表1)。そして、省庁再編にともなう内閣改造で設けられた「行革担当大臣」に橋本元首相をすえ、3月中に公務員制度改革の「大枠」を決め、6月中には基本方向を示して、2002年の通常国会に、関連法案を提出するとの「スケジュール」を言明しています。
1府12省庁の中央省庁再編に「魂」を入れるために、「あるべき公務員制度を白紙から再設計」するという改革は、国公労働者にも国民にも大きな禍となる大改悪です。今号外は、政府のもくろむ公務員制度改革について特集しました。
表1 行政改革大綱の概要(公務員制度部分の抜粋)
(1)公務員への信賞必罰の人事制度の実現
◇成績主義・能力主義に基づく信賞必罰の人事制度の明確化
◇人事評価システムの整備
◇多様な人材確保
(2)再就職に関する合理的かつ厳格な規制
◇再就職を大臣が直接承認、公表。再就職後の新たな行為規制を導入
◇特殊法人の役員定年制、役員出向制度の創設等
◇長期勤続者が過度に有利となる退職手当制度を改め、官民年金の相違解消
(3)官官、官民間の人材交流の促進
◇企画立案ポストに外部からの任用を推進。司法制度改革と連動した人材の流動性確保
(4)大臣スタッフの充実と政策目標の明示
(5)中央人事行政機関等による事前規制型組織・人事管理システムの抜本的転換
◇総人件費・総定員の枠内で各大臣が組織・人事制度を設計・運用するシステムとする
(6)法令・予算の企画立案と執行の分離
◇執行事務については独立行政法人化を進め、外部委託を活用 |
●参院選の目玉として急浮上した公務員制度「改革」
昨年10月、当時の自民党・野中幹事長が、「身分保障を見直して、公務員に労働三権を与えてもいい」とする発言をおこなったことが報道されました。
この発言を契機に、本年7月の参議院選挙での「目玉づくり」をすすめていた与党3党の行財政改革推進協議会で、公務員制度改革が急浮上します。与党3党の検討は、行革大綱に結実しますが、「野中発言」のベースとなった検討の一部は、昨年末から新年にかけ、「野中行革」としていっせいに報道されました。
1月17日、日本記者クラブで講演した橋本行革担当大臣は、「新たな公務員制度改革のキーコンセプト」として、「民間の知恵を活用した信賞必罰」、「企画、実施それぞれの機能強化」、「押しつけ型天下りの禁止」の3点をあげました。
国公労連が、2月23日におこなった政府・行革推進事務局(内閣官房に設置)への申し入れの際、対応した公務員制度改革推進室長は、「どう取り組むかは橋本大臣の考えが重要」としつつも、行革大綱を基本に検討をおこなっていることを明らかにしています。与党3党の選挙公約づくりを官僚組織(政府)におこなわせる、というゆがんだ関係で改革論議がすすんでいます(図1)。
図1
●理不尽な「公務員たたき」が「改革」の口実に
国民の「不満」の中心はKSDなど行政のゆがみ
橋本大臣は、国民の行政に対する不満は、「組織防衛優先、ムダとわかっている予算の消化、窓口でのお役所仕事的な対応」など、公務員の「仕事のしかた」にあると断言します。
そして、「仕事のしかた」を変えるためには、「公務員制度改革を通じ、公務員の行動原理を変える必要」があるとのべていますが、まったく不可解です。
KSD事件にかかわって、村上元参議院議員などの「はたらきかけ」で、当初60億円であった国の負担が、85億円に増額されたという事実が明らかになっています。 これにもみられるような、政治家の「口利き」で、特定の利益のために税金が使われている行政のゆがみに、国民の「不満」がむいているのではないでしょうか。
行政の中立性が政治の介入でゆがめられている現実が、公務員全体の意識に悪影響をおよぼしていることや、窓口での「お役所的な対応」への批判が少なからずあることは事実です。
しかし、「お役所的な対応」は、先進国でもっとも少ない公務員数や、上意下達の通達行政など、公務員制度とは別の次元におもな原因があります。理不尽な口実での「公務員たたき」が、また持ちだされています。
●公務員制度調査会の検討結果さえ否定する「改革」論議
1999年3月16日に、公務員制度調査会が出した「公務員制度改革の基本方向に関する答申」は、前年に成立した行革基本法の具体化が目的でした。
そして、官民交流制度や任期付き採用制度など、「多様で質の高い人材の確保」策が導入され、再就職規制の見直しや公務員倫理法など、「国民の批判」をふまえた改革がおこなわれました。さらに、「能力・実績の重視」の立場から、政府・人事院で、人事評価システムの検討がおこなわれ、俸給体系(賃金)の「見直し」もすすめられています(これ自体、公務員制度を変質させる多くの問題をもっています)。
ところが、橋本大臣は、公務員制度調査会答申では不十分、との立場です。
〇国民犠牲の行革の総仕上げめざす
たとえば、「信賞必罰」とは、「実績を挙げた職員には高い処遇」、「努力しない職員には厳しく対処」するとして、限られた人件費で一部を高く処遇するため、いっぽうでの賃下げをおこなうものです。
企画部門には「民間から優秀な人材を集積」できるシステム、実施部門では「最小の税金で最大の効果をあげる組織」のためのシステムなどとし、企画部門と実施部門の制度を区分することもあげています。
国の役割を重点化(政策の企画立案と治安、防衛などの実施に)して、政治主導による行政運営をおこない「この国のかたち」改革をすすめる、とした「橋本行革」(図2)の「総仕上げ」を、公務員制度改革でめざそうというのです。
図2
●「身分保障」は民主的公務員制度のかなめ
政治家による情実人事をさけ、全体の奉仕者としての公務員の中立性と安定性を確保する「しくみ」が「身分保障」(表2)です。
採用された以降も恣意的に職を奪われないことは、近代公務員制度のかなめといっても過言ではありません。
国家公務員法は、憲法第73条にいう「官吏に関する事務」の「基準」をさだめたものです(第1条2項)。公務員の勤務関係の基本を法律でさだめるのは、公務員が全体の奉仕者(憲法第15条)であり、国民の代表で構成する国会に、公務員に関する基準をさだめさせる必要からです。
表2 国家公務員法で定める「身分保障」
第75条 (1)職員は、法律又は人事院規則に定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、休職され、又は免職されることはない。
(2)職員は、人事院規則に定める事由に該当するときは、降給されるものとする。 |
〇情実人事の温床つくりだす
「お気に入りの公務員」を大臣が採用する、「当局の都合での解雇」の不安におびえる、そんな状態では公正・効率の公務運営はできません。
経営者の「戦略」で、もっとも儲けがあがる手段を追求し、儲けのあるなしという「企業の都合」での解雇がありうる営利企業の勤務条件とは、その点で異なります。
身分保障をなくし、政治主導での政策決定や、「安あがりの行政執行」を公務員に強制し、それにそわない公務員に罰(降格、降給、免職など)を、というのが改革のねらいです。それは、近代的な公務員制度では排除される情実人事、恣意的人事の温床ともなるものです。
●身分保障は労働基本権を制約する「代償」ではない
1947年10月21日に制定された旧国家公務員法では、国公労働者にも労働基本権が認められ、身分保障も明文化されていました。
非現業国公労働者の労働基本権(交渉権、争議権)が奪われたのは、「マッカーサー書簡」にもとづく政令201号と、これを具体化した国家公務員法(1948年12月3日施行)によってです。この経過を見るだけでも、「身分保障が労働基本権のかわり」とする主張は誤りです。
労働基本権制約を合憲とする最高裁判決(昭48年4月25日・全農林警職法事件)でも、公務員は一般労働者とかわらず、「労働基本権(憲法第28条)は保障される」としています。判決は、「公共の福祉」(憲法第13条)によって制約され、人事院勧告制度があるので争議行為禁止を合憲、としているにすぎません[この判決自体、争議行為の全面一律禁止を違憲とした「全逓中郵事件判決」(昭41年10月26日)などをくつがえす反動判決です]。
くわえて、行革大綱では、「総人件費・総定員の枠内で各主任大臣が組織・人事制度を設計・運用するシステム」も検討課題になっています。勧告制度の一部を緩めようというのです。先の判決をふまえても、労働条件の柱である賃金(級別定数など)での人事院の関与緩和の前提として、労働条件の決定システムと労働基本権の回復が必要となってきます。
●行革大綱にもとづく制度改革は公務の民主化に逆行
行革大綱や橋本講演では、内閣府や各省の企画立案部門に、民間から一定数以上の採用をおこなうために、年俸制や公募制、各省での「スタッフ(専門職)ポスト」の整備などにふれています。政策課題に応じた人材を確保する、との口実で、大臣による「情実採用」ができるしくみをつくろうというのです。そして、再就職は各省大臣の承認にし、再就職後の職員が、出身省に「許認可や契約を依頼する行為」に対して、刑罰を課すこと(行為規制)を検討するとしています。
〇政治家の思惑で民間から人材登用
官民交流法案の国会審議で、「民間から関係省庁に『天上り』しなければ意味がない」と「正論」をのべた議員がいました。行政権限が集中する企画部門に、政治家の「思惑」で民間企業から人材を「厚遇」採用し、退職時にはもとの企業に「天下り」するのも自由、という「官民流動化」のシステムが検討されているのです。
行革推進事務局がおこなったアンケートで、各府省の若手職員は、現状の「閉塞感」を、「忙しすぎ」、「政治主導の名で政策がゆがめられる」、「専門性が高められない」からだと考えています。公務員制度改革が、このような若手官僚の率直な意見に答えるものになるのでしょうか(図3)。
図3
●信賞必罰の人事管理の危険な「ワナ」
信賞必罰の人事管理の具体化は、賃金、昇任・昇格、評価システムが中心になることは明らかです。「仕事ができない」(勤務成績不良)ことを理由とする降格、免職も検討の範囲です。
〇敗者を切りすてる「ムチ」と一体
信賞必罰の人事管理は、単に「がんばった人」「できる人」に「高い処遇」をするだけではありません。競争の敗者を容赦なく切りすてる「ムチ」と一体です。そのような人事管理で、集団的に、安定的に、公正な行政サービスを提供し続けられるのでしょうか。長時間過密労働などの、異常な実態は解消するのでしょうか。家庭的責任を負う労働者の処遇はどうなるのでしょうか。
〇総人件費抑制で多くの労働者は賃下げ
短期的な成果を賃金に反映させることで、若い職員の志気が向上するとの宣伝もあります。
しかし、先行している民間企業の実態は、ひとにぎりの勝者の陰で、多くの労働者が賃下げとなり、総人件費抑制の効果しか生まれていません(図4)。
図4
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