●小泉「構造改革」で行政の現場は
労働者に「痛み」強いる政治との板ばさみ−−国民とともに行政民主化めざしたい−−
小泉内閣はリストラを応援し、「不良債権の最終処理」の名による中小企業つぶしなど、大失業、大倒産をもたらす「国民に背を向ける改革」をすすめています。
そこで、「くらしと雇用」にかかわる行政の現場はどうなっているのか取材しました。
|
▼中小企業庁
「借金が返せない」苦悩する事業主 −−抜本的な救済政策が必要−−
「仕事がない」「借金が返せない」「借りられない」悩みを抱えている中小企業。企業数の97%、雇用の75%を占める日本経済の屋台骨です。
〇中小企業の倒産が深刻
しかし、2001年1〜10月の10か月間だけでも、中小企業の倒産は1万5538件、負債総額は6兆円を超えました(東京商工リサーチ調べ)。「銀行が融資せず、経営が成り立たない」など今年度上期で1800件以上、事業主からの切実な相談が連日寄せられています。
中小企業庁や経済産業局の担当職員は、創業促進・経営革新、信用保証・融資制度、倒産対策、下請け代金法にもとづく立入検査などの業務を懸命にこなしています。全経済の組合員で中小企業庁に働く塩野竹久さんは「私たちの仕事が中小企業や労働者のために役だっているのか、歯がゆさを感じる時がある」と語ります。
小泉「構造改革」によって、リストラ推進、産業の空洞化などが進められています。塩野さんは、個人的見解であるとの前提で語りました。「中小企業の救済のためには経済悪化の根本原因を改めるべきです。たとえば、景気回復までの間、金融機関などの保証付融資を全額無利子として返済を猶予したり、創業に挑戦する人(失業者等を対象)や倒産関連・災害地域の中小企業に補助金を支給するなど、抜本的な夢のある政策が必要ではないでしょうか」。
▼川崎・高津社会保険事務所
不況で社会保険脱退も、年金の相談件数は激増
「社会保険は従業員を殺すためにあるのか!」と取引先に調査に入られたことから怒る事業主。かつて2年間、社会保険事務所の徴収部門を担当した飯塚勇さんは当時を振り返ります。
社会保険料は企業の経営状態に関係なく納付の義務が定められており、滞納の場合は調査などに入ります。バブル崩壊後の不況が中小企業を直撃し、資金操りが厳しくなり、保険料を運転資金に回したり、社会保険を脱退する会社も出てきている実態です。
現在は川崎の高津社会保険事務所に勤める飯塚さんは、「保険料の収納率をアップさせるよう社会保険庁の指導も強まっています。納付の猶予措置は阪神大震災の時のみ。戦後最悪の不況とも言えるなかで、現場の職員は制度の矛盾との板挟みになっています」と語りました。
〇利用者の立場で対応
一方、年金窓口への相談や問い合わせも激増。高津ではピーク時で1日230件を6〜8人で対応しています。失業・倒産など深刻な相談や、複雑な制度「改正」の説明を求められ1件の相談時間が30分〜1時間以上かかることも珍しくありません。千葉・埼玉・神奈川3県の年金受給者数や人口は全国平均の2倍以上(職員比)、相談件数も異常な多さです。首都圏のある事務所では、9時半で午前中の受付を締める所もあり、定員不足が行政サービス低下を招いています。
年金給付担当の藤本幸子さんは「『なぜ年金額が下がるのか?』などの苦情が多いですね。10月から介護保険料が全額負担になった時は、気持ちもわかるので説明も大変でした」と話します。7人の職員が本来業務をこなしながら1日200件の電話や手紙での相談に対応しています。
全厚生高津分会は激増する年金相談などに対応するため、利用者と職員の切実な要求を出し合い、溝の口駅の「年金相談センター」(今年2月開設予定)や社会保険労務士による窓口案内などを実現しています。
飯塚さんは「制度はすぐには変えられませんが、組合として運動を積上げ、国民サービス改善のためにがんばりたいと思います」と決意を述べました。
▼横浜・緑税務署
税金を払えない事業者増える
「経営が苦しく借金を抱える中小企業の滞納が増えています」と話すのは横浜・緑税務署で働く角谷啓一さん(全国税緑分会)。深刻な不況の影響で売り上げが減少し、事業者が消費税を運転資金に回しているからです。2001年10月末現在で東京国税局(東京・神奈川・千葉・山梨)の消費税の滞納残高は、3233億円に達しています。
角谷さんは「本当に困っている滞納者には実情を十分聴取・調査・相談し、納税の緩和措置を適用するようにしています。ただ、なかには意図的に納税を回避しているような滞納者もあるので、その見極めが難しいですね」と国税徴収官としての苦労を語ります。
緑税務署の滞納徴収現場では、職員一人あたり平均450件位の事案を常に抱えています。しかも、新規の滞納が続発し、他に財産がなく、売掛金を差し押さえると倒産してしまうといった事例が多く、徴収職員を悩ませています。「量」とともに「質」の面でも滞納整理が複雑・困難化するなか、今の人員ではまともに対処しきれません。人員不足からくる徴収行政の不公平が危惧されます。
角谷さんは、「不況で困っている人を何とかしたいですね。たとえば、政府はもっと労働債権を保護する制度を確立するべきと思います。私たちはもっと税研活動や行政民主化のたたかいを発展させ、国民のために誇りをもって働ける職場にしたい」と力強く語りました。
▼川崎南労働基準監督署
増える労働相談と過労死申請 −−もっと労働者に役立ちたい−−
〇退職強要や賃金不払い安全軽視して労災多発
「突然解雇されました」と、すがるように川崎南労働基準監督署を訪れる労働者が後をたちません。
「いじめなどによる退職強要や解雇、賃金不払いの相談が増えています。派遣労働のケースなど相談内容も複雑になっており、1件2時間かかることもあります」と監督官の齋藤裕紀さん(全労働川崎南分会)は話します。窓口と電話の相談に対応しつつ、工場などの労働現場の立ち入り調査・監督を実施しています。
川崎南署で管轄している事業場は1万5000件(96年時点)ですが、11人の監督官が立ち入り調査・監督できるのはわずか7%。また「会社に指導してほしい」と監督署に申告する受理件数は2001年11月末時点で125件を越えています。「実際に相談や申告する労働者はほんの一握り。もっと監督官を増やして、労働者の権利を守りたいのですが…」と悩みを語る齋藤さん。
川崎南署管内では大規模製造業が多いのが特徴で、その下請関連の中小規模の製造工場もたくさんあります。
不況などで製造業の仕事が減り、下請け単価切り下げの相談、労働保険料の滞納が問題になっています。「経営がきびしく、安全管理面の経費を削減したり、安全管理組織の縮小などにより、労働災害が多発しています」と安全衛生課の吉田雄二さんは話します。
〇仕事減るのがいやで労災事故隠し
「悪質な労災事故隠しが出てきています。事故が発覚すると仕事が減るという理由で、元請け会社から口止めされているからです」と話すのは労災課の林米男さん。過労死申請も増え続け、8人の職員が労災請求事務と認定調査を行っています。「過労死認定は、会社が非協力的な場合も多く、調査に時間がかかります。遺族のために早く処理したいのに辛いです」と林さんは話します。
労働基準監督署では、長引く不況の影響や、新たな制度の導入により、職員の業務量が増加しています。齋藤さんは「人員を増やして、もっと労働者の立場に立った仕事をしたいです」と語りました。
▼川崎、横浜公共職業安定所
労働力の「外注化」が一気に加速 −−解雇規制し、働くルール確立を−−
〇劣悪な労働条件で求人だす企業
真剣な表情で求人票を見つめる求職者たち。失業が社会問題化して雇用保険の充実が必要な時期なのに、2001年4月から雇用保険法が改悪されました。川崎公共職業安定所で働く畠山利男さん(全労働川崎職安分会)は「雇用保険の給付が切れても仕事が見つからない方や、面接にいく交通費がないと泣きつくケースもあります」と求職者の深刻な現状を話します。
企業は、この不況と失業者の増大を背景に「いくらでも代わりはいる」と言わんばかりに、劣悪な労働条件で求人を出してくるといいます。当然、トラブルや苦情も多くなっています。
「事業主に指導する場合も、リストラが当然というような風潮や、企業のモラルの低下が目立ちます」と、横浜職安の君嶋千佳子さん(全労働神奈川支部長)は語ります。
社員を大量解雇し、一方で仕事を請負業者にゆだねる現象も。もちろん、その会社のねらいはコスト削減です。そして、請負業者に雇用される労働者の側から言えば、低賃金はもとより、就業先、労働条件、仕事内容も不定です。
派遣求人も同様です。雇用主と就業先が違うことから、問題の処理もあいまいになりがちです。また、契約の途中解除、次の派遣先がみつからないなどの不安定要素も常に抱えています。
労働基準法改悪など一連の規制緩和のなかで、職業安定法、労働者派遣事業法も改悪され、それを機に、このような労働力の外注化が一気に加速しています。
〇現場を無視した政治主導の施策
労働条件の悪化と失業者の増大は深刻です。
現場を無視した政治主導の施策が次から次へと大量に打ち出され、しかも実効性のないものが多く、職場はまさにふり回されている状態だといいます。
「倒産が出ると『構造改革が進んだ』などという政府のもとで、職員は本当に情けない思いをしながら仕事に追われています。労働行政は規制緩和すべき分野ではありません。解雇を規制することや、労働者の働くルールを確立することが必要です」と全労働の仲間の声を紹介し、訴えました。
|