国公労新聞  号 外

緊急特集号 退職手当問題職場討議資料

●退職手当の引き下げ反対
  −−これ以上の生活破壊は断じて許せない−−


 政府・総務省は、9月20日、2001年民間企業退職金実態調査の結果に基づき、1999年度における官民の退職者の退職手当・退職金の支給水準を比較すると、国家公務員の退職手当の水準は、民間企業・従業員の退職金の水準を5.6%上回っていると発表しました。

◆図1 退職手当の支給水準比較の結果


 9月27日には、「マイナス勧告完全実施」と合わせて、水準「見直し」の閣議決定を強行しました。
 退職手当をめぐっては、また、総務大臣が、9月6日の衆議院総務委員会において、来年の通常国会に国家公務員退職手当「改正」法案を提出すると答弁しています。
 政府・総務省は、「退職手当の水準」に加え、「早期退職特例措置の一部」についても検討するとしています。

〇財政事情のみ優先、公務員の生活無視
 今回の退職手当「見直し」検討の背景には、6月25日の「骨太の方針(第2弾)」で総人件費抑制の方針が確認され、7月23日の閣僚懇談会において「国家公務員の退職手当10%カットと勧奨退職年齢引き上げ」が論議となり、8月28日の経済財政諮問会議に、総務大臣が「実態調査に基づく見直し」を「回答」していた経過があります。財政事情優先の政治的検討です。
 退職手当制度は、長期勤続を前提とした公務員制度の一環であり、特に安定性が求められます。単年度の財政事情だけで見直されるべき制度ではありません。
 国家公務員の退職手当は、原則として最終俸給月額に退職の事由による一定月数を乗じて算出される制度です。今年のマイナス勧告に基づく給与法「改正」が強行されれば、連動して平均2.03%の手当削減となります。
 その上に、退職手当の水準「見直し」が強行されれば二重の削減です。
 このような状況の下での退職手当の引き下げは、賃下げの悪循環を加速するものです。職員の将来設計ばかりでなく、働く意欲にも影響しかねません。

〇「構造改革」反対と一体でたたかいを強化しよう
 マイナス勧告「完全実施」決定と同時に、退職手当を削減する政府の姿勢は、使用者としての自覚があるのかさえ問われる問題です。
 政府は、来年度予算編成において医療制度改悪による国民負担増に加え、年金、介護などの給付減・負担増など社会保障の相次ぐ改悪を計画しています。国民に痛みばかり押しつける「構造改革」反対のたたかいと一体で退職手当の引き下げ反対の運動を強めます。

●定年退職で203.5万円の損失

 手当水準引き下げの損失分を試算すると、「民調結果 5.6%」の引き下げで、150.8万円、「人勧のマイナス2.03%」で52.7万円、合わせると200万円を超える損失となります。

◆図2 退職手当見直しとマイナス勧告の影響 <行政職(一)>



●退職手当とはこんな制度

 国家公務員が退職する場合に支給される退職手当は、次のようになっています。

[国家公務員退職手当法] 
(1)【法第3条】
 普通退職(25年未満の自己都合や20年未満の定年等)の場合
(2)【法第4条】
 長期勤続後(20年以上25年未満の定年・勧奨、25年以上の自己都合)の退職等の場合
(3)【法第5条】
 整理退職等(25年以上の定年・勧奨等)の場合
 
[退職手当額の計算]
(1)退職事由別の支給月数(下表)×退職の日の俸給(俸給の調整額を含む)
(2)支給月数の上限は60月。
 ただし、勤続20年以上の定年・勧奨退職の場合は1割増。
(3)定年の10年前までの早期退職者については、特別措置(最大20%)があります。

[支給月数の計算]

勤続
年数
法第3条
自己都合
法第4条
勤続20年〜25年未満
の定年・勧奨
法第5条
勤続25年以上
の定年・勧奨

10年

  7.5

−−

      −− 

20年

 21.0 

28.875

      −− 

25年

  33.75

35.475

    45.55

30年

  41.25 

−−

    54.45

40年

  53.75 

−−

   62.7 

45年

 60.0  

−−

   62.7 

(最高支給率:62.7月=割増後)

 

●政府による一方的な見直し検討  −−進め方などに多くの問題点が−−

〇問題点・その1
 公務員の退職金は9千万円−−マスコミから退職金は高いと言われるが

 マスコミなどによる公務員の高額退職金批判は、史上初のマイナス人勧以後も、一段と高まるばかりです。
 こうしたマスコミ攻勢は、もともと9000万円にものぼる指定職の高額退職金や、キャリア公務員の特殊法人等への天下りによる退職金の二重どり、三重どりにも原因があったはずです。

◆表1 国家公務員の退職手当(試算)

 退職手当の額は、年齢、勤続年数などにより異なるため一概にはいえませんが、
次の4つのケースに基づいて試算すれば以下のとおり。

1 次官で、58歳で退職したケース

2 審議官クラスで、52歳で退職したケース

3 課長補佐で、60歳で退職したケース

4 係長で、60歳で退職したケース

  俸給の月額 勤続年数 退職手当額
1のケース 指定職11号俸
(1,346,000円)
36年
(22歳採用、大卒)
9,115万円
2のケース 指定職5号俸
  (873,000円)
30年
(22歳採用、大卒)
5,514万円
3のケース 行(一)8級20号俸
  (462,000円)
42年
(18歳採用、高卒)
2,897万円
4のケース 行(一)6級19号俸
  (412,300円)
42年
(18歳採用、高卒)
2,585万円


◆図3 退職手当の基礎額


 総務省が発表した退職金の官民比較結果などの資料をみても、国家公務員の退職理由ごとの退職手当水準の差はキャリア層が多い「勧奨」と一般職員層が多い「定年」では水準の差は歴然です。
 しかも、批判の多い指定職と民間役員層の退職金の比較は、今回は実施されていません。

◆図4 退職理由ごとの平均退職手当額


〇問題点・その2
 不十分な退職手当の官民比較−−長期勤続が前提の企業との比較ではない
 退職金の官民比較のやり方は確定していません。今回のやり方は、退職理由と勤続年数(20年以上)別平均退職金額を公務の人員構成を元にラスパイレス比較したものです。
 これには、(1)長期勤続が前提の人事制度をとる企業との比較でないこと、(2)調査時点(1999年)の公務の退職者の退職理由別分布状況等にはまったく継続性がないこと、(3)学歴・退職理由のモデル比較なども加味した総合的検討の努力を放棄したこと、などの問題があります。

〇問題点・その3
 退職手当は重要な労働条件−−不利益見直しにも関わらず労働組合に相談なし
 国家公務員の退職手当の性格について、政府は「長期勤続報償、退職時の生活保障、賃金の後払いという性格を合わせもつが、とくに勤続報償の性格が強い」と主張しています。
 民間の退職金は、賃金の後払いであり「労働の対償」としての賃金に相当することは明らかです。公務の場合、この賃金的性格を強めることが大きな課題です。しかし、仮に政府の主張を認めたとしても、退職手当が私たちの重要な労働条件の一つであることは事実ですから、その一方的な引き下げなどの不利益見直しは絶対に許せないことです。
 ところが、政府は、今年度の人勧取扱の一環として退職手当について、その支給水準の見直しと関係法律の改正案を次期通常国会に提出するとの閣議決定をしました。これは、労働組合とはいっさい相談もないまま、一方的に決定したのです。制度上、退職手当は、人事院の所管とはなっていません。
 これでは、退職手当については当事者である労働組合の交渉権が保障されず、その制約の代償措置もないということになってしまいます。

▼室井力・名古屋大学教授(当時)参考人発言より
 (1981年10月参議院総務委員会)


 国家公務員法には退職手当についての規定はございません。……つまり、公務員法にいう給与として退職手当を理解するかどうかについて法律が必ずしも明確な規定を持っていないと言えるように思うわけです。ただし、そうは申しましても、……国家公務員等退職手当法による退職手当は労働基準法11条に言う労働の対償としての賃金であるという点についてはほぼ異論がないかと思います。
 ……労働基準法11条−これは……当然に特別の異論あるいは合理的根拠を持った排斥理由がない限りは公共部門の職員にも当てはまりますのでして、この労基法11条に言う「賃金」であって公務員法上の「給与その他の勤務条件」の一種であるということが法律の上では言えるように思います。

〇問題点・その4
 一部高級官僚の早期退職慣行に大きな問題が−−定年までの雇用保障は不可欠 
 公務員の退職手当は、公務の中立・公平性確保のための身分保障や、安定的な処遇確保とも不可分な制度でもあります。しかし、高級官僚を中心とする組織ぐるみの早期退職慣行が後を絶たないため、制度が歪められ、国民的批判の元にもなっています。
 全体の奉仕者にふさわしい専門能力と使命感を備える公務員像と省ぐるみの早期退職慣行は絶対に両立しません。
 希望者全員の定年までの雇用保障と安定的な生活保障制度の確立が不可欠です。

〇当面のたたかいは
 政府宛の要求署名、早急なとりくみを
 今回は支給水準(10%の水準調整)の見直しと、早期勧奨特別措置が中心となります。
 しかし、これは現在進行中の能力・業績主義による公務員制度改革でさらに抜本見直しが必至です。その意味で今回のたたかいは今後の闘争の成否を左右するほどの重要性があります。
 当面、
 (1)政府宛の要求署名の達成(30万筆目標、11月末まで)、
 (2)中高年層を中心とする「自筆ハガキ」(寄せ書き方式などの工夫も)行動(10月末まで)、
 (3)職場段階からの「該当者」交渉や上申などの行動をやり抜き、使用者責任を徹底的に追及します。
 また、秋のキャラバン行動や新聞投書などを活用しながら、世論への働きかけも重視します。

トップページへ 国公労新聞へ