2003年の新春インタビューは、中米・コスタリカ共和国の庶民の日常生活を描いたドキュメンタリー映画『軍隊をすてた国』のプロデューサー・早乙女愛さんです。
コスタリカは軍隊を廃止し常備軍を持たないことを憲法で規定。50年以上にわたり「平和国家」を実践してきた国です。
21世紀のいま、軍隊をすてた国の人々はなにを考えて暮らしているのでしょうか。
東京・六本木で、早乙女さんにお話をうかがいました。
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早乙女 愛(さおとめ あい) 1972年東京生まれ。
同志社大学文学部卒業後、商社に就職。
4年間のOL生活中に、父・早乙女勝元の海外取材アシスタントなどを務める。
2001年、企画・製作会社「あいファクトリー」設立。
現在、代表取締役・プロデューサー。
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●民主主義の国「コスタリカ」」 |
−−映画を制作することになったきっかけについてお聞かせください。 |
早乙女 |
脱OL直後の99年、父の映画企画メモをちらりと見たのがきっかけです。戦争を語りつぐことをライフワークとしている父、早乙女勝元の当初の企画は、コスタリカと日本の平和憲法の対比からスタートし、「コスタリカの『平和主義』こそ、日本の憲法9条の初心ではなかったか」というものでした。
しかし、「9条の初心」と言われても、戦争を知らない70年代生まれの私には、それが何だかわからない。父の企画メモのわかりにくい言葉を次々と消去していくと、残ったのはカタカナ「コスタリカ」だけ。気がつけば、父から「オマエやれ」と言われてしまって。
日本では「反戦・平和」がワンセットになっていて、平和の意味が限定されているように感じます。「平和はこんなに素敵でおもしろい」ことを明るく問題提起したかったのです。
コスタリカの国を理想化するのではなく、普通の人々の暮らしを通じて、自分たちを見つめ直すことが大切だと思い、映画製作をスタートさせました。 |
−−映画では、子どもたちのいきいきとした表情が印象的ですが。 |
早乙女 |
早乙女 たくさんの学校を訪問しましたが、「平和カルチャーショック」を受けました。この国に特別な「平和教育」はありません。小学生から人権を学び、自分たちの権利と義務にはどのようなものがあるかを深く理解します。そして、平和、民主主義、人権、環境などを身近な問題から議論していくのです。
また、コスタリカの選挙は、まさに「お祭り」騒ぎ。子どもたちは、幼い頃から選挙の政党活動や投票所でのボランティアなどに参加していて、「選挙は楽しいもの」という感覚です。ですから、18歳で選挙権を得ますが、「国に対しての責任」をごく自然にそして気楽に持つことができるようです。子どもが理解できるほど政治が身近なのです。
なにより、人々が毎日の生活を楽しみ、その生活を守るのは自分たち自身であって軍事力じゃないということを、大人も子どもも、見事なまでにあっけらかんと信じています。 |
●自分がどう生きるか問われている日本 |
−−日本とはかなり違いますね。 |
早乙女 |
自殺者が3万人を超えるなど国民が犠牲になっている日本。戦争がなくても、社会が人を殺している実態があります。
また、マスコミや学校教育、労働団体は8月など特定の時期しか「平和」についてとりくみませんし、決まったキーワードのみ。それに接している子どもたちは「平和な社会って何?」という具体的なイメージが描けないのです。
自分の住みたい世界をめざすには、自分がどう生きるのかが今、私たちは問われているのではないでしょうか。 |
●ふだんの生活から有事法制を考えよう
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−−映画の制作過程と、有事法制の動きが重なっていますが。 |
早乙女 |
そうなんです。映画の編集中に9・11テロやアフガン空爆もありましたしね。有事法制の問題を考えるときは、ふだんの自分の生活から出発したらいいと思います。
私の場合、作りたい映画が制限されるかもしれないし、自由に表現することができなくなります。そんな小さな妨げに対して、気づいていく。一人ひとりが今から少しづつとりくんでいくことが重要だと思います。 |
●フツーの感覚で多くの人と交流を
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−−最後に私たちへのメッセージをお願いします。 |
早乙女 |
早乙女 全国200カ所で自主上映されていますが、NPOや個人などがこの映画を活用して地元の地域問題を考えるイベントを組んでいます。
国家公務員の方々には、趣味もたくさん持って、フツーの感覚でさまざまな立場の人とかかわってほしいですね。 |
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