国公労新聞 第1164号

●地域経済を映し出す年金問題
  −−たたかう京都の仲間たち−−


 ○社会保険窓口に連日悲痛な訴え

 「国民年金の掛け金が高くて払えない人が増えています。社会保険事務所には『リストラされたが年金はどうなるのか』『なんでこんなに年金が少ないんや!』という悲痛な声が連日寄せられます」と話すのは、京都の下京社会保険事務所で相談窓口担当の山本潔さん(全厚生京都支部長)。
 「年金制度そのものを知らない方が多いですね。わかりやすく年金問題を訴えるため、また、誰でも講師ができるように、『年金紙芝居』を作成しました」と山本さん。

 ○年金改悪許すな!講師団活動を展開

 全厚生京都支部は、京都総評の「年金講師団」の要請に積極的に応え、労組や市民団体に出向き(03年12月現在で25件)、制度の矛盾と改善方向、改悪内容を訴え、年金改悪反対のたたかいを展開しています。

(全厚生の仲間は、誰もが安心して暮らせる公的年金制度の確立をめざして「年金講師団活動」を積極的に展開しています。講師団による学習会は全国で120カ所以上開催され、約3000人が参加しています。04春闘では、政府が狙う年金改悪案の問題点を国民に広く訴えることが重要になっています。)


●安心して暮らせる賃金と年金を
  −−「構造改革」で進む地域破壊と雇用破壊−−


○国民のための社会保障の充実を
  −−不況と制度改悪で「年金空洞化」−−


 「長引く不況と制度改悪のしわ寄せが、零細企業に集中しています」と語るのは、西陣周辺に位置する上京社会保険事務所で働く中井敏春さん。倒産が続出する現状に日々直面しています。
 京都市の2001年の事業所数は約8万5千件。86年と比較すると、18・8%も減少しています。京都は中小・零細企業が多く、小泉「構造改革」が京都の地域経済を破壊しています。
 全国の法人事業所280万件のうち、厚生年金の加入事業所は約165万件であり、労災保険269万件・雇用保険202万件と比較して極端に低い加入状況です。
 強制加入といいながら、折半の事業主負担保険料が高いために厚生年金に加入できない企業や、加入していても経営難で脱退せざるをえない実態が浮かび上がってきます。
 「従業員が払った保険料を運転資金にまわす企業もありました。保険料が20%に引き上げられたら、滞納や未加入の事業所が増大し、年金空洞化がさらに進行します」と中井さんは危惧します。

 ○下請け企業の保険料滞納も

 「私の職場では1日平均170人が年金相談に訪れます」と語るのは、京都南社会保険事務所の年金給付窓口の波多野智明さん。
 波多野さんは「日産系列の企業が撤退したことにより下請け企業が経営悪化。保険料を滞納する事業所も出てきています」と大企業の社会的責任を訴えます。
 上京社会保険事務所で働く土井直樹さんは「『本当に年金はもらえるの?』『生活保護より低いじゃないか』という国民の年金不信や将来不安を痛感しています。年金改悪の内容を世論に訴えていきたい」と語りました。

 ○解雇され保険料払えず未納者になる現実

 リストラなどで解雇された人は厚生年金から国民年金にかわりますが、収入がないために保険料が払えず、本人の意思とは無関係に未納者になっていく現実。国民年金の未納者が4割に達し、「年金空洞化」が深刻化しています。

 ○こんな政治を変えなあかん

 支部長の山本潔さんは、「『おまえは詐欺師か!』と怒鳴られたことがあります。国民年金の受給権発生は25年。その人はわずか数ヶ月足りなかっただけなのです。年数に応じた受給権があれば救えたのに‥‥」とつぶやきます。
 「私たちは最低保障年金をはじめ、誰もが安心して暮らせる公的年金制度の拡充を求めています。国公労働者の仕事は国民の権利行使をサポートすること。権利としての社会保障を充実させるためにも、政治を変えなあかん!と国民に広く訴えたい」と山本さんは力強く語りました。

 ○増え続ける失業が「無年金者」生み出す

 京都駅に隣接する京都七条ハローワークの職業相談で働く笹村一弘さん(全労働京都支部)は、「20代後半の失業が増加しています。フリーターは一般的に評価が低く、就職になかなか結びつきません。失業者の増大は、膨大な無年金者を生み出します」と話します。
 京都七条ハローワークの管内人口45万人に対して、2001年度に求職のために来所した数は30万人を超えています。
 とりわけ、事業所の減少率が全国一(2001年)の京都では、求人開拓は切実な問題です。ハローワークの職員が事業者を訪問し、粘り強く求人開拓を行ってきました。かつて求職者を受け入れてくれた良心的な事業所も倒産・廃業に追い込まれているといいます。一方、社会保険に入っていない「派遣」の求人は増え続けているのです。
 「雇用の確保と、労働者の社会的保護が必要です。京都の地域経済を発展させるため、伝統的な地場産業を守り、ものづくり・人づくり・町づくりを国と自治体が協力して実現していく、行政としての役割発揮が求められています」と笹村さんは問題提起しました。

 ○地域に足を出し運動の輪を広げます!
  −−年金改悪反対と賃金底上げを!−−


 いま、地域からのたたかいが広がっています。
 京都国公は、民間労組と公務員労組で構成されている「京都総評」に結集して運動を展開しています。
 京都国公事務局長の豊田裕子さんは「04春闘では年金改悪反対のとりくみを軸に、賃金底上げや雇用確保の運動など、地域に足を出すとりくみを思い切って提起したい。国家公務員も一労働者であり一国民。労働組合に結集して、民間の仲間や地域の訴えに耳を傾けながら運動の輪を広げていきたいです」と明るく決意を語りました。


●西陣織の収入は月10万円
  −−国民年金の保険料が払えない−−


 昔ながらの街並みに響く機(はた)の音。
 京都の西陣は1200年の歴史を刻む織物の町。京都は歴史都市だけでなく「物づくりの町」です。
 西陣織は、繊維不況と中国からの「逆輸入」の影響で、西陣の主力である帯の出荷数量は99万本。87年と比較して23・5%にまで落ち込んでいます。
 西陣の自宅で下請けとして帯を織る高木仁さんは訴えます。
 「朝8時から12時間働いても収入は月わずか10万円です。工賃は出来高払いで、京都の最低賃金(677円)より低い時給660円。生活が苦しく、国民年金の保険料月1万3300円はとても払えません」

 ○伝統文化と地域経済を守りたい

 「私たちは培った匠の技を生かし、西陣の伝統文化を守り育てるため懸命に働いています。しかし、西陣で働く仲間の暮らしは苦しい。月10〜15万円では生活できず、みんな内職、パートなどで生活をつないでいるのです」と語るのは全西陣織物労働組合執行委員長の松下嵩さん。
 西陣で働く労働者の社会保険などの加入率は悪く、健康保険62%、厚生年金58%、雇用保険50%(2000年)という深刻な実態です。
 また、京都から中国へ進出している企業数は247社ありますが、そのうち伝統産業が占める割合は59%にものぼります。安価な労働力を求めて、地場産業を平然と切り捨てる企業のモラルがあらためて問われています。

 ○私たちの実態をもっと知ってほしい

 「いま地域経済はガタガタです。その地域で生産された地元の製品を使うなど、地域循環型の経済システムが必要だと思います。また、一方的な工賃の引き下げ反対の運動をすすめた結果、業界団体による『労務110番』の窓口開設を勝ち取りました」と松下さんは話します。
 「国公のみなさんには、もっと地域に足を出して、私たちの生活実態を知ってほしいと思います。ともに安心して暮らせる社会をつくっていきたいですね」と語った松下さんの笑顔が印象的でした。


●賃金底上げの運動を
  −−年収300万円を切るタクシー労働者−−


 JR京都駅を降りると、駅周辺にずらりと並ぶタクシーの列。
客を待っている運転手さんに突撃インタビューしました。「最近失業したがタクシーしか職がなかった。景気は悪いし、給料は最低。厚生年金の掛け金を払っているが、生活は火の車」「国民年金では将来が不安だ」など率直な意見が飛び交いました。

 ○規制緩和で値下げ競争  労働者にしわ寄せ

 「タクシー労働者の年収は300万円を切っています。なかには手取り月5万円や、借金してやっと生活している労働者もめずらしくありません。低賃金のため、年金など社会保障から脱落せざるを得ない状況もあります」と語るのは、自交総連京都地連書記長の浅井大二さん。
 2002年2月のタクシーの規制緩和で、京都ではタクシーが300台以上増加。運賃の一定の自由化のもとで値下げ競争、激しい生き残りをかけたたたかいが起こっています。加えて不況による客減りで、事業経営と労働条件にしわ寄せが集中しています。
 浅井さんは、「タクシーの供給過剰により水揚げの低下をまねき、出来高払いの賃金制度の下で極端な賃金低下になっています。時間の許すかぎり体の許すかぎり、ギリギリまで働いて、もうフラフラ。事故の多発や、過労死する労働者も後をたちません」と過酷な労働実態を訴えます。
 「パンをかじりながら働くのはいやです。もっと人間らしい生活をしたいのです。最低生活保障の充実はみんなの要求です。労働条件を自ら切り開くと同時に、民間と公務の労働組合が先頭に立って、賃金底上げのたたかいをすすめていきましょう」と浅井さんは04春闘に向けた抱負を語りました。


●自衛隊のイラク派兵は戦争とテロの悪循環まねく
  
【新春インタビュー】アニメーション映画監督 高畑 勲さん


たかはたいさお 1935年、三重県に生まれる。東京大学仏文学科卒業後、東映動画へ入社。劇場用映画「太陽の王子・ホルスの大冒険」(1968年)が初監督作品。主な監督作品に「アルプスの少女ハイジ」(74年)、「母をたずねて三千里」(76年)、「赤毛のアン」(79年)、「じゃりン子チエ」(81年)、「火垂るの墓」(88年)、「おもひでぽろぽろ」(91年)、「平成狸合戦ぽんぽこ」(94年)、「ホーホケキョとなりの山田くん」(99年)。プロデュース作品に「風の谷のナウシカ」(84年)、「天空の城ラピュタ」(86年)がある。2003年には、フランスのアニメーション映画「キリクと魔女」の日本語版翻訳・演出を手がける。

 今年の新春インタビューは、アニメーション映画監督の高畑勲さんです。数多くの名作をつくりだしている高畑さんですが、2003年夏には、フランスのアニメーション映画「キリクと魔女」の日本での上映に力をつくしました。スタジオジブリにおじゃまして、「キリクと魔女」の魅力とともに、それにつながる平和の問題についてお話をうかがいました。

【 「キリクと魔女」(ミッシェル・オスロ作)のあらすじ】 キリクが生まれたアフリカの村は、魔女カラバの呪いにさらされていた。泉の水は涸れ、怒りのままに魔女を倒そうとした男たちはすべて魔女に食われてしまった。キリクは、だれも問うたことがなかった魔女の意地悪な原因≠つきとめ取り除き、魔女を悪から解放し、村に平和をもたらした。(「キリクと魔女」は、映画とともに、高畑さんの翻訳で、絵本と書籍が徳間書店から出版されています。)

−−「キリクと魔女」の上映に力をつくされたのはなぜでしょうか?
高畑  「キリクと魔女」は、1998年にフランスで130万人を動員する大ヒットを記録した作品ですが、日本では公開されていませんでした。日本のアニメーションにはない魅力を持つこの作品を、ぜひ日本にも紹介したいと思い、スタジオジブリで配給しました。

 ○日本の作品にないキリクの魅力

−−日本のアニメーションにない魅力というのは?
高畑  いくつもあるのですが、いちばんの魅力は、主人公キリクが本質的な問いかけを軸に、現実に生きていき行動するために、何を考えどうやっていくのかをきちんと描いているところです。
 日本の多くの作品は、そういうところをきちんと描かず、現実にはできそうもないことを主人公にやらせて、観る側もいっしょにやったような気分になって、「勇気をもらいました」って感想が出るのだけど、現実の問題に直面したとき本当に力になるでしょうか。
 キリクは「なぜ?」と人に問うだけじゃなく、いろんなことをわかろうとし、わかったら自分は何をすればいいのかをよく考えて足を踏み出して、その考えを確かめながら問題を一つひとつ解決していきます。「キリクと魔女」はファンタジーの形をとっていますが、現実の問題解決の進め方をきちんと描いているのです。

 ○ブッシュの愚かさ


−−「どうして魔女は意地悪なの?」というキリクの根源的な問いかけと行動は、現実の世界でも大切になっていますね。
高畑  魔女が意地悪なのには原因があると思ってキリクはそれをつきとめ、原因を取り除いて、村に平和をもたらし、魔女さえ悪から解放します。
 キリクにくらべて、ブッシュ米大統領はどうでしょうか。「悪の枢軸」「テロ撲滅」と声高にくりかえすだけで、テロの原因を考えもせずイラクへの無法な戦争をしかけています。
 たしかにテロは悪です。なくさなければなりません。しかし、自爆テロの多発というような状況にはよほどの理由があると考えるべきでしょう。そして、その原因を取り除かない限り、「テロ撲滅」はできないでしょう。
 ブッシュのやり方を変えないというのなら、テロをかかえる民族を全員殺してしまうしかありません。テロの原因があり続ければ、その中で成長した子どもが新たなテロリストになるわけで、事実、イラクやパレスチナの状況は悪くなるばかりです。

 ○戦争で問題は解決しない  憲法9条が今こそ大切

−−小泉首相はイラクに自衛隊を派兵しようとしていますが。
高畑  小泉首相はブッシュのいいなりに派兵しようとしていますが、とんでもないことです。今ほど憲法9条が大切なときはありません。自衛隊の現実と9条に矛盾があることはそうだけども、憲法はある程度、理想であるべきだと私は思います。その理想をかかげて、その方針の中で国は動いていくんだというのと、理想もなく、ましてや戦争肯定でやっていくのではまるで違うでしょう。
 戦争でテロを撲滅するというブッシュの考え方は、これまで戦争がもたらしてきた痛苦の歴史から何も学んでいません。戦争によって問題は解決しないとする憲法9条の考え方こそ、これからますます大切になっています。自衛隊のイラク派兵や憲法改悪は、戦争とテロの悪循環の泥沼へ沈んでいくだけです。

 ○侵略戦争の加害責任をきちんとする必要がある日本


−−このような状況で、戦争の悲惨さを痛切に訴える「火垂るの墓」は、なおさら多くの方に観て欲しい作品だと思います。
高畑  「火垂るの墓」をつくって16年たちましたが、さいわい毎年夏にテレビで放映され、DVDやビデオでも観ていただいています。
 私自身、小学4年生のときに、岡山市で空襲にあいました。家を焼かれ、家族とはぐれ、火の中を2日間逃げまどいました。
 戦争の悲惨さを体験したものとして、平和の大切さを訴える作品をつくることができたことはよかったのですが、一方で、日本のしかけた戦争が末期になってどんなに悲惨だったかだけを言っていてもいけないと思っています。
 じつは「おもひでぽろぽろ」をつくる前に、しかたしんさん原作の『国境』をもとにして、日本による中国への侵略戦争、加害責任を問う企画を進めていたのです。残念ながら、天安門事件の影響で企画が流れたのですが、日本が他国に対してやってきたことをきちんと見つめなければ世界の人々と本当に手をつなぐことはできないと思っています。

 ○労働組合のおかげで仲間ができ民主主義を学んだ


−−最後に私ども労働組合の仲間へのメッセージをお願いします。
高畑  私は東映動画の労働組合で副委員長をやったことがあって、宮さん(宮崎駿氏)とは仕事ではなく、労働組合で知り合いました。労働組合のおかげで多くの仲間ができ、職場集会で毎日のように議論したり、苦労して日刊の機関紙を発行する中で民主主義を学びました。みなさんも仲間をたくさんつくって行政をよくしていってください。
−−長い時間ありがとうございました。(03年12月1日、インタビュー収録)



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