●職場討議資料
寒冷地手当の改悪は給与全面改悪の突破口
1月26日、人事院は、寒冷地手当の支給地域、支給額を、「民間企業での同種手当の支給状況に基本的に準拠」させるとして、大幅な「見直し」改悪を提案してきました。
いま、なぜ、寒冷地手当「見直し」なのでしょうか。
○動き出している給与制度の全面的「改革」
2002年6月、政府が決定した「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」(骨太方針)は、「(公務員給与について)地域毎の実態をふまえて給与制度の仕組みを早急に見直す」必要性を強調しました。地域の賃金水準に、そこの公務員賃金を準拠させろ、というのです。
この決定をうけ、同年7月には、内閣官房長官が人事院に「(給与制度の)改革案策定」を「要望」しました。9月になって人事院は、「地域における公務員の給与に関する研究会」を設置し、同研究会は2003年7月、「基本報告」をとりまとめています。
そして、人事院は昨年8月の勧告で、(1)地域の公務員給与は地域の民間給与の実情を十分に反映していないこと、(2)公務員給与の制度、運用が年功的になっていること、の「二つの問題意識」から、(1)給与決定における年功要素の縮小(昇給、昇格制度の「見直し」など)、(2)職務、職責の的確な反映(俸給表構造「見直し」など)、(3)勤務実績・業績を重視した給与制度(勤勉手当「見直し」など)、(4)民間給与の地域差に対応した地域手当「見直し」の4点が、「改革の基本的なメニュー」であることを明らかにしました。
「改革」の第1弾として、寒冷地手当「見直し」改悪を提案しています。
○給与制度「改革」の第1のねらいは「地域の切り捨て」
人事院の給与制度「改革」が、小泉構造改革の具体化である「骨太の方針」にもとづいていることは、先にもふれました。「構造改革」では、地域経済を切り捨てる「財源なき地方分権」が進められており、2004年度予算編成で大きな問題となった「三位一体改革」もその一つです。1月28日の日経新聞は、「三位一体改革」が、地方自治体財政を圧迫し、人件費削減が加速していると報道しました。このような財源問題も口実に公務員賃金引き下げの圧力が、地方段階で強まっています。
民間の地域別賃金指数をみると、全国100として、青森県78.5、沖縄県80.5、ブロック別に大括りして比較すると、東北86.5、九州89.8などとなります。「地域の民間の給与の反映」とは、この「地域実態」に、公務員の賃金をどれだけ近づけるのか、ということになります。
そのために、人事院は(1)全国一律の俸給表(本俸)の水準引き下げ、(2)本俸で「浮いた原資」をもとに、大都市対象の地域手当を新設、(3)地域差の拡大に対応して「転勤手当」を新設、(4)地域給与を引き上げている年功体系「見直し」、などを検討し始めています。
公務員賃金の地域間の格差を拡大するために、本俸と手当の配分比率や本俸の体系、昇給制度などの「改革」もねらわれています。
●地域からたたかい広げよう
○給与制度「改革」の第2のねらいは能力・実績強化
民間企業での成果主義賃金など年功賃金解体の動きへの「準拠」も同時に進める、と人事院は宣言しています。
具体的には、(1)俸給表水準決定における勤続要素を「圧縮」(1年1号の定期昇給の見直し)、(2)職務要素を高めるため俸給表の「重なり」を縮小(昇格間差の拡大)、(3)企画・立案部門での職責反映の手当(職責手当)を新設、などが検討されています。
地方出先機関の職員や高齢職員の給与を引き下げて、本省庁の企画・立案部門や昇格ペースの速い特権官僚に上乗せ配分する、それが民間「準拠」だと考えているようです。
また、個人の業績を一時金や昇給に反映し、一人ひとりの賃金格差を拡大する制度「見直し」に合致した評価制度の確立も課題としています。
近年、一時金の評価反映部分である勤勉手当の割合がたかまり、民間企業での考課査定部分の割合(34%)に近づいています。しかし、現在の勤務評定制度では、職員の納得を得ていないため、勤勉手当の支給月数に差をつけるなどの「民間的」な運用はできません。そのため、あらたな評価制度の確立が不可欠というのです。
○寒冷地手当「見直し」の持つ意味
【寒冷地手当とは】
寒冷地手当は、「北海道その他の寒冷の地域では、燃料費の負担が多く、温暖な地域に比べて冬期間の生活費が高くなることから、その増嵩分を補てんする手当」とされています。
一般的な暖房費の外に、寒冷に起因する被服、住宅、食料などの生活費増(生計費増)に着目した「基準額」(1級地から5級地に区分)と、暖房燃料費に着目し、特に寒冷・積雪度の高い「北海道及び北海道以外の4級地以上」で支給される「加算額」で構成されています。 寒冷、積雪による費用増という考え方は、市町村への地方交付税交付金や生活保護費基準での「寒冷補正」とも相通じています。
支給地域は、寒冷と積雪の気象データを基礎に、北海道(5級地)から山口県(1級地)まで30道府県・約1000市町村が対象になっています。給与法が適用される国家公務員約46万人のうち11万4000人に支給されています(2002年度)。支給額は、地域区分や世帯区分ごとに異なっています。
【人事院提案の問題点】
人事院の提案は、支給額も支給地域も民間の支給実態に「準拠」する手当として再編したい、というものです。その「結果」、(1)北海道以外は支給地域にしない、(2)北海道での支給額も現行の半額以下に切り下げ、という大改悪が浮かびあがってきます。
寒冷地手当に類似する民間企業の手当は多様ですが、「燃料費補填手当」の性格が強いこと、北海道以外での支給事業者が少ないことは各種の調査からもうかがえるからです。
これでは、寒冷・積雪による生計費増に着目した手当という寒冷地手当の性格を変更することになります。気象データでは北海道と大差がない寒冷・積雪状況の地域に働いていても、「民間企業で支払われていない」という理由だけで手当を支給しないという不均等処遇が生じます。
同じ仕事をしていれば、同じ条件のもとで働いていれば、賃金も同一に、というのは公務員給与を考える際に重視されるべきポイントの一つです。ですから、これまでの人事院は、公務員全体の賃金水準では「機械的」ともいえる民間準拠に固執しつつも、本俸や手当の配分にあたっては「職員の納得性」をそれなりに重視していました。「(手当などの)配分も民間準拠で」というのは、職員の意見は聞かないという宣言≠ノほかなりません。
「諸手当を全廃」(ソニー)、「年齢給を全廃」(トヨタ)、「定期昇給を来春廃止」(富士重工)など、民間大企業での賃金制度「見直し」が進みはじめています。今回の寒冷地手当「見直し」は、このような民間企業での賃金制度の「変化」に公務員給与を「準拠」させる「給与の構造改革」の突破口であることは明らかです。
○地域からたたかいのうねりを
2006年度までに総額4兆円の補助金を削減する一方で、税源は8割程度しか移譲しない「三位一体改革」に、「地方切り捨て」、「国の負担の地方押し付け」などとする不満や批判が高まっています。寒冷地手当「見直し」改悪に反対するたたかいをはじめ、地域に働く公務員を直撃する給与制度「改革」をはね返すには、「地方切り捨て」の小泉「構造改革」への怒りを高めている労働者、国民との共闘を地域から作り上げていくことが欠かせません。
国公労連は、これまでも、労働条件改悪に反対し改善を求めるたたかいを、職場と地域に依拠して進めてきました。例えば、96年の寒冷地手当「見直し」では、改悪反対の「意見書採択」等を827地方議会で獲得し、当初支給額の半減をねらった人事院の思惑を「2割削減」まで押し返す力になりました。
調整手当支給地域「見直し」反対のたたかいでは、県国公が音頭をとった連名の「上申書」闘争などが、要求前進の手がかりとなりました。中央、地方での包囲行動やねばり強い交渉で、かたくなな人事院の姿勢を変えさせたこともあります。
給与制度「改革」とのたたかいでも、これらの教訓をいかした、地域からのとりくみを重視します。
当面の課題である寒冷地手当改悪反対のとりくみでは、2月25日北海道・札幌を皮切りに開催する各地域での「決起集会」で意思統一し、署名や地方議会要請行動、各省当局交渉、人事院追及などを一気に展開します。寒冷地手当支給地域はもとより、給与制度「改革」反対の緒戦のたたかいと位置づけた全国的な運動を春闘期から勧告期にかけて展開することとします。
※寒冷地手当改悪反対での集会行動のとりくみ計画
○2月25日 北海道集会(札幌)
○2月26日 東北集会(仙台)
○3月3日 北陸・上信越集会(新潟)
*以上は公務労組連絡会規模で開催
○3月6日 近畿集会(京都)
○3月11日 北陸・東海集会(金沢)
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