<国公労新聞・第960号1997年7月11日付より>

シリーズ「行革」を考えるF

国の役割放棄する省庁再編反対


 6月25日に省庁ヒアリングを終えた行政改革会議は、8月18日からの「集中討議」にむけて、論議を加速させています。
 国公労連が、7月3日に、行政改革会議に対しておこなった「申し入れ」は、同会議の検討が国の役割を治安、防衛、外交など「国でなければできない公的サービス=純粋公共財の提供」に限定していることに基本的な疑問を投げかけています。

福祉国家の追求は国の責任

 国公労連は、「民主的行政改革にむけた提言(第1次案)」でも明らかにしているように、政府の役割は、国民の基本的人権の実現を不断に追求することにあると主張しています。
 公権力を行使して国民の安全や権利を保障する警察などの治安機構は、どの程度の規模と権限であるのかは別にして、政府が担うべき役割であることに異論はありません。
 しかし、そのような「基本的な分野」だけのために国民は税負担をしているのではありません。国民主権を宣言した現行憲法下では、生存権の確立をはじめとした「福祉追求」の権利を保障し実現をめざすことが、政府の責任として確認されてきました。そのことを前提に、各省庁の機構や組織が設置され、業務の内容も決定されてきています。  

国の役割を根本から見直す行革会議の検討

 行政改革会議の議論では、二一世紀の「我が国が目指すべき姿」を次のように描いています(「行政改革の理念について(討議資料)」6月25日公表)。
 @国際社会の一員としての役割(平和の維持、国際的な経済活動、国際秩序の確立など)を積極的に果たす国。
 A(自己責任原則の下で)自由な活力ある公正(機会均等)な社会。
 B安全で安心できる社会。
 国民一人ひとりの暮らしを保障することは国の役割として掲げられていません。国際的な平和の維持は日米安保条約を前提にしていること、国際的な経済活動が多国籍企業を前提にする国際間の「分業」や規制緩和をさしていることは明らかです。

社会保障切り捨てと省庁再編は同根

 このような国の役割「見直し」を前提に行政(組織)改革を進めていることから、病院や大学、職業紹介、統計事務などは政府が担う業務ではないとして、民営化が検討されることになってしまいます。あるいは民営化の「次善の策」として、国が日常業務に政府が責任を負わない「独立行政法人(エージェンシー)」が検討されることになっています。
 教育や医療など「政策的な観点」から政府がおこなう行政分野としているものはできるだけ政策の企画に純化する、治安関係の業務をはじめとして「大くくりに再編」するなどの検討方向も、国の役割を根本から「見直す」ことに起因しています。
 「財政構造改革」でも明らかな軍事費などのムダづかい温存の一方での社会保障切り捨てと、エージェンシーなどの省庁再編は、切っても切れない関係で検討されています。

(参考資料)

行政改革会議の検討課題に対する国公労連の意見の概要

@政策部門と実施部門の分離について
 国公労連は、行政を政策部門と実施部門に分離する省庁再編に反対。
【理由】
○政策部門と実施部門の分離は、行政責任の所在を曖昧にする。
○行政の一体性と、そのことで担保される機動性は、行政にとって不可欠。

Aいわゆるエージェンシーについて
 「日本型エージェンシー構想」については、国公労連としては反対。
【理由】
○実施について国が責任を負わず、政策立案だけで行政責任が果たせる事務はない。
○公共性よりも効率性追求を優先するエージェンシーは反対。
○職員の身分保障の安定性が揺らぎ、行政の安定性を損なう。
○特殊法人と、エージェンシーとがどのように異なるのかまったく不明。

B民営化、民間委託について
 国公労連は、行政の民営化には反対。また、民間委託についても基本的に反対。
【理由】
○民営化の検討が求められている病院、大学などは、国の役割からしても断じて行うべきではない。
○民間委託は、業務全体の専門性を低下させたり、定員管理との関係で割高な民間委託をおこなうことなどの弊害がある。

C中央省庁の再編
 大括りの中央省庁再編には、国公労連として反対。
【理由】
○政策立案中心の「大省庁」では、多様な行政需要に応えて国民の権利を守る省庁組織とならない。

D内閣機能の強化について
 国公労連は、憲法原理にそわない首相の権限強化には反対。

E公務員制度について
 天下りの禁止、労働基本権回復や「封建的身分制」の払拭の観点での制度見直しは急務。


トップページへ   前のページへ