<国公労新聞・第964号1997年9月1日付より>

「橋本行革」の大枠固め国民生活破壊する「財政構造改革法」は許さない

−国民生活重視の財政再建めざし署名を集めよう


 政府は、9月末からの臨時国会に、「財政構造改革法」(仮称)を提出することを決定しています。そして、この法案の成立を既定のものとして、98年度概算要求の編成や、それともかかわる医療保険制度などの制度「見直し」を急ピッチで進めています。
 6月16日に政府が確認している「財政構造改革のための法律案の骨子」は、「2003年度までに、国・地方の財政赤字を対GDP(国内総生産)比3%」ととし、「特例公債(赤字国債)脱却を達成」するとしています。そして、「聖域なし」で財政再建を進めるとして、1998年度から2000年度を「集中改革期間」に設定し、特に主要な経費(社会保障、公共投資、文教、防衛等)の「量的縮減目標」を定めるとしています。
 国・地方あわせて500兆円ともいわれる「借金」が累積した原因や処理策の真剣な検討もおこなわず、高齢化社会に向けて増加せざるをえない社会的費用の削減など国の責任放棄を「財政再建」と言い換え、「橋本6つの改革」の大枠を決めるそのような法律は、とても認められるものではありません。
 そのことから、国公労連は7月から「財政再建署名」を展開しています。この署名を成功させるためにも、「財政構造改革法」の問題点を明らかにしたこの特集で職場論議をお願いします。

こんなに国の借金が増えたのはなぜ?

 1980年代初頭から、「財政再建」と「行政改革」が一貫して叫ばれてきました。
 それなのになぜ、国の借金は増え続け、いまや「破産」寸前の状況になったのでしょうか。高齢者が増えて、社会保障費が増えたからでしょうか。バブル経済の崩壊によって、税収が落ち込んだからでしょうか。それだけではありません。
 日本の貿易黒字に対する批判から、内需拡大策をアメリカから求めらた日本政府は、NTT株の売却益をつぎ込み、90年には「430兆円」(10年間)の公共事業実施を「約束」します。

大企業とアメリカいいなりに無責任な浪費つづける

 この「約束」は、バブル不況下の94年に、630兆円に「増額」され、期間も2004年まで延長されます。「日本列島改造計画」が動き出した1970年から、道路や橋、埋め立てなどの「大型プロジェクト」中心の公共事業偏重の財政運営が続けられ、そのために「建設国債」や「地方債」が発行され、そのツケが雪だるま式に膨らんでいます。
 また、軍事費やODA予算は「財政再建」の中でも「聖域」とされ、歳入面では大企業優遇税制にみられる「抑制」が長年おこなわれています。
 このような税金のムダ遣いの一方での大企業への税免除が重なり、加えて地方自治体にも補助金等をつうじて公共事業偏重の運営をせまった結果が、約500兆円もの巨額な財政赤字です。

「財政構造改革法」で財政再建ができるの?

 財政構造改革法では、「一切の聖域なし」で歳出削減を進めるとしています。予算項目ごとの「総量」を抑制し、財政再建を進めようとする手法は、「シーリング」の変形でしかなく、軍事費や公共事業のムダ遣いにメスを入れるものではありません。

ムダづかいにメス入れず国民犠牲すすめる

 一見公正そうに見えるこのような方法が、実は社会保障費や人件費など「自然増」を余儀なくされる分野により厳しい予算削減を求めるものになること明らかです。
 それは、これまでの歳出のあり方にはほとんど手をつけず、これからの歳出をどう抑制するかが中心になっているからです。年金や医療について、制度改悪にまで踏み込んでいることがそのことを如実に示しています。

国民犠牲の上に「財政再建」もできない「改革法」

 大蔵省は、97年度で7兆5千億円ある赤字国債を「2003年にゼロ」にするためには、毎年1兆2500億円づつ削減しなければならない、と試算しています。
 ところが、「財政構造改革法」で削減するとしている公共事業費は6900億円であり、ODAなどの削減をあわせても1兆円にもなりません。最初から、目標達成が困難な内容になっているのです。
 ここからも、一方で「自然増」となる社会保障費や人件費の「増加抑制」=「財政再建」とする「構図」が描かれることになります。
 「ムダ遣い」を改めることなしには、財政再建ができないことは明らかです。

「財政構造改革法」の本当のねらいはなに?

 最初から、「財政再建」ができないことが見え見えのものをなぜ「財政構造改革」と政府はいうのでしょうか。
 大蔵省の審議会は、「国としてやらなければならない分野の歳出に絞る」ことを、財政構造改革の目標にしています。
 ここでいう「国でなければできないこと」とは、防衛や治安、外交、さらには多額の費用を要する開発であることは明らかです。98年度概算要求で、公共事業等で5000億円の特別枠を設けたのも、そのことを示しています。

「改革」の名で国民生活関連をばっさり切る

 ここから考えられることは、教育や社会保障など国民生活を豊かにし、最低生活を保障する分野の歳出を限りなく削減していくことを財政構造改革と称していることです。これは、「行政改革」での行政サービス部門の切り捨てと軌を一にしています。
 同時に、気をつけなければならないことは、歳入の問題です。財政構造改革では、「集中期間」に目標達成が困難になった場合は、改めて検討を行うとしていますが、そのねらいが消費税率のさらなる引き上げにあることは明白です。「やらずぶったくり」とはこのことです。

国民の願いに応える財政再建とは?

 他の先進諸国では、すでに公共事業の見直しが進んでいます。アメリカでは、ダムの建設が中止されています。今、日本でも公共事業費削減にむけた形ばかりの動きが出始めていますが、少なくとも欧米並の公共事業費の割合におとし、それを社会保障費などにまわすことが必要です。また、軍事費は半減させるなどの対応も必要です。

公共事業や軍事費などのムダづかいをやめさせよう

 東京都議選では、老人福祉切り捨ての「シルバーパス」の問題が争点となり、その廃止に対する都民の批判がわき起こりました。諫早湾干拓問題をはじめとして、環境問題からも公共事業のあり方が問われています。
 このような国民の「常識」の声を背景に、「財政構造改革法」の問題点を国民に訴えていくことが大切です。  そのことは、「行財政改革」=「公務員べらし」とする世論誘導への反撃であり、国民本位の行政体制確立をもとめる運動の一つの柱です。
 このことは、「財政再建」を名目に強まっている「賃金凍結」や「定員削減」に対する反撃のたたかいに対する国民の指示を広げることにもなるのです。


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