司法制度改革審議会意見書について(談話)
2001年6月13日
国公労連書記長・小田川 義和
 昨6月12日、政府の司法制度改革審議会は、2年間の審議を経て、意見書を内閣総理大臣に提出した。
 司法制度改革審議会は、「国民がより利用しやすい司法制度の実現、国民の司法制度への関与、法曹の在り方とその機能の充実強化その他の司法制度の改革」を調査審議することを目的として、内閣の下に設置されたものである。今回の司法制度改革にあたって、国民が求めたものは、公正で・迅速な裁判による人権の救済と正義の実現、司法への国民参加と官僚的司法制度の改革であり、財界が求めたものは、行政改革、規制緩和の補完を中心とする司法制度だった。
 今回の意見書の内容は、多岐にわたるものであるが、まず、最大の課題とされた司法への国民参加では、今回も陪審制の復活は見送られたが、一定の重大事件について、裁判官と同等の権限で一般国民が参加する「裁判員」制度の導入を提言、検察審査会の一定の議決に法的拘束力を与えることも提言された。一方、裁判官、検察官とともに、書記官等裁判所職員の増員も提言しているが、具体的数字は提示されなかった。雇用・労使関係に専門的知識を有する者の関与する労働裁判制度の導入の検討は先送りされた。法科大学院設置などによる法曹人口の拡大、判事補に裁判官以外の法律専門家の経験を積ませることや弁護士任官の推進などは打ち出されたが、民主的法曹団体などが求めていた法曹一元化は提言されず、官僚的司法制度の改革の実をあげるには不十分なものと言わなければならない。また、裁判を受ける権利の不当な制限にならないかと疑念を呼んでいた弁護士報酬の敗訴者負担については、「不当に訴えの提起を萎縮させないようにする」としつつ、導入を提言した。裁判によらない紛争解決手段、いわゆるADRについては、ADR基本法を提唱し、積極的活用を提言しているが、権利の最終的救済措置であるべき裁判との関係が明確にされておらず、裁判の形骸化の危険性を含んでいる。さらに、行政に対するチェック機能を強化するための行政訴訟の見直しは、一方の当事者である政府の検討に委ねられた。
 このように、意見書は、積極的な内容、積み残しの課題、政府に検討が委ねられた課題、問題を含む内容が混在しており、改革が国民の期待する方向に前進するには、一定の障害が存在する。特に、「今般の司法制度改革の基本理念と方向」で、政治改革、行政改革、地方分権推進、規制緩和等の「この国のかたち改革」の「最後のかなめ」として司法改革を位置づけていることは、今後の方向をゆがめる危険性をもっており、監視していく必要がある。この点で、自民党が最終段階の審議へ向け、ADR基本法などを提言し、圧力を加えてきたことは重要である。したがって、これからの国民的取り組みいかんが、改革の実際の方向を左右すると言わなければならない。
 この意見書を受けて、政府は、「司法制度改革推進本部」を内閣に設置し、2004年度までに改革の実現を図るとしている。国公労連は、これまで国民本位の司法制度をめざし、日本弁護士連合会(日弁連)の提唱した100万署名や「労働者にとって信頼できる司法制度の実現を求める」団体署名に取り組んできた。それらの取り組みは、意見書の内容にも反映されてきた。今後の法案具体化に当たっても、国家公務員としての専門性をも生かした労働裁判・調停制度への提言をすることも含め、広範な民主的法曹、労働組合、市民団体とともに、意見書の積極的な内容の後退・歪曲を許さず、不十分な点を補い、問題点は徹底して除去していく取り組みを進め、司法制度改革が国民本位の方向に進むよう奮闘する決意である。

以上


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