ルール無視の無責任な「賃下げ」発言の撤回を求める
-竹中国務大臣等の「公務員賃金一部カット」発言に抗議する談話-

 さる5月26日、テレビ朝日の討論番組「サンデープロジェクト」に出演した竹中国務大臣は、「経済活性化」のための税制改革に取り組むに当たって、「公務員給与を一部カットすることも含めて、歳出削減を本気でやる」と述べた。発言では、歳出削減の「象徴」として公務員賃金を取りあげ、人事院勧告制度の「見直し」にも言及し、その後も同趣旨の発言をくり返しおこなっている。28日には、小泉首相も「あらゆる歳出を見直すから、そういうの(公務員賃金カット)も検討していく一つの課題」と述べたと報道されている。
 これらの発言は、一部の多国籍企業の国際競争力強化を唯一最大の課題に、経済財政諮問会議が検討を進めている経済・財政「構造改革」の一環として、「政策的」な立場から公務員賃金の引き下げが検討されていることを明らかにしたもので、政府が賃下げの「悪魔のサイクル」を主導する姿勢をしめす発言である。
 国公労連は、このような発言を断じて容認できない。

 竹中国務大臣の発言で、とりわけ重要と考えられる以下の点を指摘したい。
 第1に、労働者にとって唯一の生活の糧である賃金を、経済政策の面からだけ論じていることである。公務員も労働者であり、賃金をはじめとする自らの労働条件を、自らが参加する労使交渉によって決定する権利、すなわち労働基本権が否定されてはいない。現状は、その権利を制約する「代償措置」として人事院勧告制度が設けられており、「人勧制度の維持尊重」が政府のこれまでの統一見解である。人件費(賃金)が、政府予算書の歳出の1項目であっても、政府が、その取り扱いについて言及する場合には、労働者の基本的人権との整合性という憲法上の問題を抜きにしてはならないことは当然である。その点で、竹中国務大臣の発言や、これを是認する小泉首相の発言は、ルール無視の無責任なものである。
 法治国家、民主主義のこの国において、憲法をはじめとする「法のルール」を遵守することは、内閣に対する信頼の要である。有事法制や医療制度改悪など、「小泉構造改革」の名による多くの課題が、「法のルール」を踏みにじって具体化されようとしているが、発言もその延長線にあり、国公労連はこれに厳しく抗議する。

 第2に、その点ともかかわって、小泉内閣の無定見さを指摘したい。政府は、昨年12月25日に、公務員労働者の労働基本権制約を「現状維持」するなどの「公務員制度改革大綱」を閣議決定した。それをおこなった内閣が、これとは別の経済政策では、閣議決定をいとも簡単に覆す発言をおこなうことに、驚きと怒りを禁じ得ない。国務大臣自らが内閣の連帯責任を放棄し、個人的とも思える発言を、マスコミを通じておこなうことも、ルールをふみにじる無責任なものである。仮に、内閣の意思統一のもとに、公務員賃金の引き下げ、人事院勧告制度の見直しに言及しているのであれば、公務員労働者の労働基本権回復を前提にした公務員制度改革の検討を同時におこなうべきであり、小泉首相は、「公務員制度改革大綱」の撤回、抜本的見直しを指示すべきである。

 第3に、一部大企業の生き残りをめざすためであることが明らかな「経済活性化」政策をごり押しする「露払い」に、「公務員賃金カット」をおこなおうとしていることである。これまでもくり返し同様の「手法」が使われてきたが、そのことが国民と公務員労働者との不必要な「対立」をあおり、行政サービスの後退や停滞の一因にもなってきたことを率直に指摘したい。
 今回の「経済活性化」策の「目玉」が税制改革にあり、その内容が法人税率の引き下げの一方で、消費税率の引き上げや課税最低限の引き下げなどの大衆課税強化(国民負担増)におかれていることが明らかになっている。このような大企業優先、国民いじめの政策を強行するための「露払い」に、公務員労働者に激痛を強いることを平然と発言していることにも怒りを禁じ得ない。
 もとより、国の財政に巨額の債務が累積するもとで、歳出等の見直しは不可欠である。しかし、その方向は、「公共投資50兆円、社会保障20兆円」に象徴されるゆがんだ財政構造の見直しや、巨額の内部留保蓄積の「温床」となっている大企業優遇税制の見直しが優先されるべきである。財界・大企業が先導する賃下げなどのリストラが、深刻な消費不況を招いている事態を見ることなく、企業さえ良ければとする「経済活性化」策は、亡国の政策でしかない。

 小泉内閣の支持率が低下しているが、その一つの理由に、経済政策・景気対策に対する国民的不満があることは、各種の世論調査でも示されている。カリスマ性を失いつつある小泉内閣の「目玉」の国務大臣が、公務員いじめを突破口にして政権内での求心力を高めようとしているのであれば、その動機の不純さも批判されなければならない。
 国公労連は、マスメディアを通じた論議抜きの無責任発言を即時撤回するよう強く求める。仮に、確信を持った発言であるならば、小泉首相と竹中大臣は、公務員労働者の労働基本権回復など「働くルールの確立」、公務員労働組合との交渉・協議についても、責任ある対応を即座におこなうべきである。

   2002年5月29日

日本国家公務員労働組合連合会   
書記長  小 田 川 義 和

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