現在発売中の週刊東洋経済(2007/7/14号)が、「ニッポンの公共サービスと公務員」と題した特集を掲載しています。編集部は、「私たちは大きな政府の支持者でも公務員改革反対論者でもありません。ただ、議論の前に『現場』の現実を知るべきだと考えます」と、冷静な議論を呼びかけています。すべてが私たちと同じ立場の記事ではありませんが、「行政破壊の現実」として紹介されたさまざまな実態は、ていねいな取材と、いっさいの偏見を排した秀逸な内容です。
以下に概要をお知らせしますが、今週いっぱい書店等にならんでいます。多くのみなさんにお読みいただき、編集部に激励のメール等をお送りください。
メンタルヘルス
「安定した生活を保障されているはずの国家公務員。世間のイメージとは異なり、精神疾患を患い、自殺に追い込まれる人が増えている。」
記事では、高卒5年目の社会保険庁職員が、業務センターでの、連日連夜の過酷な長時間勤務の結果、心身の変調を来し、自殺に追い込まれた実態を紹介します。そして、こうした問題が国家公務の職場で深刻化し、今や国家公務員の死因の2位が自殺であることを、統計を示しながら伝えています。
長時間残業の実態では、霞国公の「残業実態アンケート結果」にもふれながら、職員の過労死への不安や、不払い残業の試算を明らかにしています。そして、人事院が自殺や精神疾患増加の分析を行えていない現実から、「公務員制度改革などの議論は、公務員の労働実態を踏まえないままなされている」と批判しています。
また、国公一般浅尾書記次長のコメントによって、誰にも相談できず悩みを抱える公務員の姿を描き出しています。
Interview
先の国会で成立した「改正」国公法に関し、国公労連福田委員長のインタビュー記事が掲載されています。委員長は、労働基本権を付与しないまま、能力実績主義を導入したことや、分限免職の要件に人事評価を盛り込み、クビ切りを容易にしたこと、官民人材交流センターは癒着構造をいっそう深めるものと、問題点を指摘しています。そして、「行政の公正性、民主性、中立性が担保されないことになるのではないか」と結んでいます。
社会保険庁
社会保険庁問題では、そこに働く非常勤職員に光を当てながら、さまざまな問題点を指摘しています。
「日ごろは年金行政批判の最右翼」と紹介される一橋大学高山憲之経済研究所長は、「年金記録問題の原因は市区町村や企業の担当者、そして本人の記入ミスにもある」「政治家は職員を非難する前にやることがあるはず」「職員は追加処分と雇用継続不安におびえながら削減された陣容で激務に追われている。賞与を自主返納してもポーズだと言われては、士気は上がらない」と言います。そして記事は、記録管理問題は、40年も前から幹部が認識し、さじを投げてきたとし、いま在籍している職員をたたけば解決するような単純な問題ではない、と批判しています。
そして、いま社会保険庁の第一線を、時給換算で800円台の多くの非常勤職員が支え、しかも批判の矢面に立たされている実態を明らかにしています。年金電話センターでは、軽微な相談対応のはずが、あらゆる相談に対応させられ、「泥棒集団だとか、暇人の集団だとか…。『ぶっ殺すぞ』とまで言われた時は身の危険を感じた。」という体験談が寄せられています。しかも、「廃止後は雇用を約束できないが、廃止するまでは辞めてもらっては困ると言われた。身勝手すぎる。」と社会保険庁の対応への怒りが語られています。
ハローワーク
市場化テストの対象として、この間狙われ続けているハローワーク関連業務について、これまで実施された民間委託が、国にくらべて実績をあげていない事実を紹介しています。
市場化テスト「モデル事業」として行われたキャリア交流プラザの運営や、求人開拓事業の結果について、「官が民を圧倒している」としています。具体例として、求人開拓事業では、「一部の民間事業者に至っては、本来一つの求人を複数の求人として受理したり … 不正すら横行した。思わぬ苦戦もあってか求人開拓事業は今年度、高知、長崎では応募者がゼロ、北海道でも落札ができなかった。」と評価しています。「モデル事業」に先行して、足立区が実施した足立職安とリクルート社が競う「官民共同窓口」に関しても、実績を表で示して「官の圧勝」としています。
記事では、ハローワーク業務の市場化テストについて、人材紹介最大手のインテリジェンス鎌田和彦社長のコメントを紹介しています。「市場化テストへの関心はまったくない。ハローワークが行っているのはセーフティネット。国が国として国民に保障すべき事業だ。それを忠実にやるのは官以外ありえない。」、一般マスコミは決して載せない内容です。
ほかにも、自治体業務や郵便局、保育所、ゴミ収集などの業務が、人員削減や民間委託によって、いかに機能不全を起こし、利用者サービスの低下を招いているかが、具体的な事例をもとに示されています。そして、行政を支える公務員が、「親方日の丸」などとはまったく異なり、過酷な労働を強いられている実態が紹介されています。
▼〈参考〉週刊東洋経済のホームページ
http://www.toyokeizai.co.jp/mag/toyo/2007/0714/index.html
以上
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