◆第一線で働く公務員の存在を無視
「公務員制度の総合的な改革に関する懇談会」が報告
内閣総理大臣の下に設置されていた「公務員制度の総合的な改革に関する懇談会」は、1月31日に報告をとりまとめ、2月5日に政府に提出しました。政府は、報告をふまえて公務員制度改革基本法案の策定作業を進め、今国会に提出することとしています。
◆労働基本権を真正面から議論せず
議論の中心は「霞が関の官僚」
報告内容は、採用から退職までの多岐にわたっていますが、議論の中心はいわゆる「霞ヶ関の官僚」であって、批判の的ともなっている特権的キャリア制度の問題です。
しかし、公務員制度全般を論じるというのであれば、圧倒的多数を占める行政の第一線で働く公務員が存在することを前提に論じるべきです。
懇談会では、第一線で働く公務員のことは眼中になく、幹部公務員の問題だけを論じているといっても過言ではありません。
いずれにしても、「構造改革」路線で強調された小さな政府をめざして、道州制の導入を前提とする公務員制度の改革案だと思えてなりません。
◇政官財の癒着には踏み込まず
報告は、政治家との接触問題、幹部職員等への育成と選抜、官民交流などを論じていますが、その内容から汚職や腐敗の元凶ともいえる政官財の癒着を根絶しようとする姿勢がみられません。かえって、国家公務員法の根本原則である公務の政治的中立性、公平性と公正性が歪められる恐れがあります。
◇使用者が人事管理、労働基本権はふれず
さらに問題があるのは、労働基本権に関し「専門調査会の報告を尊重する」としているだけで、具体的な議論が行われた形跡がないことです。人事管理を行う内閣人事庁を設置するとしていますが、一元的に人事管理を行うとしているだけで、それが使用者としての責任を果たしうる機関なのかが全く不明です。
また、報告は労働条件についてまで言及していますが、それは越権行為というべきであり、労働基本権の完全な回復こそが前提とされなければなりません。
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◆行政の政治的中立性に疑問符
議院内閣制に政治任用拡大ミスマッチ
報告では、内閣に大臣、副大臣、大臣政務官のほか、各大臣を政務で補佐する「政務専門官」を設けることと併せ、内閣官房に内閣の国家的重要政策の企画立案を機動的に行う「国家戦略スタッフ」を任用し、議員内閣制にふさわしい体制を確立するとしています。
このため、当初は政治家と官僚の接触を禁止するとしていましたが、様々な反発もあり「政務専門官」という中途半端な形に終わっています。
07年4月に経済同友会が出した「中央政府の再設計」では、政治主導の行政運営の必要性を提言しています。今回の報告は、政治主導の行政運営という財界の要望とも符合するものです。
◇議院内閣制に反する中身
報告は、議院内閣制にふさわしい公務員の役割として、「国家戦略スタッフ」などを任用するとし、政治家と官僚の接触禁止も打ち出しています。
議院内閣制では、行政は議会のコントロールのもと政治的中立性が保障されなければなりません。しかしこの報告では、政権与党が政治的な意図を持って職業公務員から政策スタッフを任用することができます。
これは、政党が自ら担うべき機能であって公務員制度に組み込むべきではありません。また、政治家と官僚との接触を原則禁止とすれば、野党の行政監視機能も弱められる恐れがあります。
議院内閣制では、政権交代が行われることを前提に制度設計することが必要です。
だからこそ、政党政治の成熟と行政の中立性が求められるのであり、その観点が欠落している報告は、議院内閣制に反する中身というべきです。
◆コース別人事でキャリア制度を合法化
民間採用をさらに加速
民間からの受け入れは、現在でも大幅に拡大しています。
そのために、内部昇進の機会が縮小されることにもつながっています。
報告は、計画的な中途採用の拡大も打ち出していますが、次のような問題点も指摘できます。
(1) 民間からの中途採用の仕組みは現行制度でも整備が進んでいますが、それでは不十分という理由が不明です。官民の垣根を現状以上に低くしすぎることは、情報の漏洩や官民の癒着につながりかねません。
(2) 新規採用者を採用し、税金を使って職業公務員を育成することと、中途採用者との任用関係が不明であり、その有用性も不透明です。
◇採用も政治的な監視のもとに
報告は、採用試験を「院卒者試験」「大卒者試験」「高卒者試験」の3段階としたうえで、一般職、専門職、総合職の「資格試験」を設けるとしています。「総合職」は内閣人事庁が一括採用して各省に配属し、「一般職」は各省採用とされています。
これも内閣・政治主導で職業公務員を活用するための仕組みであり、行政の中立性を歪めるものに他ならず、次のような問題が指摘できます。
(1) 一般職と専門職採用試験を、入り口の段階で幹部候補者とその他の身分的なコースに振り分ける制度へと大きく変質させるものです。
(2) 総合職試験の合格者数と実際の採用者との関係も不明です。仮に合格者を採用予定者の4倍程度に水増し、内閣人事庁がその中から自由に選抜する仕組みともなれば、採用者である内閣の側に選択の幅が広がり、情実や政治的意図が働く余地も生まれかねません。
(3) 総合職の場合、一括採用と各省への配属に留まらず、2年後の「幹部候補育成課程」への選抜、その後の再配置、人事評価や幹部候補者の絞り込みなどでも内閣人事庁の関与が続き、常に政治的な監視の下に置かれ続けます。こうした仕組みは、公務員の政治的中立性確保の点で重大な問題があるばかりか、各省の上に立つ内閣人事庁が各省の任命権を著しく制約することにもなり、疑問が残ります。
内閣人事庁が一元的に人事管理を行うことは、政治任用の拡大による行政の政治的中立性が困難となることに加え、さらに採用の段階から政治の関与を強めることにつながります。
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◆公務員の労働基本権回復が先
民主的な公務員制度の実現を
内閣人事庁は、いわゆるキャリアや幹部職員のための人事行政機関といえます。
しかし、キャリアや幹部職員だからこそ、人事行政の中立・公正性が確保されなければなりません。これまで、人事行政に関する機能を、あえて内閣から独立した人事行政機関である人事院の機能とされてきたのは、議院内閣制の下にあって、「行政」が「政治」の影響を受けることなく運営されるための担保としてであり、政府機関の権限とすることは行政の中立・公正性の確保という点で問題です。
◇労働条件への言及は越権行為
労働基本権の付与に関しては、「専門調査会の報告を尊重する」としていますが、専門調査会の報告は、協約締結権は付与するが、争議権については両論併記で結論が出ていませんし、消防職員と刑務所職員の団結権についても両論併記です。こういう報告を尊重するということは、労働基本権問題については踏み込んだ検討をしていないことの表れです。
一方で報告は、給与体系の抜本的改革(勤続20年超の年功昇給の停止、評価に基づく降格・降給)や退職金の年功頭打ち制の導入など労働条件の変更にも言及していますが、労働基本権が制約されている下では代償機関に属する課題であり、越権行為も甚だしいといえます。
◇公務員の市民的政治的自由を
報告は、幹部公務員のための改革に終始しており、国民の立場からかけ離れているといえます。民主的な行財政・司法の確立のためには、それにふさわしい公務員制度の改革が求められます。
そのためには、労働基本権制約、公務員の市民的・政治的自由の侵害など、公務員労働者の基本的人権を侵害している現行法制の抜本的改革こそが欠かせない課題であり、関係者の意見を聴いて、憲法を基調とした国民のための公務員制度改革を進めるということが必要ではないでしょうか。
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