◆地方分権・道州制特集
政府は、地方分権改革推進委員会において、地方分権一括法の策定に向けた議論を進めています。また、財界は「究極の構造改革」として道州制の導入を求め、政府もその動きを強めています。国民にとって、また、私たち国公労働者にとって大きな影響のある問題に焦点を当てます。
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◆〈政府の動き〉推し進められる国民無視の「地方分権」
政府は、「国民がゆとりと豊かさを実感し、安心して暮らすことのできる社会の実現すること」を目指すとし、地方分権改革を総合的かつ計画的に推進するため、06年12月に「地方分権改革推進法」を成立させました。
法に基づいて設置された地方分権改革推進委員会は、「国と地方の役割分担や国の関与のあり方」について見直しを行い、政府に勧告することとしています。
政府は、勧告に基づき必要な措置を図り、関係法案の提出などを行うこととしています。
◇強権的な委員会
地方分権改革推進委員会は、07年11月に「中間とりまとめ」を行い、08年春から順次政府に勧告を行うこととしました。
そのため同委員会は各省ヒアリングを行っていますが、各省は国としての責任と役割から「ゼロ回答」を繰り返しています。委員会の丹羽宇一郎座長は、声高に不満を表明し、政治主導による対応を求めています。そこには、国民の生活や権利、地方自治を拡充する意図はなく、単に国の業務と人を地方移譲し合理化する姿勢が際立っています。
◇月内に第一次勧告へ
地方分権改革推進委員会は、5月28日にも勧告をとりまとめ、首相に提出する方向で最終調整を行っています。第1次勧告には、一部のマスコミで報道されたように、河川と道路の管理をはじめ、福祉関連が盛り込まれる方向となっています。
年内に予定されている第2次勧告では、地方支分部局の整理統合とともに、税財源の移譲についても盛り込むものとし、翌年の一括法案に反映させることが狙われています。
地方分権改革推進委員会「第1次勧告」(原案)の構成
〜生活者の視点に立つ「地方政府」の確立〜
はじめに
・審議の経過
・第1次勧告の提出に当たって(委員会の決意)
第1章 国と地方の役割分担の基本的な考え方
(1)「地方が主役の国づくリ」に向けた今次分権改革の理念と課題
(「中間的な取りまとめ」のエッセンスを含む。)
(2)国と地方の役割分担
・国が重点的に担うべき役割(法制的な仕組みの横断的な見直しを含む。)
・国と地方の役割分担のメルクマール
(3)広域自治体と基礎自治体の役割分担
第2章 重点行政分野の抜本的見直し
(1)くらしづくり分野関係
幼保一元化・子ども、教育、医療、医療保険、生活保護、福祉施設の最低基準、民生委員、公営住宅、保健所・児童相談所、労働
(2)地域づくり分野関係
土地利用(都市計画・農地・森林)、道路、河川、防災、交通・観光、商工業、農業(土地利用を除く)、環境
第3章 基礎自治体等への権限移譲と自由度の拡大
(1)基礎自治体への権限移譲の推進
@基礎自治体への権限移譲の考え方
A基礎自治体への権限移譲の方針と権限移譲を行うべき事務
(別紙1)「基礎自治体への権限移譲を行うべき事務」
B条例による事務処理特例制度の活用の促進
(2)補助対象財産の財産処分の弾力化
・補助対象財産の転用等に対する制限の改善
(別紙2)「補助対象財産の転用等に係る制限の改善に関する措置について」
第4章 現下の重要二課題について
(1)道路特定財源の一般財源化について
(2)消費者行政の一元化について
第5章 第2次勧告に向けた検討課題
(1)国の出先機関の改革の基本方向
・国と地方の役割分担と国の出先機関の見直しの視点
・見直しの進め方
(別紙3)「国の出先機関の見直しについて(事務・権限の仕分けの考え方)」
(2)法制的な仕組みの横断的な見直し(義務付け・枠付け、関与)
・横断的調査の実施
・見直しの進め方
・地方自治法制関係事項の見直し
おわりに
(分権型社会に向けた税財政構造の構築についての今後の議論の方向を含む。)
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◆〈財界の動き〉人員削減ありきの「地方分権」・道州制
地方分権・道州制では、財界の強い後押しが特徴です。
経済同友会は、07年4月に「中央政府の再設計」を発表し、中央政府の役割を政策の企画立案に特化することとし、地方へ権限や責任を移譲するとともに、民営化などを進めるよう提言しました。
日本経団連は、「究極の構造改革」とする道州制の導入を掲げ、07年3月に提言を発表するとともに、08年3月には第2次提言の中間とりまとめを行い、本年秋には第2次提言をとりまとめることとしています。
日本経団連の提言では、国家公務員の定員削減計画で地方出先機関の職員2万人強が削減される予定としつつ、7万人弱を地方公共団体に移譲することが可能としています。さらに、移譲された地方公共団体において事務事業の合理化を図ることで、3万4千人の削減を図ることができるとしています。
◇国民に押しつける自己責任
財界の求める地方分権は、法人税の軽減を行いながら財政赤字を解消することに狙いがあります。
地方分権・道州制で地方が活性化するとしていますが、行政サービスはすべて「自己決定・自己責任」「自助・自立」に基づくものとされ、地域住民に負担が押しつけられます。これでは、地方自治の拡充にはなりません。
地方分権・道州制までのスケジュール |
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地方分権
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道州制
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日本経団連
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2008
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第1次勧告(6月)
第2次勧告
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道州制ビジョン懇談会が中間報告を提出(3月末)
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2009
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地方制度調査会の答申(基礎自治体の強化等)
第3次勧告
地方分権改革推進計画閣議決定
新分権改革一括法案提出
・国と地方の役割分担の徹底した見直し(地方支分部局の業務の廃止、縮小)
・地方税財政制度の整備
・行政体制の整備及び確立方策等
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「道州制ビジョン」を策定
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国の資産と縮減計画策定・実施
地方交付税・国庫補助負担金改革
電子行政の推進
公務員制度改革の実施
「道州制推進国民会議」(仮称)の設置
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2010
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道州制基本法原案作成
(翌年の通常国会に提出予定)
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都道府県から市町村への権限委譲、基礎自治体の強化
地方支分部局の整理・統合、人員削減
「道州制推進基本法」(仮称)の制定
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2013
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道州制導入関連一括法の制定
・国、道州、基礎自治体の役割の再規定
・税財政関連法の抜本改革
・行政組織および議会・執行体制の改革
区割りの決定
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2015
〜
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道州制に完全移行(2018年)
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地方支分部局の人員、事務事業の道州への移管
地方支分部局の廃止
中央省庁の解体・再編
道州制の導入
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◆〈国公労連の考え方〉公共サービスの拡充こそ必要
政府は、財界の要望に添って地方分権などの「構造改革」を推進しています。「構造改革」は、自己責任を原則として、公共サービスなどを利用者負担へと変質させていくものです。
地方分権は、公共サービスを地方の選択と責任で行うというのですから、地方財政の状況に大きく左右されてしまいます。
そのため、財政力の乏しい地方ほど公共サービスの質が低下することは避けられません。
格差が社会問題となっている今、公共サービスの拡充こそが求められています。
◇国公大運動を展開しよう
国公大運動は、公務・公共サービスを担う公務員労働者の役割を、国民との対話で再確認し、共有していく取り組みです。
止まない公務員バッシングの中、ともすれば足を出すことにためらいがちです。しかし、貧困と格差が社会問題となっている今、私たちの仕事が社会にとって欠かすことのできないものであり、公共サービスを拡充することが必要であることを訴えることが重要です。
国公労連は、7月17日(木)に実施される中央行動の後、自治労連と共同で「地方分権・道州制を考える学習会(仮称)」を開催します。自治体で働く仲間と国公職場で働く仲間がそれぞれの立場から公共サービスと地域のあり方を話し合い、地方分権・道州制の問題点を洗い出していくことが重要です。この学習会を契機に秋からの「市民対話集会」に向けて職場での議論を広げていくこととしています。
◆道州制ビジョン懇談会が考えるこの国のすがた
◇変えられる国のかたち
06年9月、政府に道州制担当大臣が初めて置かれ、07年1月には「道州制ビジョン懇談会」が設置されました。そして、同懇談会は08年3月24日に「中間とりまとめ」を政府に提出しました。
中間報告では、明治時代から続いてきた中央集権体制が日本を衰退させているとし、日本を活性化させる極めて有効な手段として道州制を導入すべきとしています。
国の役割を、国際社会における国家の存立及び国境管理、国家戦略の策定、国家的基盤の維持・整備、全国的に統一すべき基準の制定に限定するとしています。そして、新しい国の形として、現在の広域自治体(都道府県)をなくし、国・道州・基礎自治体(市町村)の3層構造とするためそれぞれの役割を抜本的に見直すとしています。
しかし、道州制が導入されることにより、国の調整機能が失われることや住民との距離が広がることによる住民自治の形骸化等が問題点として挙げられています。こうした課題は道州制の制度設計等により解決するとしていますが、国民のための議論ではなく、道州制導入ありきの財界を中心とした議論となっていることが特徴です。
◇意見をあげよう
道州制ビジョン懇談会では、中間報告に対し電子メール、FAX、郵送で300文字以内で広く意見募集を行っています。(詳しくは道州制ビジョン懇談会のサイトを確認して下さい。)
国民の暮らしや権利を守る行政を蔑ろにし、この国のかたちを変えるために推し進められている地方分権改革と道州制に対して、多くの意見をあげていくことが重要になっています。
◆地方分権・道州制関連の動き
☆07・3・28
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経団連が究極の構造改革として道州制の導入に向けた第1次提言を公表
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☆07・5・25
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経済財政諮問会議で民間議員が「国の出先機関の大胆な見直し」を提案
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☆07・7・25
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全国知事会が「第二期地方分権改革への提言」を公表
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☆07・11・14
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経済財政諮問会議で民間議員が「地方分権の加速」を提案
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☆07・11・16
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地方分権改革推進委員会が「中間とりまとめ」を公表
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☆08・2・8
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全国知事会が「国の地方支分部局(地方出先機関)の見直しの具体的方策」とする提言を公表
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☆08・2・28
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経済財政諮問会議は、政府機能の見直しを議題とし、全国知事会の提言などを基に、骨太方針に盛り込むことを確認
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☆08・3・18
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第38回地方分権改革推進委員会 経団連との意見交換。経団連は、道州制の導入をめざす第2次提言の中間とりまとめを公表
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☆08・3・24
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道州制ビジョン懇談会が「中間とりまとめ」を公表し、意見募集
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☆08・3・27
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第39回地方分権改革推進委員会 総務省(総合通信局)、厚労省(中央労働委員会地方事務所)、内閣府(沖縄総合事務所)
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☆08・4・2
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第40回地方分権改革推進委員会 厚労省(都道府県労働局)、環境省(地方環境事務所)、国交省(地方航空局)
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☆08・4・8
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第41回地方分権改革推進委員会 国交省(地方整備局 道路・河川関係)
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☆08・4・17
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第42回地方分権改革推進委員会 文科省(幼保一元化関係)、厚労省(福祉施設関係等)
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☆08・4・23
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第43回地方分権改革推進委員会 農水省(農地転用許可関係等)
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☆08・4・25
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第44回地方分権改革推進委員会 環境省(公害規制事務等)、文科省(教職員人事権、給与負担等)
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☆08・5・01
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第45回地方分権改革推進委員会 国交省(道路・河川関係)
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☆08・5・09
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第46回地方分権改革推進委員会 厚労省(無料職業紹介事業等)
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☆08・5・14
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冬芝国土交通大臣が1級河川の管理を原則として地方に移譲することを表明。地方分権改革推進委員会が道路財源の地方移譲を第1次勧告で前倒し勧告を行う方向が明らかに
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☆08・5・15
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地方分権改革推進委員会で地方出先機関の改革の方向を議論
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◆News フラッシュ!!
◇G8労相サミット
G8労働大臣サミットが、5月11日〜13日にかけて新潟市で開かれました。全労連は、「国際競争の行き過ぎを是正し、安定した雇用や収入の保障やディーセントワークの実現にG8がとりくむことなどを求める意見書を発表しました。
会議では、「格差問題」に議論が集中し、議長総括では、G8の決意としてグローバル化によって生じた格差の解消に向け、支援を行うことなどがまとめられています。
◇ILO調査団来日
ILOは、日本の公立学校教員の評価制度がILOやユネスコの勧告を順守していないとの、全教の申し立てに対し、4月21日〜28日まで、全教をはじめとする関係機関のヒアリングなどを精力的に行いました。
調査団は、当局が組合との協議に応じないなど、ILOなどの勧告にも従わなかったため、来日したものです。
調査団の結果報告は、本年11月頃にもとりまとめられる見込みとなっています。
◇調査団歓迎集会
ILO・ユネスコ「教員の地位勧告」の適用を監視・促進する機構である「共同専門家委員会」(CEART)の調査団が、教職員評価による賃金・処遇反映など日本の教職員政策の実情を調査するため4月21〜28日の日程で来日しました。この調査団を派遣することは世界でも前例がなく、1965年のILOドライヤー委員会の実情調査から43年ぶりです。
日本の公務員の労働基本権に深くかかわる問題でもあり、4月23日には東京で、同26日には大阪で歓迎集会が開催され、国公労連からも多数参加しました。
◇退職手当の見直しで
総務省は、退職したあとで在職中の不祥事が発覚した国家公務員の退職手当を返納させるなどの制度見直しを行うために、研究会を設置し、検討を進めています。
4月18日に中間とりまとめが出され、意見募集を行った上、5月末までに最終報告をとりまとめる予定となっています。
国公労連は、中間とりまとめに対し、公平・公正な制度とするよう意見表明を行いました。
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