◆日本の公務員制度、権利問題を世界の基準と照らして見ると
◇世界の窓から見えるもの
国公労連は昨年、非常勤職員の処遇改善と社保庁職員の権利問題についてILO(国際労働機関)に要請するため川村好伸副委員長を、公務員の労働基本権をめぐる全労連調査団の一員として岡部勘市書記長をアメリカに、それぞれ派遣しました。2人のレポートを報告します。
◆労働基本権めぐる米調査団派遣
全労連 公務員制度改革 闘争本部
◇苦情処理システム活用で労組に求心力
国民的議論の必要性を実感
公務員の労働基本権が剥奪されて60年、国家公務員制度改革基本法の成立を受けた検討がすすめられるなか、全労連闘争本部として実施したアメリカの公務員制度調査に参加しました。
調査は、03年から開催している「公務・公共サービス国際交流会議」への参加も含めて10日間、ウエストバージニア州、ノースカロライナ州、ワシントンDCの各労働組合や職場施設、連邦労使関係局などを訪問し、交流・意見交換や資料収集を行いました。
建国の歴史や連邦国家に由来する文化や制度の相違などの詳細は報告書に譲り、特に印象に残った点のみ報告します。
◇連邦労働関係法
公務員の権利や労働基準については全国的な定めがなく、州によって異なりますが、多くの州でベースとしている「連邦労働関係法」に労働組合の結成、団体交渉手続などが規定されています。 排他的交渉代表制度は、労働組合を組織する際、対象労働者の30%以上の賛同署名を集約し、労使関係委員会が実施する認証選挙で過半数の支持を得ると、唯一団体交渉を行い、協約を締結することができます。
連邦では、給与等の法定勤務条件は協約の対象とならない(図参照)ため、労働条件改善のとりくみは予算配分を決める権限を持っている議会への対策、議員工作が中心ということです。
交渉が行き詰まった場合の調停や不正労働行為の解決、協約違反などの仲裁・裁定のための機関として連邦に労使関係局、州には労使関係委員会がおかれています。その苦情処理システムを活用し、組合員の格付け改善や職務の評価替え要求も行い、労働組合への求心力を高めているようでした。
◇市民の支持に確信
交流会で、市清掃局の体重400ポンドという黒人労働者の「私は仕事に誇りを持っている。権利があることも確認できた。そして市民の支持が広がっている運動に確信を深めている」との発言に強く共感しました。
日本の公務員制度は、単に公務員の人事管理法ではなく、憲法15条「公務員の本質」とも関わる基本的な制度であり、開かれた国民的議論が尽くされる必要があります。 職場からの学習とともに、国民の権利保障とそれを支える公務・公共サービスのあり方を含め、対話や宣伝など運動の重要性を改めて確認できた調査となりました。(岡部勘市国公労連書記長)
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◆非常勤の劣悪な実態ILOに訴える
同一価値労働男女同一報酬原則を
◇日本の「多くの情報がほしい」
社保庁職員 団結権侵害を訴える
地方自治体や国で働く非常勤職員の実態と問題点をILO(国際労働機関)に直接訴えるため、10月11日から5日間、自治労連ILO要請行動に参加してきました。
◇100号条約で要請
今回の要請は、条約勧告適用専門家委員会がILO第100号条約(同一価値労働男女同一報酬に関する条約)についての検討を08年11月に行うことから、日本の行政で働く非常勤職員の実態を同委員会の議論に反映させるために行ったものです。
条約勧告適用専門家委員会への要請では、地方自治体の非正規労働者として働いている組合員が、自らの仕事や職場実態を告発しました。私は、国の行政機関で働く非常勤職員が14万人を超え、その多数が女性労働者であること、また、正規職員と比べてあまりに劣悪な労働条件の実態を訴えました。そして、非常勤職員制度のもとで、政府自身が女性労働者を安上がりな使い捨て労働力として行政現場で活用していると、その問題点を指摘しました。
私たちの要請に対応したILOの国際労働基準局のチームコーディネーターのシャウナ・オルニーさんは、具体的な報告で、間接差別の議論に新たな次元を与えるものであり、委員会の審議にとても有効なものだと評価しました。
◇権利侵害は深刻
消防職員の団結権問題についてILO結社の自由委員会にも要請。自治労連と共同している消防職員ネットワークの代表2人が「消防職員委員会制度」のもとでの当局の対応状況や職場の実態などを告発し、団結権を代替するものではないことを訴えました。
私は社会保険庁の解体・民営化に伴う雇用問題についての情報提供を行いました。社会保険庁で働いている職員の雇用を脅かすことは団結権の侵害であることや、職場段階での実質的な労使交渉や労使協議が行われておらず、そのもとで組合脱退者が多数発生するなど、労働組合の権利や団結権の侵害が深刻な状況であることの情報を提供しました。
ILOの国際労働基準局副局長(結社の自由担当)のカレン・カーティスさんは、事前に情報提供したことはとても有意義なものと発言しました。そして、結社の自由委員会の関心の中心点は民営化やリストラにあるものではなく、その過程で労働組合権が侵害されていること、もし雇われない場合、個人の問題ではなく、何人の組合員が雇用されないか、組合員が脱退に追い込まれたことなどの点について多くの情報が欲しいと述べました。
(川村好伸国公労連副委員長)
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