2010年11月1日
日本国家公務員労働組合連合会v
書記長 岡部勘市
10月26日、最高裁判所は2001年1月31日に発生した日本航空907便事故について、業務上過失致傷罪で起訴された航空管制官2名の上告を棄却する決定を行った。
国公労連は、この最高裁判所の判断を認めることはできない。航空の職場に混乱と萎縮をもたらし、安全確保と原因究明・再発防止に逆行する最高裁の決定に抗議する。
この事故の原因は、当該の全運輸労働組合が指摘し続けてきたとおり、管制官の言い間違いによるものではなく、多くの事象が複雑に絡み合って発生したシステム性の事故である。特に、航空機衝突防止装置(TCAS)の運用方式に大きな問題があったことは、航空事故調査委員会(当時)が国際民間航空機関(ICAO)に異例の勧告を行ったことからも明らかである。
一審、二審では、飛行中の航空機に搭載されているTCASが表示する回避指示(RA)の内容を、航空管制官が予見できるかどうかが争点の一つとなった。公判では、どの証人も「予見は不可能」と証言し、検察側の論理はことごとく破綻して東京地裁では無罪判決をかちとった。しかし、東京高裁はTCASの運用方式の不備には全くふれないばかりか、証言や証拠を無視して、有罪ありきの判決を導きだした。
最高裁は、「管制官のヒューマンエラーを事故に結びつけないようにするためのシステムの工夫が十分でなかったことは確か」としながら、管制官は「求められている注意義務を尽くすべき」とし、「事故の原因を調査する専門機関と捜査機関の協力関係に関しては検討すべき課題がある」が、「個人の責任を問わないことは相当とは思えない」と結論づけ、上告を棄却した。
科学的な調査と再発防止が絶対的条件である事故調査において、非科学的で個人を処罰することにのみ重点をおいた判決と、個人責任の追及を優先する事故調査の在り方は、安全・安心の航空を求める社会的要求に反し、職場に深刻な委縮効果と混乱をもたらすことは必至である。
前原前国土交通相は2010年8月12日、当事者の刑事責任を問う警察の捜査優先の仕組みを見直すことを表明していたが、その検討状況は現在明らかとなっていない。羽田空港の新滑走路が供用され、今後も航空交通量は増大することが確実なもとで、米軍の訓練空域の問題などを含めて解決すべき課題は多く残されている。
国公労連は、原因究明と再発防止優先の航空事故調査体制の確立に向けた早急な対策を政府に強く要求するとともに、国民の安全、安心を守る行政サービスの拡充を求め、とりくみを強化する。
以上
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