◆国公労連との交渉打切り、賃下げ法案閣議決定 労働基本権制約下での一方的賃下げの暴挙
◇公務員制度改革法案も閣議決定
政府は6月3日、国家公務員の給与を向こう3年間にわたって本俸10〜5%削減及び一時金一律10%削減する賃金引き下げ法案と、公務員制度改革関連法案を閣議決定しました。国公労連中央闘争委員会は同日、「公務員労働者の基本的人権を踏みにじり、極めて乱暴な手続きで閣議決定を強行した政府に対し、満身の怒りを込めて断固抗議する」との声明を発表しました。
【憲法で定められたルール無視の政府】
声明では、「震災を口実に、憲法で定められた権利やルールを無視した菅内閣の暴挙は、『労使の信頼関係』」を破壊し、今後の行政運営にも支障をきたすことは必至であり、「政府はその責任を負わなければならない」としています。
また、5月13日の総務大臣交渉での政府提案以降、国公労連が一貫して、「@財政事情悪化の責任を公務員に転嫁する総人件費2割削減に道理も根拠もないこと、A公務員賃金の引き下げがデフレを加速し、経済をいっそう冷え込ませて復興にも悪影響を与えること、B震災からの復旧復興を含め、全国で行政を支え奮闘している公務員の士気を下げること、C労働基本権が制約されている下で現行制度にもとづかない賃金引き下げは憲法違反であること、などを主張し、提案の撤回を要求してきた」にもかかわらず、「政府はこの間の交渉で明確な根拠を示すことなく」、6月2日に片山総務大臣が「議論を続けても平行線の可能性が強い」と交渉を打ち切り、「一部労働組合との合意を根拠に閣議決定を強行した」ことを強く批判しています。
【公務員関連法案団結権制約の恐れ】
声明では、公務員制度改革関連法案をめぐっても、「人事行政の中立・公正性を担保する制度と機能の不十分さをはじめ、労働組合の認証制度や管理運営事項による交渉制限、内閣の事前承認規定や仲裁裁定の位置づけなど、団結権や協約締結権を制約する重大な問題が解消されていない」と批判。また、「超過勤務命令に係る労使協定を排除するなど、勤務条件法定主義を口実とした詳細な法定事項は、憲法やILO条約に保障された基本的人権にはほど遠く、名ばかりの『自律的労使関係制度』となりかねない」と批判しています。
【賃下げ法案、公務関連法案抜本修正を】
声明は、「今回の閣議決定は、新たな国民負担増に向けた露払いであり、すべての労働者・国民に対してかけられた攻撃」とし、この間、自治労連、全教との公務単産の統一運動を積み上げ、民間労組等との共同と連帯を築いてきた世論は確実に変化しつつあり、国会段階での「賃金引き下げ法案の廃案と公務員制度改革関連法案の抜本修正を求め、全力で奮闘するものである」と結んでいます。
◆賃下げに怒り、民間労組も激励 総務省前座込み行動3日間
国公労連は全労連公務部会と共同して6月1日から3日間、道理なき公務員賃下げ反対の座り込み行動を東京・霞が関の総務省前で整然と実施しました。この行動には多数民間の仲間が組合旗を持って参加しました。
参加者からのリレートークを軸に、地方の職場からよせられた連帯と激励のメッセージが紹介され、全国の仲間と心をひとつにした行動となりました。
この行動に呼応し、大阪、岡山、山口、愛媛をはじめ全国各地で国家公務員賃下げ反対の宣伝、要請行動がとりくまれています。
◆労働基本権問題 学習・討議資料
たたかいで展望ひらく 公務員制度関連法案抜本修正をめざす
労使交渉で自らの労働条件決定へ
1面既報のように政府は6月3日、「国家公務員労働関係法案」をはじめとした公務員制度改革関連法案を閣議決定し、国会に提出しました。国公労連は、憲法で保障された基本的人権とILO条約など国際基準にそった労働基本権回復に向け政府を追及してきました。しかし、今回の法案は、争議権回復を先送りにしたほか、団結権や協約締結権を制限する条項が含まれるなど重要な問題点が残されています。国会審議を通して抜本修正を求めていくことが必要です。
◇協約締結権を回復させる
官公労働運動の重要課題 年間たたかいつづけて
【給与法や勤務時間法制定、改廃が可能に】
賃金をはじめとする労働条件を公務員労働者自らが参加する労使交渉で決めるようになることは歴史的に見て大きな意義があります。
1948年までは公務員にも労働3権が認められていましたが、官公労働運動の前進を恐れたアメリカ占領軍と政府によって一方的に労働協約締結権と争議権が剥奪されました。それ以降、公務労働運動の最重要課題として、63年にわたって取り組みを継続し、今回、協約締結権回復まで到達することができました。
自律的労使関係制度では、労使交渉で団体協約を締結することで給与法や勤務時間法など法律とそれに基づく政令、省令などの労働条件にかかわる項目について制定、改廃させることが可能となります。たたかいいかんで大きく展望を切りひらくことができます。
【労働条件の改善が公共サービス拡充に】
協約締結権の回復は公務・公共サービスの拡充にもつながります。
現在、公務の職場では、定員削減のもと人手不足と超過勤務が慢性化し、疲弊しています。行政需要は複雑化し、高度化、迅速性を求める国民に対する十分な対応が難しくなっています。人員を増やして働きがいのある職場と労働条件をつくることが、公務・公共サービスを拡充させ、国民の安心・安全を確保していくことにつながります。
◇抜本的修正めざす法案の問題点
交渉対象と、管理運営事項協約締結には内閣の事前承認
【認証可否での差別的取り扱い】
「国家公務員の労働関係に関する法案」には次のような問題点があり、国会審議で抜本修正を求めます。
@労働組合に認証制を導入し、認証の可否で差別的取り扱いをしていることです。
A在籍専従と短期従事期間の上限を現行どおり法定していることです。
しかし、その根拠や合理的理由はなく、労使自治の原則にのっとり団体協約事項とすべきです。
B管理運営事項は交渉対象にならないとしていることです。当局の恣意的な拡大解釈による事実上の団交拒否・制限の実態を何ら考慮していません。
政府が「管理運営事項の処理によって影響を受ける勤務条件は交渉の対象とすることができる」との見解は従前どおり、というなら明文化すべきです。
C賃金など労働条件を定める法律および政令の制定、改廃を要する事項について、団体協約を締結する前提に内閣の事前承認を必要としていることです。
事前承認制は、団体交渉の形骸化につながることが危惧されるため、削除すべきです。
【中労委の裁定が内閣を拘束しない】
D法律または政令の制定、改廃を要する中央労働委員会の仲裁裁定について、内閣に「努力義務」しか課していないことです。
仲裁裁定は、争議権制約の代償措置といえるもので、裁定内容は内閣を拘束できる実施義務とすべきです。
民間労働法制の「労働協約」ではなく、「団体協約」という用語を使用していることに留意する必要があります。
そもそも、憲法28条が保障する労働基本権の回復ではなく、立法政策上の措置としての「自律的労使関係制度」とされていることが問題です。
政府は、公務には「職務の公共性」や「地位の特殊性」があるため、民間とは異なる規制、制限を加えるのは当然という考え方に立っています。
しかし、公務員も労働者であり、その基本的人権としての労働基本権は争議権を含めて完全に回復されなければなりません。同時に、「全体の奉仕者」として財政民主主義等に配慮することも必要ですが、その規制は最小限にとどめ、労使自治の原則を基本としなければなりません。
◇賃金を中央の労使交渉で決定
団体協約の効力については当局が実施義務を負う
法案では、賃金は、中央で実施する労使交渉で決定するシステムに変わります。
団体協約の効力については、当局が団体協約の実施義務を負うことになります。団体協約は、書面に労使双方が署名または記名押印して効力を発揮し、協約期間は3年以内とされています。
交渉対象事項の表Wの中には宿舎、旅費、共済、退職手当も含まれます。ただし、管理運営事項であっても、その処理によって影響を受ける勤務条件は交渉の対象となります。当局が正当な理由なくして交渉拒否することは、不当労働行為として禁止されます。勤務時間中の交渉(職務専念義務免除の関係)は認められます。
◇紛争等の場合の調整システム
仲裁裁定は団体協約が締結されたものとみなす
あっせん・調停・仲裁は、中央労働委員会が労使の当事者等からの申請によって交渉不調・労使紛争の調整をおこなうシステムです。公務では今回創設されました。
【調整システムない賃下げ決定は違法】
今回、政府による国家公務員の賃金10%切り下げ提案については、国公労連との労使交渉が決裂しました。争議権も調整システムもない中で、政府が国公労連の合意を得ずに賃金切り下げ法案を国会に提出したことと合わせて、現行の人事院勧告制度に基づかない賃下げ法案は賃金決定のルールに反する憲法違反といえます。
仲裁裁定の効力について、労使双方において有効期間の定めのない団体協約が締結されたものとみなされます。
◇不当労働行為禁止制度を創設
不利益取扱いや組合運営への支配介入等を禁止
【認証組合との交渉は理由なく拒否できぬ】
法案では、民間では当たり前の不当労働行為の禁止規定が、公務に創設されます。
不当労働行為とは、@労働組合員であることや労働組合への加入・結成等を理由に職員に対し不利益取扱いをすること、または職員が組合加入しないこと等を任用条件とすること、A認証された労働組合との交渉を正当な理由なく拒否すること、B勤務時間中の交渉に参加する職員に対する賃金の支給および組合事務所の供与を除き、労働組合の運営等に対して支配介入・経費援助をすること、C中央労働委員会に申立てをしたこと等を理由に職員に対して不利益扱いをすること、の4点が規定されます。
当然のことですが、正当な組合活動の権利が法律上保障されることになります。
◇日常活動の活性化が重要に
労使交渉対象事項の拡大 組合組織の拡大・強化を
国会審議において問題点の大幅修正を求めるとりくみを強化しますが、今年中に法案が成立した場合、@2013年度から中央交渉による団体協約の締結A2014年4月から各府省における団体協約の締結、などが想定されます。
【政令等に振り分け】
人事院を廃止することにともない給与法や勤務時間法など労働条件に関わる法律で「人事院規則で定める」とされていたものが、政令や法律等に振り分けされることになります。
政令に委任される範囲の在り方などは、新設される公務員庁と協議して、労使交渉の対象事項を拡大していくことが重要な課題となってきます。
【職場での交渉対象】
職場での交渉課題は、中央交渉や各府省交渉で締結した団体協約において、職場でおこなう交渉対象とされた事項や職場固有の労働条件等になります。
具体的には、@勤務時間の割振り(休憩時間、交替制勤務・変則勤務など)、A超過勤務時間の縮減(交渉で人員不足を解決していくことも可能)、B職員の健康問題、職場の安全・衛生問題などが交渉対象となり得ます。
【職場でのとりくみ】
日常的な労働組合活動の活性化がますます重要になってきてます。
組合員の要求などを集約して職場討議を通して要求を確立します。要求書を当局に提出して、交渉を実施します。交渉結果は、組合員全体のものにしていきます。これらの日頃からの実践が、協約締結権が回復した場合の大きな力となります。
組合員全員が結集できる活動を追求することも重要です。交渉を後押しする力は、組合員の結束です。
組合の組織強化・拡大も重要な課題です。
組合を強く大きくすることは、当局にとって大きな脅威です。組合の要求が圧倒的職員の要求となり、当局も無視できなくなります。目に見える組合活動を日常的に展開し、大いに組合をアピールすることがもとめられています。
◇認証労働組合とは?
中労委から認証されて団体協約締結権を有す
現行の職員団体制度は、中央労働委員会が国家公務員の労働組合を認証する制度となります。労働組合として認証されないと、後述の権利が制限される団結権の侵害といえる問題が生じます。
認証された労働組合は、@団体協約締結権を有します(認証労働組合でなくても交渉は可能)、A不当労働行為救済の申立てができます、B交渉不調・紛争の場合、あっせん・調停・仲裁の申請ができます、C在籍専従(7年間)および短期従事(年30日間)を取得できます。
認証の要件とは、@労働組合の規約に、名称、目的、業務、主たる事務所の所在地、組合員の範囲、資産、役員、業務執行、会議、投票、経費および会計、規約の変更等に関する事項が記載され、会計報告は公認会計士または監査法人の監査証明とともに少なくとも毎年1回組合員に公表するとしていること、A規約の作成・変更、役員の選挙等重要な行為が組合員全員の過半数で決定される旨の手続きを定め、現実にその手続きにより決定されること、B団結権を有する職員(一般職の国家公務員)が、すべての組合員の過半数を占めること(職員には、非常勤職員も含む)と想定されています。
◆公務員給与引下げ問題 各界から「異議あり」
◇参院議長「給与削減法案、審議認めず」
民主党出身の西岡武夫参議院議長は6月6日の記者会見で、政府が提出した国家公務員給与削減法案について、「法案が衆院で可決されて参院に来ても、人事院の了解が得られない限り、議長として(委員会に)付託する考えはない」と述べました。西岡氏は「震災への公務員の努力を考えると、政府対応には大きな疑問を持っている」と語りました。
◇自民議員が「違法な給与削減」と質疑
自民党の西田昌司参議院議員は、5月17日の総務委員会で国家公務員給与の1割削減が、@日本経済にさらなるデフレの影響をおよぼすこと、A労働基本権が制約されているもとで違法行為であること、B公務員の士気を低下させるものであること、等をきびしく指摘する質問を行いました。6月3日の予算委員会でも同様の反対質疑を行いました。
◇「給与カット復興の妨げ」
兵庫経営者協会長
兵庫県経営者協会の寺崎正俊会長(川崎重工業顧問)は、5月27日の定時総会で「これから必要なのは国民の経済が沈滞するのをいかに防ぐか。国家公務員の給与引き下げなどで消費が減退するようなことは避けるべき」とのべました(5/28付朝日神戸版)。
◇政府自ら脱法行為
森永卓郎氏
経済評論家の森永卓郎氏は、「朝日新聞WEBRONZA(ウェブロンザ)」(5/30付)で公務員給与削減を「2つの点で、大きな問題がある」と批判しています。
「一つは、いまのタイミングでよいのか」とのべ、「給与削減をしたら、ますますひどいデフレになってしまうだろう」と指摘しています。さらに、政府が「地方公務員には適用しないと言っているが、すでに追随の意向を示している自治体もあり、広がっていく可能性もある。さらに、民間企業にも、賃金引き下げの絶好の口実を与えてしまうだろう」と懸念を表明しています。
「もう一つの問題」として、「法的根拠がないということ」をあげ、「公務員制度改革法案の中身を先食いして、給与削減を決めてしまうというのは、政府自ら脱法行為をするに等しい」と批判しています。
◇公務員給与削減二重のナンセンス
榊原英資氏
元大蔵官僚で経済評論家の榊原英資氏(青山学院大学教授)は、「朝日新聞」(6/7付)オピニオン紙面で「今後3年間にわたる国家公務員給与削減は二重の意味でナンセンス」と批判しています。
榊原氏は、日本の国家公務員数は英仏の4分の1、ドイツのほぼ半分であり、人件費も米英に比べ「2分の1から3分の1」と指摘して、「このうえ公務員の人件費を削減する必要が本当にあるか」と疑問を投げかけています。
また、「経済復興という観点からすれば、財源は国債の発行によって捻出すべき」とし、給与削減や増税は「消費削減につながる可能性が高いので、日本全体としての消費のGDPは増加しない」とのべています。
◇大手から零細まで賃下げの口実に
奥村浩氏・経済評論家
「週刊ポスト」(6/3付)で経済評論家の奥村浩氏は「今回の公務員の賃下げは、経営者が組合や社員に震災後の業務悪化を補うための賃金カットを求める口実になる」と指摘しています。
大震災以降、客足が激減している東日本の観光業界団体役員が「いつ従業員に賃下げを切り出そうか考えていたが、国が範を示したからやりやすくなった」と語ったことを紹介。「大手から中小、零細企業まで広範囲に人件費削減が行われることを警戒しなければならない」とのべています。
◇結局ツケは国民に
松浦民恵氏・ニッセイ基礎研究所研究員
ニッセイ基礎研究所の研究員の松浦民恵氏は、ニッセイ基礎研HP(5/16)で、国家公務員の給与カットに「熟慮と覚悟があるか」と論じています。
「震災によって業務量が増大している公務員が少なくないなかで、給与カットが行われ、さらに増税ということになると、公務員だけが二重、三重に重荷を背負うことになる」「労働条件の変更は、対象となる人の人生のみならず、家族の生活にも関わってくる」「公務員は国の方向性の検討に関わるプロフェッショナル集団であり、公的サービスの担い手であることから、彼・彼女らの働きぶりは、国民の生活に多大な影響を与える」「拙速な労働条件切り下げのツケは、結局国民が負うことになる」とのべています。
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