私たちは
国民のための公務員制度確立
の運動を進めています
【第1部】 公務員制度改革に対する国公労連の意見 【第2部】 「大枠」に対する批判的意見
この資料は、これまで国公労連が作成・発表してきた公務員制度「改革」等についての見解や学習資料を再編整理したものです。 |
日本国家公務員労働組合連合会
(国公労連)
2001年5月
公務員制度改革に対する国公労連の意見(概要)
公 務 員 制 度 改 革 の 三 つ の 柱 | 【第1の柱】 ○メリットシステム(成績主義)の徹底
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【第2の柱】 ○「政官財のゆ着」構造の是正
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【第3の柱】 ○すべての公務員に労働基本権を保障 |
【第1部】
公務員制度改革に私たちは、こんな意見をもっています
− 公正・中立で効率的な公務サービスを提供しつづける公務員制度の確立にむけて −
1 行政が普遍的に求められる「専門性、中立・公正性、効率性、継続・安定性」を確保するためにも、公務員制度の基本的な枠組みの維持が必要です。 |
公務員制度は、中立・公正で効率的な行政の基盤をささえる制度です。多くの公務員は、法令の実施や予算の執行をつうじて、等しく国民に行政サービスを提供する執行部門に従事しています。公務員制度を検討する場合、法令等で定められた基準の公正な適用を任務とする職業公務員をその中心におく必要があります。
1)メリットシステム(成績主義)の徹底
情実による採用や人事を排除することは、国際的にも確認される公務員制度の基本です。そのため、各省大臣の人事権は確認しつつも、採用等にあたっての中立機関の関与や国会によるチェックなどが有効に機能する必要があります。
2)実務を通じた専門性の確保
行政に対する国民のニーズが多様化、複雑化するなか、公務員にも高度の専門能力や専門知識が求められています。長年にわたり蓄積した知識や経験を基礎に、実務を通じて更に専門性を高めることを原則にしていくことが、もっとも効率的な人材育成の方策です。
3)中立・公正性の確保
職務専念義務など厳格な服務規程のもとで、公務員には政治的中立性をもって行政を執行することが求められます。その一方で、不当な人事上の影響を排除する意味での身分保障が適切に確保されることが必要です。
4)継続性、安定性の確保
行政サービスを継続的・安定的に執行するためには、法令に従った行政運営が必要であり、公務員は法令を精通し専門的見地での執行の判断が求められます。したがって、専門家集団としての公務員の人材を確保・育成し、組織内に経験や情報を蓄積していくことができる制度上の仕組みが必要です。
2 現行の公務員制度は、次のような点で民主化の不徹底さがあります。公務員「行動原理」が問いなおされる今こそ、民主化の徹底が必要です。 |
1)「政官財の癒着」構造に対する国民批判に応える制度改革こそ必要です。
「政官財の癒着」として国民から批判される事象の多くは、本省庁の課長級以上の高級官僚の「行動」にあります。政策決定過程への過度の介入、省庁権限を背景とした「天下り」などが、その内容です。
2)採用試験による特権的人事の慣行を撤廃するための制度改革が必要です。
採用試験のみで昇進コースが決定される現行の特権的人事運用が、「お役所仕事」と言われるような行政の硬直をまねいています。
3) 公務員の基本的人権の保障が必要です。
公務員に市民的自由などの基本的人権を全面的に保障することは、国民の目線での行政をすすめていく上でも必要です。
4) 非常勤職員の均等待遇などはたらくルールの確立が必要です
常勤の職員と同様の勤務形態で、恒常的な業務に従事する「非常勤職員」について、均等取り扱いの原則を確立すると同時に、いわゆる「雇い止め」などを禁止するなどの「はたらくルール」を確立することが必要です。
3 公務員労働者に労働基本権を確立することは国際的なルールです。 |
公務員も労働者であることは判例も認めるところであり、その点からすれば公務員労働者の労働基本権確立は公務員制度にかかわる中心的な課題です。使用者と労働者が団体交渉を通じて労働条件を決定することは、国際的にも認められている労働基準です。
1)すべての公務員の労働基本権を認めるべきです。
2)財政民主主義や、公共の福祉とかかわる調整のあり方の検討も必要です。
3)労働基本権の確立にともない、人事院勧告制度は廃止することになります。
【第2部】
国公労連は「大枠」に、批判的意見をもっています
− どこか変です「公務員制度改革の大枠」 −
1 概括的な批判
2000年12月1日に行革大綱が閣議決定され、3月27日には、「公務員制度改革の大枠」が政府行革推進事務局によって決定されました。そして、6月中に「基本設計」をとりまとめ、2002年の通常国会に「法案」を提出するというスケジュールが明らかにされています。
「大枠」は、2001年1月6日からの内閣法改正で、あらたに内閣官房の権限となった「重要施策での政策立案」の枠組みを「活用」した「政策調整システム」で決定したものとして位置づけられ、労働組合はもとより公務員人事を運用する各省の意見を聞くことなく決定されました。「大枠」は、以下の二つの点で問題があると考えます。
その一つは、公務員制度改革の進め方(手順)の問題です。 これまで政府は、公務員労働者の労働基本権を制限してきた理由に、「労働基本権制約の代償としての人事院勧告制度の存在」をあげてきました。しかし、今回、公務員労働者の労働条件の大幅な変更を含む「制度改革」であるにもかかわらず、「専門機関」としての人事院の検討を待つことなく、政府自らが「改革」を進めています。そのような進め方をするのであれば、国家公務員法第108条の5でも定めているように労働組合との「交渉」がつくされる必要があります。しかし、「大枠」の決定にいたる過程はもとより、「大枠」公表後2ヶ月が経過し、「基本設計」の決定まで1ヶ月となった現段階でも、具体的な「交渉」に政府は応じていません。これは、制限されたもととはいえ、労働組合の団結権ともかかわる「交渉」対応をもとめている現行「ルール」さえ無視したものです。 |
その二つは、内容の問題です。 詳細は後述しますが、例えば「大枠」では、公務員制度「改革」の必要性にかかわって「お役所仕事」とする批判が、国民から寄せられていることを指摘しています官僚主義の弊害と考えられる「お役所仕事」の原因は、公務員の意識が国民への行政サービス提供という本来の目的から離れて、組織内部での保身に向けられてしまうことにあると思います。そのような現実があるときに、民間企業でも上司の評価のみを気にし、目先の成果にとらわれる労働者が生ずるとして、見直しの動きが出ている成果主義(信賞必罰)の人事管理を公務に持ち込むことが、改善の方向になり得るのでしょうか。公務員の「天下り」に対する批判が広範に広がっているときに、「天下りの自由化」ともいえる規制緩和をおこなうことが改革なのでしょうか。私たちは、「大枠」の内容が、国民から求められている制度改革とは逆行していると考えています。 |
2 国民に背を向ける逆立ちの改革(国公労連はこう考えます)
<競争主義に基づく信賞必罰の人事制度>
互いに能力を競い合い、生き生きと職務を遂行できる環境を実現するため、公正で納得性の高い新たな評価システムを整備し、「優れた能力を示し大きな業績をあげた者は高く処遇」し、「職務を全うしなかった者は厳しく処遇」する。 |
● 公務は、国会が定めた法に基づき、いつでもどこでも同質の行政サービスを、時の政権による政治的な関与を許さず、公正・中立に実施することが求められています。そのために、集団性や専門性、政治的中立性などを保障することが現行公務員制度の精神で、これにより公務員は、「全体の奉仕者」としての役割を忠実に執行することが具体化されます。また、そのことが、身分保障など民間とは異なる勤務条件ともなっています。
● 社会が複雑・高度化する下で、公務員が専門性やその能力を高めることが必要なのは当然です。しかし、法律を誠実に執行し、国民にひろく行政サービスを提供する仕事に「互いに競い合う」余地がどれだけあるのでしょうか。一人一人の公務員が、自己の勝手な判断で行政執行することで、公正な行政サービスを提供しているといえるのでしょうか。
● 競争主義に基づく信賞必罰の人事制度の要は評価制度にあります。当然に客観的で公正・公平な評価が求められます。しかし、成果主義管理を先駆的に導入している民間企業においては、「明確な評価基準がない」、「職場ごとに評価基準がバラバラ」などの評価に対する労働者の不満が続出し、かえって組織全体の目標実現や企業業績向上の障害となっているとして、その見直しが迫られている状況ともなっています。
<新たな給与体系の構築>
「信賞必罰の人事制度の確立」に向け、「能力・業績が的確に反映される新たな給与体系の構築」が必要であるとし、現行の職務給原則に基づく給与制度を廃止し、例えば、給与を「職務遂行能力に基づく部分」、「職務の責任の大きさに基づく部分」、「具体的にあげた業績に基づく部分」等の要素に対応する支給項目に分割するとしている。 |
● 「大枠」では、職務給原則を廃止することについて、「従事する職務に応じて給与を支給することが、… 評価や昇進管理の問題とあいまって、現在の競争原理に乏しい年功序列的・硬直的な人事システムの実態を招いている」ことをその理由にあげている。しかしながら、なぜ職務給が「年功序列的・硬直的人事システム」につながるのか説明がなされていない。また、人事院の級別定数査定を廃止し、各府省大臣の人事管理権の強化(自らの判断による組織改編や給与設定)がセットで提案されており、職務給原則がこの阻害要因と位置づけていることによるものと考えられます。
● 給与は、職務に関連なく抽象的に個人の職務遂行能力を評価して支給するのではなく、遂行される職務・職責に応じた支給を基本とすべきであり、それは、公務員の仕事が法令による職務の遂行に責任を負うという原則にも合致するものです。なお、職務給原則を廃止することは、公務員の統一的な給与の基準が曖昧になり、運用次第で差別と不公正な処遇につながる恐れが指摘されます。
● 給与を能力、職責、業績に分割することについて具体的な内容が正式に公表されていないが、この分割については、能力の客観的評価システムが確立されていない現在、ポストに関係なく、個人の能力に応じて賃金の決定することは、T種を中核とした特権官僚をより厚遇し、大多数の公務員の賃金抑制につながること、勤続による要素がないため生活保障の観点が考慮されないなどの問題があり、ひいては全体の奉仕者、専門性、中立・公平性、使命感や倫理観、チームワーク尊重といった公務の特性や公務員の職業倫理を軽視することとなり、職員のモラール向上にも結びつかないおそれがあります。
<「天下り」問題への対応>
押し付け型の天下りは厳格に規制しつつ、「明確かつ厳格な承認基準を設け、大臣の直接承認とする」こと、「再就職後の行為規制を導入する」こと、「人事院の事前承認制度は廃止する」ことなどを提起している。 |
● 「天下り」に対する国民の批判は高く、特に各省庁と関連企業との組織的な癒着の実態が相次いで明らかになっている状況から、近年、さらに批判が高まっています。各府省の責任者である大臣の承認のみで「天下り」を認めるとすれば、現在の人事院の規制以上の厳格な基準設定が求められます。しかし、一方で「大枠」が官民の人材交流や「民間との情報交換」などを強調していることにもみられるように、組織的癒着に対する反省は見受けられません。結局、「天下りの自由化」となる恐れが強くなります。
● その歯止めとして、「再就職後の行為規制」を導入するとしていますが、在職中の公正・中立性を確保するという「再就職規制」の別の一面は、この規制では担保されません。再就職が予定されている企業に対して、在職中に便宜をはかることを制約するためにも事前承認の意義があります。
● 「政財官」癒着の現状からすれば、各府省と関連する営利企業への再就職は全面禁止 することを基本に、制度改革を行うことこそ必要です。
また、特殊法人などへの再就職について、「大枠」では「数次にわたり高額の退職金を受け取ることのないよう、公務員の再就職に係る退職金について厳格な見直し」とするにとどまっています。そのことは当然として、特殊法人等から出身省庁と関係のある民間営利企業への再々就職も禁止することなどの措置も検討すべきです。
・人事院の天下り承認件数は、1991年(平成3年)には218件あったものが、10年後の2000年(平成12年)には41件となり、5分の1以下に減少しています。とくに、国民の批判が高まるなかで、人事院は1998年(平成10年)に天下りの承認基準を引き締めています。・特殊法人、認可法人計79法人のうち官僚OBがトップの総裁・理事長に就任しているのが64法人(81%)にのぼり、そのうち23人が事務次官並の年間2,400万円余りの報酬を受け取っている。合計で916人の役員の47%にあたる427人が官僚OBだった。(昨年10月の読売新聞) |
<「国家戦略スタッフ群」の創設と企画・実施両機能の強化>
政治主導の下で、各府省の枠にとらわれず総合的戦略的な政策立案を行う機能を高めるため、内閣・内閣総理大臣を支えるスタッフとして、各府省や民間企業等から選抜されたメンバーから成る「国家戦略スタッフ群(仮称)」を創設する。 |
● 政治家が、政策を立案するのは当然です。しかし、その政策立案に職業公務員が「補助的」に関与する場合でも、政治的中立性を保つことが何よりも重要です。特定利益を代表する政党(政治家)のために職業公務員が政策立案をすることを当然視する改革は、変えてはならない公務員制度の基本的精神を踏みにじることになります。
● 「国家戦略スタッフ群」などの構想は、まさに政権にのみ奉仕する「政治的任命の公務員」となることが想定されます。政権と運命をともにする政治的任用職と身分保障を前提に中立・公平な職務の遂行が求められる職業公務員とは、厳格に区別される必要があります。なお、付言すれば、このような政治的任用職については、今回の行政改革の中で副大臣、大臣政務官などの形で既に具体化されています。
業務の実態に即した行政組織の機能強化を図り、企画立案機能の向上と簡素・効率的な業務執行の確保を実現する。 |
● 企画・実施両機能の強化は、昨年の行革大綱で示された「法令・予算の企画立案と執行の分離」を推進することにほかなりません。公務を執行する職場の実態を切り離した企画立案は現実にはあり得ないことです。これは国民のニーズからより乖離することになります。
● また、企画立案機能の強化は、前述の「国家戦略スタッフ群」の創設や各大臣を政策立案面で直接補佐するスタッフの充実を図ることに他ならず、こうしたことは職業公務員に、その特質(中立性、専門性)を活かした内閣の政策立案への助言の域をはるかに超える役割を求めるもので、現役公務員の活用というやり方が中心とはいえ、限りなく政治的任用に近づくこととなり、職業公務員の中立性を侵しかねない構想となっています。
<責任ある人事管理体制の確立>
各府省が組織・人事管理について主体的に責任を果たす体制を確立するとして、大臣を「人事管理権者」として制度上明確に位置づけ、人事院については、人事管理に係る事前承認、協議事務を廃止することを基本とするとともに、組織としての在り方も含め検討するとしている。 |
● 「大枠」では、各府省ごとに総定員−総人件費などの枠内であれば、組織の改編や組織・業務の特性に応じた給与設定を行えることとするなど、各府省の組織・人事管理の自由度の拡大が構想されています。これは、労働基本権の代償機能として、中立・公正な第三者機関としての人事院に委ねられている人事院勧告、定数設定、勤務諸条件に関わる規則制定権などを各府省大臣の権限とすることにほかなりません。
● このように、大臣を「人事管理権者」と位置づけるならば、人事院勧告による労働基本権の「代償機能」が形骸化することになり、労働基本権や新たな労働条件決定システムの検討が絶対的に必要になります。しかし、「大枠」では、「公務員制度全般にわたる抜本的な改革のための検討を進める中で、労働基本権の制約の在り方との関係も十分検討する」にとどまっており、公務員をさらに無権利状態に押し込む危険性を持っています。