【説明資料】 「『公務員制度改革大綱』の閣議決定にあたっての声明」について |
2001.12.25日本国家公務員労働組合連合会
本日、政府が閣議決定した「公務員制度改革大綱」について、国公労連は、別添の「声明」を発表しました。
以下、その要点について、補足的に説明します。
1 本年6月のILO総会で、「(公務員制度改革にかかわって)労働組合と誠実に交渉・協議」とした日本政府の「国際公約」や、労働基本権を保障する憲法第28条の趣旨にてらして、この間の政府の対応、改革の進め方は言語道断で、認めがたいものです。
(1)公務員制度改革が、公務員労働者の労働条件を大きく変更するものであるにもかかわらず、労働基本権の「代償措置」とされてきた人事院の検討に委ねず、使用者・政府が作業を進めてきました。そのことから、国公労連は、政府・行革推進事務局に、労使の立場での「交渉・協議」を強く求めてきました。6月の「公務員制度の基本設計」決定以降、国公労連と推進事務局との交渉が20数回に及んではいるものの、その内容は、極めて不十分なものでしかありません。
(2)それは、今回の公務員制度改革の一つの柱であった人事制度の改革が、労働条件課題そのものであり、例えば、職能等級制度を何段階にするのか、能力給(基本給)の額をどの程度にするのかなどを、「誰がどのように決定するのか」という決定システムを抜きに議論できないからです。民間の労使関係であれば、「労使自治の原則」によることになる、このような課題が、公務員の労使関係では、労働基本権を制約のありかたで制度内容が変わることになります。事実、推進事務局は、新人事制度にかかわる「国公労連の質問書(10月11日付)」の多くの内容について、「労働基本権問題の取り扱いが決まらなければ回答できない」と述べています。
(3)その労働基本権問題について、推進事務局は、「政治的な課題でもあり与党などとの協議が必要」として明言をさけ、「労働基本権制約は現状を維持」とする回答を正式におこなったのは、大綱決定の直前、12月19日になってからでした。そのことから明らかなように、公務員制度改革の内容についての労使の交渉・協議は、極めて不十分な内容です。
2 内閣・各府省の人事管理権限を拡大し、人事院の機能・権限を縮小する改革を決定しながら、労働基本権については「現行の制約を維持」とする結論は、あまりにも一方的です。
(1)先の第153回臨時国会で、片山総務大臣も答弁しているように、「代償措置と労働基本権はパラレルの問題」です。そして、その「代償措置」の内容は、人事院によるベア勧告だけではなく、ベアの配分、「人員枠」の設定をはじめ、勤務条件にかかわる全てを対象にしています。「大綱」では、そのような「代償措置」の内容にまでふみこんだ検討はほとんどおこなわれておらず、「給与水準等」での人事院勧告や人員枠にかかわる人事院の「意見申し出」に言及しているだけです。
(2)仮りに、現状どおり争議権及び労働協約締結権を制約するとしても、内閣・各府省と人事院との機能整理にふみこんだ以上、交渉権についての検討は不可欠になるはずです。例えば、ILO・「結社の自由委員会」が、1960年代以降くり返し、「管理運営事項による交渉制限」や、「労働者代表が参加しない代償機能のあり方」などの現状に疑問を投げかけ、かつて公務員制度審議会が消防職員の団結権問題とともに「交渉不調の際の調整システム」の検討をILO87号条約批准にともなう「残された三課題」としていたことからもいえます。各府省の自主的な人事管理権限を拡大する今回の改革で、労使の交渉をきちんと位置づけた制度設計をおこなわないことでは、労働者の権利が守れないことは自明だと考えます。
(3)「大綱」では、民間営利企業への「再就職」について、「就職の自由」を強調し、「一定期間は原則禁止」する制度から、「原則自由」の制度に転換しようとしています。であるならば、労働者の権利である労働基本権や市民的自由である政治的自由など、現在は制約されている公務員の権利についても、「原則自由」とする検討をしなければ、基本的人権をめぐって均衡を欠くことになります。「大綱」が、キャリアなど一部の公務員にのみ都合の良い改革でしかないと国公労連が受けとめる一つの理由です。
3 「キャリアによるキャリアのための改革」であることが、「大綱」で、いっそう露骨になっています。公務員制度に対する国民の批判に背を向けているだけではなく、「開き直り」だと言えなくもありません。
(1)1種採用者をはじめから「本府省幹部候補職員」とし、本府省の課長補佐段階まで、集中的に特別な育成策をとることを制度化するのは、キャリア特権制度の「合法化」です。20歳代後半で税務署長や警察署長にあてる「殿様教育」が「復活」することは必至です。
また、政策企画立案部門の職員が退職する際、「自らの能力を社会で活かす道」として民間営利企業への「再就職」を「大臣承認」として「自由化」したり、「官から民、民から官」の人事交流を「奨励」する官民交流の自由化も、「自らの能力を自由に発揮したい」とするキャリアの「エリート意識」を反映したものと言えます。
さらに、いえば、「国家戦略スタッフ」の構想も、政策の企画立案はキャリア官僚層が引きつづき担わなければならないとし、その一部をさらに特権化する「宣言」だとも言えます。
(2)この「国家戦略スタッフ」は、「身分保障のある一般職国家公務員」とされていることも問題です。仮に、政権が変わり、あるいは政策の失敗が明らかになっても、もとの省庁にもどる「途」があり、それもかなわないときには、一時期でも民間企業等に「天下り」し、再び官僚に「舞い戻る」ことが、今回の改革では容易にできる制度になります。「信賞必罰の人事管理」などといいつつ、一部の「勝ち組」(キャリア)には高い処遇と安定を保障する、「大綱」では、そんな人事制度が浮かびあがっていると思います。
4 人事行政における内閣の企画立案機能の強化が強調されていますが、政治の流れに左右されない意味での公務の中立性・公正性が形骸化する懸念があります。
(1)現行の国家公務員法は、憲法によって示されたこの国の民主化を行政面で具体化するための一環として制定された経過があります。特に、政治の流れに左右されない中立・公正な行政を人事行政の面から担保するために、独立の第三者機関である人事院が設置されたことは歴史の事実です。
現行法でも、個々の職員に対する人事管理権限・責任は各府省の長が負っていますが、その基準の設定とチェックの役割は人事院が担っています。なお、内閣総理大臣は、ILO87号条約の批准にともない、「使用者たる政府の代表機関」として人事行政機関に位置づけられています。
(2)今回の改革では、このような枠組みを大きく変更し、内閣の人事行政における企画立案権限を明確にした点に特徴があります。具体的には、採用試験、官民交流、人材育成(研修)、再就職の「統一基準」などは、内閣が企画立案することが明記され、能力等級を何段階にするかなどの「基準」や等級の「人員枠」についても内閣の関与が伺える内容になっています。
例えば、「大綱」では、1種試験合格者を「採用予定者の4倍」とすることを打ちだしていますが、これも企画立案の内容です。合格者を増やして、多くの対象者から採用者を決定することには、特定大学・特定学部の学閥による情実採用や、政治家などの「口きき」による情実採用の危険性を広げるデメリットがあります。また、今回の官民交流や再就職ルールの前提には、「私企業からの隔離」という原則を軽視し、官民の人材流動化をいたずらに強調している側面がありますが、それを前提とした「基準」を内閣が設定することで癒着を防げるのか、大きな疑問があります。人材育成についても同様の懸念がありますが、いずれも政権交代を前提とする議院内閣制のもとでは、行政の中立・公正性と同時に、安定・継続性にもかかわる問題であり、一時の過激な議論で結論づける課題ではありません。
5 能力等級制度と能力評価、業績評価を基軸とする新人事制度は、多様な業務、職種が混在し、かつ行政の目的、性格が一律に規定できない国の行政現場に、一律で適用することはできないと考えます。もともと、今回の公務員制度改革が、本府省の企画立案部門にのみ焦点を当てて検討を進めてきた弊害でもありますが、「大綱」の内容は、公務員制度の「統一基準」としては不適当です。
(1)行政組織法や各省設置法などで、各組織(○○課長、△△補佐、××専門官など)の仕事と責任の範囲が決められています。また、税務行政、職安行政など、それぞれの行政は、個別の法律などで、その目的や権限が規定されています。行政ニーズに柔軟に対応しようとしても、法令、通達などの限界が当初からあるのが実際です。その点では、職員個々人の権限、責任は限定的であり、能力の発揮や成果もその範囲内でのものでしかありません。行政の大部分をしめ、本来的な行政の役割である実施部門では、そのような個々人の権限等が限定された中で、限られた人員で、集団的に協力しあいながら、効率的に行政ニーズに応えているのが現状です。個々人のパフォーマンスや、政策能力を争うことでは、安定的・継続的に、かつ公正な行政サービスを提供し続けることは困難です。
(2)ところが、今回の「大綱」は、そのような現場第一線の行政実態ではなく、「国際的な競争力ある政策」の企画立案を競い合う一部の官僚を育成するための人事制度が基本におかれています。到底、一般化できるものではありません。
目標管理にもとづく業績評価にしても、行政では、処理件数など「目に見える数字」ではかることができないことは言うまでもありません。例えば、「○○の給付額を××%削減」などの目標を掲げることで、経済的弱者の切り捨てなど不測の事態を招く危険性もあります。個々人が、自己の目標達成のみに気を取られ、業務の集団性が阻害されて、結局、行政効率が低下する、そんな危険もあります。
(3)また、給与・任用制度などに評価反映が強く打ちだされ、人事管理権者の「裁量」による運用が強調されていますが、そのことと、労働基本権との関係が未整理のままであることは、先に指摘したとおりです。
なお、「人の能力に給与を払う」とした場合、税金が原資である公務員の場合、適当な水準をどうはかるのか、は国公労連の最初からの疑問としてくり返し質しましたが、「大綱」にいたるも、納得のいく説明は行われていません。
6 「大綱」の内容は、公務員制度の問題点を改善するより、むしろ深刻にするものが多いと、国公労連は考えます。そのことから、「『大綱』の撤回、交渉・協議の仕切直し」を主張します。
(1)「『大綱』の内容で、公務員制度がどうよくなるのか判らない」、それが率直な思いです。労働条件の面でも、「女性の採用・登用の拡大」、「超過勤務の縮減等」が盛りこまれてはいますが、その内容は、これまで、人事院や総務省などが明らかにしてきたものの「引き直し」にしかすぎず、目新しい「改革」内容は一つもありません。
むしろ、既に述べたように、「私企業からの隔離」といった公務の中立・公正性を確保するうえで最も重要な原則が「180度転換」され、内閣の人事行政権限拡大や国家戦略スタッフ構想など、政治的中立性の形骸化にたいする懸念が払拭できない内容も少なくありません。
(2)新人事制度にしても、今以上に労働基本権が制約されたもとで、いたずらに競争を強いられ、上司の顔色ばかりうかがい、あるいは目先の「成果」に一喜一憂する状況が強まるばかりか、内部からの不正腐敗のチェックや告発を困難にし、いっそうの長時間労働を強いられるなどの弊害ばかりが想定される内容です。
国公労連は、内容にかかわっても、進め方にかかわっても、今回の公務員制度改革に多くの異論を持っています。そのことから、「『大綱』の撤回、交渉・協議の仕切直し」を主張します。
以 上