2002年2月27日《No.86》
「公務員制度改革」の違法性を
 ILOに報告 全労連が報告書を提出
 全労連は、2月15日、ILOに対して、「日本国におけるILO第87号条約、第98号条約の適用状況にかかわる報告」を提出しました(詳細は別添)。
 これは、政府・行革推進事務局が進めている公務員制度改革にかかわって、その進め方、内容が国際労働基準に違反していること、昨年6月のILO第89回総会の経緯もふまえてILOが日本政府に対し「注意を喚起」するよう求めるため行ったものです。
 報告内容は、国公労連など公務単産を中心メンバーとする全労連の「公務員制度改革対策委員会」での論議もへて決定したものです。
 具体的には、(1)公務員労働者について、「現行の労働基本権制約を維持」するとした「公務員制度改革大綱」の決定にいたる経過は、国公労連などとの交渉が尽くされておらず、ILO総会・基準適用委員会議長の「報告」や同総会での日本政府の「公約」に反していること、(2)消防職員の団結権問題や、非現業公務員にたいする「交渉制限」問題など、ILOがくり返し是正を求め、国内でも長年の懸案となっている労働基本権課題について、「公務員制度改革大綱」にはまったく言及されておらず、不誠実な検討内容となっていること、(3)加えて、内閣・各府省の人事管理権限を拡大する一方で人事院の権限を縮小するという「公務員制度改革大綱」の内容は、現行以上に労働基本権を侵害する内容であること、の3点からなっています。
 3月に、ILO「結社の自由委員会」理事会が開催されるという状況や、公務員制度「改革」が現に進行中であって権利侵害の具体的事案の立証が困難なこと、などを考慮して、「提訴」の形式ではなく、ILOへの情報提供の形式で「報告」書を送付したものです。
 引きつづき、6月の総会にむけ、国際的な働きかけもふくめ強化することとしています。


〈別添〉

国際労働機関事務局
結社の自由部 御中                 

 2002年2月15日      
全国労働組合総連合
議長 小林洋二

日本国におけるILO第87号条約、第98号条約の適用状況にかかわる報告


【報告の提出者】
 全国労働組合総連合(以下、全労連)は、日本の労働組合ナショナルセンターの一つであり、1989年11月に設立され、現在22単産、47地方組織が加盟し147万人の組合員を有している。加盟組織には、日本国の地方公務員24万人をを組織する全国組合・日本自治体労働組合総連合(以下、自治労連)、公立の小学校、中学校、高等学校、障害児学校教職員としてはたらく地方公務員15万人を組織する全国組合・全日本教職員組合(以下、全教)、国家公務員14万人を組織する全国組合・日本国家公務員労働組合連合会(以下、国公労連)も含まれている。

【報告の内容】
1 日本国政府は、ILO第87号条約を1965年に、同第98号条約を1954年に批准している。
 昨年、第89回総会・基準適用委員会における、第87号条約にかかわるオブザベーションに関連し、日本政府代表は、進めている公務員制度改革について、「職員団体をはじめとする関係者と誠実に交渉・協議しつつ、制度の内容について検討」する旨を表明している。同時に、公務員の労働基本権にかかわってILOが日本政府に対して示してきた「見解を十分認識している」ことにも言及している。

2 日本政府は、昨年6月29日に「公務員制度改革の基本設計」を公表し、12月25日には「公務員制度改革大綱」を閣議決定した。その「大綱」では、「公務員の労働基本権の制約については、これに代わる相応の措置を講ずることを今後も確保しつつ、現行の制約を維持する」としている。
 政府が、公務員のストライキ権の一律全面禁止、非現業公務員の団体交渉権の制限を意味する「労働基本権制約の現状維持」を国公労連などに提案したのは、「大綱」決定の直前、12月19日であった。この事実に照らしても明らかなように、日本政府は公務員組合等との「誠実な交渉・協議」の努力を尽くしていない。

3 また、日本政府自身が言及しているように、「大綱」は一般行政職を中心とした制度改革内容を示したものである。一般行政職以外の国家公務員や、地方公務員、教員などの制度については、全く検討がおこなわれていない。にもかかわらず、日本政府は、全ての公務員について、現行どおりの労働基本権制約を維持することを明言している。そればかりか、2003年中の国家公務員法「改正」案提出と同時期に、これに準じた地方公務員制度改革法案の提出をも明言している。これらの事実も、日本政府と公務員労働組合等との「交渉・協議」が尽くされていないことを明らかにしている。

4 全労連は、第89回総会・基準適用委員会が、「できるだけ早く、職員の結社の自由権を保障するための措置をとることへの期待」を表明し、「政府が公的部門の関係労働組合との間で関連する諸点に関しての社会的対話を確立するための努力」をおこなうよう強く主張したことを想起する。
 「大綱」決定にいたる日本政府の公務員労働組合への対応や、引きつづき公務員の労働基本権制約を維持するという「大綱」の内容は、それらの期待や主張から明らかに逸脱している。

5 日本政府は、「基本設計」において、公務員制度改革の具体化にむけた詳細な検討を進めていく中で、労働基本権制約のあり方を検討することを表明していた。国公労連をはじめとする公務員労働組合は、その政府提案を受けとめ、労働基本権の全面回復を基本要求にしつつ、給与制度をはじめとする個別制度ごとの「交渉・協議」を求めた。
 政府と関係労働組合との交渉・協議は相当回数にのぼっている。しかし、「労働基本権問題は政治課題」とする不誠実な姿勢を日本政府がとり続けたことから、個別制度にかかわる交渉・協議もほとんど進展しなかったのが実情である。なお、公務員制度改革作業を進めている内閣官房行革推進事務局も、「大綱」決定直前の国公労連との交渉で、「給与制度など個別制度の内容はほとんど具体化できていない」ことを認めている。
 このような事実は、日本政府が、個別制度とはかかわりなしに「労働基本権制約の現状維持」を決定したことを容易に推測させるものである。日本政府の不誠実な対応に、全労連や公務員労働組合は強い不満を持っている。

6 全労連は、労働基本権にかかわる公務員労働組合と日本政府との争点が、次の点にもあったことを想起する。
 一つは、消防職員の結社の自由に対する権利の制限、二つは、「管理運営事項」、「権限外事項」を理由に一定事項が交渉の対象から除外され、当局の裁量で交渉権制限がおこなわれること、三つには、「財政上の理由」などから、人事院や人事委員会の給与勧告等が政府や自治体当局に無視され、あるいは当局が給与引き下げを一方的に決定するという労働基本権侵害がしばしば発生すること、四つに、人事院や人事委員会の構成に労働者代表を認めないこと、五つに、日本政府が「国の行政にたずさわる公務員」の範囲を広く設定し権利を制限し続けていること、などである。
 これらの点について、「大綱」は何らの言及もおこなっていない。

7 労働基本権にかかわる公務員労働組合と日本政府との争点については、ILOもくり返し関心を表明していることを想起する。
 例えば、1999年、ILO第87回総会に対する条約勧告適用専門委員会報告においても、日本政府に対し、消防職員の結社の自由に対する権利の制限にかかわって、「消防職員に団結権を保障するためどのような措置」が予定されているかを示すよう要請がおこなわれている。また、「ストライキ権が制限されている労働者に対し、その代償となる保障を与える必要性」についての注意が喚起され、「将来十分な保障を与えるためにどのような措置」がとられたかを示すよう要請がおこなわれている。
 昨年の第89回総会に対する基準適用委員会議長報告でも、同趣旨の関心が示されていると承知する。

8 日本国内においても、1965年、ILO第87号条約の批准にともなう公務員制度改革がおこなわれた後も、消防職員の団結権、交渉不調の際の調停方法、団結禁止違反などに対する刑事罰の3点(いわゆる「公務員制度審議会の残された3課題」)について、引きつづき検討することを日本政府は明言した。そのための検討機関として公務員問題連絡会議が1973年に設けられた。しかし、同連絡会議は、何らの前進的な結論を出さないまま、1997年に廃止されている。

9 日本政府は、今回の公務員制度改革は抜本的なものであることを繰りかえし述べている。そのように主張する以上、公務員労働組合と日本政府との争点、日本政府にたいするILOの長年の関心、ILO第87号条約批准以降の日本国内での経緯に、日本政府は注意を払うべきである。
 しかし、「大綱」には労働基本権制約の維持が一方的に宣言されているだけで、それらの経緯にはなんら言及していない。そればかりではなく、先にもふれているように、公務員労働組合と日本政府の間では、労働基本権にかかわる交渉・協議はほとんどおこなわれていない。

10 「大綱」では、「内閣及び各主任大臣等が機動的・弾力的に人事・組織マネージメントをおこなっていく」ことを明言している。そのため、「各主任大臣を、自らの判断と責任において、人事・組織の設計運用をおこなう『人事管理権者』として制度上明確に位置づける」としている。また、内閣が「人事行政に係る企画立案機能を積極的に発揮」することを明言している。それらとのかかわりで、人事院の機能を見直すとし「事後チェック機能」に役割を後退させようとしている。
 日本政府は、これまで、労働基本権制約の合理性を主張する際、代償措置としてきた人事院などが存在することに根拠をおいてきた。しかし、「大綱」がしめす公務員制度改革の内容は、人事院の機能・権限後退の一方での政府・各省当局の人事権限拡大であり、長年にわたって公務員労働組合などがその不十分性を指摘し続けてきた人事院などの代償機能さえ失われる懸念がある。

11 「基本設計」は、個人ごとの能力・実績反映の給与制度など、各府省当局の労働条件決定権限が現状よりも拡大せざるをえない改革内容であった。全労連などは、その認識からも、労働基本権回復の検討を日本政府にもとめてきた。また、少なくとも、現行の労働基本権制約と人事院の代償機能とはパラレルの関係であるとの国会における政府答弁もふまえた制度検討を求めてきた。しかし、これまでも触れているように、政府は、労働基本権制約の現状維持を一方的に宣言するのみで、要求に応えないばかりか、労働基本権と代償措置との関係整理もほとんどおこなっていない。公務員労働組合は、このような「大綱」の内容に、現状よりも労働基本権が侵害される恐れが強い改革となるとして、懸念を強めている。

12 日本政府は、「大綱」で示した基本プランに基づく個別の制度改革を、内閣官房行革推進事務局で進めるとしている。その推進事務局の構成の半数は、人事院からの出向者である。それは、「基本設計」において、政府が「人事院協力」を求めた結果である。「大綱」でも、公務員制度改革にかかわる「人事院のより一層の協力」が求められている。これは、人事院の代償機能が事実上形骸化していることを意味している。
 日本政府が固執する勤務条件法定主義のもとでの公務員制度改革は、給与決定の基準等の労働条件変更にほかならない。公務員労働者の利益を守るための労働基本権を制限し続ける一方で、制約の代償措置としてきた人事院の機能が形骸化したままで公務員制度改革を進めることは、ILO第87号条約や第98号条約に反する行為であり、日本政府の労働基本権軽視の姿勢の表れにほかならない。このような公務員制度改革の進め方について、ILOは日本政府に注意を喚起すべきである。

13 全労連は、今、日本国内でおきている公務員労働者の権利をめぐるあらたな状況を報告し、ILOが、第89回総会・基準適用委員会議長報告の日本国内における履行状況についての監視を強めるなど、速やかで適切な対応がおこなわれることへの期待を強く表明する。
 なお、昨年8月31日、国連・経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会・第26期(特別)会期において、日本政府に対し、「ILOに従って、不可欠な業務に従事していない公務員のストライキを行う権利を保障すること」の勧告がおこなわれていることも付言する。

以  上



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