2002年6月14日《No.97》
第90回ILO総会・基準適用委員会「議長集約」
団体交渉権の確保、促進について「強い希望」を表明

 6月11日(現地時間)に、日本での公務員制度改革にかかわって、ILO第98号条約(団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約)の日本国内での適用状況を審査していた標記の委員会での「議長集約」が明らかになりました。

 委員会では、国立病院部門における「反労働組合差別」(第1条関係)、と国営企業における「団体交渉の促進」(第4条関係)での日本政府の対応を「前向きな進展」と評価しつつ、日本の公務員が「自らの給与決定への参加」が「著しく制限」されていることに問題意識を表明しています。

 そして、「国家の運営に関与しない公務員」に対して、進行中の公務員制度改革の機会に、「団体交渉を奨励し、促進」するように求め、「法と実施の両面」で取られた措置(予定を含む)の情報提供を日本政府に求めています。

 今回は、先にもふれているように、第98号条約に限定して、日本国内での適用状況が審議されたこともあって、このような「議長集約」になっていますが、昨年に引き続き公務員制度改革にかかわってILOが言及し、しかも「労働基本権制約は現状維持」とする「公務員制度改革大綱」に批判的な言及を行ったことは大きな意義があります。

 全労連が結社の自由委員会に提訴している案件については、本年11月にも見解をとりまとめる意向をILOが示しており、それに向けても重要な意義をもつ「議長集約」だと言えます。

【資料1】
第90回国際労働総会基準適用委員会(2002年6月、ジュネーブ)

日 本 案 件
議 長 集 約
(暫定版)

 委員会は、政府代表の陳述とそれに続く討論に留意した。

 委員会は、専門家委員会が反労働組合差別の行為にたいする保護に関する条約第1条、及び団体交渉の促進に関する第4条の適用に関係する問題を取り上げたことを想起した。

 委員会はこの点に関して、国立病院部門と国営企業における前向きな進展を歓迎し、政府が病院部門の労働者のために団体交渉権を全面的に確保するための措置を引き続きとるよう奨励した。

 しかしながら委員会は、自らの給与の決定に参加することがいちじるしく制限されていることに懸念を持って留意した。

 本条約が国家の運営に関与しない公務員にたいして適用されることを想起しつつ、委員会は、政府が、関係するソーシャルパートナーとの十分な協議の上、現在進行中の公務員制度改革の機会に、本条約が適用される公務員の雇用条件がこれらの手段によって決定されることを目的として、団体交渉を奨励し促進するよう強い希望を表明した。

 委員会は、政府が、次回の報告において、この点に関する進展について、とくに法と実施の両面における条約の全面的な適用を確保するためにとられた措置、若しくは予定される措置について詳細な情報を提供するよう強く要請した。
(全労連国際局仮訳)

【資料2】
第284回ILO理事会(2002年6月、ジュネーブ)

結社の自由委員会第328次報告(抜粋)

第2139号案件

全国労働組合総連合(全労連)提出の日本政府に対する訴
労働組合がその労働者代表義務を果たすことを妨げる反労働組合差別に関する申し立て
パラグラフ 417.〜419.(略)

A. 原告の主張
パラグラフ 420.〜429.(略)

B. 政府の回答
パラグラフ 430.〜438.(略)

C. 委員会の結論
439.委員会はこの訴が、中央労働委員会、地方労働委員会及び三者構成の各種地方・中央審議会や委員会の労働側委員に中央・地方当局が別の労働者組織(連合)の候補者を系統的に任命することによって連合を特別扱いし、全国労働組合総連合(全労連)が多数の労働者を代表しているという事実にもかかわらず、全労連候補者を事実上これらの機関から排除しているという全労連の申し立てに関するものであることに留意する。原告は、政府がそうすることによって差別的なやり方で行動し、原告が労働者を代表するという義務を果たすことを妨げ、こうしてその組合員の団結権及び団体交渉権が侵害されていると主張している。さらに、様々なレベルで不当労働行為について決定することをはじめとする機能を持つものの、政府による連合候補者への特別扱いによって全労連候補者がほとんどいないというこれらの機関への信頼をなくしかねない労働者がいることを原告は主張している。

440.委員会は、本質的に、政府が組合員数はそのような任命を行うに当たって考慮に入れるべき要素の一つにすぎないこと、労働者委員はいったん任命されたならばその所属にかかわらず全労働者の全般的利益のために行動すること、そして、いずれにしろ、これまでいかなる労働組合あるいは労働者も全労連への所属ゆえに、中央労働委員会の処分において不当な処置をこうむっていないと回答していることに留意する。

441.委員会は、全労連とその加盟組織もしくはそれらの組合員または代表が受けたという否定的な結果という主張を実証するためのいかなる証拠も示されていないと認識する。この点で、原告が提出したナショナルセンター別不当労働行為申し立て件数に関する統計は決定的なものではない。一つの特殊・具体例(国営企業に関する2001年度の賃金決定)では、連合及び全労連によって調停が求められ、補足的仲裁裁定が双方にたいし一律に適用された。したがって、提出された証拠にもとづき、原告のこの点での主張は認められない。

442.連合及び全労連のそれぞれの組合員数に関しては、時により矛盾する当事者の申し立て(おそらく意図的なものではなく、それらの数字が異なるデータと計算に基づいているという事実によると思われる)にかかわらず、委員会は、明らかに連合がはるかに多数の組合員を持つ一方、これもまた明らかなことだが、全労連はかなり大きな数の労働者によって自らの利益を代表するものとして選択されていると認識する。そして、中央労働委員会(15人全員の労働者委員が連合の隊列から出ている)、地方労働委員会(256労働者委員が連合であり、全労連はわずか4人)、及び三者構成の各種中央・地方審議会や委員会(連合は151審議会中78に代表をだしており、全労連代表は1名もいない)にたいして任命された連合及び全労連の労働者委員数には明白な不均衡があることを、証拠は示している。

443.委員会は、政府が不均衡の存在することを否定しないが、組合員数はそうした任命に当たって考慮に入れるべき要素の一つであること、そしていったん任命されたならば、労働者委員は所属の違いにかかわらず労働者の全体的利益を代表するという理由でそれを正当化していることに留意する。そこに問題の核心がある。一労働団体が共同の委員会の委員から除外される、またはいちじるしく不十分にしか代表されていないという事実は必ずしもその組織の労働組合権の侵害を意味しないが、しかし、侵害がないからといって、そうした除外または不十分な代表ということの理由は、客観的な基準によって決められる非代表性に求められるべきである。[結社の自由委員会の決定と原則の判例集1996年パラグラフ946参照]

444.本件でその構成が問題とされている機関は、労働関係の観点から極めて重要な機能を行使している。したがって、これら機関が権利の仲裁を求める労働者の信頼を獲得し維持することは最大限に重要である。委員会は政府の上記の主張を評価するが、しかし、結社の自由原則は絶対的な比例代表(証明することが不可能であり、実際、代表性の過度の細分化の危険ゆえに推奨できない)があるべきことを求めてはいない中で、当局は、まさに最低限、労働組合の複数性を認め、労働者の選択を反映させ、そして実際に、すべての代表的労働者団体を平等な土台の上で取り扱うために公正かつ道理にかなった努力がなされていることを示すことを斟酌すべきである。委員会は、労働者の利害にかかわる問題を扱う共同の委員会を構成するに当たっては、政府が問題となっている事柄に実質的な利害関係をもつ労働組合運動の様々な潮流の代表権のための適当な規定を設けるべきであること[同判例集引用パラグラフ944参照]、及び三者構成機関における労働者組織の参加に関するいかなる決定も、その代表性が客観的に証明される労働組合との十分な協議の上行われるべきであること[同判例集引用パラグラフ943]を想起する。

445.委員会は、政府が特定の一組織に優位を認めることが可能な場合、そこには、たとえそれが政府の意図するところではないにしても、一労働組合が他の組合との関係で不当に優位あるいは不利な立場に置かれ、そのことによって差別行為となる危険があることを想起する。より正確にいえば、たとえ労働者の当然の労働組合選択が職業、宗教、政治、その他の理由によって他の組織に加入させることがあるとしても、労働者は疑いもなく自分たちにもっともよく奉仕できる組合に所属することを望むために、政府は、特定の一組織に特別待遇を与えることによって、労働者が所属しようとする組織に関する労働者の選択に直接あるいは間接に影響をおよぼすことがある[同判例集引用パラ303]。加えて、意識的にこうしたやり方で行動する政府は、本条約(87号)に規定する権利を制限もしくはその合法的な行使を妨げるどのような介入も公権力は控えるものとするという第87号条約に定められた原則の違反となり、それはまた、より間接的には、国内法は条約に規定された保障を損ない、もしくは損なうように適用されないものとするという原則の侵害である[同判例集引用パラ304]。

446.委員会は、政府がその結論的意見の中で、将来の任命について予測することはできないが、各労働組合の組織状況が一つの要素として勘案されるであろうと述べていることに関心を持って留意する。委員会は、政府がこの道を追求し、願わくは、すべての代表的組織をふくむ三者協議にもとづき、その方向で検討を深めるよう強く奨励する。委員会は政府に対し、労働委員会制度の公正さに対するすべての労働者の信頼を回復することを目的として、2002年10月の中央労働委員会での実施をはじめとする労働委員会及び審議会等への次期指名を開始するに当たって、上記の原則を重視するよう要請する。委員会は政府に対し、この点に関する進展についてひきつづき情報提供するよう要請する。

委員会の勧告
447.前述の結論を考慮し、委員会は理事会が次の勧告を承認するよう求める。
 委員会は日本政府に対し、労働委員会及びその他の審議会の公正な構成にたいするすべての労働者の信頼を回復するために、すべての代表的な労働組合組織にたいして公正かつ平等な取り扱いを与える必要に関する結社の自由原則にもとづく適切な措置をとるよう求める。委員会は政府に対しこの件に関する進展についてひきつづき情報提供するよう要請する。
(結社の自由委員会の本報告は2002年6月7日、第284回ILO理事会に提出された。総会最終日の6月21日、同会期理事会で採択の予定。)
(全労連国際局仮訳)

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