2002年7月17日《No.102》
「政治家の働きかけに関する緊急アンケート」の結果を記者発表
2割の仲間が「働きかけあった」−行政ゆがめる実態明らかに

 本日、国公労連は、「政治家の働きかけに関する緊急アンケート」の集計結果を記者発表しました。厚生労働記者会で行われた記者発表には、NHKテレビなどマスコミ6社がつめかけました。以下、記者発表した内容です。

【アンケートの概要】
(1) 実施時期  2002年5月13日〜6月3日の3週間
(2) 調査の対象 各府省の実施部門に働く国公労連の組合員
(3) 調査の方法 全司法(裁判所の組合)及びオブザーバー加盟の単組を除く17単組について、中央本部を通じてアンケート用紙を配布(10,000枚)し、各単組の組織人員の5%を集約目標(5,000名)に無記名での回答を求めた。
(4) 集約状況  17単組・3,642名(対象組合員数の3.7%)から回収、集約した。

【アンケート実施の目的】
(1) 2002年1月、鈴木宗男衆議院議員が、北方支援事業にかかわって、外務省への口利き問題(いわゆる「ムネオ疑惑」)が国会で取りあげられた。その後、同議員が、外務省の施策の決定に深く関与していたことを伺わせる事実が次々に明らかになり、「政治家と官僚の関係」が改めて問われる状況となった。
 同時期に、国会議員の秘書が、公共事業の執行にかかわる収賄容疑で逮捕されるという事件も表面化した。
(2) 国公労連は、従来から、そのような状況を「政官財」ゆ着の問題ととらえ、官僚の「天下り」禁止や、職員の「内部告発権」の保障などを求めてきた。
 今回のアンケート調査は、改めて「政と官」の関係が問題となっている中、行政第一線の執行部門に政治家がどの程度介入しているのかを一定明らかにするとともに、その是正方策の一つとして、各方面での検討が進んでいる「内部告発権」についての国家公務員労働者の意識などを把握するために実施した。

【アンケート結果の概要】
(1) 政治家からの働きかけがあったと回答したのは2割
 組合員が実際にかかわった過去3年間の業務の中で、「政治家(国会議員や地方議会議員)からの働きかけ(特定の業者・個人にかかわる口利きや業務執行への介入)を受けたと感じた経験」を尋ねた結果は、20.4%が「あった(経験あり)」と回答した。



(2) 「(働きかけが)あった」と回答した者を対象に、頻度などを尋ねた結果
1 3分の1が、年に複数回の「働きかけ」を受けたと回答
 「働きかけの頻度」では、「年に複数回の働きかけがあった」との回答が3分の1(33.4%)となっている。これに「年1回程度」(34.9%)を加えると、年に1回以上の働きかけを7割弱(68.3%)が経験している。

2 上司を通じた「働きかけ」が5割
 「働きかけの形態」は、「(政治家から)直接受けた」が33.3%、「上司等の言動から感じた」が24.8%、「上司が明言して指示を受けた」が23.7%という順であった。6割近くが「直接」もしくは「上司の明言した指示」と回答し、直接的な働きかけ受けている。
 また、上司が働きかけに関与していることが伺える「上司が明言して指示」、「上司等の言動から感じた」があわせて48.5%にものぼり、政治家の働きかけに対する行政側の組織的な対応も伺える。



3 働きかけは政治家の秘書からが5割強
 働きかけを行ったのは誰かでは、半数(52.0%)が政治家の秘書であると回答。政治家本人とするものも3分の1(34.2%)となっている。
 その政治家の「中味」は、国会議員(52.3%)、市町村議会議員(21.4%)、都道府県議員(18.2%)の順となっており、5%とわずかではあるが、知事、市区町村長などの自治体首長からも働きかけを受けたとしている。

4 政治家の介入は行政第一線の出先にまで及んでいる
 どのような機関で受けたかも尋ねているが、回答状況では、地方出先機関(48.1%)、管区機関(24.7%)、府県単位機関(15.8%)、本省庁(8.7%)の順となっており、個別の行政を最終的に執行する出先機関にも、相当数の働きかけが行われている。
 なお、今回の調査対象が必ずしも機関別の人員に比例したものとなっていないことなどから、この調査結果だけで出先機関ほど多いとは断言できない。

5 「働きかけ」は、許認可など行政権限の行使にかかわる事務分野で多い
 働きかけを受けた業務の内容では、許認可(23.3%)、審査・適用(13.7%)、補助金(12.0%)、行政処分(11.7%)、公共事業の執行(8.5%)の順となっている。補助金や公共事業の執行など、政治的な圧力を受けやすい業務を上回って、許認可など行政権限の執行そのものの業務への働きかけが上位にある点が注目される。



6 「働きかけ」は行政執行に影響している
 政治家の働きかけが行政執行にどのような影響を及ぼしたかでは、「影響はなかった」とするのは26.1%で、4分の3が何らかの影響があったと回答している。その内容は、「慎重に処理した」(35.9%)、「処理が早くなった」(18.2%)としているが、15.6%は「結果が変わった」と回答している。



(3) 約6割が、内部告発の「機関」や不利益取り扱い禁止などの制度保障が必要と回答
 不正を告発する「機関」の設置や告発したことによる不利益取り扱いを禁止する制度の必要性について、「(必要だと)思う」(58.8%)、「思わない」(10.6%)と、6割が制度化を求めている。なお、「わからない」として意見表明を行っていないものも4分の1強(27.6%)にのぼっている。



(4) 公務員倫理法の「効果」があったとするのは3分の1
 公務員倫理法の制定で、利害関係者などによる公務員への働きかけが「減った」とするのは3分の1の32.8%であり、「変わらない」、「ひどくなった」とする消極的な評価の17.8%を15.0ポイント上回っている。「わからない」として評価を行っていない回答が、34.0%と最も高くなっているものの、全体的にみて一定の「効果」が認識されている。

(5) 「自由記入」での特徴点
1 本省など上部機関から、政治家の働きかけを受けた「指示」が行われることを指摘する記入があった。
2 また、働きかけがあった場合、管理職を先頭にした組織的な対応が行われるか否かが、結果に反映するという記入もあった。
3 働きかけの相手方、内容等を文書化し、情報公開の対象とすることを求める意見があった。
4 公務員倫理法を積極的に評価する意見がある一方、OBや先輩とのつきあいがしづらくなったとの意見もあった。
5 日本の風土として、政治家の働きかけはなくならない、とする意見もあった。
6 直接、政治家が「窓口」を訪れ、行政処分の撤回を迫ったとする事例の記入もあった。
7 行政サイド(特に、予算、法律を策定する分野の官僚)が政治家を「利用」する状況が、政治家の介入の温床だとする意見があった。

【アンケート結果をふまえて】
 今回のアンケート調査で、1)行政執行にかかわって、「政治家からの働きかけ、介入があった」と2割が回答していること、2)その介入も、「許認可」や「審査適用」、「行政処分」など行政権限の執行にも相当数あること、3)政治家の介入で「結果が変わった」と思われるものが一定数あること、などの点が明らかになった。
 そのことは、現在の法制度だけでは、行政執行の公正・中立性を確保しきれないことを示しており、何らかの新たな規制策が求められているものと考える。
 国公労連は、今回のアンケート結果もふまえ、次の点での制度検討などを関係当局に求めたいと考える。

(1) 行政の執行分野への政治家の介入を早急に規制すること
 当面、行政執行分野への政治家(大臣など行政内部にいる政治家を除く)と公務員との接触を禁止するルールの確立が急務だと考える。
 また、政治家(秘書を含む)が、直接、本省以外の機関に「働きかけ」を行うことを禁止し、対応は本省に一本化して、かつ、働きかけの相手方、内容、及びそれへの対応結果は全て文書化することなど、行政サイドのルール化も早急に検討すべきである。

(2) 内部告発の権利を保障し擁護する制度を確立すること
 法や制度に反し、あるいは不当な圧力に屈した違法な行政執行を内部からチェックするための制度検討が必要である。
 今回のアンケート結果をふまえれば、1)政治家の働きかけが上司を介在して行われる事例が相当数あること、2)政策の企画立案部門での政治家と官僚の接触が煩雑に行われる状況で、「本省指示」を口実とした間接的な政治家の介入のおそれが払拭できないこと、などから、各府省での「告発受理機関」に加え、各府省から独立して告発をあつかう機関を設置すべきだと考える。

(3) 「政と官の関係」見直しの観点から、公務員制度改革大綱を抜本的に修正すること
1 政府が、2001年12月25日に決定した「公務員制度改革大綱」は、1)国家戦略スタッフ群の創設、2)時々の政策課題ともリンクした組織目標と行動基準を前提とする評価制度の導入、3)人事管理における内閣、各府省権限強化の一方での労働基本権の制約維持、4)「天下り」自由化やT種採用者の特権的人事の温存、などを内容としている。
 これらの内容は、政治と行政のゆ着を強めるだけではなく、行政の内部からのチェック機能をさらに弱める危険性をもっている。
2 そのことから、「政と官」の関係について、国民的な論議もふまえたルール化を検討し、その上で、公務員制度の改革を一から論議し直すことが必要だと考える。
 そのことなしに、なし崩しで「大綱」の具体化を進めることは、将来に大きな禍根を残すことになりかねないと考える。

(以 上)


トップページへ  前のページへ