国公労連は2003年2月26日、マスコミ各社に対して下記の内容の「記者発表資料」を配布しました。 |
「不利益遡及は許さない・国公権利裁判」の提訴について
【国公労連の紹介】
日本国家公務員労働組合連合会(略称:国公労連、委員長:堀口士郎)は、1府7省(内閣府と総務、法務、財務、文部科学、厚生労働、経済産業、国土交通の各省)とその関係法人及び裁判所に働く職員で組織する21組合・14万人の産業別労働組合。1975年10月に現在の連合体に移行し、職員の労働条件改善と国民のための行財政・司法の確立、教育・医療・福祉の拡充などを求めて全国で活動中。
【提訴の概要】
(1) 昨年8月8日におこなわれた人事院の給与勧告は、行政職ベースで平均7700円(2.03%)の月例賃金引き下げ、特別給(一時金)の0.05月カットなどを内容としていた。
同時に、勧告では、2002年12月の一時金について、「本来支払われるべき期末手当の額」から「2002年4月に遡って賃金ひき下げが実施されたとして算定される額」と「既に支払われた月例給の額」の差額分を差し引く「調整措置」を講ずることが盛り込まれていた。
この勧告内容は、閣議決定を経て、10月18日に給与法案として提出され、11月15日に与党3党の賛成多数で可決され、成立した。
その結果、2002年12月期に国家公務員に支払われた期末手当は、4月から11月の間の「調整措置」相当額が減額して支給された。
(2) 国公労連は、勧告をおこなった人事院に対しても、また、給与法改正法案を検討した政府(総務省)に対しても、そのような「調整措置」は、事実上の賃金引き下げ遡及措置(=不利益遡及措置)であるとして反対を申し入れたが、その主張は聞き入れられることなく一方的に決定され、実施された。
(3) 以上の経過に照らして、「調整措置」の決定過程は国公労連の団体交渉権を侵害(憲法第28条、ILO87号、98号条約に違反)しており、「調整措置」を定めた改正給与法附則第5号は不利益不遡及の法理を脱法した違法行為である。
国公労連傘下の6省13組合(省庁別労働組合)に加盟する公務員労働者126名(2月21日時点)は、国による違法、脱法行為によって生じた損害(「調整措置」によって減額された額)の賠償を国にもとめて提訴することとした。
(4) なお、現在政府が進めている公務員制度改革では、「労働基本権制約の現状維持」(公務員制度改革大綱)とされ、その「決定」に対しては国内外から批判が集中している。今回の裁判を通じても、特に、現行の団体交渉権制約の不当性を追及することに、運動上の主眼をおくこととしている。
(5) また、8月の人事院勧告以降、その影響を直接うける「750万労働者(地方自治体、特殊法人など、別添)」をはじめ民間労働者にも、遡って賃金を引き下げられる「不利益遡及」が広がっている。働くルールの形骸化にもつながりかねない状況であり、これらの労働者とも共同したとり組みを広げていくこととしている。
【提訴のおもな主張点】
(1) 「減額措置」にもとづく期末手当の支給は、憲法第28条の団体交渉権保障に反し、違憲・違法
@ 国家公務員の団結権及び団体交渉権は、軍隊、警察及び国家の名において権限を行使する公務員を除き、全面的に保障されるべきでる。
A 労働条件の不利益変更である「調整措置」の決定過程で、原告が加盟する労働組合(国公労連)との団体交渉はおこなわれていない。
B 仮に、国家公務員について、団体交渉権が全面的に否定されるとしても、その場合には適切な代償措置が保障される必要がある。
現行の人事院勧告制度は、当事者の参加が全く認められておらず適切な代償措置とは言えない。
(2) ILO87号、98号条約の団体交渉権保障を侵害
@ 憲法第98条2項は条約遵守義務を定めており、批准しているILO87号、98号条約は我が国を法的に拘束している。
A 2002年11月、ILO理事会は、国家公務員の団体交渉権を全面的に制約していること、団体交渉権が制約される国家公務員に関わる代償措置の不適切さなどを指摘し、我が国の公務員制度がILO条約に違反していると勧告している。
(3) 期末手当減額特例規定(「調整措置」・改正給与法附則第5号)による減額した期末手当の支給は違法行為
@ 不利益不遡及の原則は、判例でも確定している法理である。
A 給与法改正前に支払われた賃金を事実上減額する「調整措置」は、不利益遡及であり、法理を脱法した違法行為である。
【原告等の構成】
(1) 国公労連加盟の13組合(単組)で募集した126名(2月21日現在)
(2) いわゆる裁判闘争は、国公労連全体でとり組むことを確認(原告は、全組合員を代表)
(3) 弁護団は、岡村親宣弁護士(東京本郷法律事務所)外4名で構成
【提訴の予定】
3月5日15時30分に東京地方裁判所に訴状提出
【提訴にあたってのコメント】 国公労連書記長・小田川義和
公務員労働者は、既に支払われた賃金が遡って引き下げられる場合でも、その決定│に関与することができません。団体交渉権が保障されていないからです。
今回の裁判では、公務員の労働基本権制約の違法性や、人事院勧告制度の不十分さを争いたいと考えています。
公務員も過去に支払われた賃金を返している、などとして、民間にも不利益遡及が広がりはじめていると言われています。不利益不遡及というような最低限のルールを国が率先して破ることが、民間の労働者にも悪影響をおよぼすことも問いただしたいと考えています。