2003年2月27日《No.138》

ILO勧告・労働基本権などで石原大臣を追及
 −衆議院内閣委員会で公務員制度問題を審議−

 ※「公務員制度改革」闘争ニュース(全労連「公務員制度改革」闘争本部発行)2003年2月26日《No.22》より転載

 「公務員制度改革」をめぐり、労働組合の納得も合意もないまま、関連法案の国会提出がねらわれる緊迫した情勢のもと、26日の衆議院内閣委員会では、日本共産党の吉井英勝議員が質問に立ち、ILO勧告などにかかわって石原行革担当大臣を追及しました。
 この日の国会質問は、過日の共産党議員団との懇談会もうけておこなわれたもので、全労連「公務員制度改革」闘争本部では傍聴行動にとりくみ、15名(国公労連11名、全教2名、自治労連1名、事務局1名)が参加しました。

 ◆条約は守るが、勧告はILOの理解が足りない〜福田官房長官

 11時15分から約50分にわたる吉井議員の質疑では、おもに、(1)ILO勧告に対する政府の基本姿勢、(2)労働組合との意味のある交渉・協議の必要性、(3)労働基本権の「代償措置」との関係、(4)能力等級制度の勤務条件性などを柱に、担当の石原伸晃大臣、政府代表としての福田康夫内閣官房長官の見解を求めました。
 吉井議員は、はじめに、昨年11月に出されたILO勧告の概要を示し、「勧告は、わが国の公務労働法制を国際労働基準に適合するような改訂を求めている。政府には、批准した国際条約を遵守する義務がある。だとすれば、ILO勧告に沿った措置をとるべき」と福田官房長官に問いだだしました。
 福田官房長官は、「条約は遵守しなければならない。しかし、出された勧告は、これまでのILOの見解とも、日本政府の見解とも異なったものだ。正しい理解が得られるように働きかけていきたい」と答弁し、ILO勧告は受けいれがたいとの政府の姿勢をあらためて明らかにしました。
 また、勧告でも指摘された「意味のある交渉・協議」をめぐっては、吉井議員は、「当該の国公労連から出された要求書や申入書のなかで、『公務員制度改革大綱』に盛り込んだものは一つでもあるか?」と質問すると、石原大臣は、「一つ一つの文言を比較していないので何とも言えないが、改革に対する位置づけについて意見の相違が多かったのは事実だ」とのべると、「それは、要するに、『聞き置く』というだけで、聞き入れたものはなかったと言うことだ。これでは『交渉・協議』とはとても言えない。勧告が指摘しているように、より広範な合意にむけて率直な協議をすべきと本当に考えているのか?」とし、「そもそも、一昨年の12月、『大綱』の原案を労働組合に示したのが、閣議決定のわずか1週間前だった。ILO勧告も、労使が協議するため十分な時間が必要だったと指摘している。これは当然の意見ではないのか?」と迫りました。
 石原大臣は、「十分ではなかったと言うが、ならばどれくらいの時間が必要だったのか。その点についても、労働組合との意見の相違があった」など強弁し、政府の手続きには何ら問題はなく、労働組合の考え方がおかしいと言わんばかりの答弁を続けました。

 ◆「一方的な法改正作業は憲法違反」ときびしく追及


 公務員労働者の労働基本権にかかわって、吉井議員は、「労働基本権制約の代償措置である人事院がある以上、労働条件の重大な変更にあたっては、人事院の意見が尊重されるべき。国公法第23条には、人事院の『意見の申し出』を規定しているが、人事院は、公務員制度改革にかかわって意見の申し出をおこなうのか?」と質問したことに対し、人事院の佐藤壮郎人事官は、「公務員制度改革は検討途上にあり、いろいろなルートを通して意見を政府にのべている。そのうえで、今後、情勢の推移を見きわめながら、正式に申し出することもありうる」と答えました。
 この答弁を受けて、吉井議員は、「代償措置としての人事院から意見の申し出もないのに、改革をおこなうのことができるのか。内閣が、公務員の勤務条件に関連する法律の改正作業をすすめること自体、憲法28条(労働三権の保障)に重大に違反する」と政府をただすと、石原大臣が「省庁再編の際、内閣法によって内閣の重要事項について企画立案ができるようになった。今回の改革は、50年来の枠組み変更をおこなうものであり、国民に対して責任を持つ内閣が検討作業にあたることが適切だ。同時に、行革推進事務局には人事院からの出向者も配置し、専門知識も活用している。そうしたことも通して、人事院の考え方は内閣に伝えられている」とのべ、また、福田官房長官も、「公務員の勤務条件にかかわっても、法律提出の権限は内閣にある。意見の申し出がなくとも、法律は出せる。今回の改革では、人事院の役割そのものを見直すことともなるので、内閣がその任務にあたるべきと考えている」とし、人事院からどんな意見がでても、あくまでも政府主導で「改革」を貫くとの強い姿勢を見せました。
 吉井議員は、「法律ができたから企画・立案できるというのは通らない。労働基本権制約にかかわる問題だ。どんどん法律ができれば、代償機能はどうなるのか。まさに、代償機能無視であり、憲法違反そのものだ。政府は法案策定作業をすすめるな」と迫りました。

 ◆能力等級制度で政府と人事院が意見対立

 質問の最後に、「新人事制度」の柱となる能力等級制度について、政府の考え方をただしました。吉井議員は、「能力等級制度は代償措置とも深くかかわる。2月19日の国会では、片山総務大臣は、能力等級制度が勤務条件性はあるが、勤務条件そのものではないと答弁したことに対し、人事院総裁は、勤務条件であると明確に言い切った。人事院、政府ともに見解を求める」と質問しました。
 人事院の佐藤人事官が、「能力等級制度は、給与に直接かかわるシステムであり、勤務条件そのものだ」と答弁したことに対し、石原大臣は、「能力等級制度は、直接には勤務条件ではない。職務に求められる能力であり、勤務条件そのものではない」とのべ、現行制度との違いをあれこれと説明したうえ、あくまで、能力等級制度は勤務条件ではなく、「代償措置」の中身ではないと、人事院と正面から対立する考え方を示しました。
 吉井議員は、「一方で、労働基本権制約は現状維持としつつ、勤務条件性のあるものについて一方的に使用者たる政府が変更する制度を検討すること自体に矛盾がある。労働基本権の重大な侵害であり、憲法違反、ILO勧告違反だ。引き続き、その点について政府の姿勢を追及していく。当面、関連法案策定にむけて、一方的な作業をすすめることは許されないことを強く指摘する」とし、質問を終えました。
 この日の内閣委員会では、ほかに民主党の大畠章宏議員が「公務員制度改革」をめぐって、約15分間、ほぼ同趣旨で質問に立ちました。石原大臣はここでも、「この時期にILOからこんな勧告が出たことにびっくりした」とし、「労働基本権は、1カ月や2カ月で結論が出る話ではない。勧告は、アジアのトップリーダーとしてのわが国への強い期待が込められているのではないか」などと、まるでよその国の大臣のような答弁を繰り返しました。        
        (以 上)

トップページへ  前のページへ