本日午後、人事院の「能力、実績等の評価・活用に関する研究会」は、一昨年9月以降、13回の検討結果をとりまとめ、事務総長に対し、最終報告を行った。この研究会は、その委員選定にあたり一方の当事者である我々国公労連の意向を何ら確認することなく決定され、かつ、検討内容が「能力、適性に基づく適材適所の昇進管理や専門職等の活用による複線的な人事管理」のみならず、「能力、実績を重視した給与処遇」を行うことを前提にスタートしたもので、「何のための評価か」という点で合意形成が図られないまま検討が進められてきたものである。
報告は、「本人評価に基づく面談」、「評価結果の本人への開示」、「評価者訓練」、「苦情への対応」などについて言及しているものの、個人の目標設定とその達成度による評価を賃金、昇進、配置などに結びつける民間類似の能力・実績主義に基づく人事制度にシフトしようとの意図が貫かれており、国公労連としては認められない。
この間、国公労連は、公務員労働者が各自の能力や適性を活かしながら職務を遂行し、適正で安定的な労働条件のもとに安んじて公務に専念できる民主的な人事行政の確立を求める立場から、評価の目的とその結果を直接的に賃金・処遇に結びつけることに反対するとともに、昨年4月及び11月に研究会に対し「意見書」を提出し、公平性、客観性、納得性をそなえた公務にふさわしい評価制度の検討を求め、職員の理解の得られる改革方向について提案してきた。
民間大企業を中心に導入が進められている成果主義賃金は、賃金水準の改善にはつながらず、職場の労働者の競争心をあおり、それによって組織の活性化を図ろうとすることを意図しているが、最近の新聞報道でも明らかなように、成果主義賃金が結果として企業の活力を奪うものとなっており、その弊害がすでに指摘されるところとなっている。能力・成果主義の賃金・人事管理が、各職員の勤務意欲を高め、行政の活性化をはかるとする考えは、論証なき幻想にすぎないものである。
人事院は、公務員の給与処遇に関し、「実績の評価の割合を高める方向」での「制度・運用の改革」を表明し、現在、俸給体系の見直しの検討を進めている。見直しでは、これまで単一の金額で定められていた俸給月額を「職務の基本額」、「勤続に係る加算額」、「実績に係る加算額」の三つ要素に分解することにより、俸給月額の中に短期の勤務実績評価による反映を構造的に組み込むことを検討している。これは評価に絶対があり得ない中で、職務給原則による公平な処遇を基本とする公務員賃金に相対的考課査定による給与格差を意図的に持ち込むことを意味している。一方、政府においても昨年12月に閣議決定された行革大綱に基づき、3月27日には信賞必罰の人事管理を中心に据えた公務員制度改革の大枠を発表している。これらのことから公務における能力・実績主義の人事管理の強化が今後急速かつ強力に押し進められる危険性をもっている。
公務においては、組織を単位として、職員間の協力と協働を基本に、経験の積み重ねと適時適切な教育・訓練により個々の職員の能力の伸長を図り、年齢と経験の蓄積を基準とした安定的処遇の確保が職員の士気の保持等に寄与し、専門的知識・技能の育成・継承が着実に図られてきている。そしてこのことが、公務員労働者が「全体の奉仕者」としてその持てる能力を十二分に発揮し、国民に良質で公正・公平な行政サービスを継続的かつ安定的に提供し続ける保障となっている。
「能力の実証に基づく任用」が規定されている国公職場の人事管理の実態として、性や労働組合の所属による差別、選別が横行し、試験区分によるグループ別の昇進管理が続いている。国公労連は、このような差別や選別を助長し、職員の意欲や公務能率を阻害する人事評価システムではなく、民主的な公務運営を実現するうえで必要な能力開発等を目的とした評価システムの検討に基本をおくべきと考える。
報告は、新しい評価システムについて、1〜2年の試行を経て、管理職及びそれに準ずる者から導入し、その定着状況を見た上で徐々に導入役職段階の範囲を広げることを要請している。また、導入に際しては労使の間で十分な意思疎通を図ることが重要であることを指摘している。
人事院は、この報告を受け、今後新たな評価システムの導入に向け、具体的な検討に着手することとなるが、この報告を絶対視することなく、人事行政の専門機関として、一方の当事者である国公労連と十分な協議を尽くすべきである。
2001年3月27日
日本国家公務員労働組合連合会
書記長 小 田 川 義 和