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首相の諮問機関である科学技術会議の政策委員会は、8月6日、中央省庁等改革基本法で打ち出されている総合科学技術会議と国立試験研究機関の独立行政法人化で、中間とりまとめを発表しました。また、同日、国立研究機関長協議会(国研協)も、総務庁長官等へ意見書を提出しました。これらは、いずれも国立試験研究機関の独立行政法人化は容認しつつ、定型的なサービス提供機関と異なる制度設計を行い、科学技術研究に支障を生じないよう求めたり(国研協)、試験研究機関の規模の確保・拡大を求めるものとなっています。
<科学技術会議政策委員会中間取りまとめ>
平成10年8月6日 科学技術会議政策委員会は、中央省庁等改革に当たって今後の我が国の科学技術政策上の重要なテーマである総合科学技術会議及び国の試験研究機関等の在り方について、数回にわたり議論を重ねてきたが、これまでの検討の状況を以下の通り取りまとめた。今後は、本件の重要性に鑑み、関係者の意見を幅広く聴取し、さらに検討を重ねていく方針である。
I 総合科学技術会議の在り方について
<使命>
(2)総合科学技術会議は、科学技術の現状を常に分析し、その上に立って未来に向けた科学技術発展の総合戦略を立てねばならない。同時に適時的確に軌道修正できる柔軟性をもつことも重要である。 (3)総合科学技術会議は諮問に対する答申のみでなく自らも意見を述べることができる機関として設置されることとされており、自発的に問題の提起、政策の立案を行っていくことが重要である。 (4)総合科学技術会議は、科学技術の観点から、食糧、エネルギー、人口、環境や国際的諸問題等の人類・社会全体の問題、広く省庁間にまたがる重要問題、国際的なビッグプロジェクト等に関して、国家としての課題選択と実現戦略(アジェンダ)の設定を行い、その実施方法について検討しなければならない。 (5)総合科学技術会議は、科学技術分野の人材の育成、研究者の研究機関間における流動性の確保について、検討することが必要である。
<議員、担当大臣、意思決定の在り方>
(2)総合科学技術会議において決定した政策を実現するために、担当大臣を置き、当該大臣に強力な調整のための権限が付与されることが望ましい。担当大臣は、総理の補佐の立場で総合科学技術会議の副議長を務めることとする。 (3)総合科学技術会議においては機動的な対応を図るため、本会議をより頻繁に開催するべきである。本会議に総理が出席できない場合には、担当大臣は代理として議長を務めることとする。 (4)総合科学技術会議には、常設委員会を設け、重要な問題について継続的な審議を行う。かつ、日常的な対応を円滑にするため、この委員会に一定の権限を委譲することができるようにする。さらに、必要に応じて特別委員会を設けることができることとする。
<事務局とその任務>
<科学技術関係予算について>
II 国の試験研究機関(国研)等の在り方について
<役割>
(2)独立行政法人化する国研においては、現在よりさらに自由で競争的な研究環境が整備されなければならない。そして、各研究機関については、その設置目的、業務を時代の要請、研究の進捗に応じて随時柔軟に改変できるような制度設計が必要である。また、行政と一体不可分な業務に携わるなど独立行政法人化が困難な試験研究機関については国研のまま残ることになるが、研究の発展のため、より自由度の大きい組織になることが望ましい。
<資金、身分、組織>
(2)独立行政法人化により、予算の費目にとらわれず研究資金を研究の効率が最大になるように使用できることは当然であるが、外部資金の導入も促進されるべきである。その際、外部資金の導入が研究機関にとってインセンティヴとなるよう配慮することが必要であり、各省も自らの所管にとらわれることなくそれぞれの機関の研究能力を十分に活用できる支援体制を作ることが重要である。 (3)研究者の身分については、大学やその他の試験研究機関問うと人事交流が円滑に行われるよう、身分制度上の配慮がなされるべきである。 (4)独立行政法人化した研究機関では、機関の長のリーダーシップが何よりも重要である。そのため、機関の長の選考方法、任期に工夫を加えるとともに、補佐体制を整備するべきである。内部組織は研究の柔軟性を最大限活かすため、機関の長の裁量で自由に改変できるようにするべきである。従って行政の管理は最小限にとどめ、評価を十分に行うべきである。
<再編の考え方>
(2)中央省庁等改革基本法にいう中核的研究機関の育成に当たっては、世界に通用するCOEに育て上げていくことが必要であり、単に国研の再編にとどまらず、既存の特殊法人等の研究機関も視野に入れて検討を行うべきである。 (3)研究機関が再編された後にも、研究機関に一定数の客員部門を設ける等研究者が省の枠を超えて外部と研究交流を活発に行えるような柔軟なシステム作りが重要である。
<評価>
(2)中央省庁等改革基本法では、中期目標を3−5年の期間を定めて作成し、研究機関の業務について評価を加えることになっているが、研究の内容によっては、10年程度が妥当なものもあるので、目標設定に関し一律に期間を決めず柔軟に評価を行うべきである。また、機関の長についてはその裁量権が拡大することから、研究マネージメントの評価を厳しく実施するべきである。
<研究環境の整備>
<国研協意見書>
国立研究機関長協議会
平成10年8月6日 行政改革における国の試験研究機関等の再編に関する意見書政府が現在その具体化を進めている行政改革は、我が国における科学技術の推進、ひいては国立試験研究機関長協議会(以下国研協という。)に加盟している国立試験研究機関(以下国研という。)等の在り方に、大きな影響を与えるものであります。国研協は、平成10年2月4日に、新たな導入が想定される独立行政法人に絞って、意見書「独立行政法人化に関しての問題点のまとめ」を取りまとめ、立場を表明しました。 21世紀の我が国及び世界の人々の生活の安定・向上に、科学技術の振興が重要であるとの認識から平成7年11月に「科学技術基本法」が成立し、また平成8年7月には「科学技術基本計画」が閣議決定され、我が国の科学技術の振興方策が打ち出されています。国研協に属する試験研究機関はいずれも行政的要請である科学技術基本計画に基づいて、我が国の持続的発展に必要な多様な研究をそれぞれの任務に従って推進しているという認識を共有しており、その強力な推進のために中心的な役割を果たすことを期待しています。 今後行政改革を具体的に検討するに当たり、国研協に加盟している国研等の独立行政法人等への移行が議論されていますが、国研協に属する国研等は、前回の意見書で指摘した問題点への考慮が払われないままに、移行の可能性が論じられかねない状況を憂慮しています。急速な展開が予想される現状に鑑み、ここに国研協傘下の機関全体についての意見を再度提出いたします。我が国の科学技術の健全な発展を図る観点から、改革の具体化に際しては、下記事項について十分なご理解を賜るよう希望します。 記 1.これまでの国研の役割を踏まえ、国として担うべき試験研究のあり方を十分考慮すること。国研は、昭和62年10月22日付閣議決定「国立試験研究機関の中・長期的在り方の基本」において定められた国研の役割の枠組みにそって、試験研究を実施してきた。近年は同閣議決定に盛り込まれた項目の他、時代の変化に伴う新しい役割、すなわち環境、エネルギー、情報化などにおける先導的研究にも率先して留意・従事してきた。下記にまとめたこのような国研の役割は、先に述べた科学技術基本計画の推進にあたっても効果的に機能してきたし、今後も一層貢献できると考えている。今後の行政改革においても、このような役割の遂行は十分尊重されるべきである。
2.国研の問題を包括的に扱う体制を整えるとともに、各試験研究機関の意見を尊重すること 今回の行政改革においては、国研の業務を国として本来担うべき機能にふさわしいものとし、国が直接に実施する必要のある業務を行う機関以外の機関を原則として独立行政法人に移行すべく検討することとしている。そして、行政改革会議最終報告別表1(独立行政法人化の対象となりうる業務)に記載された国研の独立行政法人化の検討を行うこととなっている。国研は科学技術基本計画に基づいて我が国の科学技術の推進をその任務に応じて分担するとともに、関係省庁の行う行政とも密接に連携して試験研究を実施しており、国研の業務は上記「1」に示すように多様である。こうした国研の多様な任務の円滑な遂行を図るために、行政改革推進本部に国研の問題を包括的に扱う体制を整えるとともに、当該機関の任務及び当該試験研究の持つ特性等を踏まえつつ、その意見を最大限尊重することが必要である。 3.行政遂行と密接不可分な試験研究機関については、府省への所属も検討すること 行政改革会議最終報告別表1に記載された試験研究機関には、府省の行政遂行に不可欠な機能を担い、行政ニーズの把握や政策の立案支援など、本省等行政部局と一体となって、業務を実施していることから、府省に所属させることが必要なものもあり、これらについては所属省庁からのヒアリングを実施されたい。 4.国研の独立行政法人化を考える前に考慮されるべき追加事項 今回の行政改革で論じられている独立行政法人の導入は行政のスリム化を期したものであり、国研等研究実施機関の拡充を目指す科学技術基本計画とは相容れない部分がある。国研の独立行政法人化の検討にあたっては、このような矛盾を解決し、前回問題点として指摘した事項及び以下に追加する事項に対して適切な対策が図られる必要がある。 4(1)国研の効果的な活動維持には、他の独立行政法人とは異なる考え方の適用が必要であること 独立行政法人の業務は「国が自ら主体となって直接に実施する必要はないが、民間の主体に委ねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの」であり、その限りにおいては国研も対象になりうる。しかし、中央省庁等改革基本法の第38条に提示されている独立行政法人の枠組みは、定型的業務を行なう公共サービス機関等には当てはまるとしても、基本的に非定型的業務を担う試験研究機関に相応しいものとはいえない。このような枠組みへの国研の適用は、研究の進展に合わせて柔軟に計画を変更することが不可欠な、公共の試験研究機関の本質的な研究を衰退させ、短期的で実利主義的な研究を促すことになる可能性がある。これは、科学技術基本計画の中心的な担い手としての国研の役割を縮減させるものと憂慮される。 4(2)独立行政法人化後の国研に必要な経費は国が提供することとし、単純なスリム化の議論のみで国研の行政改革を進めるべきではないこと 中央省庁等改革基本法においては、「国は、独立行政法人に対し、運営費交付その他の所要の財源措置を行なうものとする」とされている。しかし、独立行政法人の導入を、単純な行政のスリム化のみを目的にし、財源措置の縮小を目指したものととらえるならば、科学技術基本計画の担い手としての国研には受け入れが困難な前提を強いる形になる。 4(3)行政目的に基づく研究を行なう職員には安定的な身分保障が必要であること 国研は行政的要請である科学技術基本計画の中心的な担い手であり、ここで進める試験研究はそれぞれ優秀な研究者によってなされている。これらの研究者が誇りを持って研究に従事するためには、研究に打ち込める環境が確保されることが重要であり、行政的要請に基づく試験研究を行う機関の職員には安定した身分を保証すべきであると考えている。 5.試験研究機関に準じた機能を果たしている施設等機関の改革に際しては、国立試験研究機関に準じた配慮が必要であること 国研協は、試験研究機関の成果をベースにして、その普及のための実用化試験等を行っている機関も参加している。それらの試験研究機関に準じた機能を果たしている施設等機関は、行政改革会議の最終報告において、民営化を検討した上で、それになじまない場合は独立行政法人化を検討することとされている。しかしながら、これらの機関のほとんどが、新組織への意向には上に述べた国研と同様の問題点を抱えていることは十分に認識されるべきである |