中央省庁等改革に関する申し入れ

1998年9月28日
中央省庁等改革推進本部
  本部長  小 渕 恵 三  殿
日本国家公務員労働組合連合会
中央執行委員長  藤 田 忠 弘

 (1)本年6月に成立した中央省庁等改革基本法(行革基本法)にそった関連法案や計画の策定作業が、貴本部においてすすめられ、さる9月10日には「立案方針本部決定案」が明らかにされています。  私たちは、行革基本法が、憲法が規定する国と国民との関係、行政として果たさなければならない役割を根本のところで否定する内容を含んでいると受けとめています。そのことから、成立したとは言え、行革基本法とその具体化には反対の立場をあらためて表明します。

 (2)私たちが、行革基本法の中で、とりわけ問題だと考えるのは、医療、福祉、教育など、国の責任で提供すべき公共サービスの実施や、社会進歩や国民の健康・安全などを守るうえで維持しなければならない研究活動などを国が実施の責任を負わない独立行政法人化しようとしていることや、防災、交通安全、環境、雇用確保、労働者保護、農業・漁業、中小企業の保護育成、国民の権利擁護など、社会の安定のためにも不可欠の事務・事業として国が積極的な役割を負うべき実施事務を最優先で減量化しようとしていることです。不況の深刻化が暮らしに対する国民の不安を拡大し、災害に弱い社会の状況が相次いで露呈している状況などからしても、それらの点での国の役割の再確認が今こそ必要だと考えます。

 (3)諸外国に比して極端に少ない公務員数を例に挙げるまでもなく、わが国の行政部門、特に事務実施部門の態勢が極めて不十分なことは明らかです。今、改めて公務員削減が強調され、行政改革=実施部門の公務員削減とする検討が、貴本部でもすすめられています。そのような検討の背景には、悪化している国の財政状況などがあるものと受けとめています。しかし、国家財政に占める「総人件費」の額からしても、またこの間の財政の肥大化と公務員数の変化との間には明確な関連がうかがえないことからしても、公務員数と財政状況とには直接的な関係はありません。財政肥大化を問題にするとすれば、「政・官・財」癒着構造のもとで、財政の浪費とも言える無駄遣いを続けた政策の企画・立案部門を中心とする官僚制のあり方こそ検討されるべきです。

 (4)以上のような点からして、私たちは、行革基本法の内容は行政サービスの著しい低下を招きかねないものであると考えます。そのことから、貴本部における省庁再編作業等の中止を求める立場を前提に、明らかになっている「立案方針本部決定案」にかかわって下記の点を申し入れ、検討への反映を求めます。

 (1)各省設置法にかかわって、その共通事項の検討がおこなわれているが、行政減量化を最優先課題とする政策の企画・立案部門と実施部門の分離や、行政の特質をふまえない権限規定の見直しなどは、国民の権利とのかかわりでの疑問が払拭できない。少なくとも、次の点での慎重な検討を求める。
 1.政策の企画立案と実施の分離、所掌事務・権限規定の見直しは、一律にはおこなわず、各省に分掌される行政分野の特性に応じたものとなるよう検討すること。
 2.「外局」とされる庁と行政委員会それぞれの性格を明確にし、とりわけ行政委員会については内部部局からの独立性を規定すること。
 3.「実施庁」の内部編成についての弾力化は、原則としておこなわないこと。  4.各省設置法の検討とあわせて、行革基本法の主要な任務の具体化の立場での「政策見直し」はおこなわず、国民生活の基盤をささえる行政の役割を十全に発揮するための組織・政策等の検討とすること。

 (2)独立行政法人制度については、その対象となる事務・事業を「国が自ら主体となって実施する必要のないもの」とする前提で制度化が検討されているが、現に国の責任で実施されている事務・事業について、国が直接実施しなくてよいものは想定し得ない。行政権限の分掌を明確にする意味でも、少なくとも現にある国の実施部門については、行政組織法及び各省設置法の中に明確に位置づけるべきだと考える。また、現にある特殊法人などとの制度上の違いも曖昧なものと受けとめざるを得ない。
 1.そのことから、独立行政法人制度の創設そのものに反対する。
 なお、行革基本法第41条(労働関係への配慮)の実効が確保されるための具体的手だてを講ずるべきである。

 (3)実施部門を対象にした減量化・効率化の計画検討については、基本的に反対である。行政の本来的な役割は法に基づく事務・事業の実施であり、国民の基本的人権の実現に責任を負う政府の役割からして、わが曹ナは実施部門の強化・拡充こそ求められている。
 そのことからして、次の点での再検討を求める。
 1.いわゆる現業的な業務の廃止、民営化、民間委託の検討はおこなわないこと。
 2.規制緩和を原則とはせず、交通の安全確保、労働者の雇用などに悪影響を及ぼす経済規制や、社会的規制の緩和はおこなわないこと。また、事後的規制の強化にかかわって、司法制度などの整備・拡充を検討するとともに、社会的な公正さや安定性を維持する観点での事前規制の有用性を確認した検討をおこなうこと。なお、規制の監視・監督体制については強化の方向での検討をおこなうこと。
 3.地方分権については、単なる事務配分の視点での検討はおこなわず、財源措置等も含め、真に地方自治の確立に資するものとなる検討をおこなうこと。
 4.行政需要をふまえない一律的な地方支分部局の整理統廃合計画の検討はおこなわないこと。
 5.政策部門との一体性が強い統計部門について、省庁横断的な一元化などの検討は行わないこと。

 (4)内閣総理大臣の機能・権限強化を目的に検討されている内閣法等の「見直し」については、その「独走」を規制、統制する措置と一体で検討される必要があると考える。
 そのことから、最低でも次の点は、再検討を求めたい。
 1.内閣総理大臣の「発議権」については、内閣府の長としての範囲にとどめることとし、内閣の長としての「発議権」の法制化はおこなわないこと。
 2.内閣官房の任務に「国政に関する基本方針の企画立案」を規定する内閣法の改訂はおこなわないこと。
 3.内閣府の設置は、その根拠を行政組織法に置くこと。

 (5)内閣機能強化とのかかわりで検討されている内閣官房、内閣府への「人材登用」などについては、行政と公務員制度の民主性、公正さを阻害する恐れが少なくない。そのことから、少なくとも次の点の再検討を求める。
 1.内閣官房の内部組織、内閣総理大臣補佐官、内閣総理大臣秘書官の数については、内閣法に規定すること。
 2.内閣官房、内閣府への人材任用にあたっては、公募手続きも含め「猟官的な運用」とならないための規制を検討すること。また、任期付き任用の検討は、対象職種等を限定しておこなうこと。
 3.行政機関幹部職員の内閣承認の法制化はおこなわないこと。

 (6)公務員制度の検討に当たっては、それが公務員労働者の労働条件に直接影響するものであることから、見直しに当たっての当該労働者と労働組合の意見反映を十分保障すること。

 (7)「国民の知る権利」を保障した情報公開法案や公務員倫理法の早期成立と実施を働きかけるなど、行政の透明性確保のための制度検討をおこなうこと。
 また、行革基本法などでは検討対象となっていない官僚の「天下り」禁止など、いわゆる「政・官・財」の癒着の構造を是正するための検討をおこなうこと。

以  上


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