中央省庁等改革の「立案方針本部決定案」(98年9月10日、中央省庁等改革推進本部顧問会議)に対する国公労連の意見表明

1998年9月25日  日本国家公務員労働組合連合会

 (1)各省設置法にかかわって

 1.各省設置法については、政策立案部門と実施部門の分離、権限規定の見直しなどが共通事項として検討されている。なお、国公労連としては、行革基本法のいう「大括り再編」とそのことを前提とする「1府12省」の編成には、権限が集中する「巨大省」では利権構造の強化や国民生活に直接影響する行政分野(いわゆる民生分野)が相対的に軽視される危険性が危惧されることから、基本的に反対である。

 2.行政各部は、国会で制定される法にもとづき、行政権限を分掌し事務を執行することが基本原則であると考える。政策立案や政策調整の役割は、多くの場合、各省の官房組織が担うものとして位置づけられてきたにもかかわらず、現実には実施部門であるはずの本省内部部局を動員して、政策立案や調整をおこなっているのが実態であり、そのことが行政権限の肥大化にもつながっている。同時に、そのことは、政策立案とその実施が密接不可分の関係にあることも示している。とりわけ、国民生活に直接影響する行政分野では、窓口第1線を通じて寄せられる利用者・国民の要望が、制度の運用や次の政策立案に反映することで、行政サービスの改善が図られてきている。このことから、政策の企画・立案部門と実施部門の分離を各省共通の編成方針とすることには反対である。

 3.また、行政の存在意義は、国民生活との関係でこそ確認されるべき、個別の省庁が国民の権利、義務との関係でどのような権限を持ち、どのような行政領域をカバーするのかを行政組織法上も明確にすることが必要である。そのことから、「所掌事務と権限」の範囲を行政組織法で明確にしている現行のあり方は、基本的に踏襲すべきであると考える。また、社会の進歩、発展にともなって、行政が対応すべき範囲が拡大し、複雑・高度化している中で、行政各部のあり方も多様であり、共通・一律的に所掌事務や権限規定の検討をおこなうべきではないと考える。
 以上のことから、次の点での再検討を申し入れる。
 1) 各省設置法の検討とあわせて、行革基本法の主要な任務の具体化の立場での「政策見直し」はおこなわず、国民生活の基盤をささえる行政の役割を十全に発揮するための組織・政策等の検討とすること。
 2) 「外局」とされる庁と行政委員会それぞれの性格を明確にし、とりわけ行政委員会については内部部局からの独立性を規定すること。
 3) 「実施庁」の内部編成についての弾力化は、原則としておこなわないこと。  4) 各省設置法の検討とあわせて、行革基本法の主要な任務の具体化の立場での「政策見直し」はおこなわないこと。

 (2)独立行政法人制度にかかわって

 1.独立行政法人制度については、その制度新設の理由が実施部門の減量化におかれており、公務員や行政経費の削減手法とすることが最大の目的にされていると考える。とりわけての問題点は、対象とされる事務・事業を「国が自ら主体となって直接実施する必要はない」とする前提で制度検討が行われている点にある。現に国が直接実施している事務事業を、そのような規定にもとづいて国家行政組織から切り離すことは、国の行政責任を曖昧なものとすると考える。

 2.現に存在している特殊法人や、公益法人の一部も、形式的には別個の法人格をもってはいるものの、実質的には行政機関の一環として、行政機関の代行機能を発揮しており、特殊法人の一部については、「国家行政の一部をなすもの」と規定された経過もある。
 社会の進歩にともない、複雑化するもとで、公共領域が拡大し、行政の対応が求められた結果、国の責任で実施することを確認した上で、特定分野の公的な事務・事業を国以外の公法人に配分してきた経過がある。このような法人と、検討されている独立行政法人との違いは明らかではなく、その点での制度創設の意義は認められない。

 3.行革会議最終報告で「検討対象」とされている国立試験研究機関や国立病院・療養所、検査・検定事務などは、民間分野に同種の事務・事業があるとは言え、国民生活の維持や安定的な社会発展などのために最低限確保しなければならない部分として高い公共性が確認出来るものであり、その実施に国が直接責任を負うべきものである。
 以上のことから、国公労連としては、独立行政法人制度の新設には反対であることを改めて表明するとともに、各省庁に対し独立行政法人制度化の押しつけは断じて行わないよう求める。

 (3)行政減量化・効率化計画について

 1.行政減量化・効率化の対象が、実施事務に限定され、特にいわゆる現業的な業務について、廃止、民営化、民間委託をすすめる検討となっている。
 国公労連は、行政の重点を、政策の実施に置くべきだと考えており、そのことと相容れな「実施事務の廃止、民営化、民間委託には反対である。

 2.規制緩和にかかわっても、一面では事前規制から事後規制への転換が言われつつも行政組織の面での具体化は全く検討されておらず、効率化の側面でのみの検討となっていると受けとめざるをえない。金融行政を例にとるまでもなく、公的規制を実効あるものにしルールある社会構造の構築が求められているときに、その規制を実施する体制の検討は社会の安定にとって不可欠であり、その点に検討の重点を移すべきである。

 3.地方分権や国の行政機構内部での権限分散である地方支分部局への権限委譲は、中央集権化を避けるためには必要な検討であると考えるが、そのような方策をすすめる場合には、単に事務の配分だけではなく、それにともなう予算、人員の再配分と権限の移譲を具体的に検討し、分担した事務・事業の執行にかかわる地方自治体や地方支分部局の独立性が確保される必要があると考える。

 4.行政実施の内容は多様であり、その実施体制を一律に論ずることは無謀と言わざるを得ず、地方支分部局の整理も含め、「基準」の名のもとの一律整理をおこなうことは、国民への行政サービスを著しく低下させることになりかねない。国民と直接接し、行政を執行している機関の整理などについては、国民の権利擁護の面からの検討も必要であり、効率化のみで論じられるべきではない。少なくとも、地方出先機関の統廃合などの検討では、当該行政から利益を受けている国民の意見反映を保障するなど、手続き面での検討も必要である。

 5.以上のことから、最低限、以下の点での再検討を求める。
 1) いわゆる現業的な業務の廃止、民営化、民間委託の検討はおこなわないこと。
 2) 規制緩和を原則とはせず、交通の安全確保、労働者の雇用などに悪影響を及ぼす経済規制や、社会的規制の緩和はおこなわないこと。また、事後的規制の強化にかかわって、司法制度などの整備・拡充を検討するとともに、社会的な公正さや安定性を維持する観点での事前規制の有用性を確認した検討をおこなうこと。なお、規制の監視・監督体制については強化の方向での検討をおこなうこと。
 3) 地方分権については、単なる事務配分の視点での検討はおこなわず、財源措置等も含め、真に地方自治の確立に資するものとなる検討をおこなうこと。
 4) 行政需要をふまえない一律的な地方支分部局の整理統廃合計画の検討はおこなわないこと。
 5) 政策部門との一体性が強い統計部門について、省庁横断的な一元化などの検討は行わないこと。

 (4)内閣機能の強化にかかわって

 1.現状でも、内閣総理大臣には内閣の長として総合調整機能を含む行政権限が集中し、行政各部への影響力も大きいことは、第3次臨時行政改革推進審議会・最終答申でも触れられているところである。加えて、内閣総理大臣は、内閣の総合調整をすすめることを目的の一つとして設置されているている総理府の主担の大臣としての「発議権」を現に有している。今次の省庁再編でも、内閣の補佐機関としての内閣府の機能は、「国政上重要な具体的事項に関する企画立案及び総合調整」をおこなう機関とされており、その主任の大臣は内閣総理大臣とされている。

 2.以上のような点をふまえれば、内閣の長としての内閣総理大臣の発議権をあえて規定することの意義が問われなければならないと考える。とりわけ、「国政に関する基本方針」の範囲が、内閣官房の機能強化ともあいまって、行政全般の領域に及び、各省に配分されている行政権限(各省大臣の権限)との競合が生じる「権限の二重性」すら危惧される。 また、内閣総理大臣への行きすぎた権限の集中は、一面で行政(内閣総理大臣)の独走をもたらすことが危惧され、そのことからの民主的な規制、統制の仕組みが同時に検討されなければならないが、行革基本法およびそれにもとづく「立案方針」でも、その点には何ら触れられていない。

 3.また、内閣官房は「内閣の補助機関」であるとともに「内閣総理大臣の職務を直接補佐する機能」をもつこととされている。そして、、その位置づけを前提に内閣の長としての「発議権」とのかかわりで、内閣官房の任務に「国政に関する基本方針の企画立案」が規定されている。この点は、首相権限の強化との関係で、少なくない問題を持っていると考える。
 さらに、内閣府は、総合調整をおこなう組織とされていることから、他の省庁よりも「一段高い」行政組織に位置づけられようとしている。行政領域が拡大するとともに、高度複雑化しているもとで総合的な調整機能の強化が必要なことは言うまでもないが、その点も含めて内閣は連帯責任を負うのであって、内閣府を「一段高い」行政組織とする理由とはならない。内閣府も含め、行政権限を分掌することは、法制上も明確にする必要があると考える。

 4.それらのことからして、少なくとも次の点については再検討を求める。
 1) 内閣総理大臣の「発議権」については、内閣府の長としての範囲にとどめることとし、内閣の長としての「発議権」の法制化はおこなわないこと。
 2) 内閣官房の任務に「国政に関する基本方針の企画立案」を規定する内閣法の改訂はおこなわないこと。
 3) 内閣府の設置は、その根拠を行政組織法に置くこと。

 (5)内閣官房への職員の任用などにかかわって

 1.内閣機能の強化とのかかわりで、内閣官房、内閣府に行政組織の内外からの人材「登用」や組織、定員の弾力化などが検討課題とされている。
 これらの組織については、他の省庁よりも高い機動性が求められるとしても、行政機構等について国会を通じた民主的統制が求められる「管理の原則」からは逸脱できないものと考える。
 また、いずれの組織の公務員も一般職国家公務員であると想定されることから、任用に当たっての民主性、公平性が担保されなければならないことも当然である。

 2.内閣官房や内閣府が内閣の補助機関とされ、そこに働く公務員が内閣と運命をともにする場合も想定されているとすれば、なおさらその任用についての透明性が求められるものと考える。
 また、行政各部の幹部公務員の任免について、内閣が関与することは、公務員の政治的中立性を損なう危険性がないとは言えない。

 3.以上のような観点から、次の点の再検討を求めたい。
 1) 内閣官房の内部組織、内閣総理大臣補佐官、内閣総理大臣秘書官の数については、内閣法に規定すること。
 2) 内閣官房、内閣府への人材任用にあたっては、公募手続きも含め「猟官的な運用」とならないための規制を検討すること。また、任期付き任用の検討は、対象職種等を限定しておこなうこと。
 3) 行政機関幹部職員の内閣承認の法制化はおこなわないこと。

 (6)公務員制度の検討にかかわって

 公務員制度について、行政改革の一環としての見直し検討が表明されているが、公務員制度は一面で公務員労働者の労働条件に直接影響することを確認した慎重な検討を求めたい。定員管理も含め、この間の検討は行政管理の側面に著しく偏ったものとなっており、行政に従事する公務員労働者の労働条件への配慮や、それらの労働者の意見反映がほとんど保障されていない。その点の改善措置を強く求めたい。

 (7)検討課題となっていない点について

 相次ぐ官僚の不祥事や、防衛庁にも見られる組織的ともいえる不正隠しの状況を早期に是正することが求められている。その点での課題は、官僚の天下りの禁止などの「政・官・財」ゆ着構造の撤廃や行政情報公開のための実効ある措置の具体化や行政内部からの職員の意見表明の保障などによる「行政の透明化」であると考える。
 行政組織のあり方のみに焦点を置くことなく、優先する課題としてそれらの点での検討を要請する。

以   

トップページへ  前のページへ