全労連が政府行革推進本部に申し入れ
(国公労連「行革闘争ニュース」1998年11月30日付)


 *独立行政法人は、採算性・効率性が求められることから社会的弱者への行政サービスが軽視される恐れが大きい
 *国民・住民サービスの低下にむすびつく公務員労働者の削減は行うべきでない

 全労連は、11月27日、中央省庁等改革推進本部に対して、以下の通りの申し入 れを行いました。

内閣総理大臣・中央省庁等改革推進本部長 小渕 恵三 殿

1998年11月27日
全国労働組合総連合
議長 小林洋二

中央省庁等の「改革」に対する要請書


 中央省庁等改革推進本部は、中央省庁等改革基本法にもとづく関連法案および計画の策定作業を推進し、9月29日「中央省庁改革にかかわる立案方針」を発表、さらに11月20日、内閣法「改正」、各省等設置法案大綱、独立行政法人制度に関する大綱原案、国の行政組織等の減量、効率化等に関する大綱原案など「中央省庁等改革に係わる大綱事務局原案」を決定した。それらの内容は、本来、日本国憲法に照らして、政財官癒着構造の打破や国が国民に対して果たさなければならない行政サービスの提供などその役割と任務から見て、多くの問題点を含んでいると言わざるをえない。
 したがって全労連は、今回打ち出されている中央省庁等の「改革」について反対であり、作業の中止を求める立場を表明する。しかし、現在すでに作業が進行している状況に鑑み、以下、見解とともに別項の要請事項の実現を要請するものである。

1.中央省庁等の「改革」についての見解

 中央省庁等改革、行財政の改革は、国民主権、恒久平和主義、基本的人権、議会制民主主義、地方自治の本旨など憲法の平和的、民主的原則を基本に行うべきである。 憲法第25条がすべての国民に保障している「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」「すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」との国の責任を果たすことを基本に遂行されることが求められる。とりわけ、昨今の社会・経済情勢からみて、労働者・国民犠牲の「改革」ではなく、21世紀のこの国の形が民主主義と国民主権、社会進歩の立場にたって、労働者保護、雇用確保、医療、福祉、教育、農業・漁業、中小企業保護など国の責任を果たさなければならない公共サービスについて積極的に実現するものとなる改革が強く求められている。
 しかし、今回の「改革」は次のような多くの問題があり、全労連は改めて反対の立 場を表明する。
 (1)内閣総理大臣の機能・権限は、国民の立場に立った規制との関連で考慮すべきである。内閣府は、「首長」たる内閣総理大臣の指導性発揮が目的とされ、また、憲法と内閣法にもとづいて慣行とされてきた「内閣満場一致制」の原則が否定されようとしている。 「内閣機能の強化」は、国会軽視の内閣権限を制度的に確立し、議会制民主主義を形骸化させるものであり問題がある。「内閣府」に、首相の直属機関として「経済財政諮問会議」などを新設、「経済全般の運営の基本方針、財政運営の基本、予算編成の基本方針等経済財政政策」を審議し、そこに財界人を参加させることも、財界・大企業の要求をよりストレートに行政に反映する体制づくりをねらうものである。防衛庁の機能強化構想は、新「日米ガイドライン」と結びついた軍事大国化に向けての動きとして看過できない。
 (2)各省庁等設置法案大綱における目的・任務は、現行各省庁設置法からみても国民の労働・生活にかかわり後退している。「労働福祉省」構想は、憲法第25条で国民に対する責任として規定されている国民の生存権、国の社会保障義務、憲法27条で規定されている勤労者の権利義務、勤労条件の基準、児童酷使の禁止、および憲法第28条で規定されている勤労者の団結権保障義務など、社会福祉や労働者保護行政で国が労働者・国民に負っている責任を縮小・放棄するものであり、認めることができない。とりわけ、労働福祉省設置法の「任務」が、雇用と労働条件関係のみに縮小・限定されており、現行法に規定された労働者の保護、職業紹介業務、女性の地位向上、労働組合に関する事務や労働関係の調整業務が削除されていることは重大である。新設される省が、労働者や女性の保護ならびに権利擁護の任務という重要な視点を欠いたものとして、看過できない問題である。
 「国土交通省」構想についても、抜本的に改革されるべき公共事業のムダや浪費構造温存するばかりか、公共事業に対する利権をいっそう肥大化させるものである。わが国の行政を特徴付けてきたのは、ほかでもなくゼネコン・大企業本位の開発行政だった。年間40兆円の公費を使い、しかも大半を借金に頼る開発行政の抜本的改革の方向を明示しない構想は、政官財の癒着・利権構造を断ち切るのでなく、逆に再編強化するものと言わざるを得ない。
 (3)独立行政法人制度は、対象となる事務・事業を国が直接実施する必要性のないものとの前提で検討されているが、行政組織法、各省設置法の中での位置づけの明確化、現行の特殊法人制度との区別と関連で不明確な面が多い。「大綱」原案では、行政改革会議が最終報告で打ち出していた国立病院・療養所、国立博物館・美術館、自動車検査業務、国立公文書館、農業試験場など73機関・業務について独立行政法人化を図るべく検討すると明記し、逓信病院や家畜改良センターなど20機関を民営化や廃止するとともに、さらに、行革会議最終報告に加えて追加の検討対象として国立大学と統計センター等の機関にも対象を広げた。独立行政法人は、採算性・効率性が求められ、地方出先機関は不採算部門として統廃合されることなどから社会的弱者への行政サービスが軽視される恐れが大きい。しかも、対象となっている業務は、いずれも営利目的では安定的、長期的な研究や業務ができないものである。また、自動車検査や船舶、航空機検査などの独立行政法人化も安全確保、公正・中立の面から問題が多い。
 (4)郵貯資金の全額自主運用、郵便事業への「民間参入」の具体化、郵政事業の「新たな公社」への移行は、財界・金融資本の要求にこたえて公的金融制度を解体するものと言わざるを得ない。
 (5)さらに、これら省庁再編の前提として、国家公務員を10年間で2割削減するという「具体的目標」を盛り込んでいることは問題である。日本の国家公務員はサミット諸国の中で、対人口比で最低の水準にあることは政府の発表でも明らかになっており、特に事務実施部門の体制はきわめて不十分である。公務員を外局化、独立行政法人化あるいは民営化することによって削減するという構想は、「国民全体の奉仕者」として、公共の利益のために働かなければならない公務員を、「公共の利益」を度外視して「事業の利益本位」で働く労働者に置きかえることを意味している。国民・住民サービスの低下にむすびつく公務員労働者の削減は行うべきでない。
 (6)また、公務員制度の検討にかかわって、「人材管理の一括化」「任期付任用制度の整備」「移籍に関する整備」など新たな人事管理強化の側面に著しく偏重したものとなっており、行政を現実に遂行する公務員労働者の身分と労働条件への配慮がなされていないことは問題である。

2.改革推進本部に対する要請事項

 1.企業・団体献金、天下りを禁止し情報公開を行うこと
 「主権が国民に存する」という憲法原則にもとづいた国民本位の政治と行政を、財界・大企業本位にねじまげている最大の問題は、企業・団体献金と高級官僚の天下りにある。
 企業献金の本質は、企業の利益のために行政をねじまげることにある。大蔵族、建設族、厚生族などと呼ばれる国会議員が、大銀行・証券会社、ゼネコン、製薬会社などの利益を増大させるための見返りとして、「政治献金」を受け取っている。企業・団体献金をきっぱりと禁止することは、国民本位の行政改革の前提である。
 大企業と高級官僚との癒着構造の中軸になっているのが、高級官僚の天下りである。汚職・腐敗を防止する上からも、中央省庁の高級官僚の天下りを徹底的に規制する必要がある。また、それらとあわせて、行政をガラス張りにする情報公開法の制定が必要である。国民の監視下ではじめて公正で透明な行政が保障される。憲法が国民に保障している「国民の知る権利」にもとづく情報の公開は、公正で透明な行政確立にとって不可欠である。

 2.国民生活向上と労働者の権利確立を行政の基本に据えること
 行政の第一の任務は、主権者たる国民の生存権、基本的人権、勤労権、健康、安全、医療、衛生、福祉などを保障し、充実・向上させることにある。
 労働行政と厚生行政の統合は、たとえば生活保護世帯に対し劣悪な労働条件で短期間の就労を義務づける「自立自助」政策を強制することによって、労働者・国民にとって「福祉政策」と「労働力政策」が、ともに変質することになりかねない。憲法、社会福祉・社会保障諸法や労働基準法をはじめとした労働者保護立法を厳正に実行することが求められる。「国民生活の社会的進歩に努める国の義務」(憲法第25条)に根拠をおき社会福祉・社会保障の拡充を実現する厚生行政と、「勤労の権利」(憲法第27条)などに根拠をおき労働者の就労権、権利保障を担保する労働省が統合することは「ベクトルが逆」と言わざるをえない。国民健康保険にも加入していない無保険者は190万人、無年金となりかねない国民も579万人に上っている。長引く不況のもとで完全失業者は297万人、失業率も4.3%という過去最悪の水準となっている中、労働省と厚生省の統合は行うべきでなく、厚生行政、労働行政の役割を再確認しその充実こそはからなければならない。

 3.公正で民主的・効率的行政 を確立すること
 全労連は、真に国民が求める行政需要にこたえるため、国民にとって不要・不急の部門を縮小することもふくめ、国民のための行政の拡充を要求する。たとえば、公安調査庁などは直ちに廃止し、自衛隊や防衛庁の圧縮を行うべきである。また、公共事業にしても、ゼネコン型浪費構造の産業基盤優先の「公共事業」を、国民の利益と合意にもとづいて、国民生活を充実させる環境優先の公共事業に転換すべきである。巨大な公共事業官庁として利権が集中する「国土交通省」などをつくる必要はない。このようなムダな中央省庁の「再編」は中止すべきである。
 郵便事業の「新たな公社化」、民間参入は行うべきでない。全国どこにもある郵便局の窓口は、国民のくらしに根付いたもので、民間手法の導入は、不採算部門の切りすてにつながることは明らかである。医療は、採算性・効率性のみで合理化をはかるべきではなく、国立病院及び療養所の移譲・統合、廃止は行うべきでない。

 4.企画・立案部門と実施部門は一体とすること
 公務員労働者の大量人減らしを前提とした中央省庁の再編を行う手段として、「企画・立案部門」は中央省庁に残し、「実施部門」は切り離して独立行政法人制度にするとしている。しかし、中央省庁が行う行政は、国会の議決の具体的実行のため、企画立案と業務執行が一体のものとなってはじめて、国会と国民に対する責任をはたすことができる。企画立案と業務執行を切りはなすことは、行政が負っている国民に対する国の責任の所在を不明確にし、的確・敏速な行政サービスの提供を困難にし、国会と国民に負わなければならない行政の責任を放棄するものである。独立行政法人化には強く反対する。
 公務員労働者は、憲法によって「国民全体の奉仕者」としての業務遂行が義務づけらている。憲法によって行政と公務員労働者に課せられている国民に対する責任遂行のためには、企画部門と実施部門は一体でなければならない。

 5.定員削減をやめ、公務員の労働基本権を確立すること
 国民生活の基盤を支える行政事務は切り捨てるべきでなく、公共サービスを充実すべきである。したがって、道理のない公務員の2割削減は行うべきでない。
 国家公務員は「憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」(憲法第99条)と同時に、「国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務」(国家公務員法第96条)しなければならない。現在、公務員労働者は、労働基本権の重要な柱であるストライキ権を奪われたままである。「規制緩和」を標榜する一方、公務員労働者には憲法で保障されている基本的な権利を制約し続けている。憲法や公務員法の規定を実効あるものにするうえでも、公務員労働者の労働基本権を完全に保障することが必要である。公務員労働者が、行政内部の汚職・腐敗の実態を告発することが「職務上知り得た秘密を外部に漏らしてはならない」との規定に抵触し処罰の対象になり、権利が不当に抑圧されている側面がある。公務員労働者・労働組合が「国民本位の行政」を実現していくためには、内部の行政チェックが必要であり、そのためにも、公務員労働者・労働組合の自主的権限の確立がきわめて重要である。
 国民本位の行政確立の欠くことのできない問題として、公務員労働者の基本的権利を完全に保障することが必要である。

 6.公務員労働者・労働組合の意見反映を保障すること
 中央省庁等の「改革」や公務員制度の検討にかかわっては、当該労働者・労働組合の意見反映の場を設置すべきである。今回の「改革」作業にかかわって当該の労働者・労働組合などとの事前協議や意見反映が十分保障されているとは言い難い。全労連は、今回進められている「改革」作業に、国民の声が十分反映されるとともに、当事者としての労働者・労働組合の意見反映の場が保障されることを強く求める。

以 上


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