【行革闘争・職場討議資料】
 ここが問題 独立行政法人

 --「行政減量化」目的の独立行政法人は民営化の一里塚    1999年1月作成


 「10年間で国家公務員を25%削減」とする「行革大綱」実現の切り札として、国立試験研究機関、国立病院療養所、国立博物館などの独立行政法人化計画が強引に決定されようとしています。また、国立大学の「5年後の独立行政法人化」の検討も既定方針化されようとしています。
 治安、防衛、外交といった「国が実施しなければ成立しない」ものや、政策の企画・立案に国の仕事以外はできるかぎり民間や地方自治体に委ねることが、「行政改革」の最大の目的にされています。そのことの一環として、国が直接おこなう仕事を、国とは別の法人に実施させようとするのが独立行政法人制度です。
 「小さな政府」をめざした「行政の責任領域の見直し」が、第2臨調以来、20年余り続けられ、福祉、医療、労働、教育、農林漁業など国民生活に密着した行政が切り捨てられてきました。独立行政法人制度も、その延長線で、「行政減量化の切り札」として位置づけられています。このような独立行政法人制度が、行政サービスと国公労働者の労働条件に、重大な変更を迫ることは明らかです。
 こうした問題意識から、国公労連は、この討議資料を作成しました。行革闘争を大きく発展させるためにも、独立行政法人制度の問題点を具体的に理解することが必要だと考えるからです。
 職場段階での積極的な活用をお願いします。

 1 「独立行政法人」って何?

 (1) 国だけの役割ではない行政の実施?

 「独立行政法人」、耳慣れない言葉のようですが、今でも行政の一端を担う多くの「独立」法人があります。特殊法人(公社、公団、事業団など98年末で89法人)や、特定の事務を実施する法人を指定する指定法人(日本看護協会など720法人・97年9月時点)などがそれです。また、「公益に関する事業」などを目的に設立される公益法人や、リゾート開発などで乱立された「第3セクター」も広い意味での行政を担う「法人」です。
 第2臨調が財政再建を口実にした「小さな政府」を掲げて以降、特に公益法人や第3セクターに、実施責任を押しつけることが常態化し、それが財政のムダ遣いや「政・官・財ゆ着、「天下り」の温床になっています。
 そのように「独立法人」でゆがんだ行政の問題点を整理もせず、イギリスの「エージェンシー」をまねて、国の「負担」を減らすために検討されたのが独立行政法人制度です。

 (2) 行政の実施部門を企画・立案から分離?

 行政の実施を「民間でできるものは民間に委ねる」(行政改革委員会「行政関与のあり方に関する基準」)とする前提で民営化の是非を検討し、できないものは「次善の策」として独立行政法人化が検討されました。また、国が直接行う事務についても、「実施庁」として位置づけられています。そして、「施設等機関(試験研究機関や国立病院など)」を先行させ、2001年1月スタートをめざした独立行政法人化が強行されようとしています。行政改革会議等の検討過程で、実施事務と位置づけられた機関・事務の職員数は、現在の国家公務員数の75%にのぼっています。
 独立行政法人制度が、これまでの特殊法人などと違うのは、一つ一つの機関・事務の法人化の前に、国の行政機関と民間法人の中間制度である独立行政法人制度の「共通法」を作る点にあります。この制度を「受け皿」にして、実施事務は「いつでも、いくらでも」独立行政法人化することができる仕組みを作ろうというのです。

 (3) 本当に「独立」した法人か?

 政府が作成した「独立行政法人制度のここがポイント」では、独立行政法人は自律的な運営、弾力的な財務運営が確保され、行政の透明性を高めるなど「バラ色」の制度として描かれています。国公労連との交渉でも、「運営費は国が責任を持って措置する」、「所管大臣の事前関与をできるだけ排除する」制度設計を行うことを強調しています。
 総定員法や予算法など、行政機関であれば当然に適用される規制が、独立行政法人では排除されているのは事実です。だからといって、政府の政策と無関係に自由な仕事ができ、人も予算も確保できるかといえば、そうはなりません。
 独立行政法人が行う仕事は、政府が決定する政策の枠内での実施だけです。例えば、医療費抑制の政策を政府が掲げているときに、病院への予算措置が潤沢に行われることは考えられません。
 また、人員管理の弾力化(定員法の適用除外)は一方で「人員整理の自由」を拡大することになります。  独立行政法人では、悪政を実行するための業務執行を限られた予算の中で行う効率化・簡素化だけが迫られることになる危険も少なくありません。

 2  独立行政法人制度はどんな内容?

 独立行政法人の運営方法は?

 独立行政法人の運営は、1)所管大臣の「中期(3〜5年)目標の設定」、2)独立行政法人の長の「中期計画」の策定、所管大臣の計画認可、3)独立行政法人の長の「年度計画」の策定、4)所管大臣の予算要求、5)独立行政法人の長の業務執行、6)中期計画終了時の所管大臣による業務の見直し、の流れで行われることが検討されています。
 そして、各省に置かれる評価委員会が、「業務の評価基準」を設定して、中期目標、中期計画、年度計画、業務、組織運営などの評価を行うとしています。しかも、評価について、独立行政法人の長が、弁明をする仕組みはなく、一方的な評価が下されることになります。さらに、総務省の評価委員会は、法人の民営化・主要業務の改廃を勧告できる仕組みです。
 独立行政法人の業務の内容は、個別の法律で規定されており、実施しなければならない仕事の内容は決まっています。その行政の執行(業務運営)だけに責任を負わせ、運営の善し悪しを評価委員会を使って事細かに評価するために、目標は「数値」で示すことが基本となっています。どれだけ良い研究か、国民が求める医療内容か、ではなく、目標に対する結果だけを追い求めることになりかねません。

 中期目標は誰が決める?

 独立行政法人では、所管大臣が設定する中期目標が重要な意味を持つことになります。その目標は「できる限り数値」で示すこととされ、1)中期目標の期間、2)目標を達成するための業務運営の効率化、3)国民に対して提供するサービス等の業務の質の向上、4)財務内容の改善、などが想定されています。
 中期目標の設定そのものは、所管大臣による一方的な「行為」です。独立行政法人は、その目標を達成できる「財務計画」、「人員計画」、「給与等の計画」などの策定が迫れるらことになります。
 例えば、対前回中期計画の1割経費目標達成を求められた独立行政法人の長は、そのための人員や組織削減計画の策定を迫られることになります。国民の行政ニーズとは無関係に、そのような目標設定が「政策的」に押しつけられる危険性は少なくありません。

 経費は誰が負担するのか?

 独立行政法人の運営費は「渡し切りの交付金」として、国が「所要の措置」をすることされています。一見柔軟で、しかも業務に見合った予算が確保できるような仕組みに見えますが、その前提には「移行前に必要とされた公費投入額をふまえる」との上限が設けられています。しかも、1)現在でも経常予算は一律カットの対象とされていること、2)国だけで300兆円をこえる借金が累積していること、などを考えれば、総額が十分保障される可能性は大きくありません。また、予算要求は各省がこれまでどおりの仕組みで行うことから、中期計画や年度計画にもとづく「積算」も必要になります。結局、限られた予算の中でのやりくりが独立行政法人には迫られることにしかなりませんし、現在、特別会計で「独立採算」を迫られている所にまで国が経費を負担することは考えられていません。

 要員は確保できるのか?

 定員管理でも、「事前定員管理の対象外=総定員法と定員査定の対象外」とされ、独立行政法人の長の運営責任に委ねられることとなっています。しかし、人員は毎年度の報告事項であると同時に、業務評価の対象とされています。運営改善の数値として、人員削減が重視されることが一般化しているわが国で、独立行政法人だけがその縛りから解き放たれるとは考えられません。
 また、総定員法の問題点は少なくはありませんが、一面で、定員法が行政整理=公務員の首切りを発生させなかったことも事実です。少なくとも定員の範囲内では、意に反した免職はできないとするのが、これまでの運用です。しかし、定員が確定せず、弾力的な運用が可能となれば、効率化のための免職(解雇)や、民間委託、派遣労働の活用などの不安定雇用労働者を大量に雇用する自由を拡大する危険も持っています。「採用の弾力化」が検討されているのも、そのことの一環と考えられます。

 賃金はどうなるのか?

 賃金については、独立行政法人の長が「社会一般の情勢(国家公務員の給与等の事情の勘案を含む)に適合したもの」となるよう定め、所管大臣に届け出て、公表することとされています。「公務員準拠」を前提にした「労使協議」が保障されているにすぎません。国の予算措置の中味として人件費が明記され、「人件費相当額についてあらかじめ一定のルールを定める」としていることや、現に民間労使関係に置かれている特殊法人で、大蔵省の予算措置がない限り賃金改定もできないことを見ておく必要があります。
 また、「法人及び職員の業績が反映される給与の仕組み」が触れられ、一時金を中心に業績反映の賃金制度の押しつけが検討されていると考えられます。なお、その業績評価は「法人と職員」の双方を対象とすることとされています。

 職員の身分はどうなるのか?

 独立行政法人の役職員の身分については、「業務の停滞が国民生活又は社会経済の安定に直接且つ著しい支障を及ぼすと認められるもの」(端的にいえば、争議行為の影響が大きいもの)については公務員型とし、それ以外は非公務員型とするのが行革基本法の規定です。行政改革会議の最終報告では、「原理的には現行と同じままの国家公務員とは相容れない」と明言していました。それでも、公務員型と非公務員型を規定したのは、「独立行政法人への円滑な以降」と争議の危険を心配したからです。
 しかし、「大綱」決定時には、「新規採用者は非公務員」として、身分の混在を認める論議まで出はじめています。理屈より、公務員削減の「実績」が重視されはじめています。
 国家公務員型といっても、国家公務員法を直接適用するとしているわけではなく、「同様の身分保障を行う」として、「大綱」決定時でも結論を先送りしています。
 なお、独立行政法人に切り替わる場合の雇用継続について、「事務事業に係わる権利義務等の承継や引き継ぎについては適切な措置」を記述するのみで、JRへの採用差別と同様の事態さえ懸念される状況です。

 おわりに

 独立行政法人と所管省との「人事交流」が当然のこととして検討されています。独立行政法人の自主性を強調しながら、特権官僚が独立行政法人に「天下る」ことも考えられているのです。目標管理と人事交流をテコに、独立行政法人が第2の特殊法人になることも十分考えられます。

 <別添資料>
 独立行政法人制度の概要(1999.1.26「大綱」時)

【設立等】
*運営の基本、監督、職員の身分、設立その他の制度の基本となる共通の事項を定める「通則法令」を整備 *法人の目的及び業務の範囲、通則法令を補う「個別法令」を整備(次回国会以降に提出)
*独立行政法人の移行に際しては、当該事務及び事業に係る権利義務等の承継や引継ぎについて適切な措置を講ずる
*所管大臣が関与できる事項は限定的に規定(ただし日常的な連絡調整等は可能)・・・業務及び組織運営の基本事項の認可、中期目標の設定、中期計画の認可等、など
*中期計画の認可等に際しては、財政担当大臣と協議
【運営】
*業務は、法令により定められる本来業務とその付帯業務に限定
*中期目標・・・3年以上5年以内の期間内で、目標(業務運営の効率化、業務の質の向上、財務内容の改善等)を出来る限り数値により定める
*中期計画・・・中期目標を達成するための中期計画(業務、財務、施設・設備、人員、給与等の勤務条件など)について、独立行政法人の長が定め、所管大臣が認可(評価委員会の意見聴取と財政担当大臣との協議を経て)
*年度計画・・・独立行政法人の長は、中期計画の事項を年度毎に具体化(予算を含む)し、所管大臣に届け出
【財務会計】
*独立行政法人には資本金を置くことができる・・・国からの出資に加え、法令で定める場合は地方公共団体や民間からの出資を受け入れる
*独立行政法人の会計基準は企業会計原則によることを原則
*一般的には独立採算性を前提とせず、国の予算で所要の財源措置をおこなう(移行時の予算措置は、移行前に必要とされた公費投入額をふまえる)
*予算要求は、(中期計画に従って)所管大臣がおこなう・・・国が運営交付金を交付(寄付、受託、手数料収入、短期の借入も想定)し、公債発行対象経費は別に措置
*人件費は、運営交付金で措置
【公表】
*業務の概要、財務諸表、決算報告、業務実績、給与等勤務条件に関する事項などを官報等で公表
【評価】
*外部有識者で構成する府省の評価委員会で、業務の評価基準の設定、中期目標・中期計画などへの意見、中期計画終了時の組織・業務の検討に当たっての意見などをおこなう
*総務省の評価委員会は、府省の評価委員会の評価結果に関する意見、独立行政法人の民営化、業務の改廃勧告などをおこなう
【職員】
*職員の身分・・・業務の停滞が国民生活、社会経済の安定に直接かつ著しい支障を及ぼす法人の職員は国家公務員の身分を与える
*職員の任命は、独立行政法人の長がおこなう
*公務員の身分を与える職員の給与は、独立行政法人及び職員の業績が反映される仕組みを導入。定年、能率等はさらに検討。服務・懲戒は国家公務員法の規定と同様の取扱い。共済制度、退職手当制度を適用。
*職員には国家公務員宿舎制度を適用
*(国家公務員との)人事交流の妨げとならないよう措置
【労働関係への配慮】
*独立行政法人制度の業務、職員の身分の決定にあたって、良好な労使関係に配慮

 中央省庁等改革推進本部「行革大綱」の独立行政法人化対象事務・事業 

 次の事務及び事業は、種々の準備作業を行い、独立行政法人化を図る。
(試験研究)
開発土木研究所、航空宇宙技術研究所、金属材料技術研究所、放射線医学総合研究所、防災科学技術研究所、無機材質研究所、国立環境研究所、醸造研究所、国立特殊教育総合研究所、国立科学博物館、国立国語研究所、国立文化財研究所、国立健康・栄養研究所、農業研究センター、農業生物資源研究所、農業環境技術研究所、畜産試験場、草地試験場、果樹試験場、野菜・茶業試験場、農業工学研究所、農ニ試験場、蚕糸・昆虫農業技術研究所、家畜衛生試験場、食品総合研究所、国際農林水産業研究センター、森林総合研究所、水産研究所、養殖研究所、水産工学研究所、産業技術融合領域研究所、計量研究所及び計量教習所、機械技術研究所、物質工学工業技術研究所、大阪工業技術研究所、名古屋工業技術研究所、生命工学工業技術研究所、地質調査所、電子技術総合研究所、資源環境技術総合研究所、北海道工業技術研究所、九州工業技術研究所、四国工業技術研究所、東北工業技術研究所、中国工業技術研究所、船舶技術研究所、電子航法研究所、港湾技術研究所、交通安全公害研究所、通信総合研究所、産業安全研究所、産業医学総合研究所、土木研究所、建築研究所、消防,uカΦ羹蝎ネw)(文教研修・医療厚生)国立公文書館、印刷局病院、国立オリンピック記念青少年総合センター、国立青年の家、国立少年自然の家、国立婦人教育会館、国立博物館、国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館、国立病院・療養所、農業者大学校、水産大学校、工業所有権総合情報館、海技大学校、航海訓練所、海員学校、航空大学校
(検査検定)
肥飼料検査所、農薬検査所、農林水産消費技術センター、製品評価技術センター、自動車検査(検査場における検査)
(作業施設)
統計センター(統計研修所を除く)、種苗管理センター、家畜改良センター、林木育種センター、さけ・ます資源管理センター  (1)貿易保険及び通商産業研究所については、内部部局及び政策研究機関であるという特殊性等に十分配慮することを前提に、独立行政法人化を図るべく早急に結論を得る
(2)国立大学の独立行政法人化については、大学の自主性を尊重しつつ、大学改革の一環として検討し、平成15年までに結論を得る。大学共同利用機関等の独立行政法人化については、他の独立行政法人化機関との整合性の観点も踏まえて検討し、早急に結論を得る。
(3)食糧事務(食糧検査は民営化)については、食糧検査の民営化の状況を見つつ、引き続き検討を進める。動物医薬品検査所については、薬事法体系の中での在り方等を考慮しつつ、引き続き検討を進める。船舶検査、航空機検査及び無線等検査については、民間能力の活用の状況を見つつ、引き続き検討を進める。
(4)上記以外のその他の事務及び事業についても、引き続き検討を進める。

 注:
  国が自ら主体となって実施する必要がある事務事業とする基準(推進本部事務局資料から)
(1)私人の権利義務に直接かつ強度の制限等を及ぼす公権力の行使に当たる事務事業(例:警察)
(2)その性質上、国が自らの名において行うのでなければ成立しない事務・事業(例:栄典)
(3)災害等国の重大な危機管理に直結し、直接国の責任において実施することが必要な事務・事業(例:防衛)


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