厚生省は、2月26日に示していた「年金制度『改革』案大綱」が自民党に了承されたことを受け、3月12日の年金審議会に要綱案を諮問しました。年金審議会では、労働側委員の反対はあるものの、3月中には要綱案とおりの答申がおこなわれることが確実な状況にあります。政府・厚生省は、年金審議会の答申を受けて、通常国会に年金改悪法案を提出するとしており、重要な局面を迎えています。両輪の署名を軸に、社会保障、行政サービス切り捨て、ムダ遣い温存、軍事優先の「構造改革」を食いとめるとりくみを急速に強めることが求められています。 厚生省が諮問した年金「改正」案の概要は次のようなものです。
1.報酬比例部分(2階部分)も65歳支給に
厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢を2013年から2025年にかけて、現行60歳からを65歳まで段階的に引き上げるとしています。前回94年の改悪で、定額(基礎年金)部分の支給開始年齢を2001年から2013年にかけて、65歳まで遅らすことが決定されており(女性は5年遅れで実施)、65歳未満では年金がゼロになる大改悪です。男性の場合、1953年4月2日以降に生まれた人から影響を受け、1961年4月2日生まれ以降の人は65歳になるまで年金をもらうことができなくなります。
基礎年金部分、報酬比例部分については、共済年金も厚生年金に連動しており、共済組合法の改悪も同時に進められることは確実です。
今国会に提出されている「60歳代前半の再任用制度」導入の国家公務員法改正は、報酬比例部分の60歳支給を前提としたものです。5年毎という短期間に繰り返される年金制度改悪が、それを補完する制度・仕組みの検討を抜きに場当たり的におこなわれていることのあらわれです。このような「理念なき改革」の連続が、国民の将来不安を高め、相互扶助を前提とする社会保障制度の根幹を形骸化させていることは明らかです。
2.賃金スライド廃止と報酬比例部分の5%給付削減も 年金額の算定に用いる給付乗率を引き下げて、報酬比例部分の給付水準を現行よりも5%カットすることを盛り込んでいます。
また、5年に一度、現役世代の賃上げにあわせて年金額をあげてきた賃金スライド制を廃止して物価上昇による改定だけにするとしています。
さらに、働き続けると給付が減額される在職老齢年金の年齢を、現行の64歳から69歳まで延長し、賃金と厚生年金の合計額が37万円を越えると、上回った額の半額を年金から、減額するなど、給付額の徹底した切り下げをもくろんでいます。
3.保険料は当面「凍結」、しかしいずれ月収の27%(これを労使折半)に
当初は予定されていた99年度からの保険料の引き上げを凍結することはすでに決定しています。しかし、この「凍結」は、「基礎年金部分の国庫負担見なおし」と同時に解除するとしています。「凍結」期間中の負担は、その際に上乗せすることとしており、仮に5年間凍結し、国庫負担が現行の3分の1に据え置けば、保険料は月収の27%(これを労使で折半)になると厚生省は試算しています。凍結分を上乗せした大幅な保険料の引き上げも含め、保険料を現行の5割アップするとの方向を変えたものではありません。
4.国庫負担割合の増額(3分の1から2分の1に)検討も消費税だのみ
基礎年金の国庫負担割合を3分の1から2分の1に引き上げることは、「2004年までの間に」と先送りしています。しかも財源は、「安定した財源を確保し、別に法律で定める」としています。この安定した財源は、消費税の目的税化がいわれており、年金の改善を望むなら、消費税のアップが前提だといわんばかりです。
94年「改定」時に国会が行った「国庫負担2分の1への増額」の付帯決議は、全与野党の一致したものです。その実現は、なによりも優先させなければなりません。しかし、その財源を消費税の福祉目的税化にもとめることは、年金改善の要求の本筋とは違うものです。
5.税金の使い道を争点に
深刻な年金制度の空洞化が進んでいます。現在、月額1万3300円の国民年金保険料が払えない滞納者が308万人、免除者が334万人、年金に加入しない未加入者が158万人で、合計すると約800万人の人が公的年金の「カヤの外」に置かれています。免除者は、もともと低い年金額の3分の1、滞納者や未加入者の中からは、無年金者が大量につくりだされようとしています。国民年金(=基礎年金部分)は、厚生年金、共済年金などの、すべての雇用労働者がはいる国の年金制度の根幹部分であり、その根幹部分が崩れかけています。
「基礎年金の国庫負担割合を3分の1から2分の1に増額し、全額国庫負担をめざす」要求は、この土台部分を国の責任で支えることを求めるものです。厚生省は、2分の1に増額する予算を2.2兆円と試算していますが、社会保障に20兆円、公共事業費の50兆円という偏った国の財政をあらためることで、財源確保はできるはずです。
緊急の要求は、国庫負担の2分の1に増額することですが、抜本的には全額国庫負担を要求しています。これは、すべての国民が安心できる年金を保障する道を開くことになり、最低保障年金制度の確立にもつながるものです。
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