公務員制度調査会の基本答申について(見解)

 本日、政府の公務員制度調査会は、公務員制度の基本方向に関する答申を内閣総理大臣あてに提出した。答申の内容は、公務員制度の改革と運用全般にわたっており、検討範囲は広範なものである。
 この答申を読んで我々が問題意識を抱くのは、総論部分で国家公務員が「民間企業従業員とは異なり、身分、規律、処遇などについて法令により基準を定めることによって行政の適切な運営を確保する」ことが求められていることを確認しながら、審議過程全体を通じてそのことに対する議論が非常に不足している印象を受けることである。答申の論調は、「戦略性、機動性」を重視し、民間の優れた点を強調する一方で、公務の「継続・安定性の確保」が軽視された形になっている。
 改革の検討にあたっての視点として、開放化、多様・柔軟化、透明化、能力・実績の重視、自主性の重視をあげているが、我々が今日、公務に不可欠と考えている、行政の遂行に当たっての国民全体の奉仕者としての民主性・公平さの確保や、人事管理面での公正さの担保についてはどのように議論されたのであろうか。
 一昨年4月、公務員制度調査会が設置された時点で、国民が公務員制度の改革について求めていたことはどのようなものであったか。大蔵、通算、厚生省などの高級官僚と関連業界との癒着・不正の糾明と根絶、輸入血液製剤によるエイズ感染問題、住専問題、長良川河口堰問題などについての行政責任が不透明な点の解明を求める声が渦巻いていたのではなかったか。
 また、戦後50年余にわたる公務員制度の運用の中で、国家公務員労働者と、労働組合が求めてきたことは何であったか。
 1種試験採用者のごく一部の中だけで幹部登用が行われているという、硬直的な人事運用、特定の労働組合に対する激しい差別、男女の性による差別、本省・地方間格差などの是正であり、なによりも民主的な公務行政を担保するための、労働基本権の回復要求である。
 公務員制度の改革に当たっては、このような国民の声、国家公務員労働者の声に応えることなくして、清潔で活気ある公務行政は確立し得ないと考える。
 以下、基本答申に関わって見解を述べる。

 1 憲法と国家公務員法に基づき、全ての国民に対し公正で民主的な行政サービスの提供を行うという公務労働の特殊性を、無視あるいは軽視し、官庁と民間企業の垣根を低くし、「官は民間に学べ」というトーンが全体を支配している。近年民間において不道徳的ともいえるバブル経営、リストラ、賃金抑制、「能力主義」強化が進められているが、こうしたことを、公務でも強力に進めることを答申は随所に語っている。

 2 任期づき任用、フレックスタイム、裁量労働制の対象範囲の拡大など、公務労働者を民間に先駆けて自由自在に働かせようとするための規制緩和策の検討を求めている。

 3 内閣官房への政治的任用職員の拡大、幹部職員への任用についての人事院のチェック機能を緩和するなど、公務員制度における公正さ、政治的中立性を担保する仕組みを排除しようとしている。一方、幹部登用にあたって、「行政改革の推進等政府全体の方針・課題についての実績を評価する」ことを付け加え、内閣の重要施策への内閣総理大臣の研修権を明記するなど、政権による官僚への統制を強化するものとなっている。

 4 勤務時間の縮減策について、平成4年12月9日付けの人事管理運営協議会決定の内容以上のものは示されていない。この決定が出された以降も、過労による健康破壊が続出し、自殺まで引き起こす残業地獄があるというのに抜本対策は皆無に等しい。

 5 官・財癒着と天下り批判に応えるために、退職のあり方検討グループを作って集中的に議論した「退職管理」についての答申も大変不十分である。65歳定年に向かうにあたっては、財政負担の抑制を強調しているが、公務の現状は、幹部職員以外の過半の職員も定年前の退職を受け容れざるを得ない状況である。本省庁偏重の職務評価のため、7級、8級在職の50歳代半ばで俸給表の枠外に達し、厳しい条件の再就職を余儀なくされている。こうした実状を打開しうる改善策はどこにもみられない。
 また「人材バンク」構想にしても、民間の官庁に対する思惑抜きで機能するとは思えない。独りよがりの空疎な構想である。
 近々、日本全体が60歳代半ばまで就労する社会が到来する。そうであれば、国家公務員だけでなく、民間労働者も含めて、健康で希望する者全てが65歳まで働ける仕組みを作ることが必要なのではないか。

 6 男女共同参画の推進、セクシャルハラスメント対策など、我々も関心を持つ課題については、書き込んではいるが具体策や議論が深められた様子がうかがえない。また、リフレッシュ休暇、自己啓発のための長期休業、配偶者の転勤に伴う休業制度、育児・介護のための部分休業制度などにも触れてはいる。しかし、長年の定員削減計画により公務職場の勤務環境はきわめて厳しい状況にあり、加えて25%もの定員削減計画を打ち出しながら、このような施策を何の保障もしないまま羅列するのはきわめて無責任なことと言わざるを得ない。

 7 この答申は、一般行政事務部門を主たる検討対象としたというが、我々のみるところ、その中でもごく一部の本省庁における企画立案部門に対する民間からの注文が中心となっているようである。
 我が国の公務行政を支えているのは、全国各地の最先端で働く50万人以上の国家公務員労働者である。そうした立場に立って業務実態を分析すれば、あらゆる年代の職員が豊富な経験に基づき、上司、同僚、後輩と協力し合って的確に行政を遂行している姿が浮かび上がってくる。こうした実情を深く掘り下げた上で、給与、雇用などの解決すべき課題についての改善策を示すことが公務行政に活力を与えるのではないか。この基本答申にはその視点が欠けている。

 8 労働基本権問題についての議論は未だ進展していない。昨年11月、国公労連として公務員制度調査会会長あてに、労働基本権確立要求政策の要請書を提出しているが、民主的な行政を担保するためにも、労働基本権の回復は欠かせないものである。我々の意見をふまえた精力的な審議を求めておきたい。
 以上のように、基本答申の内容は、公務職場にも厳しい「合理化」と差別の拡大を持ち込むものであり、国民の期待に応え、国家公務員労働者の働く条件を改善し士気の向上を図る点からみてもきわめて不十分である。我々は、今後とも政府・公務員制度調査会の動きを注視し、答申の問題点を追及していく決意である。加えて、今後公務員制度の改革を検討するに当たっては、行政の専門家集団であり、非現業国家公務員労働者の最大組織である我々の参加の場を保障した上で、これらの問題点も含めた抜本的な議論を行うことを求めるものである。

1999年3月16日 国公労連中央執行委員会

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