地方分権一括法案の閣議決定にあたって(書記長談話)


 政府は、3月26日に、地方自治法をはじめとする475本の法律を「改正」する「地方分権一括法案」を閣議決定した。法案は、3月中に国会に上程され、行革関連法案との位置づけで、衆議院・行政改革特別委員会での審議がおこなわれようとしている。
  法案は、国と地方を主従関係に置いてきた機関委任事務制度の廃止と、それに伴う事務区分の再編を中心としている。これは、市町村段階では7割が機関委任事務で、「戦前の遺物」とも指摘される「国の出先機関化」している状況から、双方の責任領域を明確にして国民の福祉向上をめざすという現行憲法の趣旨にそった地方自治拡充の点では、一定の前進面も含まれている。なお、機関委任事務廃止にともない、同制度を前提としていた社会保険関係業務に従事する地方事務官が廃止され、職業安定関係の地方事務官が従事する事務を国の直接執行にすることとされている。
 しかし法案で見過ごしてならない点は、国の役割を治安、防衛、外交などに重点化する「行政改革」の一環として、地方自治体を国が立案した政策の実施機関として位置づけて事務・事業の実施を押しつける「分権」の色合いも強いことである。そのことから、徹底した審議と問題点改善の立場での修正が必要な法案である。
  今回の法案では、機関委任事務を廃止し、それらの事務を自治事務、法定受託事務、そして国の事務に再編することとしている。その点での問題は、2点に集約される。
  一つは、法定受託事務にかかわる国の権限と関与の点である。法定受託事務は、「国が本来果たすべき事務」であることを宣言した上で「適正な処理を確保する必要がある」として、地方自治体に事務処理を委任することとされている。そのことから、例えば行政サービスの質や量の決定権限は国に留保されており、地方自治体の条例制定権は認められるものの、自主決定できる範囲は限定されている。その一方で、助言又は勧告、資料提出の要求、協議、同意、許可・認可又は承認、指示、代執行と、国が広範に関与できる仕組みを盛り込んでいる。なお、「地方自治体が処理する事務のうち法定受託事務をのぞく」事務とされる自治事務についても、程度の差はあるものの、国の権限留保と関与が規定されている。
  「権限移譲なき分権」と批判が強いこのような事務再編の背景には、国民に提供する公的サービスの「処理」のみを対象として、国と地方の「分担」が論議された結果と考えられる。そのことは、地方自治体の役割について、「公共事務」、「法令で規定する事務」、「国の事務に属さないものの処理」とする現行地方自治法の規定を、「地域における事務」と「法令等による事務の処理」に変更していることにも示されている。行政に対する国民のニーズの多様さや変化に、いずれが責任を負うのか曖昧にしかねない問題も含んでいる。
  二つには、地方自治体に事務処理を押しつけながら、それを実施するための財源について、ほとんど手をつけていない点である。わずかに、地方自治体固有の税金新設について、自治大臣の許可事項から「協議を要する同意」に緩和されてはいるが、このことは、自治体に委ねられた事務処理の充実を求める住民要求に対して、受益者負担か増税かの選択を迫るしかないことになりかねない。また、地方自治体の財政状況の差が、行政サービスの格差の拡大につながる結果を伴いかねない。加えて、地方財政危機が言われる中でも、「権限移譲の推進」を口実にして、国から都道府県、都道府県から市町村に玉突きする形で事務処理が押しつけられようとしていることも問題である。
 そして、このような「財源なき事務配分」との批判を逆手にとって、市町村合併を「行政体制の整備・確立」の課題として推進することが強調されている。合併にかかわる都道府県知事の勧告という「上からの合併推進」や、合併特例債の新設などの財政面の推進策も使いながら、行政能力の向上、効率化を目的とする市町村合併が強調されている。また、地方議会の定数削減も強調されている。これらの点は、住民の意思を反映した地方自治確立とは対局にある側面を持っており、「民主抜きの分権」となる危険性を持っている。
  これらの点以外にも、国と地方の紛争処理の仕組みの不十分さ、必置規制の見直しによる公的サービス低下の危険性、あるいは沖縄米軍基地問題で論争となった「土地調書への署名押印代行事務」を県から国に「取りあげる」こと、などの問題点を持っている。
 このような問題点が生ずる根底には、国は「国家の存立に係わる事務」などを専権的におこなうとする「行政改革」の流れがあることは明らかである。
 住民に直接影響する行政サービスの内容は、可能な限り地方自治体が決定し、国はナショナルミニマム確立の観点からこれをサポートする政府のあり方が、これまでも一貫して求められてきた。それは、単に行政効率や、財政効率からだけの検討をせまるものではなく、国民・住民の基本的人権の実現を不断に追求する立場から、国と地方の関係を問い直そうとするものであった。この点からしても、地方分権推進委員会発足当初の課題設定からしても、決定された「地方分権一括法案」の後退は否めない。このような問題点をあらため、地方財政を大規模開発に動員するような現在の国と地方の関係を改善する方向に踏み出す法案への修正を重ねて求めるものである。
1999年3月29日 日本国家公務員労働組合連合会 書記長 福田昭生

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