許すなニセ行革−民営化・エージェンシー化反対
【全気象労働組合発(「全気象新聞」第1127号6月5日付より)】
橋本内閣は、@行政改革、A財政構造改革、B経済構造改革、C金融システム改革、D社会保障構造改革、E教育改革という6つの改革をかかげ、首相自身が「火だるまになっても」と決意を示しているように、強い意欲をもってこれをすめようとしています。
とくに行政改革については、大蔵省や厚生省の特権官僚の相次ぐ不祥事、天下りなどに対する国民の批判も利用し、マスコミを総動員してのキャンペーンがしかれています。
そして、あたかも「行政改革で省庁を再編し、公務員を減らせばすべてが解決する」かのような宣伝をおこない、その一方では、「行政改革に反対するものは非国民」という、風潮も意図的につくられています。
こうした「橋本行革」の本質は、社会保障、福祉、教育などの水準の大幅な切り下げや、国民の生活に必要な行政サービスの切り捨てを財源に、一段と大企業やアメリカ奉仕をすすめようとするもので、国民のためになる改革とは逆行するものです。
しかし、こうした本質が理解されないまま、国民の中には行政改革に賛成する人が多いことも確かです。
今後、現在おこなわれようとしている行政改革の本質は何なのか、この行政改革が気象業務に何をもたらすのかを明らかにし、汚職や腐敗を断ち切り、真に国民の側に立った効率的な行政確立の展望を示しながら運動をすすめることが、私たちの重要な課題といえます。
エージェンシー化、民営化で小さな政府
橋本首相の直属機関である「行政改革会議」は、この間、国の行政機構のあり方を中心に検討をすすめ、5月1日には各委員から出された意見を要約整理した、「中間整理」を公表しました。
その内容は、@行政改革の理念、A国家機能のあり方、B中央省庁のあり方、C内閣機能の強化、D関連諸制度の改革方向となっています。
このなかで、理念として、「行政の役割の徹底的な見直しと絞り込み」や「効率的な小さな政府」をあげ、中央省庁を「企画立案機能と実施機能の分離」、「10省庁内外に再編成可能」、さらに、「公的役割を終えた実施機能は、廃止もしくは民営化。なお、公的な役割を残し、効率化を図るべきものはエージェンシー化し、政府をスリム化する」としています。
そして、民営化やエージェンシー化を検討する業務を示し、各省庁に対するヒアリングをおこなっています。
また、関連諸制度として、国家公務員制度についても検討がおこなわれ、「内部部局職員の一括採用、一括管理」、「定員削減計画による定員管理の強化、上級職の採用抑制」という、現行の公務員制度を大幅に見直す動きもあります。
独立行政法人は日本版エージェンシー?
行政改革会議の議論では、「エージェンシー制度の直輸入には慎重な検討が必要」と、イギリスのエイジェンシー制度をそのまま導入することに異論も出されており、日本版エージェンシーの検討が進められています。
5月28日の会議では、「独立行政法人」という名称の日本版エージェンシー制度の原案が出され、気象のほか登記、統計、医療等といった業務がこの候補にあがっているといわれています。
しかし一方では、職員の身分保障が明らかでないほか、不透明な運営が批判されている特殊法人とどう違うのかなど疑問視する声も出されています。
「気象庁の民営化は困難」と運輸省回答
行政改革会議の各省庁に対するヒヤリングは、5月7日の法務省、労働省、警察庁を皮切りに始まりました。
しかし、初日の3省庁のヒアリングに対する回答がいわゆる「ゼロ回答」であったことから、5月8日には具体的な方策を求める項目を追加しています。
また、運輸省は6月4日に予定されています。運輸省へのヒアリングでは、別掲のように「気象庁の民営化または独立機関化」が問われています。
これについて運輸省は、運輸共闘との交渉で「気象庁については、他の分野に比べても国の本来の責任という面が強い」(運輸省官房長)とし、「民営化は困難。エージェンシー化は慎重な検討が必要」と説明しています。
また、他省庁に対するヒアリング項目のうち、科学技術庁や国土庁、環境庁に対するものの中には、気象庁の業務にもかかわる項目もあり、「環境省設置を環境庁が提唱」(5月15日付朝日新聞)という報道もあります。
国公労連の行革提言に著名人の賛同続々
国公労連はこうした行政改革攻撃に反撃するため、今年2月に「国民本位の民主的行政改革にむけた『国公労連の提言』(第1次案)」を発表しました。
この中では、行革に対する国公労連の考え、いま改革すべき制度や機構などを具体的にあげています。
そして、県国公や地区国公を中心に、この「提言」を議員や学者、文化人など著名人に広く配布し、意見交換をおこなっています。
すでに、映画監督の山田洋次さん、稲美町長の井上芳一さん、東北大学名誉教授の河相一成さんなどから、賛同署名とともに「提言」に対する感想・意見が寄せられています。
国公労連は4年間の臨戦態勢確立を検討
国公労連は、行政改革反対のとりくみとして、むこう4年間の臨戦態勢確立を提起しています。
その内容は、組織面では「専従の増員」を、運動面では「地方オルグや宣伝行動の強化」などを柱とし、今年8月末の定期大会で決定することとしています。こうした臨戦態勢を確立するためには、財政面での態勢強化も求められます。
現在、国公労連では臨戦態勢の具体的な方針議論がすすめられており、素案段階では、組合員一人年間1200円程度の臨時会費の徴収が検討されています。組合員の生活や気分感情を考えると、これ以上の負担をお願いするのは大変酷なことです。
しかし、現在の行政改革・省庁再編の流れは、全気象だけの運動で止められるほど、やさしいものではありません。国家公務員労働者に共通の攻撃に対しては、国公労連規模で運動し、さらには全労連規模の運動に広げ、国民に負担を強いるニセ行革に反対し、「国民本位の行政改革実現」の国民的な運動に発展させる必要があります。
したがって、私たち全気象も「組合費の値上げ」も含め、どうたたかっていくのか、大会にむけて十分な議論をすすめる必要があります。
世論を私たちの側に立たせるかが重要
いまの日本のテレビや新聞は、どれを見ても「行革、行革」の連呼です。そして、その論調は「省庁を減らせ」、「公務員を減せ」というものになっています。
しかし、真に国民が求めている行政改革は「情報公開」や「公共事業のムダ使いを止める」というものが上位を占めています。
「ムダ使いは削る」とする一方で、「気象業務のような必要なところには必要なものをつける」ことは、国民のみなさんも理解してもらえます。
今後、行政改革反対のたたかいをすすめるうえで最も重要なことは、国民世論をどう私たちの側に立たせるかにあり、これは、私たちの運動にかかっているといえます。
行政改革会議のヒアリングで、気象庁に対しては、「民営化または独立機関化」について問われています。その要因としては、お手本にしているイギリスで、気象局がエージェンシーに属していることや、ひとくくりにしやすいこと、国民へのアピール効果が期待できることなどが推察されます。
くわえて、規制緩和の一環として導入された気象予報士制度により、民間でも予報が出せるようになったことが国民に広く浸透していることにもよると考えられます。
しかし、現在の日本の気象現象や気象庁の業務の実態を見るならば、民営化や独立機関化には大きな問題があります。
防災情報の提供は国の重要な責務
気象庁と民間気象会社がおこなう予報業務には、民間は特定ユーザー、気象庁はナショナルミニマムとしての予報を発表するという、明確な役割分担がされています。
さらに、注意報・警報のように災害に結びつく恐れがある情報は、民間の気象会社が各社勝手気ままに発表していたのでは、収拾がつかなくなりますし、デマや流言飛語が氾濫する要因を作り出すことになりかねません。国の危機管理にも結びついている注意報・警報の発表は、国の行政機関である気象庁の重要な責務です。
注意報・警報を商売道具にする気なのか
天気予報にとどまらず地震や津波、火山、大雨、洪水に関する情報や観測データなど、国の行政機関である気象庁が発表している情報は、国や都道府県などの防災に直結しています。
中央防災会議が定めている「防災基本計画」では、地震、津波、風水害、火山、雪害などの対策について、気象庁には「情報の収集・伝達」が求められています。
とくに震災対策については、「地震が発生した場合、まず気象庁が地震情報および津波予報等の連絡を官邸、関係省庁、関係都道府県および関係指定公共機関に行う」と定められ、重大な責任を担っています。
こうした情報は、国民の生命と財産に大きくかかわるものです。気象庁を営利追求の「公営企業」化や民営化して、これを発表させようと言うことは、国の防災に対する責任放棄であることは明らかです。
さらに、そもそもの問題として、こうした情報を利潤追求が求められる「商売道具」にするべきではありません。
気象業務は全世界への国際貢献
気象庁は、東アジアの中枢的な気象機関として、これらの諸外国から期待されています。しかも、気象データは国際交換され、全世界に提供されている国際貢献の業務でもあります。
気象衛星のデータは、アジア、オセアニアなど27の国や地域で利用されています。このほか、WMOの台風委員会では、気象衛星「ひまわり」を無線中継局として利用し、発展途上国へのデータ提供を求めています。
さらに、近年、地球的規模での観測・監視が必要な気候変動や地球環境問題、CTBT監視のほか、航空路火山灰情報の提供なども求められています。
また、気象庁が24時の目視観測通報を廃止した時、香港から「WHY」という電報が入電しました。また、ロシアの高層データの入電が従来の半分になり、日本の数値予報への影響が懸念されたこともありました。
このように、気象業務は世界各国の協力によってこそ成り立つ重要な業務であり、放棄することは断じて許されません。
こうした国際的な視野から見ても、引き続き、気象業務は国家事業としておこなうべき性格を持っているといえます。
採算追求で観測・監視業務の縮小も
気象庁がエージェンシー化や民営化になれば、「採算」が追求されます。
運輸省の外局である今以上に、予算と定員不足に泣かされる恐れがあります。採算のために一層枠をはめられ、予算不足で地震計やレーダーなど観測機器の更新もままならない状況になると考えられます。
とくに観測は金がかかり、利潤をあげにくい業務ですから、現在ですらおこなわれている人間の役割を否定した機械化や遠隔化がすすみ、複合勤務や一人勤務の拡大、さらなる測候所の廃止が加速する恐れが十分にあります。
その結果、いま以上の観測項目と地点の縮小がおこなわれると予想されます。
データや情報に情報料を上乗せできるか
天気予報にとどまらず、地震や火山、海洋、オゾン、気候変動などを観測・監視し、的確な情報を発表するためには、精度のいい観測データを入手しなければなりません。
しかし、観測データを収拾するには、アメダスやレーダーを設置したり、気象衛星を打ち上げたり、海洋観測船を走らせたりするうえに、故障修理や更新など、維持管理に要するための莫大な経費が必要となります。くわえて、要員の人件費も必要です。
気象庁の平成9年度の予算は、一般・特別会計あわせて約714億円です。
仮に気象庁が民営化やエージェンシーとなった場合、単純にこれを「採算ベース」に乗せるとすれば、相当高価な情報料を利用者・国民や民間気象会社、さらには関係官公庁や自治体、民間航空会社などから徴収しなければなりません。
気象資料の有料化は、1993年に検討されました。しかし、新聞協会が「気象資料の有料化はいかなる場合も受け入れられない」(産経新聞)、民間放送連盟も「必要な予算は行政として対応すべき」(東京新聞)と反対し、導入を断念した経緯もあります。
現在、多くの国民は、天気予報や地震情報をテレビやラジオ、新聞などのマスメディアを通して無料で入手できます。また、「177」の天気予報サービスや気象官署への天気相談も通話料だけで済むということが定着しています。
こうした状況の中で、気象資料や気象情報に情報料を上乗せすることは、極めて困難と言わざるを得ません。
エージェンシー化で職員はバラ色?
エージェンシーの導入をめぐっては、さまざまな議論が出されています。
余剰金がでれば、給与や賞与も上がるというものの、気象業務で採算を求めるのはきわめて困難です。それに、監督官庁の国家公務員を上回る処遇がされるとは思えません。
結局、採算ベースにのせるためには、観測の簡素化に限らず、相当の効率化や「合理化」、さらには定員削減、賃金をはじめ労働時間、休暇制度などの労働条件の大幅な低下がすすめられる恐れがあります。
気象庁の応援団は日本国中にいる
このように、気象業務は「採算」と「収支」が問われるエージェンシーなどの独立行政法人、民営化ではとてもできない業務です。気象庁のような防災官庁はこれまでのシステムを維持し強化すべきです。
マスコミ報道では今、数多くの業務がエージェンシー化や民営化の対象として報じられています。こうした中でもとくに、気象庁のような「庁」や「省」を丸ごとエージェンシー化、民営化し場合、国民へのアピール効果は大きいものがあります。
さらに気象庁は、特定郵便局長会のような強力な支援団体もなく、しかも利権にもかかわることがないため「族議員」もいません。いまの行政改革がとん挫したときでも、政府・自民党などがなりふりかまわず気象庁が「人身御供」にしてこないとも限りません。
一方ではこうした状況にあり、気象庁のエージェンシー化や民営化が幾度となくマスコミにとりあげられ、しかも、当局の秘密主義のもとで職員には何も知らされず、職場の不安感に拍車をかけています。
しかし、この間、全気象がとりくんだ気象事業整備拡充署名に対して、今年は25万人以上の国民が賛同し、測候所廃止反対の団体署名は2400団体、議会採択も約70議会に達しています。
日頃から仕事でも、組合活動でも地域住民とのつながりを重視してきた私たちには、応援団が日本中に多く存在しています。
地域に密着した「国民とともにあゆむ気象事業」の確立をめざし、「自らの職場と労働条件は自らで守る」という両輪をしっかりと踏まえて、職場、地域でがんばれば必ず展望は開けます。このことに確信をもち、今の行政改革をめぐる動きに流されたり、あきらめたりすることなく、職場の実態や全気象の政策を国民に訴えて生きましょう。