行政改革会議に対する中央省庁「見直し」に関わる国公労連の申入書

 国公労連は、7月3日、行政改革会議に、中央省庁「見直し」にかかわる申し入れを、おこないました。以下、申し入れ書の全文です。
1997年7月3日 行政改革会議会長 橋本龍太郎 殿
日本国家公務員労働組合連合会 中央執行委員長 藤田忠弘
中央省庁「見直し」にかかわる申し入れ
 現在、貴会議において、国の役割を見直し中央省庁を再編することなどの検討がおこなわれています。
 私たちは国の行政機関に働く労働者として、貴会議の検討に重大な関心を持っています。
 国の役割を見直し、「官から民」、「国から地方」に行政事務を移し変えることを基本にして進められる行政組織の見直しが、国民への行政サービスを後退させる結果にならないのか、全体の奉仕者である公務員の本質を歪める危険性はないのか、公務員労働者の身分と雇用への影響はどうなるのか、などの点はとりわけの関心事です。
 ところで、5月7日から実施されていた各省ヒアリングが終了し、8月の集中審議にむけて、貴会議の検討が本格化する段階を迎えているものと承知しています。
 私たちは、公表されている「(各省)ヒアリング項目」や、「中央省庁のあり方及びエージェンシーについて(討議メモ)」の内容からして、貴会議の検討が、公務員の労働条件に重大な影響を及ぼすことなると考えます。そのことから、先の「討議メモ」等を前提に、意見を表明すべき立場にある団体として別記のとおり意見を表明し、貴会議での検討への反映を要請します。
 なお、私どもとして、引き続き意見交換の準備があることを申し添えます。
 【別記】中央省庁再編等についての国公労連の見解

1 行政改革の課題 

 @高級官僚による不正・腐敗事件が相次ぎ、「護送船団方式」と揶揄される私的経済活動への過剰な「官の介入」や、「官官接待」にもみられる公務員の「税金の私物化」への批判、「政・官・財」の癒着と利権構造など、行政とそれを担う公務員の在り方が、いま、国民から厳しく問われています。
 同時に、「大競争時代」と言われる国際経済関係の変化が急激にすすむもとで、その変化への対応が国の役割の中心課題として位置づける動きも強まっています。
 A行政に求められる役割とその機能は、社会情勢等によって変化することは否めませんが、国が本来はたすべき基本的な役割を形骸化させてはならないと考えます。
 国公労連は、国民主権を宣言している現行憲法のもとでの行政は、平和原則、基本的人権、議会制民主主義、地方自治などの基本原則をふまえて執行されなければならないと考えます。したがって、行政組織や、行政を担う公務員制度も、憲法の基本原則を民主的で公正かつ効率的に具体化できるものであることが必要です。
 B今日の行政等で改めるべき点は、次のように集約されると考えます。  一つには、これまでの行政運営が、大型プロジェクト中心の公共事業重視の施策にみられるように、経済成長を最優先でおこなわれてきたことから、国民生活に矛盾と格差を拡大してきた分野があり、是正のための転換が検討されなければならないと考えます。  たとえば、国民の最低生活を保障するナショナル・ミニマムの不十分さを克服すること、東京一極集中に象徴される地域間の格差や、女性差別などに代表される古い因習などは、政府が責任をもって解決しなければならない課題です。
 また、機関委任事務のような国と地方の前近代的な仕組、高級官僚や天下りや採用試験による「封建的身分関係」が色濃く残っている公務員制度などの近代化も、「政・財・官」癒着構造の撤廃、タテ割行政や官庁の秘密主義の是正とも直接関連する課題です。さらに、公務員労働者への労働基本権の完全な保障も必要です。
 Cいま一つは、国際経済関係の変化や少子・高齢化社会に直面している我が国の現状をふまえて、行政の役割を見直すことも必要だと考えます。  産業構造の変化が労働者に及ぼす影響は決して小さいものではありません。それだけに、労働力の移動に際しての公正なルールの確立と労働者の生活保障は、今日的な行政の役割として重視するべきです。  また、高齢化社会に見合ったインフラの整備や公正な最低生活の保障などは、行政の積極的な関与が必要な分野です。
 D国公労連は、基本的人権の実現のために必要な行政サービスの提供は、国が責任を持つことが必要であり、とくに社会保障や雇用、教育、防災、権利擁護、安全の確保などの分野での国の役割は重要だと考えます。
 社会保障と完全雇用によって、国民生活の最低保障を実現することを宣言した現行憲法の民主的理念と、これに基づく行政目的は、不断に追求されなければなりません。
 国民の権利意識の昂揚や、社会状況の変化によって基本的人権も発展し進歩するものであることから、結果として行政の役割が拡大し拡充が求められる場合もあると考えます。
 その一方で、国民の人権を抑圧する軍事や治安機構については、縮小・廃止を含めた検討がいまこそ必要だと考えます。
 E国の行政の役割と範囲、組織のあり方は、国民生活の現状と国民からの行政需要をふまえ、憲法に従って、個別の行政分野毎に論議されることが必要だと考えます。
 はじめから治安、防衛、外交など「純粋公共財の提供」に「国の役割」を限定して、「簡素・効率化」のみを目的とした行政組織の「見直し」は、行政の公正さを損ない、国民の基本的人権の実現を危うくしかねません。

2 行政改革会議の検討課題に対する国公労連の意見


 行政改革会議での、「省庁の在り方」の主要な論点は、(1)国の行政の役割、(2)その役割に照らした行政機構のあり方、(3)内閣機能(とりわけ首相のリーダーシップ)のあり方、にあると考えます。
 (1)についての国公労連の基本的な考え方は先に述べていますから、(2)、(3)の点を中心に意見を述べます。
 その際、行政機構のあり方では、(1)中央省庁の政策機能の重点化と充実、(2)そのため実施業務については「エージェンシー」または外局、(3)現行の実施事務については可能な限り民営化、民間委託化するとともに「中央から地方へ」事務を整理、の3点の「基準」が5月28日に公表され、「(各省)ヒアリング項目」の中でも一定の方向が示されています。そのことから、これらの「基準」等をふまえて、次の点での意見を明らかにします。
 (1)政策部門と実施部門の「分離」について
 (2)いわゆるエージェンシーについて
 (3)民営化、民間委託化について
 (4)中央省庁の再編について
 (5)内閣機能の強化について
 (6)公務員制度について
 @政策部門と実施部門の分離について
 国公労連は、行政を政策部門と実施部門に分離し、本省とあらたな「外局」やエージェンシーに区分けする省庁再編に反対します。
 【理由】
 (1)分離の「目的」として、(a)政策機能の純化、行政の高度化、効率化、(b)政策部門を実施部門の利害から解放、(c)行政サービスの公正・中立な提供などが掲げられています。
 行政の役割として、国民全体の利益を擁護することがあり、機会と結果の平等を国民に保障する公正さが維持されなければなりません。それを損なうまでに効率性が追求されることは適当ではありません。
 行政改革会議の検討では、中央省庁の政策機能強化と行政の効率性を追求することが強調され、直接行政サービスを提供する実施部門の拡充・強化には全く触れていません。どのように立派な政策が立案されたとしても、全国的に均質な行政サービスを提供する組織機構が充実していなければ、政策目的は達成できません。
 (2)行政は、国民に対して負うべき責任(行政責任)を果たすことが求められています。
 行政責任が果たされているかどうかは、各省毎に定められている行政目的を達成するために区分されている事務と権限の両面からとらえた行政組織単位で検証されるものと考えます。政策部門と実施部門の分離は、権限を政策部門に留保したままで、事務執行責任のみを実施部門に求めることになりかねません。結果として行政責任の所在を曖昧にすることが危惧されます。
 高級官僚の不正・腐敗事件では、官僚の「職務権限」の有無が障害となって、真相究明を阻害することがありました。行政責任の所在を曖昧にすることは、そのような事態を一層深刻にし、行政の不透明性も高まり、「政・財・官」の癒着の構造をより深刻なものにする危険性が危惧されます。
 また、行政執行の結果が国民に損害を与えた場合等での責任の所在も曖昧になることも考えられます。
 (3)決定された政策にもとづく事務の執行を通じて政策の良否を国民は判断し、あるいは事務執行に対する国民の批判が政策変更をうながすことにもなります。
 このような行政の一体性と、そのことで担保される機動性は、行政にとっては不可欠だと考えます。「分離」の結果として、国民の声を反映していないとの批判のある国の行政が、さらに国民から乖離することが危惧されます。「実施部門の利害から解放された政策立案」のために、一体的に運営されることの利点が失われる弊害は少なくありません。
 (4)なお、行政の効率、公正を検証し透明性を確保する観点から、実施段階における政策評価をおこなう民主的な仕組みは、行政組織のあり方とは別の課題として検討が必要だと考えます。
 国民の知る権利を保障した「情報公開法」の制定や行政手続法の改善、「行政監視委員(オンブズマン)制度(仮称)」などは、そのための有効な方策だと考えます。
 Aいわゆるエージェンシーについて
 行政改革会議で提唱されている「日本型エージェンシー構想」については、政策部門と実施部門の分離にともなう問題点に加え、次の点での問題もあることから、国公労連としては反対です。
 【理由】
 (1)エージェンシーのイメージは、業務の公共性・公益的性格を前提に、(a)実施主体に特別の義務・能力が必要とされる事務事業で、(b)効率的・効果的な実施のため、法人格を付与して行わせることが必要なもの、を「日本型エージェンシー」とすることが明らかにされています。したがって、国は事務の実施主体ではなく、国とは別個の独立した法人格をもつ「エージェンシー」が行政の実施主体となることが想定されています。
 検討されている内容では、エージェンシーがになう事務にかかわる国の責任が明確にされていません。
 現在、国が主体となっておこなっている事務で、その実施について国が責任を負わず、政策立案だけで行政責任が果たせる事務があるとは考えられません。
 各省ヒアリングにおいて「独立機関化」の検討を求めている事務・業務(登記・供託業務、社会保険庁、特許庁、職業紹介事業、自動車等の検査業務、国土地理院など)については、国民の行政需要からしても、憲法に照らした国の役割からしても、事務の実施に国が直接責任を負い、充実を図ることが求められています。
 (2)現在の特殊法人は、政府が必要な事業をおこなう場合、(a)業務の性格が企業的経営になじむ者で、行政機関に担当させては制度上の制約から能率的な経営を期待できないもの、(b)企業的経営はなじまないが政府と異なる法人格に行わせることが妥当と考えられるとき、に法律によって直接設立されることとなっています。
 この特殊法人の「性格付け」と、エージェンシーとがどのように異なるのか全く不明です。しかも、特殊法人については「国の事業」であることが確認されていますが、エージェンシーではその点が曖昧であり、このことからしても国の責任が不明確です。
 また、現在の特殊法人の「独立性」は、監督官庁の過剰な関与や天下りによって、大きく阻害されており、透明性の関係でも弊害が指摘されています。エージェンシーについても、「政策部門との人事交流」が検討課題とされており、同様の弊害が発生することが考えられます。
 (3)エージェンシーは(経済的)効率性、言い換えれば「安上がりの行政サービス」を意図したものと考えられます。公共性よりも効率性追求を優先することでの問題点は小さくありません。
 日常的な業務・事務経費は手数料等の「受益者負担」によることも想定されます。このことは、国民に新たな負担を強いるとともに、収益の多少によるサービス内容の地域間格差を拡大することになりかねません。今日でも、「採算性」あるいは「費用対効果」などの名目で、測候所、病院等の統廃合などの行政サービス切り捨てが繰り返されていますが、このことをいっそう加速する危険性が予想されます。
 (4)実施主体がエージェンシーとされることから、当該事務に従事している職員の身分は現在のような国家公務員ではなくなるものと考えられます。
 また、独立採算で(経済的)効率性が重視されることから、身分保障の安定性が大きく揺らぐことも危惧されます。そのことは、普遍的、継続的なサービス提供を阻害することになりかねず、結果として国民の基本的人権を損なう危険性も考えられます。
 また、国家公務員の身分、雇用関係を変更することを当該の労働者、労働組合との協議や合意なしに進められることは断じて行われるべきではありません。公務員労働者の基本的人権にかかわる問題としての取り扱いが必要です。
 (5)エージェンシーについて、「業務責任の所在」の明確化を求めることを明らかにしています。国民に対する行政責任は、政策と実施を一体で捉えて考えるべきです。
 国民の行政サービスに対する期待は多様であり流動的ですが、これに機敏に応えることは、政策抜きにはできません。「業務責任」の意味が不明確ですが、これが政策分野に及ばないとすれば業務実施の形骸化・硬直化は避けられません。
 (6)「業務責任」は、その前提としてエージェンシー固有の「業務目的」の確定が考えらます。効率性を追求するあまり、固有の「業務目的」にのみ埋没して国民の基本的人権の実現を達成するという行政目的との矛盾を生じかねません。例えば、動燃事故にみられるような国民の安全(権利)を軽視した「運営」がおこなわれないとはいえません。
 (7)現在の状況では、一つの行政機関において、複数の事務・事業を実施しているものがあります。これらが相互に連携をとり、研修等を通じて専門家を育成することで、効率的な行政体制を形作っています。このような実態を離れて、事務事業ごとに実施主体の検討をおこなうことの非現実性も指摘できます。
 B民営化、民間委託について
 国公労連は、行政の民営化には反対です。また、民間委託についても基本的に反対です。
 【理由】
 (1)1980年代以降、国営企業等の民営化が加速しましたが、今日にいたるも国民的見地からの検証はおこなわれていません。
 国鉄分割・民営化では、長期債務の処理、ローカル線廃止の国民生活への影響、整備新幹線問題などの点での「評価、検証」はなく、1047名の雇用問題も未解決のままです。電電公社の民営化なども含め、国民の共有の財産であった膨大な資産を民営化した結果の国民への利益還元も検証されていません。
 市場原理の導入による経済活性化がこれらの産業分野で図られたのか、株式公開によって財政再建にいかほど寄与したのか、公共性は確保されているかなど、情報公開も含めて国民的な検証が必要です。
 そのことを抜きに、公的部門の民営化をこれ以上すすめることは、国民の権利や利益の面からも問題です。
 (2)病院、大学などの民営化は、国の役割からしても断じて行うべきではありません。高齢化社会のもとで、医療をはじめとする社会保障の充実こそ必要です。効率性よりも公正さを重視して国が責任を持つべき医療分野、地域は現に存在しています。
 また、高等教育の公正な保障を求める国民の要請は高まっており、教育の権利を保障する国の責任は増大しています。
 国民の勤労権を保障することは国の重要な役割であり、職業紹介事業の民営化もおこなうべきではありません。失業と雇用不安による国民生活の不安定さが増している現在、これを解消するための国の責任は高まっています。
 統計業務は、政策立案の前提となる重要な業務です。特定の目的や意図を除外し国民の生活実態等を正確に反映した基礎データーをもとに政策検討をおこなっていくための統計業務は、国民のプライバシーとも密接にかかわるものであり、政府が直接実施すべきです。
 試験研究機関については、経済状況に左右されない基礎的研究の蓄積や、国民の安全等の確保のためなどで営利目的にはなじまない研究分野などは国が担う必要があります。
 (3)国の責任が留保されるとはいえ、行政組織の一部事務を民間委託化することは、公益性確保の面からも問題です。
 また、民間委託の効率性は慎重に判断されなければならないと考えます。結果として、業務全体の専門性を低下させたり、定員管理との関係で割高な民間委託をおこなうことなどの弊害が指摘されており、既に実施している民間委託の検証がおこなわれるべきです。
 C中央省庁の再編  中央省庁は、基本的人権実現を不断に追求する観点にたって、行政目的毎に組織のあり方を検討すべきです。そのことからして、大括りの中央省庁再編には、国公労連として反対です。
 【理由】
 (1)中央省庁再編の考え方として「政策目的別編成」が掲げられ、「機動的・戦略的な意思決定ができるコンパクトな組織」が検討されています。
 行政需要が多様化すればするほど、各行政単位の行政目的の明確化と、政策の総合調整が具体的にはかれる「仕組み」の検討は必要だと考えます。
 しかし、行政組織を政策目的からのみとらえて在り方を検討することでは、多様な行政需要に応え、国民の権利を守る省庁組織とならないと考えます。
 たとえば、交通政策は、インフラ整備、事業者調整、交通規制などにとどまらず、都市開発や環境整備、エネルギー、外交、産業など政府全体の役割にかかわると考えらます。
 むしろ、交通手段の確保を国民の権利ととらえ、その実現を目的とする行政組織と快適な住環境確保を目的とする行政組織、権力行使を伴いつつ国民の安全を確保する行政組織、「環境権」の実現を目指す行政組織など省の行政目的を可能な限り明確にし、総合調整を役割とする機構を政策目的別に検討することが行政目的と行政責任を明確にし、行政の透明性をたかめることになると考えます。
 (2)「国民にかかわる行政」の一体化も妥当ではないと考えます。憲法第25条が規定する生存権と第22条や第27条が規定する勤労の権利の実現は、プロセスを異にするものであり、別々に追求されるべき行政目的だと考えます。いわんや、利害の対立が懸念される産業振興を目的とした行政と労働者保護を目的とした行政を経済政策の側面から一体化することなどは論外です。
 (3)憲法原則にそって編成された現行の省組織を前提に、各々の行政目的(責任)の明確化と政策調整機構の整備が必要だと考えます。  その際、国民の生活を擁護する上で、今日ますますその役割と機能の発揮が求められている環境行政は、独立の省として機能と権限を充実することなどの検討は必要だと考えます。
 一方、治安にかかわる分野の一体化など、権力的行政組織の強化は国民の権利との衝突が不可避であり、行うべきではありません。また、憲法原則との矛盾を持っている防衛組織が省として独立すべきでないことは当然のことです。
 (4)中央人事行政機関については、労働基本権との関係、公務員の政治的中立性の確保や民主的公務員制度確立の観点から、第三者機関としての行政委員会(人事院)を引き続き設置することが必要です。
 公務員制度が公正中立に運営されるためには、政治的利害を離れた独立機関でのチェックと制度の専門的な検討が不可欠だと考えます。
 D内閣機能の強化について  憲法原理にそわない首相の権限強化には、国公労連は反対です。
 【理由】
 政策機能の強化の観点から、内閣の総合調整機能の整備が図られることは必要です。しかし、議員内閣制のもとでの首相権限を今以上強化し「大統領的首相」とすることは、憲法第65条や第72条に抵触するものです。
 過度な権限の集中が、国民主権を侵害し、基本的人権を侵してきたことは、歴史の証明するところです。現在でも、閣僚罷免権などを通じて首相の権限は決して小さいものではありません。
 その上に、予算と公務員の人事をはじめとした権限の集中をはかることは、公正な行政執行を阻害するとともに、著しい権力の集中をきたす恐れがあります。
 E公務員制度について  公務員制度の民主化が必要であり、その課題は少なくありません。とりわけ労働基本権回復や「封建的身分制」の払拭は急務だと国公労連は考えます。
 【理由】
 (1)行政サービスの提供は、公務員が直接担うべきです。現状でも、先進諸国に比べて日本の公務員数は少なく、人的には効率的な行政の実施を強いられています。
 むしろ、効率性が検証されなければならないのは、公務員制度より予算執行のあり方など政策上の問題が先決だと考えます。
 同時に、政策部門の高級公務員を中心に政治的中立性が損なわれている現状や、天下りの撤廃、特権優遇の「身分制度」といった前近代的な公務員制度の「なごり」を払拭することなど、公務員制度の民主的改革は早急に進められる必要があります。
 (2)本省局長以上の人事について、「内閣承認」とする検討や、T種試験合格者の一括採用、エージェンシー機関での「政治的任用」などが検討課題となっていますが、いずれも公務員の政治的中立性を阻害し、行政の公正さを損なう危険性を持っており、現行の国家公務員法の基本理念に抵触するものです。
 エージェンシー職員の労働基本権も検討素材となっていますが、現行国家公務員法で労働基本権が制限されていることこそ不当です。行政の民主化を促進する観点から、独立の課題として検討すべきです。
          以上

「見解」の概要

1 行政改革の課題


 @行政に求められる役割とその機能は、社会情勢等によって変化するとしても、本来国が果たすべき基本的な役割を形骸化させてはならない。
 A今日の行政改革の課題は、次のように集約されると考える。
 ○経済成長最優先でおこなわれてきた行政運営の是正と転換(ナショナル・ミニマムの不十分さの克服、東京一極集中に象徴される地域間の格差や女性差別などに代表される古い因習などの解決)
 ○機関委任事務のような国と地方の前近代的な仕組、高級官僚の天下りや採用試験による「封建的身分関係」が色濃く残っている公務員制度などの近代化
 ○国際経済関係の変化や少子・高齢化社会に直面している我が国の現状をふまえた行政の見直し(労働力の移動に際しての公正なルールの確立と労働者の生活保障、高齢化社会に見合ったインフラの整備、公正な最低生活の保障など)
 B社会保障や雇用、教育、防災、権利擁護、安全の確保などの分野での国の役割は引き続き重要。

2 行政改革会議の検討課題に対する国公労連の意見


 @政策部門と実施部門の分離について
 国公労連は、行政を政策部門と実施部門に分離する省庁再編に反対。
 【理由】
 (1)行政改革会議の検討では、中央省庁の政策機能強化と行政の効率性を追求することが強調され、直接行政サービスを提供する実施部門の拡充・強化には全く触れていない。
 (2)政策部門と実施部門の分離は、行政責任の所在を曖昧にすることが危惧さる。
 このことは、行政の不透明性を高めて、「政・財・官」の癒着の構造をより深刻なものにする危険性がある。
 (3)行政の一体性と、そのことで担保される機動性は、行政にとっては不可欠。
 Aいわゆるエージェンシーについて
 「日本型エージェンシー構想」については、政策部門と実施部門の分離にともなう問題点に加え次の点での問題もある。国公労連としては反対。
 【理由】
 (1)検討されている内容は、単に政策部門と事務実施部門を分離するだけにとどまらず、エージェンシーがになう事務については、国が日常的な責任を負わないことも含んでいる。
 現在、国が主体となっておこなっている事務で、その実施について国が責任を負わず、政策立案だけで行政責任が果たせる事務はない。
 (2)業務実施の形骸化・硬直化が危惧される。
 (3)公共性よりも効率性追求を優先するエージェンシーは、手数料等の「受益者負担」の増や収益の多少によるサービス内容の地域間格差が拡大することになりかねない。
 (4)エージェンシー固有の「業務目的」に埋没して国民の基本的人権の実現を達成するという行政目的との矛盾を生じかねない。(例えば、動燃事故の例)
 (5)エージェンシーの職員の身分は現在のような国家公務員ではなくなるものと考えられ、身分保障の安定性が揺らぐ。このことは、行政の安定性を担保する上からも問題。
 国家公務員の身分、雇用関係の変更を当該の労働者、労働組合との協議や合意なしに進ことは断じて行われるべきではない。
 (6)特殊法人の「性格付け」と、エージェンシーとがどのように異なるのか全く不明。しかも、特殊法人については「国の事業」であるが、エージェンシーではその点が曖昧で国の責任が不明確。
 B民営化、民間委託について
 国公労連は、行政の民営化には反対。また、民間委託についても基本的に反対。
 【理由】
 (1)各省ヒアリング等で、民営化の検討が求められている病院、大学などは、国の役割からしても断じて行うべきではない。
 また、国民の勤労権を保障することは国の重要な役割であり、職業紹介事業の民営化はおこなうべきではない。
 (2)民間委託は、業務全体の専門性を低下させたり、定員管理との関係で割高な民間委託をおこなうことなどの弊害が既にある。
 C中央省庁の再編
 大括りの中央省庁再編には、国公労連として反対。
 【理由】
 (1)政策立案中心の「大省庁」では、多様な行政需要に応えて国民の権利を守る省庁組織とならない。
 ○憲法第25条が規定する生存権と第22条や第27条が規定する勤労の権利の実現は、プロセスを異にするものであり、別個に追求されるべき行政目的。
 ○環境行政を独立の省として機能と権限を充実することなどの検討は必要。
 ○治安にかかわる分野の一体化による権力的行政組織の強化は、国民の権利との衝突が 避けられない。
 ○憲法原則との矛盾を持っている防衛組織が省として独立すべきでない。
 ○民主的公務員制度確立の観点から、第三者機関としての行政委員会(人事院)を引き続き設置することが必要。
 D内閣機能の強化について
 国公労連は、憲法原理にそわない首相の権限強化には反対。
 E公務員制度について
 天下りの禁止、労働基本権回復や「封建的身分制」の払拭の観点での制度見直しは急務。
          以上


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