行政サービス切り捨ての行政改革には反対する

   <行政改革会議の「最終報告」にあたっての声明>


 国の行政組織の見直し、再編を検討していた行政改革会議は、12月3日、最終報告をとりまとめ、公表しました。その内容は、「内閣機能の強化(内閣総理大臣の指導性の強化)」、「1府12省への中央省庁再編案」、「独立行政法人などの行政機能の減量、効率化」、「公務員制度の改革」などから構成されています。

 私たちは、「政・財・官」が癒着して利権をあさるゆがんだ現在の行財政を、国民生活を重視した民主・公正・効率の行財政に改革していく必要があると考えます。とりわけ、軍事費のムダ遣いや大型プロジェクト重視の公共事業に偏った行財政構造の改革や、高級官僚をはじめとする公務員の「天下り」と企業・団体からの政治献金の禁止などが緊急の改革課題であり、その立場での申し入れを行政改革会議に対しても再三行い、運動にも取り組んできました。

 しかし、最終報告の中でも、行政情報の公開制度や新たな省庁間調整システム、会計検査院の機能の充実強化をはじめとする評価機能の強化など、前向きに検討されることが必要な検討結果も一部含まれていますが、全体としては、国家の中枢機能の強化に重点をおき、国民生活充実のために不可欠な行政サービス提供を軽視する行政組織の機構いじりに終始したものになっています。憲法がもとめる国民の基本的人権を実現することが中心の目的である行政の変質となるそのような「改革」を、私たちは断じて認めることができません。

 最終報告の中で、特に問題だと私たちが考えるのは、次の点です。

 第1に、最終報告が、国の役割を「重要な国家機能の遂行」に限定して検討された結果であることです。そのことが、国民の健康、安全、福祉、教育の確保や労働者の権利保護、農漁業の再建・育成、中小企業の保護・育成など、国民生活の基盤を支える上で重要な国の責任を曖昧にしています。

 国民生活に直接影響する行政サービス実施部門の民営化や独立行政法人化、あるいは「国が立案した政策実施の受け皿」として地方自治体を位置づける検討結果は、そのことの表れです。また、2001年度以降、10年間で10%の定員削減を行うとする内容も、民営化などによる「事務・事業の減量」が前提となっていることは明らかです。

 国として最低限果たさなければならない国民に対する責任などを確認することもなく行われる機構いじりは、社会的な公正さ実現すべき行政の役割を著しく形骸化させかねません。この点では、行政目的の詳細な検討も行わないままに、局や課の削減目標を設定する機構いじりが引き続き検討されようとしていることも見過ごせない問題です。

 第2に、権力の分立ないし分権のかけ声とは裏腹に、露骨な権限の集中がめざされていることです。内閣と、その補佐・支援態勢である内閣官房、内閣府、総務省の公務員数は約31万人であり、全国家公務員85万人の4割弱が内閣総理大臣の周辺に配置されること、総務省が国と地方双方の行政を管理すると同時に300兆円もの資産を運用する権限を持つこと、国土交通省が国の公共事業費の7割を取り仕切る省庁となることなどは、行政改革会議が9月3日に行った中間報告と比べても、極めていびつで問題のある検討結果です。

 このような検討結果が、既得権に固執する政治的圧力によるものであることは、「政・官・財」の癒着の構造が一層深まる恐れを抱かせるものです。大括りの省庁再編そのものが巨大な省への権限集中となるものであり、政治と行政の腐敗の解消を求める国民世論に逆行する「改革」です。

 第3に、内閣総理大臣の権限強化とあわせて、中央省庁の政策機能の強化がめざされていることも問題です。政策立案は、内閣の中心的役割であって、そのための機能強化を否定するものではありませんが、その際には国会の機能とのバランスが検討されなければなりません。その点では、内閣官房の政治的任用に加えて、各省の幹部の人事権を内閣が掌握し、政策機能を強化した中央省庁全体を首相の政治スタッフ化するような「改革」は、行政の優位をさらに進めるものであり、民主主義を損なう集権化です。行政は、国権の最高機関である国会が決定した政策の執行が本来の役割であるとの原則を確認して、実施部門の機能を強化することが、行政の肥大化や官僚の腐敗、行政と政治の一体化をあらためることになります。

 第4に、実施事務を企画・立案から切り離し、独立行政法人や民営化しようとしていることです。独立行政法人の対象事務は、国がおこなう必要のない事務だとされ、国が直接責任を負わないものとして検討されています。対象とされている試験研究機関などは、国民の生活をよりよくしていくために、安定的な態勢を国が保障すべきものです。独立行政法人の制度についても、国会のコントロールや大臣の責任が曖昧であるなど、不明朗なものとなっています。

 独立行政法人や民営化は、国が責任をもって国民に提供しなければならない事務の切り捨てだと考えます。

 さらに、@予算執行に対する国会のチェックとの関係もふくめ疑義の多い「公共事業ブロック単位執行制度」、A地方自治の充実とは相容れない道州制等の検討表明、C国民の財産を危険にさらす郵便貯金の資金運用部への預託廃止と自主運用など、国民生活重視の行政改革となっていないと思われる問題点が多数含まれています。

 最終報告をうけて政府が提出する「省庁再編推進基本法(仮称)」の通常国会での審議が、行政改革を国民的な立場で論議する本格的な場になります。

 私たちは、広範な国民の皆さんとの対話と共同をめざして開始した「国民生活を重視した行財政改革をもとめる署名(行革大規模署名)」を中心とする取り組みで、行政改革会議の最終報告の反国民性を明らかにし、その強行をゆるさず、真に国民本位の行財政改革の実現のため、国公労働者の総力を結集して運動をすすめる決意をあらためて表明します。

  1997年12月3日
  日本国家公務員労働組合連合会
   中央執行委員長  藤田忠弘


トップページへ   前のページへ