| |
国公労連試験研究機関担当・飯塚 徹 (1)中央省庁等改革基本法案審議をめぐる国会情勢について(4月10日現在) 中央省庁等改革基本法案について、4月8日に98年度予算が成立し、9日の金融システム改革法案に続き、10日午後、衆議院本会議で中央省庁等改革基本法案の趣旨説明と代表質問がおこなわ、13日から行政改革特別委員会での審議入りが決まった。審議日程は未確定の部分が多いが、自民党は、衆院参院を1週間ずつで、連休前に成立させるという日程案を提案したと言われる。これは、いわばブラフで、本音は5月中旬成立である。しかしそれにしても連休前には、衆院通過を狙っており、事態は切迫しており、現段階は、中央省庁等改革基本法案の今国会での成立を許すのか否かの極めて重要な段階にある。 (2)求められる世論喚起の取り組み 国公労連と各県国公は、中央省庁等改革基本法案が、単に雇用にかかわる問題であるだけでなく、より重要なのは、 1)首相とその周辺に権限を集中し、「自民党型」政治を首相の「リーダーシップ」のもとに強権的にすすめるための仕組み(組織)作りがまずめざされている。各省の内部部局を政策の企画・立案機能に「純化」して、いままで以上に時の政権の「政治スタッフ」として官僚組織を活用する意図も含まれている。 2)減量化のあらたな方策として、「行政の子会社化」と言える独立行政法人制度が打ち出され、行政の本来の目的というべき行政サービス提供をになう国立病院や試験研究機関などの「施設等機関」や各省の地方支局部局の整理統合が打ち出されているが、これは、行政サービスの切り捨てを招くものだ。 ということととらえ、大量ビラ配布(2月・300万枚、4月150万枚)を初めとした宣伝、「国民生活重視の行財政改革を求める請願署名」(行革大規模署名)による対話活動をすすめ、世論に訴え反対の取り組みを進めている。 研究機関の独立行政法人化にかかわっていも、国公労連と学研労協は、後述のように、経常研究費の保障がない、主務官庁のコントロールがより強まり、国立試験研究機関がプロジェクト研究偏重へと変質させられるなどの問題点を指摘して、反対の取り組みを進めている。 今回の行政改革の問題点は、単に雇用・身分にかかわることだけではないのは当然だ。最大の問題は、憲法が保障する基本的人権の実現という行政の目的を変質させることだ。研究の場合も、企業の論理では行うのが困難な基礎研究や環境技術、安全技術、防災技術、農業技術や標準研究について国が果たすべき役割がないがしろにされかねないという問題点がある。この点を広く国民に訴えていく必要がある。また、試験研究機関職員と研究の未来にかかわる問題を職員の意見も聞かずに一方的に行わせることを許さず、意見の反映をさせる取り組みを進めることは、試験研究機関の自主性を守り、拡大していく上で重要である。 職場の一部には、法案の成立は避けがたい、したがっていまはもう条件闘争に切り替えるべきという意見も存在している。しかし、法案は未だ成立してもおらず、廃案にする可能性が残っていることを見なければならない。同時に指摘しなければならないのは、法案の問題点を問わない条件闘争は、政府が進めようとする研究の官僚的再編=プロジェクト研究偏重に無力だという点だ。雇用・身分問題だけを取り上げて、研究者の社会的責任が果たせるのかどうかという問いには、自ずと答えがでてくるだろう。 1. 科学技術発展のためのキーワードは効率化重点化なのか (1)国公労連・学研労協の基本的立場(国立試験研究機関の独立行政法人化に反対するアピールを参照されたい) 1)基礎研究分野や環境、安全、防災、農業など民間企業では十分担い得ない研究分野で、国立試験研究機関は、公共的立場に立ち、長期的な視野で研究を進めることができる国立の試験研究機関として今以上に大きな役割を発揮することが必要だ。 2)政府は、国立試験研究機関に対して、現行の予算・人事・定員制度の束縛から「解放」し、「自主性、自律性を持たせる」と称している。ところが実際には、試験研究機関は独立採算性が望めず、各省庁からの委託費で運営することになり、現行制度よりも各省庁の統制が強められることが懸念され、また、委託費では、使用目的を限定しない経常研究費を確保することも難しくなりる。 3)現在、日本は基礎研究分野の充実を図り、21世紀の経済社会発展の技術的シーズを育て、日本と世界に貢献をすることが求められている。しかし、もっとも基礎的な研究分野に当てられる経常研究費が十分に保障さず、強化された各省庁の統制のもと、今以上にプロジェクト研究に傾斜させられる恐れが大きい。 4)「行政減量の目玉」にされ、定員削減が強化され、研究活動に支障が生じる。下請化が進み、動燃のような無責任体制となり、重大事故の懸念すら生じる。任期付き任用の拡大が推進され、短期で成果を求める研究が拡大することが予想される。研究支援部門が今以上に弱体化させられる。 5)非公務員身分にされ、研究者が良心に従って行動する恐れが生じる。これまで公害問題などで、研究者が良心に従って行動してきた保障は国家公務員身分にあった。それが剥奪されることになれば、国の政策から科学性が欠如する恐れすら生じる。 *独立行政法人化は、国立試験研究機関だけの問題でなく、国立大学についても独立行政法人化が行革会議で検討されてきた。現在のところ、国立大学協会と文部省が反対していることから、直接の対象とはされていない。しかし、国立大学についても「その組織及び運営体制の整備等必要な改革を推進するものとする」(「中央省庁等改革基本法案」第43条2項)とされており、今後の独立行政法人化など、組織の大幅な再編に道を残している。 (2)研究の論理 1)なぜ基礎研究重視か 20世紀の科学技術をリードしたアメリカでは、基礎研究が主として軍事研究所、それ以外の国立研究所、大学、独占的企業の研究所で行われてきた。しかし、今日では基礎研究を巡る環境は大きく変わってしまい、これまでのようにアメリカの基礎的技術をあてにしようとしても難しい。1つはソ連崩壊で軍事研究への支出が減らされている。また、世界経済におけるアメリカの独占的地位は遠い過去になり、日本、ヨーロッパ、アジアとの競争の中で、製品に結びつかない研究は縮小されている。 一方、日本は追いつき追い越せ型近代化を追求し、アメリカなど先進国に特許使用料を払い技術を輸入して製品開発し、アメリカに輸出することで高度成長を遂げた。日本は、敗戦で産業は荒廃し、資本も少なく、リスクを避けるのは当然だった。しかし、今は世界第2の工業国である。リスクを回避して、他人の基礎技術をあてにするというのは通らない。「基礎研究ただ乗り」批判がでてくるゆえんだ。基礎研究は、将来の新しい産業を作るものであり、同時に地球環境問題や食糧問題など今人類が直面している困難な諸問題の解決を図るうえで、不可欠のものだ。日本は、その経済的地位に相応しく、基礎研究への投資を増やすことが国際的にも求められている。研究投資でいえば、民間企業は、利益を上げることを目的としているため、基礎研究だけでなく、製品に結びつかない研究を避ける。日本の研究開発費投資は、8割が民間企業で、したがって、開発研究の割合が多い。国と地方の政府投資を増やし、基礎研究をより重視することが必要だ。 2)基礎研究を進めるために必要なこと 基礎研究は、ある意味で失敗の連続だ。それを効果的に管理しようというのは「重大な誤り」(IBMチューリヒ研究所H.ローラー博士=1986年ノーベル物理学賞受賞者)である。第2臨調以来、研究分野で、人と資金の投資の「効率化、重点化」が求められてきた。今回の独立行政法人化は後述するように効率化、重点化の最たるものだ。既知の技術に基づく応用研究や開発研究はともかく、まったく未知の領域を対象とする基礎研究は「効率化、重点化」はまったく馴染まない。基礎研究を重視するなら、「効率化、重点化」以外の観点が必要となる。それは、現在の基礎研究が何十年も先の技術の基礎を築くというのだという長期的な視野に立ち、研究者の自由な発想を尊重し、研究活動の試行錯誤とリスクを受け入れる懐の深さを持つことである。 (3)「効率化、重点化」は研究をどこに導くか 1)行政改革会議最終報告と中央省庁等改革基本法案は、国が自ら主体となって直接に実施する必要はないが、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるか、または一の主体に独占して行わせることが必要であるものについて、「これを効率的かつ効果的に行わせるにふさわしい自律性、自発性および透明性を備えた法人」として、独立行政法人を想定し、試験研究機関については、「組織及び人員の効率化及び重点化を推進すること」としている。「効率化、重点化」以外の観点は、提示されていない。 2)「効率化、重点化」とは、限られた人や財源を、重点的、効率的に投入するということであり、人材や財源の拡大という観点はそれ自身では持っていない。 3)あらかじめ重点を決め、成果達成を効率的に進めるという点で、既知の科学的技術的知見を前提にしている。したがって、基礎研究は対象になりえない。 4)「効率化、重点化」の観点が有効であり、かつ求められるのは、既知の科学的技術的知見を前提にしているプロジェクト研究だ。 5)したがって、研究機関の「効率化、重点化」の枠組みによる独立行政法人化は、プロジェクト研究への傾斜をもたらす。 (4)戦時体制下の科学技術新体制の教訓 1)戦前においては、産業技術は外国技術の導入にたより、国産技術の開発への関心は低く、技術者科学者の地位も低く、政治的発言力も弱かった。 2)ところが戦時体制下に移行すると、特に軍事技術上の要請から、国産技術の研究開発の強化が求められ、いわゆる科学技術新体制が発足し、技術官僚が新体制に組み込まれた。 3)技術開発の重点化効率化が強調され、組織の統合も一定行われた。しかし、商工省、農林省の抵抗で試験研究機関の統合は行われなかった。 4)この時代の重点化、効率化は重点技術を定め、そこに人と財源を集中するというものだったが、技術開発が成功したとは言えないことは、戦争の結果を見ても明らかだ。 5)技術の発展はそれを支える裾野が必要であり、一転突破型の開発では、限界があることを示しているのではないか。例えば、自動車開発を重点にしても、アメリカと違い日本の場合市場がないに等しく、技術の裾野を広げる基盤がなかった。 6)戦前の日本では人材と財源を拡充し、基礎研究を進めることをせず、短期的成果を求めた。技術の研究開発は、その国の経済に依存するところが大きい。「急がば回れ」という格言の通りだ。技術の発展のためには、経済の発展が前提されなければならない。また、文化に依存するところも大きく、競争や組織の考え方の違うアメリカのマネージメント手法をそのまま取り入れても成功しない。 7)人材と財源を拡充し基礎研究を進めることをせず、短期的成果を求めたことも、戦後につながる研究開発が十分残されなかった原因ではないか。 (5)この間の取り組みの中からでた疑問について 1)基礎研究重視という観点でカバーしきれないという意見にたいして 「うちの研究所では、基礎研究はしていないので、基礎研究重視といわれてもピンと来ない」という意見も出ている。基礎研究重視は、国の科学技術政策全体で必要とされる視点であり、個々の試験研究機関が国立であるべき理由は、それぞれに異なる面を持つ。アピールでは、国が責任を持つべき分野として、基礎研究という括りとは別に、「環境技術、安全技術、防災技術、農業技術など」としているが、国が責任を持つべき分野は、列挙したものに限られるわけではない。例えば、航空機技術について、現在、国が国産技術を開発するという政策をとっている以上、それは国が責任を持つべきで、民間企業はリスクを負う立場をとっていない。 2)文系研究所の問題 アピールは、理系研究機関を念頭に置いて書かれているが、経常研究費、主務官庁のコントロール等基本的な問題点は文系研究機関も共通している。同時に、文系研究機関は、理系研究機関と違い産業界とのつながりをほとんど持たないため、その位置づけが一段と低くされており、予算・人員・待遇等もより劣悪だが、市場経済原理による「効率化、重点化」により、一層悪化することが予想される。 2. 国研協「問題点のとりまとめ」など当局サイドの動き (1)国研協の「問題点のとりまとめ」(2/7付)の内容 1)国研の多くは、市場原理になじまず、採算のとれない研究を行っているため、効率化を眼目とする独立行政法事には本来なじまないが、少なくとも一般の独立行政法人とは異なる取り扱いをすべき。 2)以下の点のない独立行政法人化を受け入れることは困難 a研究者の能力を生かす処遇制度の採用。研究支援者に対しても評価に応じた給与額の決定 b予算は、公的資金の確保、所属する省庁だけでなく他省庁や民間から資金を得られるマルチファンディングが必要。予算の細目管理や単年度会計主義の廃止。 c定員は、総定員管理の枠組みや定員削減計画にしばられず、所長の裁量にゆだねる。 d運営では、自律性、主体性の発揮が出来るものとすべき。そのため、所長権限で職員、特に研究者を適宜採用できるようにすべき。内部組織や内部規則を臨機応変に制定・改廃できるようにすることも必要。同時に自己責任の明確化。運営状況、財務状況を公開し、所外委員による評価を徹底。国民へのアカウンタビリティ確保。 c長期的視点からの評価を要し、単純な数値目標の設定が困難であるという研究機関の特性に配慮したシステム。 (2)その影響 1)「独立行政法人化を前提とする」としていた工業技術院長も、「国研協の意見書が出されたが、正論を述べていると認識している」「検討の中で国立研として残す場合や、業務として抽出する場合も可能性としてある」と、回答している。 2)新聞報道でも、相当の紙面をもって報じられており、一定の重みを持って受け止められている。 3. 世論の動向 (1)アピール賛同の取り組み アピール賛同署名は、4月10日現在、総計 人、うち4人の日本日本学士院会員、9人の日本学術会議会員の賛同を得ている(対象は164人)。 対象は大学関係者が多く、国立試験研究機関になじみがないこと、国立大学が当面独立行政法人化の対象となっていないこと、などから、目標は、2000人の賛同でしたがそれを下回った。しかし、日本学士院・日本学術会議会員など日本の指導的科学者の少なくない賛同を得たことは貴重な成果であり、今後の活動の土台にしていくことが求められる。 (2)国会での論戦 3月9日に独立行政法人化反対で国会議員要請を行ったところ、3月11日、衆院かが9技術委員会で、共産党の吉井英勝議員が、経常研究費の増額問題で国会質問を行った。資料として、学研労協と国公労連が作成した独立行政法人化反対アピール参考資料集が使われ、資料集で紹介している各研究機関の注目される研究がいずれも経常研究から始まったことを紹介し、谷垣科技庁長官に経常研究費の大幅増額を迫りまった。谷垣長官は、「経常研究費を増やすことも大事」と答弁した。これは、直接独立行政法人問題に触れたものではないものの、我々が独立行政法人化反対の根拠としている経常研究費の問題であり、注目すべき質疑だ。 (3)マスコミ報道 日経の「点検国立研改革」は、上編で国立研研究者の起業家意識の欠如を批判しつつ、下編では、外部評価にかかわって「成果のなかなか出ない研究を正当に評価してくれるだろうか」という声を紹介し、短期的成果を求める動きへの懸念を表明しているなど、矛盾した中身となっている。また、基礎研究を重視することを主張し、短期的な成果を求めることを戒める主張も出始めている(日経2/21サイエンス・アイ)。 (4)不十分な世論への働きかけ 同時に指摘しなければならないのは、国公全体でも、試験研究機関でも世論への働きかけが不十分だという点だ。今回行政改革問題として打ち出されているのは、省庁再編であり、国民の関心は元々低い。その上、共産党をのぞく多くの与野党が基本的に省庁再編に異論がない、というなかで、世論の関心は一層低くなっている。さらに試験研究機関は、国民になじみが薄いという問題もある。 しかし、これまでの取り組みの中で、多くのアピール賛同を得ていることを踏まえ、さらに世論への働きかけを強めることが求められている。 4. 取り組みの方向について (1)国公全体の取り組みへの結集 1)行革大規模署名 署名集約目標は、各単組目標積み上げで262万7500であり、3月末時点で35万人分を集約している。国会審議は当初の予想と異なり、4月末に衆院の山場を迎える状況である。行革闘争の中心は、署名と宣伝を中心とした国民との総対話である。その到達点が「行革大規模署名」に表れることから早急に署名の取り組みを強化しなければならない。 2)大量宣伝 県国公が行う網の目キャラバンに結集する。同時に、このキャラバンと結合して行われる大量宣伝(150万枚ビラ)に主体的・積極的に取り組む。 3)国会議員要請 衆院の行革特別委員会が審議に入った段階で、国公労連は、連日委員会傍聴と議員要請を内容とする国会行動を組むこととしている。試験研究機関の行動とは別に在京組合員を中心に可能な限り結集を強める。 (2)研究機関独自の取り組み 1)国会議員への働きかけ 科学技術委員(衆院)、文教・科学技術委員(参院)、行革特別委員(衆参)への働きかけを強め、科学技術振興の観点から独立行政法人化の問題点を明らかにする審議を実現することをめざす。 当面、4月22日に研究機関独自の国会議員要請行動や傍聴行動を取り組む。 2)アピール賛同署名の取り組みの継続 アピール賛同署名の取り組みを当面、5月中旬まで継続し、さらに世論の支持を広げる。 3)新聞等への投書行動 新聞・雑誌、学会関係誌への投書行動に取り組み、独立行政法人化の問題点をアピールする。 4)当局責任の追及(各所、各省、科技庁) 独立行政法人化がもたらす問題点について、国会審議の動向とも連動し、当局の責任を追及し、経常研究費や主務官庁と試験研究機関とのなどについて、明確な考えの提示を迫る。 (3)対案提示の重視 現状の国立試験研究機関は、様々な問題点を抱えていることは事実であり、それらを国立試験研究機関としてい存続する中で解決するための対案提示は、世論にアピールする力をより強める点でも重要であり、重視し取り組む。 5. 最後に 研究機関の独立行政法人化は、政府・自民党の行政減量化と国の責任分担の限定という方針に基づき推進されており、日本の科学技術研究をどうするかという明確な理念の提示なしに進められ、なし崩し的にプロジェクト研究偏重へと国立試験研究機関が変質させられようとしている。このような理念なき議論を放置していては、将来に禍根を残すと言わなければならない。大いに国立試験研究機関の存在をアピールし、21世紀に日本国民と世界人類に真に貢献する科学技術を発展させる基礎を作ろう。 |