行革特別委の参考人質疑(学識経験者)
【国公労連「行革闘争ニュース」98年5月6日付NO.2より】

 ○5月6日午後参考人意見陳述

 □大規模で思い切った行政機構の見直しを(東京大学法学部教授/佐々木 毅)

 (中央省庁等再編基本法案は)日本の行政機構のあり方について政治の側面から真面目に取り組んだ初めての法案だ。正攻法で正面からの見直しを行うことは大変結構なことであり、この法案が重要なステップとなろう。
 内容的には、内閣機能強化により内閣官房の人事権によって政治がイニシアチブを認める方向を打ちだしたことは国民にとっても重要な関心事だ。しかし、21世紀の行政のあり方を展望するところまでは行っておらず、ようやく20世紀の行政システムにキャッチアップした段階だと感ずる。今後、さらに行政機構のあり方議論を継続的に推進していくことでは評価している。
 官僚制、行政機構をめぐる問題点が出てきた。行政に関する国民の信頼感は揺らいできていることは間違いない。行政側にも意見はあろうが、政治には不断に政治的リスクを伴わず大規模で思い切った行政機構の見直しをお願いする。

 □国民主体で、柔軟な組織に(法政大学法学部教授/五十嵐 敬喜)

 行革について、1)国民を主体として行う、2)柔軟な組織とする、3)中央省庁の看板書きかえに終わらせない、ことが必要だ。
 内閣機能強化については、内閣総理大臣の発議権を新たに法制化するとのことだが現行法でもやれることは多いのになぜわざわざ法案化するのか。この法案では、まだ従来的な官僚内閣制のままではないか。
 規制緩和と省庁再編をごちゃまぜに議論するのは問題だ。
 国土交通省は、国の公共事業の7〜8割を担当しようとする、海外にも存在しない巨大な省庁となるが、必要性はどこにあるのか。だれもがコントロールできなくなる懸念がある。大方の識者も「幻想だ」「時代錯誤ではないか」と一様に反対しており再考すべき。
 内閣から出た、たった1つの法案の可否しか国会で審議されていないのは悲劇だ。野党ははっきりと対案を出すべき。

 □各省設置法見直しで権限事項の整理を(構想日本代表、慶應義塾大学総合政策学部教授/加藤 秀樹)

 昨年まで、20年あまり大蔵省にいた経験も踏まえて発言する。
 各省設置法は、その役所の業務だけではなく非常に多くの権限を与えるものとなっており、官庁の裁量権限の根元もここにある。大蔵省設置法の第5条では、金融機関を監督するという包括的な権限を与えられている。このようなことは海外にも例がない。その意味では、設置法の見直しで各省の権限事項をなくしてしまうことも必要だ。

 □21世紀の国の仕事について議論すべき(大阪大学大学院国際公共政策研究科教授/跡田 直澄)

 この法案は、基本理念は格調が高く00%同意できるものの、内容的には、21世紀の行政システムを標榜しながら中央省庁再編くらいしか議論されていないなど、大変お粗末なものとなっている。21世紀に国の仕事をどこまで限定するのか、併せて議論しなければ単なる数合わせとなってしまう。
 内閣機能強化は大いに賛成だが、その方法論には不満。行政だけを強めようとしているが、立法府も併せて改革すべきだ。

 □内閣総理大臣の権限強化は危険(法政大学法学部教授/浜川 清)

 法案のプログラム法案としての性格づけに疑問。組織改編は個別でも可能なのになぜこの形なのか。国家行政組織法との関わりでもわかりにくい。また、3〜5年で行政需要が変わらないという認識であれば問題がある。
 内閣機能強化については、内閣機能そのものについては異論ないが、6条、4条にもある総理大臣の権限強化となると問題で危険だ。行政の最高権限は国会であり、世界の国々を見ても、内閣をこれほど上級庁扱いしている国はない。憲法からも問題だ。
 内閣官房の政治的任用そのものはある程度必要だが、政治的党派に利用される懸念がある。できるだけ小規模とし、人数制限も必要。
 省庁再編では、内部部局が政策・立案・企画を担うとのことだがはっきりわかりにくい。そもそも法律をつくるのは内閣の仕事で、官房が政治的任用を行えば可能ではないか。
 独立行政法人はなぜ国の外にわざわざこんなものをつくるのか分からない。特殊法人と同じ轍を踏まないとは限らない。内部に置くべき。

 □市場原理を消費者中心に変えていくことも行革の役割(東洋大学経済学部教授・経済研究所長/中北 徹)

 金融市場と国家との関わりについて3点述べる。
 まず、理念についての議論をもっと鮮明に取りあげるべき。世界標準を基本にすり寄せていくという概念が希薄ではないか。日本は先進国へのキャッチアップを金融資産蓄積によって達成したが、世界市場原理、グローバリゼーションの進行など日本の取り組みには意識改革が必要だ。市場原理を消費者中心に変えていくことも行革の役割だ。
 経済関連改革について、大蔵省、郵凾ネど財政投融資に関してはもっと強固にスピーディに行われるべき。
 最大の景気対策は、金融と行政の関わり合いでマーケットに対し政府が行革の意志を示すことだが、この法案の枠組みではほとんど目新しいものはなく活力は上がってこない。
 これからは、競争力において劣っている日本のサービス産業が海外のノウハウを学ぶべきだ。

 ○質疑

●自由民主党/倉成 正和
 この法案は、プログラム法案であり行革の入り口である。今後具体的な検討を行うためにも早期成立が必要だ。省庁設置法については、全面見直しが必要。ここに行革の大きな意義がある。単なる数合わせでなく、抜本的な設置法見直しが必要だ。今後の修正を担保したうえで参考人に一定の意見を聞きたい。

◆佐々木 毅
 注目しているのは、推進本部のメンバー、権限、インフラ、集団の形成で、この法案の重要性はそこにある。

◆五十嵐 敬喜
 量ではなく質の改革を、誰がどうやって行うのか。これこそ国会がイニシアチブを持って行うべきだ。

◆加藤 秀樹
 20年あまり前につくられた制度が残る現在の設置法を見直す事が必要。千載一遇のチャンスだ。推進本部をどうリードするのかが重要だろう。

◆跡田 直澄
 一連の改革が今回あり得るのか。制度の見直しをやっているということを承知してもらいたい。

◆浜川 清
 今回の改革では、内容的に様々なレベルの性格が違うものが入っている。慎重に議論すべき問題を超党派で議論すべきだし、基本法ではなく具体的な法案で審議すべきだ。

◆中北 徹
 プログラム法案では柔軟性あるが大変危険だ。細かなディテールが黒子によって落ち着くところに落ち着くと元のままとなってしまう。国会としては自らの力でやり抜いてもらいたい。国民の意見がくみ取れる議論方向を目指すべき。

●自由民主党/倉成 正和
 公務員人事の一括管理の仕組みを導入すべきだ。省庁間異動で人材の有効活用を。天下りに関して、これまでの一方通行が問題。学会、実業界、政界など行き来できる制度を考えて欲しい。

◆佐々木 毅
 公務員制度改革では、公務員という概念を固定的に見てきたが、多様化の中でどのように見ていくか。官房外から人材入れることできるが出す方はどうか。そもそも、政策・立案を終身雇用制でできるのかどうか。

◆五十嵐 敬喜
 公務員制度は柔軟化せねばならない。8〜20歳の採用時でその人の人生が決まるのではおかしい。

◆加藤 秀樹
 国の仕事の割り振りに関して内閣がリーダーシップをとって行うべき。経済、社会情勢に沿って変える仕組みが必要。「キャリア」にはキャリアの蓄積がなく、調整機能を担っているが、これは本来政治家が行うものだろう。人事の一括管理は、多くの公務員をどう割り振るのか困るし、職種の希望をもって採用されているのが実状だ。とにかく「役人」になりたい、などという人はいない。

◆跡田 直澄
 一括管理は一時的な措置としては考えられるが、根本的に変えていくのは公務員にはふさわしくない。むしろ専門家を任期制で採用し、業務内容に応じて行う方が良いのではないか。

◆浜川 清
 一括管理は、省庁官僚制の閉鎖性、政財界に対する影響力を少なくするものだろうが、うまくいくかは疑問。政治による官僚支配は政治的任用で行うべき。

◆中北 徹
 労働市場の流動化を進めるためにも一括管理議論の主旨には賛成だが、欧米の例を見ても、工夫の余地はまだ残されている。

●民主党/北脇 保之
 行革の理念について、この法案では抽象論に止まっている。法案のつくり方や進め方にも問題がある。これらの点ではいかがか。

◆五十嵐 敬喜
 何が国民のためになるのかまったく見えない。ゴミ問題、農政、地方の問題など、この法案では何も解決できないのではないか。アドホックなものを望む。

◆佐々木 毅
 「行革」とは広い概念だ。税制や財政の問題をどう考えるのか。
 個々の法案に対する意見は固めていないが、実際の作業では問題が出てこよう。その過程で解決すべき問題だ。

◆中北 徹
 プログラム法案であるのにはビックリした。無意味、徒労とまでは言わないが国家120年での改革になるのだから、高来を望み、本筋で議論すべきだ。

◆跡田 直澄
 公共事業など、歳出に日本型社会主義とも言える中央集権化が行われていると感ずる。

◆浜川 清
 さっきも言ったが、レベルの違うものを一緒に議論しようとしている。6条、4条は特に曖昧なものだ。

◆中北 徹
 即刻、金融と財政の分離を果たすべき。

●民主党/伊藤 忠治
 この法案、早めに通した方がいいなどとは全く思えない。省庁設置法をつくるときにどういかされるかもはっきりしていない。基本の枠組みを一回つくったら官僚の性質からいって外すのは容易ではない。これまでの官僚統治型行政は変わらないのではないか。
 また、地方分権、規制緩和についてはどう考えるか。

◆佐々木 毅
 行革を政治主アですすめることには大きな期待感がある。もっと踏み込んでもらいたい。

◆五十嵐 敬喜
 情報公開や市民の参加が必要。法案は役目が終わったらそこで終わりでも良い。スクラップ・アンド・ビルドで行うべき。

●新党平和/大口 善徳
 省庁再編のみが先行しており、もろもろの改革が同時進行しているため、議論がチグハグになっている。この原因と手順について意見を伺いたい。

◆佐々木 毅
 地方分権の位置づけをもっと重要視してすすめる必要がある。

◆五十嵐 敬喜
 どうなっているのか、国民にもサッパリ分からないのではないか。国会に小委員会でもつくって議論すべきだ。

◆跡田 直澄
 今日の委員会は(議員の態度からして)不愉快だ。もっと真剣に議論してもらいたい。野党も対案を出して議論すべきだ。

●新党平和/大口 善徳
 行革と財政構造改革は表裏の関係だ。0年間で0%の公務員定員を純減ではなく減らすことは、民間のリストラとの兼ね合いもあり必要。警察など公正な社会をつくるために必要なところは増やし、そうでないところは公務もリストラすべきだ。
◆加藤 秀樹
 行政見直しが財政見直しにつながらねば、本来の行革とはいえない。現在の国家公務員数は、GNP比でも国民一人当たりでも日本は諸外国と比べて少ない方だ。単に定員を減らすよりも業務の中身の見直しにつきる。公共事業のムダも多い。長期的に見て、税金を減らして歳出削減も行うべき。

◆跡田 直澄
 税制再建イコール公務員の定員削減にはつながらない。仕事の見直しを行えば、つられて人も減って、財政再建にもつながるかもしれない。ただし、地方にその分仕事と財政が回ることになる。今の国の仕事はほとんど減らしようがない、あえて言えば20%くらいか。

●新党平和/大口 善徳
 官僚の権限をなくすことを、分かりやすく議論すべき。設置法については、憲法制定前の官制からそのまま来ている。しかし、法案では提起が曖昧で、どうにでも解釈できる。

◆加藤 秀樹
 権限の見直しについて、改めて定義し直すことが必要。あちこちにある役所の権限を一つ一つ整理し、国民に分かりやすくすべきだ。権限法の整備が求められている。

●新党平和/大口 善徳
 監督と検査を分けるべき。今後は監督権限を縮小する必要がある。ディスクロージャーを徹底させ、サボった金融機関には厳しいペナルティを課すことで自ずと解決されるのではないか。

●自由党/東 祥三
 この法案はやっと20世紀システムに追いついたものの、21世紀の行政システムには至っていないと述べているが、その点について伺いたい。

◆佐々木 毅
 20世紀型のシステムは強いシステムであり、どちらかというと国家が面倒を見てくれたが、21世紀型の行政システムは、分権、規制緩和が近いと考える。私としては、悩ましい法案であるが、今やらなければならないことはやっておく必要があると考えている。その意味で、駐留地点(ベースキャンプ)という言葉をつかわさせていただいた。

●自由党/東 祥三
 自由党の考えは、新進党時代に法案として提案したとおり、特殊法人の全廃であり、国会議論の活性化として政府委員制度の廃止だ。法案の問題点としては、1)順序の問題、2)中身の問題、3)地方分権、規制緩和とリンクしていない問題がある。また、国民を守る業務は当然国で行うべき業務であり、行政改革で仕事が減るばかりでなく増える仕事もあることも考えておかなければならない。

◆五十嵐 敬喜
 官僚内閣制から国会内閣制に移行すべきであり、行政の質の改革が課題であり、その点ではどういう行政を(国が)行うかを考える必要がある。

◆跡田 直澄
 日本の経済の状況は、一時的な後退期なのか、構造的な後退期なのかを考えると、後者ではないかと考えられる。これに対応するためには、システムを変える必要がある。

●自由党/東 祥三
 内閣機能の強化については、危機管理体制の強化ということで、ここ数年の危機管理に対処するか見えない。首相の権限、情報の流れなど抜本的なメスが入っているとはいえないのではないか。

◆五十嵐 敬喜
 認識は議員と共通。ただ、それをさせないシステムに問題があるのではないか。

●日本共産党/松本 善明
 21世紀を展望していない点、国のかたちがはっきりしない点など、やはり行革基本法は、今日の参考人からも評判が良くない。われわれも方向性は違っても行革が必要なことは同じだ。ただし、行革会議は政令で簡単に設置され、行革基本法案は今回初めて国会の場で議論しているのが現実だ。国会の役割は何であるか。手続き的にもおかしくはないか。

◆佐々木 毅
 いずれにしろ国会で決めることに代わりはない。今まであまりにも放置しすぎた問題であり、とにかく手をつけなければならなかった。国会で取りあげる絶好の機会となった。今後も継続的に議論していくべきだろう。

●日本共産党/松本 善明
 行政のM頼がなくなっている原因は、官僚腐敗、癒着の構造であり、根本をただすべきではないか。また、市場至上主義、規制緩和万能でどうなるのか。

◆佐々木 毅
 とにかく色々な改革をすすめていく以外に信頼を回復する道はない。政治の一つのありようとして、具体的な成果をあげながら前進していくことが必要。手をつけるべき問題には適切に対処すべき。

◆浜川 清
 政治による行政支配だけではなく、行政の忠実性の確保において、日本が成熟していないことも問題だ。行政を政治から中立なものにしていくことが必要。

●日本共産党/松本 善明
 行革では、何が重要なのか。また、この法案で果たせるのか。
 財確法が破綻した状況の下、今の法案で負の遺産をどう解決する事ができるのか。

◆五十嵐 敬喜
 21世紀は福祉、公共事業などの問題で国民を抜きにしては語れない。この法案は、霞ヶ関の視野になっており、国をどうしたいのかも見えてこない法案だ。このままでは自爆するのではないかと危惧する。

◆加藤 秀樹
 「財革」の実行は、この法案以降中身をどうするかの段階になる。財政と裏腹な行革の中身をどうするのか。行政のスリム化によって経済、社会の体質を改善していくこと、継続性を持って常時見直すことが必要だ。

◆跡田 直澄
 破綻しており内容も問題だが、財革自体は必要だ。状況判断を誤ってつくっていることが問題だ。ふるいにかけたうえで国の仕事の範囲、各省の仕事の中身の見直しに大きく切り込むことが必要。

◆中北 徹
 財革自体は推進するが、悪しき地元への利益誘導など従来型発送から抜け出していない中身を変える必要がある。規制緩和ともあわせてすすめるべき。

●社民党/深田 肇
 行革基本法案を成立させる立場でどこをどうすればよいのか、補足的な意見を伺いたい。不景気のもと、行革への期待感がある中で大蔵などの腐敗が表出し、国民にはまだまだ不満が多い。なぜこうした不祥事が起きたのか、どうすればなくなるのか、これからの大蔵省はかくあるべきか、伺いたい。

◆佐々木 毅
 内閣を中心に、その仕事をきっちりとすすめていくべき。これまで行革問題をやらなさすぎた。やるべきことは山のようにある、これ以上の先延ばしはできない。今後は継続的努力が必要。

◆中北 徹
 大蔵省は、護送船団方式でやってきたが日本経済のキャッチアップが既に終わっていたということ。問題が大きくなった背景には、国内だけに目が向けられていたことだ。これから発足する金融監督庁は、ぜひとも若い人が新しい発想で動かしていくことを期待する。設置法も徹底した身直しが必要。

●社民党/深田 肇
 財政と金融の分離をおしすすめるために金融監督庁をつくったが、これからどうするべきか。

◆中北 徹
 さっきもいったが、金融と財政はメカニズムが全く違う。財投という、金融なのか財政なのかよく分からないものもある。この違いを政治家が深く認識することがまず必要だ。金融監督庁には、民間の力、外国のノウハウも含めて取り入れ、アジアの先進国としての気概を示すことに期待する。

●社民党/深田 肇
 なぜこれらのことが動かないのか、一体誰が悪いのか教えてもらいたい。

◆五十嵐 敬喜
 国会議員が決意すれば変わる


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