国民・地域のための港湾・空港の整備を
(全港建の考え)

【機関紙「全港建」第280号(98年4月25日・5月10日合併号より】

 ■橋本「改革」の問題性、国土交通省のかたち■

 ○橋本「改革」とは
 以前、国公労連からの質問に対して、自民党の行革担当者は「行政改革は、財界の強い要望にそってやっている」とはっきりと回答しました。
 これまでに判明した事柄から「橋本6つの改革」とは、財界の21世紀戦略(国際競争に勝つための社会制度を含めた変革構想)に呼応し、大企業・ゼネコンの利益を擁護し競争力を強化するため、国民を犠牲にするものと言えます。まず1つめは「コスト」削減です。 法人税や社会保障などの企業負担を軽減する一方で、消費税増税や年金、医療費の負担増を国民に背負わせ、労働法制を改悪し無権利・安上がりな労働者つくること、また、環境や安全などの企業の足かせとなっている「規制」の撤廃などです。2つめにこれらの「改革」をやる上で邪魔になる「行政機構」を潰すため、「省庁再編」や「地方行革」を推進する。3つめは、従来公共のサービスだった医療、福祉、教育等を新たな「市場」として切り売りすること。4つめに、将来予想される海外市場でのトラブルやアメリカの戦争に、「機動的に」対処・協力(参戦)するための「内閣機能の強化」や、新「ガイドライン」やPKO法改悪などです。それらに関わる負担は、「自立・自助」などの言葉で、大多数の国民に押しつけられることになります。

 ○国土交通省への再編


新「ガイドライン」により、
空港や港湾は米軍の出撃基地となる

 公共事業の分野では「公共事業効率化」のためとして、受益者負担での財源確保や市場原理の導入、技術提案総合評価方式など「丸投げ発注」の拡大、官公需法の見直しなどのほか、技術力や財源の大小に関わりなく地方分権を進め、それと同時に直轄組織を引き揚げを行い、大手ゼネコンの利権体制を一層、拡大・温存しようとしています。
 「地方整備局(仮称)」への整理・統廃合など実施部門は、府県単位機関の統合や、港湾管理者などへ事業の移管(力のないところは民間への丸投げになる)などを行う一方で、残る組織も「丸投げ発注」の多用や、民間委託の拡大などを行い、最終的には「民営化」することを目指しています。安全性など行政責任は置き去りにされ、不急の施設が先行することとなりかねません。




 ○たたかいの展望、国民世論の構築に向けて
 国民の求めている行政改革は、政・官・財の癒着構造をなくし「国民全体の奉仕者」という本来の責務に立つものにすることです。
 私たちの求める国づくりは、「国民主権、平和と福祉の国家」の方向ですが、橋本「行革」はそれとは逆行するものです。したがって、彼等の狙いが国民総犠牲のもので悪質な内容であることを、憲法遵守・行政の民主化をめざす公務員労働者として、私たちは国民にその本質を宣伝し、対話を進めることが重要です。
 (1)不況対策をなんら講じず、逆に消費税増税などで不況を拡大するなど「逆立ち政治」を強行する橋本内閣の支持率は、戦後最悪の20%台に急落しています。不況打開を願う国民的運動と結合したたたかいにより、大きな展望を開くことは十分可能な情勢です。


昨年、相次いだ油流出事故により
緊急出動を繰り返した清龍丸、
国民からの期待も大きくなった

 (2)全港建が要求をしていた、海鵬丸の油回収機能を具備する代替船建造が98年度を初年度として3年計画で実現しました。秋田・酒田港支部、四建地本と各支部での地方議会請願や中央・地方での国会議員・政党要請、マスコミ要請などのねばり強い運動と、ニセ「行革」攻撃のもとでも、相次ぐ油流出事故に対して、国の体制・対策が不十分なことへの国民の不満・怒りと、私たちの国民的立場からの海洋環境整備の充実を求めた粘りづよい運動が結実した、貴重な教訓となるものです。
 (3)国鉄分割・民営化反対闘争は、マスコミ総動員の攻撃のもとで、国民的支持を構築できず、結果的に強行されました。草の根・地域から国民的戦線をいかに広げるかが重要と言えます。
 私たちは、三つのやめる運動をはじめ、自ら不正を正し、癒着と無縁の運動を進めています。国民の立場で行政・公共事業の民主化を求め運動を展開しています。自信をもって、広く宣伝し、対話していけば展望と前進を勝ち取ることは可能ではないでしょうか。
 すべての仲間のチエと力を総結集し、確信をもって前進しましょう。

 ○あるべき公共事業の姿、検証「お役人の無駄遣い」
 運輸省の元事務次官住田正二氏著の「お役人の無駄遣い」という本が話題となっています。この本の内容を検証しながら、「あるべき公共事業の姿」を追ってみましょう。
 この本は、「港湾予算の無駄遣い」が中心に書かれ、民主党・菅代表の国会質問や、先に行われた横浜市長選でもとりあげられ、注目を集めています。
 住田氏は、無駄遣いの原因について「長期計画の実効上の歩留まりは、長期計画の性格によって異なるが、通常7割か8割である。・・長期計画は予算を縛り、拘束化し、弾力性を失わせる」と、予算に関する情報公開、`ェック機能の強化の指摘とともに、長期計画が、必要のない公共事業を拡大させたと言っています。この点では、私たちが主張してきた長期計画の見直しとあり方の問題、総枠ありきの公共投資への批判と一致しています。
 しかし一方で「民間経営の理論」を港湾行政に持ち込む議論を展開していますが、安全で使いやすい港湾の整備が、港湾管理者の財政事情によって左右されることは大きな問題です。
 さらに、直轄組織について「予算の無駄遣いをなくすためには国の直轄事業を縮小しなければならない。・・エージェンシーに衣替えするなら、思い切って規模を縮小しないと、・・かつての国鉄のように、国の悪いところばかりで出てしまって効率の悪い組織になるおそれがある」と、事業要請に応じ、体制を変更してきた直轄組織の努力を見ずに、「行革法案」と同じ論調で地方出先機関の切り捨て、発注者側の責任放棄の方向へと議論を歪めるものです。

 ○地域住民の利益と合意、耐震・安全・防災の重視、直轄事業のあり方


阪神・淡路大震災では、港湾施設が
壊滅的被害を受け地域経済だけでなく、
より広範な混乱をもたらした

 四方を海に囲まれた日本では、港湾や空港は交通・産業・国民生活などを支える基盤として、重要な役割を果たしてきました。今後もその重要性は変わるものではありません。私たちは、港湾管理者である地方自治体とともに、長年蓄積してきた施工技術を生かし、国民・地域の生活向上と地域経済の発展につながる基盤の整備を願い、事業を進めてきました。しかし、財政構造改革に関わる国会議論や、マスコミ報道などで、公共事業のあり方が問われています。いま、労働組合として自らの業務について「国民・地域住民の視点からどうだったのか」を問い直し、「国民本位の公共事業」の姿を考えなければなりません。
 2年目となる全港建大運動・国会請願署名では、請願項目として、
 (1)大規模プロジェクト中心の公共事業「港湾・空港建設計画」を抜本的に見直し、ムダなものは中止し、地域住民の利益と合意のうえにたち、安全で防災に役立つ、必要な港湾づくりなどを行うこと。
 (2)相次ぐ油流出事故の教訓を踏まえ、油防除体制の強化・油回収船の建造など、海洋環境保全体制の充実を図ること。
 (3)これらの事業をすすめるにあたって、国民の負託に応え、国自らが責任をもって業務をすすめるためにも運輸省港湾建設局の必要要員を確保すること。 を掲げ、職場・地域で運動を展開しています。また、直轄で事業を進めてきた各港・各施設について、政策委員会を中心に「みなとの検証」を行っています。
 港湾の直轄事業は、港湾法第52条で規定される「港湾管理者と協議が整った場合のみ、予算の範囲内で工事を実施できる」ものです。「国の組織ありき」ではなく、国民・時代の要請に応じ、あらゆる観点から安全かつ良質でムダのない施設であるかを自ら検証し、不要・不急な施設は優先されるべき施設の整備に振り替えていくことが求められています。
 多くの港湾では、高度経済成長の政策に基づく長期予想を基本として、我先に整備を急ぎ、大規模で大企業本位の建設・開発をすすめてきました。結果として、計画通りに企業誘致が進まず、岸壁が利用されない港や、自然環境の破壊、海洋汚染が激しく進行する状況をつくりだすなど、「交通体系の整備、国土の適正な利用、および均衡ある発展並びに国民の福祉向上」のため、果たすべき役割を考慮して定める港湾開発の基本方針と「大きなズレ」を生んでいます。
 国民的な支持・理解を得て、拡充すべき海洋環境整備事業とともに、直轄事業では、大規模プロジェクト偏重・ゼネコン利益誘導型の公共事業は抜本的に見直し、地域住民の利益と合意の上に立ち、地方の経済や住民の生活に密着した予算を充実するとともに、耐震・安全・防災を重視した予算を充実させることがとりわけ重要です。

 ○どうなる将来、「行革」のいきつく先は?


国鉄民営化では、多くの解雇者がでた

 橋本「行革」の基本はまず1つに「公務職場の人減らし」にあり、もう1つは民間活力導入を名目にした「公務職場の切り売り」にあります。
 橋本「行革」のスタート時に言われていた「公務員を3万5千人まで削減する」との考えが変わった訳ではありませんし、「行革法案」は引き続き各種改革を義務づけており、独立行政法人化や民営化の可能性も、今言われていないからといって将来もここのままだとは断言できません。
 「地方整備局(仮称)」への再編では、ただ組織を統合するのではなく、スリム化を名目に廃止や削減が強行に進められることになります。職場への委託・派遣職員の導入や、企画・調査・設計・積算・監督・検査の丸投げ発注を導入・拡大し、職員・事務所を削減することに主眼が置かれています。つまり多くの職員が「お払い箱」になることを意味しています。「仮になったとしたら・・」と心配や不安が出るのは当然ですが、「あと」の問題より現時点での流れを変えるたたかいに、仲間の力を集中することが重要です。

 ○建設産業を歪めるゼネコン護送船団方式


官民合わせて100万人が結集する「橋本
『行革』に反対する建設産別連絡会議」

 建設省など公共幕ニ官庁と政府が一体になり、ゼネコンの儲けに協力することを「ゼネコン護送船団方式」といいますが、この癒着体質を根本から正す必要があります。
 ゼネコン汚職問題に見られるように、大企業・ゼネコンは、自民党などに莫大な政治献金をし、大規模プロジェクト中心・利益誘導型の公共事業を進めています。すなわち、公共事業の政策・計画にも金権政治家を介在して参画し、発注の独り占めを図る。不況を口実に従来、中小・地元企業が受注していた中規模工事も受注を狙っています。
 また一方で、元請け・ゼネコン等による、下請け・中小企業や建設労働者への、下請け単価・賃金の引き下げや不払いなどの横暴も絶えません。不況と銀行の貸渋り、ゼネコンの下請け叩きで、中小企業と建設労働者の営業と暮らしは深刻な状況にあります。

 ○建設産別のたたかい
 ゼネコン護送船団方式に反対して、さまざまな建設産別に働く労働者の共同が進められています。生公連をはじめとして、不払い問題など不況打開を求めての関係省庁・大手ゼネコンへの申し入れ、地域生公連での建設業退職金共済制度(建退共)の実効ある適用をめざした運動、リストラ・「合理化」などゼネコンの横暴に対決したとりくみが、全国で展開されています。
 また、単産独自でも東京土建では生活防衛対策本部を設置、千葉土建では賃金不払い相談窓口を設けて対応を強化するなど奮闘。建設産別での橋本「行革」に反対する3つの立場と要求を掲げ、25組合・団体、 100万人アピールを発表し、賛同の拡大、請願署名行動や地方議会要請を展開し、貴重な教訓を生み出しています。
 共同のたたかいの強化は急務です。発展した資本主義社会では、国民・労働者の要求実現、生活を守るたたかいは、会社・産別運動をこえ、行政体制や政治に関わるたたかいを直結するものです。このことからも、7月の参議院選挙闘争とも結合して、悪政とゼネコンの横暴とたたかうことが求められます。

 ○癒着の温床=天下りを禁止せよ「60歳」雇用保障政策
 私たちの職場では、現在の「60歳定年制」のもとでも、依然として行(一)職員の退職勧奨が行われています。汚職事件・不祥事など、国民的な批判・議論の発端は、高級官僚の接待づけ、役人の天下りでした。業界に天下ったOBが役所の意思決定にも幅を利かす、抜き差しならぬ業界との「癒着構造」が、ゼネコン汚職、薬害エイズ問題などの明確な原因であったことは、マスコミの報道でも明らかです。
 「渡り鳥」天下りなど、公益法人をトンネルにして退職金を二重・三重にもかすめ取り、処遇・ポストの優遇をうける高級官僚の「天下り」と、一般職員の「再就職」を同一視はできませんが、企業が経営の維持・拡大の「見返り」を期待し、受け入れを続けている部分は共通しています。
 私たちの職場の退職勧奨年齢は、平均54〜55歳とここ数年変わらず、9次にわたる定員削減計画の締め付けによって、若年層への拡大すら危惧されます。公務員として誇りをもって職務を全うするため、管理職を含む圧倒的な仲間の支持を得て確立した「60歳」雇用保障の早期実現とともに、65歳年金支給にスライドする「選別なき」雇用延長は、私たちの要求であるとともに、国民的な支持・理解を得られるものです。

 この記事に関するご意見や、みなとの計画や整備に関する疑問など、みなさんのご意見をお待ちしています。

(Eメールアドレス kyt07226@niftyserve.or.jp

以上


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