98人事院勧告を斬る--「行革」に迎合し、あり方を問われる人事院

【「国公労新聞」第996号98年8月21日・9月1日付より】


 人事院は、8月12日、政府と国に対して、昇給制度「見直し」改悪を含む、史上最低の給与改善率の勧告をおこないました。このような勧告をどのようにみればよいのでしょうか。

■史上最低の0・76%
 1つは、0・76%(2785円)の勧告率をどうみるかです。
 労働省調査でも、98年春闘の賃上げ相場は、史上最低の2・66%(8323円、1千人以上規模・定期昇給込み)となっています。人事院の民間賃金実態調査では、98年4月時点で対前年比1・96%(7062円)の賃金の伸びがあったとしています。調査対象企業の規模のちがいや、調査方法のちがいも反映していますが、公表されている春闘相場と比較すれば勧告の低さが指摘できるものです。 なお、98年4月1日時点の国公賃金実態は、対前年比で1・14%伸びています。平均年齢の伸び(0・2歳)や級別の在職状況の変化などが理由だと人事院は説明していますが、それだけ勧告率を引き下げる要因となっています。

■55歳昇給停止を強行
 2つは、改悪勧告を強行した昇給制度改悪についてです。この制度「見直し」は、私たちの運動を一定反映して、当初提案の「53歳昇給延伸」の撤回、行(二)職等の特例措置を存続させたとはいえ、「55歳昇給停止」「今夏勧告での決着」という基本的な姿勢を人事院は変えませんでした。
 さらに、この見直しにあたって、その背景として「民間での賃金体系の見直し、高齢者の賃金水準の抑制と若・中堅従業員への重点的配分」をあげていますが、見直しをすることは「今後、世間相場ないしは春闘相場に見合った勧告をするために必要な措置」と説明をしています。
 このことは、官民較差の正確な把握にもとづくだけでなく、民間の人事管理をも取り入れなければ、勧告をおこなえないとする立場につながりかねないものです。公務労働の性格や「人事行政の公正の確保及び職員の利益の保護」という人事院の使命をも変質させかねず、労働組合との協議の手続きについても、重大な問題点を残しました。
 中央省庁等改革基本法をはじめとする行革議論のなかで、中央人事行政機関のあり方も問われていますが、そのときにうちだされた今回の「見直し」は、政府・財界からの圧力に人事院が屈したとも言えなくもありません。

■公務員制度見直し
 3つは、報告のなかでは、公務員に対する国民からの信頼の確保のためとして公務員倫理法の制定の必要性をあげ、こうしたことを掲げる契機となった官僚の不祥事の要因について、人材確保、幹部育成等の人事システムの閉鎖性、(高級官僚の)特権性をあげています。
 こうしたことへの対応策としてあげているU、V種採用職員等の幹部登用に言及しました。
 しかし、T種職員に対する優遇を抜本的に見直すにはいたっていないことから、現行のキャリア・システムを温存しながら、新たにU、V種職員を選抜し、そのなかに組み入れていくものになりかねません。
 また、民間の人材活用と官民交流システムでは、高度の専門性を有する人材に限定しながらも、企画立案などの分野で任期制の導入に言及しています。
 これは、中央省庁等改革基本法の「国家公務員制度の改革」でかかげている、「政策の企画立案に関する機能と、その実施に関する機能の分離に対応した人事管理制度の構築」(第48条)を先取りするものといえます。

■新たなたたかいの課題
 4つは、不十分ながらも、私たちが重点として要求してきた手当の改善や、「目安」とはいえ、長年のたたかいが反映した超勤時間の縮減など、今後のたたかいのあしがかりを築いたものもあります。
 とくに、超勤時間の規制については、「公務に超勤規制はなじまない」としたこれまでの姿勢を、大きく転換させるものとなりました。しかし、拘束力があいまいなものであり、また、勤務時間管理に関しては、各管理者にゆだねられるなど、実効性を担保するためには、解決しなければならない問題を規則制定段階に先送りしています。
 5つは、調整手当の見直し、福祉職俸給表の新設や海事職俸給表の見直しなど、秋季年末闘争から来年の勧告に向けた、新たなたたかいの課題も明らかになりました。

 今勧告の改善部分の実施と来年度に向けた、新たな公務員賃金闘争、公務員制度の民主化に向けてたたかう体制を早急に確立していきましょう。


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